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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-E プロジェクト)(その1) 人工知能と自然知能の対話・協働による地震研究の新展開

(広報誌「地震本部ニュース」令和3年(2021年)秋号)

 今世紀初頭に始まった現在の第三次人工知能ブームは、いまだに止まるところを知らず、人間社会および生活様式を一変しつつあります。特に、定められたルールの下で明確な目的を達成する場合において人工知能は大きな威力を発揮し、地震分野においても深層学習による地震波形データからのP波やS波の検出能力は、時に経験豊かな地震学者の目を上回ることもしばしばです。しかしながら、地震研究において取り扱う地球内部起源の振動現象には、通常の地震以外にも多種多様なものが混在しており、それらを分類しながら検出する人工知能技術は、まだ確立されたとはいえません。例えば、現在の地震学におけるホットトピックであるスロー地震研究では、観測限界に近い規模の小さな深部低周波微動(以下「微動」という)までを対象としており、通常の地震や人工ノイズ等も含まれる観測データから微動を網羅的に検出するための深層学習器の構築が喫緊の課題となっています。

 一方、地震研究においては現象の検出だけではなく、検出された現象の情報に基づく地震活動の時空間分布や地球内部構造等のモデリングにより、地震の発生環境や発生メカニズムの解明を目指すことが地震防災・減災の観点からも重要です。この地震学におけるモデリングでは、「自然知能」と言うべき人間の頭脳によるところがまだ大きく、人工知能が自然知能を凌駕するまでにはまったく至っていません。これは、現在の深層学習は人間が理解可能となるように思考過程を示すことができず、得られたモデルの妥当性の検証やそれに基づくモデルの更新が困難であることが大きな要因であり、長期間にわたり自然知能によって蓄積されてきたモデリングのノウハウが人工知能に取って代わるまでには、まだ相当の時間を要するものと思われます。そのため、人工知能に基づくモデリング手法の開発と同時に、自然知能に基づく従来のモデリング技術の高度化も重要であり、両者を常に比較検討していくことが地震研究に新たな展開をもたらすでしょう。

 東京大学地震研究所が中核機関として実施する本プロジェクト(図1)では、「人工知能と自然知能の対話と協働」をテーマに、深層学習と経験者の目による地震・微動検出手法の深化、および人工知能と自然知能による地震モデリング手法の共進化をねらい、地震研究の新展開と地震防災に貢献します。また、参画者全員が大学の教員であることを活かし、講義やセミナーを通じた国民への「情報×地震」の啓発活動、ならびに本分野の将来を担う若手研究者の発掘と育成にも力を注いでいきます。

 本プロジェクトには地震学と情報科学から15名の専門家が集結し、人工知能と自然知能の両面から地震研究を展開していきます(図2)この目的を具現化するため、(A)人工知能グループと(B)自然知能グループを構成し、(A)においては深層学習に基づく地震・微動検出技術と、地震・微動活動や地下構造を推定するモデリング技術の開発、(B)においては経験豊かな地震学者の目による(A)の地震・微動検出結果の検証と、従来のモデリング技術の高度化を実施します。また基礎となる地震データとしては、デジタル記録された(1)波形信号データのほか、それを画像化した(2)波形画像データを対象とします。本来、深層学習は画像からの情報抽出に長けていますので、波形画像データの積極利用は極めて有効であると考えられます。

 研究項目(A-1)では波形信号データを用いて、畳み込みニューラルネットワーク(以下「CNN」という)に基づく地震・微動検測手法、およびCNNとマルコフ連鎖モンテカルロ法による地下構造モデリング技術を開発します。P波・S波といった地震波形の巨視的構造や、第一近似的には鉛直方向に変化する地下構造は地域を問わず類似性があることを活かし、他地域で構築されたCNNを土台に転移学習に基づく効率的なCNNの構築を行います。研究項目(A-2)では波形画像データを用いて、残差学習に基づく地震・微動検出技術を開発します(図3)。現代の地震計で得られた波形信号データを画像化したもののみならず、昔の地震計の紙記録を画像化したデータも加えることにより、解析可能な時間軸を大幅に拡大します。これにより、数百年スケールの大地震発生サイクルのメカニズムの解明に、より迫っていくことができると考えられます。研究項目(B-1)ではガウス過程回帰を導入し、(A)で自動検出された地震・微動からそれらの時空間分布を推定する手法を開発します(図4)。特に、まだ確立されていない微動の時空間分布モデルを構築すれば、地震発生確率の長期評価の算出に影響を与えることができるかもしれません。研究項目(B-2)では経験豊かな地震学者の目によって(A)で自動検出された地震・微動の妥当性を検証し、究極的には地震学者の目に勝るCNNの構築を目指します。

 将来的には、本プロジェクトにおいて開発した手法群を、人工知能と自然知能の協働に基づき地震・微動自動検出から自動モデリングに至るまで連動実行する地震・微動活動の準リアルタイム監視システムとして実装することにより、わが国の地震研究と地震防災に大きく貢献していきたいと考えています。

(広報誌「地震本部ニュース」令和3年(2021年)秋号)

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