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  3. 全国地震動予測地図2014年版~全国の地震動ハザードを概観して~

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)冬号)


地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2014年版~全国の地震動ハザードを概観して~

 地震調査委員会は、東北地方太平洋沖地震以降、確率論的地震動予測地図(1)の解決すべき課題について検討を行ってきました。2014 年12 月19 日に、それらの検討結果を踏まえて作成した全国地震動予測地図2014 年版を公表しましたので、ここにご紹介します。


1. これまでの経緯(SIP)

 地震調査委員会は、陸域や沿岸海域等の浅いところで発生する活断層の地震と、プレートの沈み込みに伴って発生する海溝型地震の長期評価(2)を行うとともに、いくつかの震源断層を対象に、地震が発生した場合の周辺の揺れを予測し、公表してきました。それらに基づき、2005 年3 月に「全国を概観した地震動予測地図」を公表し、以来、毎年改訂を行ってきました。2009 年7 月には全面的な改訂を行い、名称を「全国地震動予測地図」に変更しました。
 2011 年も全国地震動予測地図2011 年版を公表する予定でしたが、平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震が発生し、確率論的地震動予測地図について多くの課題が指摘されたことなどにより、公表を見送り、作成手法の基本的な枠組みの有効性を確かめるとともに、指摘された課題の検討を開始しました。2013 年までに行われた検討の結果は、2012 年、2013 年にそれぞれ公表し、その際に、検討結果を踏まえた確率論的地震動予測地図も試験的に作成しました。
 2014 年も引き続き課題の検討を行ってきましたが、このたび、これまでの検討結果を踏まえた確率論的地震動予測地図の作成が完了したため、「全国地震動予測地図2014 年版~全国の地震動ハザードを概観して~」(以降、2014 年版)を公表しました。


2. 全国地震動予測地図2014 年版について

2.1 2014 年版の確率論的地震動予測地図の改良のポイント

 東北地方太平洋沖地震後、それまでの確率論的地震動予測地図に様々な課題が指摘されました。なかでも、東北地方太平洋沖地震発生当時の確率論的地震動予測地図で「今後30 年間に震度6 弱以上の揺れに見舞われる確率」が3%未満と相対的に高くない一部地域において、震度6 弱以上が多数の地点で観測されたことは、重要な課題でした。
 この原因としては、

  • ①東北地方太平洋沖地震型の地震が、長期評価の対象とされていなかったこと
  • ②長期評価されていない地震の考慮が不十分であったこと
の2 つがあります。
 確率論的地震動予測地図は、長期評価された地震の全てを考慮して作られますが、東北地方太平洋沖地震型の地震は、当時長期評価されていませんでした。一方、長期評価されていない地震も、「あらかじめ震源断層を特定しにくい地震(震源不特定地震)」として発生の可能性を考慮しています。しかし、当時東北地方の太平洋沖では、震源不特定地震の最大規模を、これまでに発生した最大の地震の規模( マグニチュード(M)8.2) としており、十分に大きな規模が設定されていませんでした。
 地震調査委員会では、これを踏まえた上で、
    方針1.
  •  東北地方太平洋沖地震等を踏まえた長期評価等を確率論的地震動予測地図に反映する。
  • 方針2.
  •  長期評価されていない、発生場所、規模、発生確率などが明らかでない地震について、従来よりも大きな規模の地震まで考慮するなど、地震活動モデルの不確実性(3)の考慮の仕方を工夫する。
  • 方針3.
  •  地震動ハザード情報を専門家以外の方々にとっても分かり易く解説・表現する。
の3 つの方針に基づき、検討を行いました。
 以下に、各方針と、それらの方針に基づく改良について説明します。


<方針1 に基づく改良>
 方針1 では、2011 年以降に公表された長期評価を反映しました。特に、南海トラフや相模トラフでは、発生しうる最大クラスの地震(M8 ~ M9 クラス) まで考慮するとともに、不確実性の大きな情報であっても防災上有用なものについては誤差等に配慮した上で用いるなど、東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえた評価がなされています。2014 年版は主に以下の長期評価を反映しています。

  • ・「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価(第二版)」( 地震調査委員会、2011)
  • ・「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」(地震調査委員会、2013)
  • ・「模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)」(地震調査委員会、2014)
 また、九州地域については、従来考慮の対象としていなかった、M7.0 よりも小さなM6.8 程度の地震を起こす活断層までを対象として行われた長期評価
  • ・「九州地域の活断層の長期評価(第一版)」(地震調査委員会、2013)
を反映しました。


<方針2 に基づく改良>
 方針2 は、東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえたものです。データ不足等により地震活動モデルに不確実性があることを踏まえ、以下の点を考慮しました。

