2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う大津波は、日本列島の広汎な領域に極めて甚大な人的・物的な被害を及ぼし、防災対策の見直しが迫られています。太平洋側では、太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈み込み、プレート境界の断層で巨大地震と大規模な津波が発生します。これに対して、日本海側では明瞭な沈み込み帯は形成されておらず、津波や強震動を引き起こす活断層が多数分布しています。これらの活断層の深部延長で発生する地震や津波を予測するためには、よりきめの細かい調査が必要になります。また、日本海沿岸地域の多くは、海底から隆起した地域であり、活断層が分布する場合が多く、これらの断層や活動性が充分に理解できていません。このことを背景として、文部科学省「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究(平成19型〜24年)」では、新潟地域や新潟沖~西津軽沖にかけての領域を対象に調査観測を進め、震源断層モデルを構築しました。しかし、それ以外のほとんどの地域については、震源断層モデルや津波波源モデルを決定するための観測データが十分に得られていません。こうした情報不足は、日本海側の地震・津波災害に対して、有効かつ適切な防災対策を施して行く上で問題になると考えられます。
このような問題点を解決するために、2013年9月より始まった文部科学省「日本海地震・津波調査プロジェクト」では、日本海の沖合から沿岸域及び陸域にかけての領域で、津波の波高予測を行うのに必要な、日本海の津波波源モデルや沿岸・陸域における震源断層モデルを構築するための観測データを取得します。また、これらのモデルを用いて、津波・強震動シミュレーションを行い、防災対策をとる上での基礎資料を提供するとともに、地震調査研究推進本部の実施する長期評価・強震動評価・津波評価に資する基礎データを提供します。また、このような科学的側面に加えて、津波被害予測に対する社会的要請の切迫性に鑑みて、調査・研究成果に基づいて防災リテラシーの向上を目指して、地域研究会を立ち上げ、行政と研究者間で津波災害予測に関する情報と問題意識の共有化を図ります。
1983 年日本海中部地震の震源断層と地殻構造のイメージ図
平成25年度の調査観測測線
本プロジェクトでは、構造調査を基軸として構築された断層モデルに基づいて、津波および強震動予測が行われ、これらの成果が工学や災害情報学的研究成果を取り込みながら、全体として地域の防災リテラシー向上に活用されていくことを目指します。
地球科学・工学・社会科学の各サブプロジェクトの成果を有機的に結びつけて、未解決の問題点を明確にしながら、地域に還元していくことを目的として、理学的な成果を災害情報学、海岸工学的な研究を通じて、実際の地域防災リテラシー向上につなげるための研究を行います。
日本海とその沿岸における津波や強震動を発生させる波源及び震源断層について、直接的なデータに基づき断層モデルを構築することを目的として、過去の地震・津波の調査や海域及び海陸統合の地下構造調査を広汎な領域で行います。また、海溝型地震と内陸沿岸地震の関連メカニズムの評価は、長期予測において重要な課題であり、この準備として広域の構造モデルに、断層の形状を取り入れた検討を行います。
陸域・海域での構造調査や古地震・古津波・活構造調査などに基づいて得られた断層モデルから、日本海沿岸における津波シミュレーションにより、沿岸での津波波高を予測します。また、構築された震源断層モデルに基づいて、強震動予測のための震源断層モデルに必要なパラメータを検討し、震源モデルの特性化や対象地域の地下速度構造モデルの高度化を進めます。これらの情報を組み合わせて、断層帯が活動した場合の強震動予測を行い、地震動分布の特徴を調べます。
数字は実施の順番
沿岸の湖底にみられる約5500年前の津波堆積物
(新潟県佐渡・加茂湖のボーリング試料)
本プロジェクトには、以下の機関が参加しています。
東京大学地震研究所,海洋開発研究機構,京都大学防災研究所、東京大学大学院工学系研究科、東京大学大学院情報学環附属総合防災情報研究センター、新潟大学災害・復興科学研究所、横浜国立大学大学院環境情報研究院 、防災科学技術研究所。
篠原 雅尚(しのはら・まさなお)
東京大学地震研究所 教授。
1986年九州大学理学部卒業、1991年千葉大学自然科学研究科修了。学術博士。東京大学海洋研究所助手などを経て、2010年より現職。専門は、海底観測地震学、海底観測機器開発。
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)12月号)