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(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)秋号)
石川県能登地方では、2020年12月から地震活動が活発になっています。2022年6月19日には、一連の地震活動において最大となるM5.4の地震が発生し最大震度6弱を観測しました。この他にも、2021年9月16日のM5.1の地震により最大震度5弱、2022年6月20日のM5.0の地震により最大震度5強を観測するなど、強い揺れを観測する地震が複数回発生しています。
この地震活動について、2022年6月19日に最大震度6弱を観測する地震が発生したことから、地震調査研究推進本部地震調査委員会では、翌日の20日に地震調査委員会臨時会を開催し、地震活動や地殻変動の状況、地震活動の見通しなどについて評価をとりまとめました。
また、2022年7月11日開催の月例の地震調査委員会において、関係行政機関、大学等による調査観測結果やこれまでの研究成果を整理・分析し、総合的に議論しました。地震調査委員会としての情報発信をより強化する必要があると考え、これまでに取り組んできた地震活動の評価に加え、「地震調査委員長見解」として、関連する情報を発信しました。
石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から地震活動が活発になり、2021年7月頃からさらに活発になっています。一連の地震活動において、2020年12月1日から2022年9月8日08時までに震度1以上を観測する地震が201回、このうち震度3以上を観測する地震が31回発生しました。最大の地震は、2022年6月19日に発生したM5.4の地震(最大震度6弱)です。
一連の地震活動は、東西約15㎞、南北約15㎞の領域で発生しています。特に北側から東側にかけての領域で地震活動が活発であり、2021年9月16日のM5.1の地震、2022年6月19日のM5.4の地震、及び6月20日のM5.0の地震も、これらの領域で発生しました。また、一連の地震活動では、概ね南東傾斜の震源分布が複数見られ、時間の経過とともに深部から浅部へ広がっています。
GNSS*1観測の結果によると、2020年12月頃から、石川県珠洲市の珠洲観測点で南東に累積で1cmを超える移動及び4cm程度の隆起、能登町の能都観測点で南南西に累積で1cmを超える移動が見られるなど、地殻変動が継続しています(2022年8月の地震活動の評価による)。また、周辺のより多くのGNSS観測点におけるデータを加えると、概ね一連の地震活動域を中心とした放射状の広がりと隆起を示す地殻変動が捉えられています。
地殻変動の観測及び解析結果を踏まえると、地震活動域周辺の地下に、現在の地殻変動及び地震活動を発生させている原因となるものが存在していると考えられます。その可能性として、球状圧力源*2、開口割れ目*2、断層すべり*2等を考えることができます。しかし、現在の観測データ及び解析結果からは、いずれの可能性も考えることができ、原因を1つに特定することは困難です。
今回の地震活動域の周辺では、今回のような同規模の地震が長期間継続して発生する活発な地震活動は、これまでに知られていません。一方で、日本国内では、同様の地震活動が見られたことが時々あります。それらの中には、1年以上継続した地震活動もあります。また、これまでの研究で、活発な地震活動の原因として流体の関与が指摘されている地震活動もあります。
今回の地震活動域周辺の電気伝導度*3の分布を見ると、一連の地震活動域及びその深部に、より電気を通しやすい領域が存在していると推定されます。また、地震波による解析では、南側の地震活動域の最も深い場所付近に、地震波を反射する領域が推定されます。能登半島北部での温泉水の分析からは、何らかの流体が関与している可能性があると考えられています。これらの結果と今回の地震活動の詳細な震源分布、これまでに国内で見られた長期間継続する地震活動における研究成果を踏まえると、今回の地震活動や地殻変動に流体が関与している可能性が考えられます。しかし、現在の観測データ及び解析結果からは、流体がどのように関与しているかはわかっていません。
能登半島の北岸沖の海底には、複数の北東-南西方向に延びる南東傾斜の断層が存在し、活断層であることが知られています。これらの活断層は過去に繰り返し活動し、今後も再び活動すると考えられます。今回の地震活動がこれらの活断層へ与える影響は不明ですが、活断層が存在することに留意する必要があります。
能登半島の周辺では、これまでにも被害を伴う規模の大きな地震が発生しています。2007年3月25日には「平成19年(2007年)能登半島地震」(M6.9)が発生し、最大震度6強を観測しました。また、1993年には今回の地震活動域の北方でM6.6の地震が発生しました。この他、今回の地震活動域付近で被害を伴った地震として、1729年にM6.6~7.0の地震、1896年にM5.7の地震などが知られています。
今回の地震活動域周辺では、沿岸部や河川沿いなどで揺れやすい地盤となっている地域があります。2022年6月19日のM5.4の地震により震度6弱を観測した地点の周辺にも揺れやすい地盤が広がっています。令和3年3月に地震調査委員会が公表しました「全国地震動予測地図2020年版」では、お住まいの地域の地盤の揺れやすさを確認することができます。
地震活動には減衰傾向が見えず、依然活発な状態が継続していること、地殻変動も引き続き継続していることなどを踏まえて総合的に判断すると、一連の地震活動は当分続くと考えられます。地震の規模やお住まいの地域、特にこれまでの地震で強い揺れを感じた地域、によっては今後も強い揺れに注意が必要です。また、海底で規模の大きな地震が発生した場合、津波に注意する必要があります。改めて、日頃からの地震への備えを確認することが大切です。
関連する図も含めた評価及び地震調査委員長見解の全文については、以下をご参照ください。
◆ 2022年6月19日の石川県能登地方の地震の評価(令和4年6月20日公表)
https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2022/20220619_ishikawa_1.pdf
◆ 石川県能登地方の地震活動の評価(令和4年7月11日公表)
https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2022/2022_ishikawa_1.pdf
◆ 石川県能登地方の地震活動に関する「地震調査委員長見解」(令和4年7月11日公表)
https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2022/2022_ishikawa_2.pdf
*1:GNSSとは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般をしめす呼称である。
*2:観測された地殻変動量を説明できる変動源モデル。球状圧力源は、水などの蓄積により圧力が等方的(球状)に変化するモデル、開口割れ目は、入り込んだ水などにより亀裂が板状に開くように圧力が変化するモデルです。今回考えている断層すべりは、通常の地震と同様に断層面がすべる動きですが、すべりの速度が通常の地震に比べて極めてゆっくりであり、地震波を放射しません。
*3:電気伝導度とは、電気の流れやすさを表す指標です。一般に、水などが存在すると電気が流れやすくなります。
文部科学省では、「能登半島北東部において継続する地震活動に関する総合調査」に対して科学研究費助成事業(特別研究促進費)による助成を行っています。本研究では、石川県の能登半島北東部において、地震活動の原因等の解明と今後の防災対策に資することを目的として、陸域地震観測、測地観測、電磁気観測、重力観測、温泉成分の測定、活構造調査、及び被害状況の調査等による総合調査を実施しています。地震調査研究推進本部では、総合調査により得られた成果についても、今後の地震活動の評価等に活用していきます。
関連する資料全文については、以下をご参照ください。
◆ 「能登半島北東部において継続する地震活動に関する総合調査」に対して科学研究費助成事業(特別研究促進費)による助成を行います
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1420210_00003.htm
(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)秋号)
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