  • ・海溝沿い、内陸や沿岸域の活断層で発生する震源不特定地震について、従来より大きな規模の地震まで考慮。
  • ・内陸や沿岸域の活断層で発生する地震について、地表の証拠からは活動の痕跡を認めにくい地震や、複数の活断層の連動( 九州のみ) による地震を考慮。
  • ・千島海溝、三陸沖から房総沖、伊豆・小笠原海溝の海溝軸より沖合で発生する、沈み込むプレート内で発生する地震(アウターライズ地震)を考慮。
  • ・これまでの調査が不足していると考えられる日本海東縁部の地震発生確率の計算の仕方を工夫。
  • ・局所的な地震活動による予測結果への過度な影響を防ぐため、従来より大きな領域(大領域)を考慮して地震の発生頻度を計算。


<方針3 に基づく改良>
 方針3 は、これまでの検討の中で、評価結果を地震の専門家以外にも分かりやすく伝えることが必要であるとした意見を受けたもので、

  • ・確率論的地震動予測地図の見方や注意点を分かりやすくまとめた説明資料を作成。
  • ・1 万年や10 万年といった非常に長い期間を対象とした確率論的地震動予測地図の作成(活断層で発生する地震など、発生間隔が長い地震の影響が見やすくなります)。
を行いました。

 上記以外の改良として、2014 年版では、新たな知見を踏まえて全国的に更新(4)した表層地盤データ(地震による揺れの地表付近での増幅を考慮するためのデータ)を採用しました。
 また、2014 年版の「震源断層を特定した地震動予測地図」(5) では、2013 年に公表された「九州地域の活断層の長期評価(第一版)」(地震調査委員会、2013)で評価された活断層に加え、長期評価が改訂された森本・富樫断層帯、山崎断層帯についての結果も掲載しています。

2.2 2014 年版の確率論的地震動予測地図の特徴

 2014 年版の、「今後30 年間に震度6 弱以上の揺れに見舞われる確率(平均ケース)(6)」を図1 に示します。全体的な傾向はこれまでとほぼ同じで、海溝型地震の影響が大きい北海道道東地方の沿岸、三陸から房総、南海トラフ沿いの太平洋側、相模トラフ沿いの地域、活断層の中でも活動度の高い糸魚川−静岡構造線断層帯に沿った長野県北部から中部に至る地域、揺れやすい地盤の厚い平野部などにおいて確率が高くなっています。
 日本は世界的に見て地震が非常に多く発生する場所であり、日本の面積は世界の面積の1%未満であるにもかかわらず、世界の地震の約1 割が日本の周辺で起こっています。国内において相対的な確率の高低はありますが、全国のどこでも地震によって強い揺れに見舞われる可能性があります。


2.3 2014 年版の構成

 全国地震動予測地図2014 年版は、本編、付録-1、付録-2、別冊の4 部から構成されます。

    ◆本編
  • ・東北地方太平洋沖地震以降に行われた検討の概略
  • ・確率論的地震動予測地図
  • ・震源断層を特定した地震動予測地図(各断層帯の複数の計算結果のうち1 つ)
  • ・2014 年版の確率論的地震動予測地図に用いたモデルの概要
    ◆付録-1
  • ・東北地方太平洋沖地震以降に行われた検討の詳細
  • ・2014 年版の確率論的地震動予測地図の作成に用いたモデルの詳細
  • ・今後の課題と展望
    ◆付録-2
  • ・確率論的地震動予測地図を地震の専門家以外の方に分かりやすく説明した資料
    ◆別冊
  • ・震源断層を特定した地震動予測地図(個別の活断層で地震が起こった際の周辺の震度分布を示したもの)

 将来備えるべき揺れについて、より的確に把握するためには、確率論的地震動予測地図と震源断層を特定した地震動予測地図の両方を参考にすることが重要です。それぞれの特徴やその見方、活用方法については、本編の手引き編・解説編を、確率論的地震動予測地図の見方の分かりやすい解説については、付録-2 を、震源断層を特定した地震動予測地図については別冊をご覧ください。
 これらは全て、地震本部のホームページ
/evaluation/seismic_hazard_map/shm_report/shm_report_2014/にてご覧いただくことができます。また、防災科学技術研究所のWEB サイト「 J-SHIS 地震ハザードステーション(https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/)」では、全国の任意の地点について、「今後30 年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」や「地盤の揺れやすさ」等を調べることができます。また、震源断層を特定した地震動予測地図の閲覧や、全国の主な活断層や海溝型地震の震源域について調べることができます。


