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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 今後の地震動ハザード評価に関する検討 2011 年・2012 年における検討結果?

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)12月号)

 地震調査委員会は、平成17年以来毎年、地震動予測地図を公表し、平成23年も全国地震動予測地図2011年版を公表する予定でした。しかし、同年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し、この地震を契機に全国地震動予測地図について解決すべき多くの課題が指摘されたことを受け、この公表は見送られました。地震調査委員会では、地震発生後から課題解決に向けた検討を行ってきましたが、これらの課題の解決には長い時間が必要であり、今後も地震調査委員会で継続的な検討を行っていく予定です。ここでは、現時点での検討結果として公表した、2011年・2012年における検討結果をご紹介いたします。なお、全国地震動予測地図には、震源断層を特定した地震動予測地図と確率論的地震動予測地図とがありますが、検討は確率論的地震動予測地図を対象としました。また、これらの検討に資するために、従来の方法により仮に作成された全国地震動予測地図2012年版を付録として添付しました。

 ここでは、東北地方太平洋沖地震を契機に指摘された確率論的地震動予測地図の問題の例を挙げます。図1は、公表予定であった2011年版の確率論的地震動予測地図のうち、50年超過確率(超過確率は、対象とする地震または地震群によって特定の期間内に地震動の強さがある値を超える確率)2%となる震度を表した地図と、東北地方太平洋沖地震の際に実際に観測された各地の震度(地図上の色つきの丸印)の比較を示したものです。ここでは、東北地方太平洋沖型の地震のような平均発生間隔が長い地震(600年程度とされている)による影響をできるだけ見易くするために、これまで公表されてきた確率論的地震動予測地図のうち最も再現期間が長い50年超過確率2%の地図(再現期間2,500年に相当)を示しています。なお、再現期間は、地震動の強さがある値を超えることが平均してどれくらいの間隔であるかを示します。つまり、この地図に示された震度を超えるような揺れが、平均して2,500年に1回起こることを示しています。これを見ると、福島県や栃木県北部、茨城県北部では観測震度6強の地点が5 弱と予測されていたなど、大幅な過小評価になっており、これらの地域では全国地震動予測地図が安心情報を与えてしまっていた可能性が指摘されています。この他、確率論的地震動予測地図の確率が低いところで地震が起きているのではないか、という指摘もされています。地震調査研究推進本部(地震本部)では、これら指摘された問題の背景にあると考えられる原因について整理し、検討を行いました。

 地震本部は、東北地方太平洋沖地震を契機に指摘された問題の背景にあると考えられる原因について整理し、4つの原因を挙げました。そして、それらの4つの原因についてそれぞれ検討を行い、その結果を公表しました。ここでは、今回行った4つの検討の結果について簡単にご紹介します。

1.確率論的地震動予測地図の基本的な枠組みは有効か?
 まず、従来の地震動ハザード評価*1手法に問題点はなかったかを考える必要があります。そこで、過去の時点について作成した確率論的地震動予測地図と実際のデータとを比較しました。図2は、従来の確率論的地震動予測地図と同様の手法によって予測された1920年から30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布(左)と同期間に実際に発生した地震による震度の確率相当値の分布(右)です。これを見ると、大局的には予測と実績とが調和しており、北海道の根室~十勝地方に至る領域、宮城県、関東地方、東海地方~紀伊半島~四国地方に至る領域など、海溝型地震(プレート境界に沿って起こる大地震)による影響が大きい領域で、予測と実績とがよく一致していることが分かります。他方で内陸の活断層の地震については、予測が難しいことが分かります。
 ここに示す図の比較以外にも、報告書では石川・他(2011)による論文を引用し、予測と実績との比較を定量的に行っています。検討により、活用の仕方については多くの課題が残されているものの、確率論的地震動ハザード評価手法の基本的枠組みについては有効性が確認されました。

2.もし東北地方太平洋沖地震が考慮されていたら、過小評価は起こらないのか?
 事前に震源についての情報が得られていない地震が起こった場合について検討しました。最も典型的な例が東北地方太平洋沖地震で、その発生前には、繰り返し発生する東北地方太平洋沖型の地震が地震動予測地図では考慮されておらず、確率論的地震動予測地図による東北地方の地震動ハザードは過小評価となっていました。
 そこで、仮に東北地方太平洋沖地震が事前に想定されていた場合について検討したところ、東北地方太平洋沖型の繰り返し地震が事前に考慮されていれば、前述の過小評価の問題が軽減されることが分かりました。この東北地方太平洋沖地震のように、その地震の規模や繰り返し周期について、事前に詳細な情報が得られていなかったために地震動ハザードが過小評価になるという問題は、最近発生した内陸の活断層の地震にも共通するものです。このような問題を避けるためには、今後も人工地震探査や重力探査、地質調査等の活断層等の調査・観測を継続的に行い、できるだけ多くの活断層についての情報を収集していくことが重要です。

3.事前に位置や活動間隔等の情報が得られていない地震をいかに考慮すべきか?