3. 地震動予測地図の注意点

 2014 年版は、東北地方太平洋沖地震以降行われた検討を踏まえ、現時点での最新の知見を踏まえて作成したものです。しかしながら、地震動予測地図には現時点においても不確実性があることに注意が必要です。
 例えば、地震の平均的な発生間隔は一般に、海溝型地震で数十年から数百年、活断層の地震は数千年から数万年ですが、確率論的地震動予測地図は最近の100 年程度のデータに基づく部分があり、短い期間の観測データから発生間隔の長い地震を考慮するのは困難です。また、活断層調査を行っても、全国の全ての活断層を完全に把握することは難しく、確率論的地震動予測地図で考慮されていない活断層で地震が発生する可能性があります。
 また、平均活動間隔の長い活断層で発生する地震の発生確率は、地震発生直前においても低い( 例えば、兵庫県南部地震の発生直前での発生確率は0.02-8% ) ですが、全国には活断層が数多くあるため、数十年の間には、その中のいずれかで地震が起こることになります。実際に、過去200 年間に国内で大きな被害を生じた地震の平均的な発生頻度を調べると、海溝型地震は20 年に1 回程度であるのに対して、活断層の地震は10 年に1 回程度です。
 さらに、発生確率が低いことは強い揺れに見舞われないという意味ではありません(7)。確率が低くても、地震が発生すれば強い揺れに見舞われる可能性があることに注意が必要です。加えて、強く揺れなくても耐震性が低ければ建物は倒壊してしまいます(8)ので、確率の高低は必ずしも安全性の高低ではないことにも注意が必要です。耐震診断・改修など、安全性を高める対策が重要です。
 以上に留意しつつ、全国地震動予測地図を見ることを通じて、地震から身を守るという観点で日常生活を見直し、自宅の耐震診断・改修、地震発生時の安全確保の仕方の確認、避難所や避難経路の確認、水や食料の備蓄等、防災対策に取り組むことが大切です。


4. 今後の課題

 先に述べた通り、地震動予測地図は現時点においても不確実性を含んでいます。確率論的地震動予測地図の作成に必要な地震の発生場所、規模、発生間隔の情報や地下構造に関する情報がまだ十分に得られていない地域もあり、調査・観測・研究を精力的に進めるとともに、長期評価に反映する必要があります。また、地震動予測地図の高度化には、地震が発生した際にどこがどれくらい揺れるかの計算を高度化する必要があります。この他、地震動予測地図を専門家以外の方により分かりやすく伝えるための表現方法についても、今後も検討していく必要があります。
 地震調査委員会は、今後も地震の調査・研究を精力的に行うとともに、得られた最新の知見を反映して地震動予測地図を改良していきます。


図1

( モデル計算条件により確率ゼロのメッシュは白色表示 )
図1 確率論的地震動予測地図:確率の分布
今後30 年間 に 震度6 弱以上 の揺れに見舞われる確率( 平均ケース・全地震 )



1 日本とその周辺で発生する地震について、その発生場所・規模・発生確率などに基づき、各地点がどの程度の確率でどの程度の強さで揺れるかを計算し、地図に示したもの。
2 日本とその周辺で発生する地震について、その発生場所・規模・発生確率を評価すること。
3 確率論的地震動予測地図を作成するためには、それぞれの地域で発生する地震について、発生場所や規模、発生頻度などの情報をまとめた地震活動モデルが必要です。地震活動モデルは、過去に発生した地震の位置や、規模、発生間隔などのデータ等、沢山のデータに基づき作成されますが、これらのデータは完全ではないため、不確実性が含まれることになります。
4 この他、2014 年版の表層地盤データは、測地系が日本測地系から世界測地系に変更されています。
5 地震動予測地図は「確率論的地震動予測地図」と「震源断層を特定した地震動予測地図」の2 種類からなります。「震源断層を特定した地震動予測地図」は、ある震源断層においてある仮定した条件で地震が起きた場合の周辺の震度分布を地図に示したものです。
6 地震の発生確率を計算するには地震の発生間隔と最後に地震が起こった時期の情報が必要ですが、調査によって得られるこれらの値は、例えば、地震の発生間隔1000 年~ 1500 年のように、幅を持って与えられます。これらの幅の中央の値を使って計算した発生確率を用いて確率論的地震動予測地図を作成するものが平均ケースです。
7 「今後30 年間に震度6 弱以上の揺れに見舞われる確率」等、確率論的地震動予測地図が示す確率は「強い揺れに見舞われる確率」であり、「地震の発生確率」ではありません。また、確率の高い地域の方が確率の低い地域よりも先に地震が起こるというわけでもありません。
8 兵庫県南部地震の犠牲者の約9 割は、建物の倒壊が直接的・間接的な原因で亡くなりました。

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)冬号)

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