 確率論的地震動ハザード評価では、東北地方太平洋沖地震のように長期評価*2の対象とされていない地震については、「震源断層をあらかじめ特定しにくい地震」として考慮しています。検討では、従来通り既往最大の地震の規模を参考に「震源断層をあらかじめ特定しにくい地震」の最大規模を設定した場合と、既往最大の地震の規模にとらわれず、より規模の大きな地震まで考慮したモデルとで地震動ハザードを計算し、比較しました。その結果、前者と比べて後者の方が、まれに発生するような低確率の地震動ハザードについて、より適切に考慮することができることが分かりました。

4.従来の確率論的地震動予測地図では捉えにくい低頻度の地震による影響をいかに表現するか?
 従来の地震動予測地図は主に30年間という期間を対象としてきました。これに対し、内陸や沿岸海域の活断層の平均活動間隔は主に数千年から数万年、海溝型地震のうち間隔が長いものは平均活動間隔が主に数百年です。このため、従来の地震動予測地図のように30年という期間で見た場合、これらの低頻度の地震の発生確率は低くなり、その影響が捉えにくいという問題があります。今回行った検討では、この問題のひとつの改善策として、非常に長期間の確率論的地震動予測地図を作成することによって、低頻度の地震による地震動ハザードがより捉えられやすくなることを示しました。
 図3は2012年からの再現期間別の予測地図で、左から再現期間約500年、約5,000年、約50,000年の震度分布を示しています。再現期間約500年の地震動予測地図において、ある地点の震度が6弱になっていた場合、その地点が平均して約500年に一度震度6 弱以上の揺れに見舞われる可能性があることを意味します。
 図3の左側の再現期間約500年の図を見ると、発生間隔の短い海溝型地震の影響が見え、北海道根室地方、福島県や宮城県の太平洋岸、関東地方、東海~東南海~南海に至る領域の震度が大きくなっています。具体的には、海溝型地震である十勝沖の地震、根室沖の地震、色丹島沖の地震、択捉島沖の地震(いずれも平均発生間隔約72年)、福島県沖地震(平均発生間隔約206年)、茨城県沖の地震( 平均発生間隔約22年~26年)、大正型関東地震( 平均発生間隔200~400年)、南海地震(平均発生間隔114年)、東南海地震(平均発生間隔約112年)などによる影響が現れています。

 続いて、再現期間約5,000年の図(図3の中央の図)を見ると、海溝型地震の影響だけでなく、内陸活断層による影響が見え始めます。例えば、長野県中部地方の糸魚川−静岡構造線活断層系(平均活動間隔約1,000年)や、能登半島南部の森本・富樫断層帯(平均活動間隔約2,000年)、四国の讃岐山脈南縁−石鎚山脈北縁東部(平均活動間隔約1,000~1,600年)、中央構造線断層帯石鎚山脈北縁(平均活動間隔約1,000~2,500年)などの影響が現れ、各断層帯が浮かび上がっています。
 さらに再現期間が長くなり、再現期間が約50,000年の図(図3の右側の図)では、沿岸海域や内陸の活断層による影響が反映され、沿岸海域や内陸の活断層の近傍で震度が大きくなっています。例えば、兵庫県付近の山崎断層帯(平均活動間隔約1,800~5,000年)や北海道北西部のサロベツ断層帯(平均活動間隔約4,000~8,000年)、青森湾西岸断層帯(平均活動間隔約3,000~6,000年)、函館平野西縁断層帯(平均活動間隔約13,000~17,000年)などによる影響が見えます。
 このように、再現期間が非常に長い地図を作成することにより、通常の地図では捉えにくい、沿岸海域や内陸の活断層による地震などの低頻度の地震のハザードが見やすくなります。

 地震本部では、今後も地震動ハザード評価を改善するための検討を継続的に行っていく予定です。また、地震動ハザード評価を国民の安全に役立てるためには、国民に分かりやすく情報を伝えることが極めて大切であり、専門的な知識を持っていない方が十分に理解できるような、より分かりやすい表現等についても検討を行っていきます。

*1:地震動ハザード評価は、「ある地点が一定期間にある強さ以上の揺れに見舞われる確率」や、「特定の断層で地震が発生した際の揺れの強さの分布」などを評価するものです。その表現方法としては、「確率論的地震動予測地図」や「震源断層を特定した地震動予測地図」がありますが、他にも、各地点で見込まれる揺れの強さとその確率を曲線で表現したハザードカーブや、注目する地域にどの種類の地震がどれくらいの影響を与えるかを示したグラフなど、様々なものがあります。これまでは、「地震ハザード」という言葉を用いてきましたが、地震ハザードには、地震の揺れによるハザードの他にも、地震によって発生する津波によるハザードなど多くのハザードがあります。ここでは、地震動によるハザードとその他のハザードとを明確に区別するため、「地震動ハザード」という言葉を用いています。

*2:長期評価とは、地震の発生する頻度や場所等を評価することです。

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)12月号)

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