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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト(その1)

(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)秋号)

防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト(その1)

1.はじめに
   プロジェクトの目的

    小平 秀一

 南海トラフにおいては、過去に発生した巨大地震の多様性が指摘されるとともに、国難級の巨大地震の発生が危惧されています。文部科学省科学技術試験研究委託事業の本プロジェクトでは科学的・定量的なデータに基づき地震活動・プレート固着状態の現状を把握するとともに、これまでとは異なるゆっくりすべり等が起こった際にその活動と今後の推移に関する情報を迅速かつ精度よく評価し情報発信する手法の開発を行います。また、発信された情報を被害軽減に最大活用するため、平時や通常と異なるゆっくり滑り等に関する情報が発信された場合、住民・企業等の防災対策のあり方、防災対応を実行するにあたっての仕組みについて研究を実施します。さらに、自治体等と連携し、本プロジェクトで進めた研究成果が被害軽減の向上にどのように貢献したか定量的な評価を行い、防災・減災計画に向けた効果的な研究開発項目を明らかにします。これらの目標達成に向けて、本プロジェクトでは「地殻活動情報創成研究」、「地震防災情報創成研究」、「創成情報発信研究」の三つの研究課題を設定し、令和2年度より5年間の計画で研究を開始しました。
 本稿では、プロジェクト全体概要と「地殻活動情報創成研究」の研究計画を紹介し、次号の地震本部ニュースでは「地震防災情報創成研究」、「創成情報発信研究」の研究計画を紹介します。

2.地殻活動情報創成研究

 本研究課題では南海トラフの地震・地殻変動の現状を即時的に把握し情報を発信するため、海陸地震・地殻変動データを最大活用した地震活動・プレート固着すべりモニタリングシステムを構築します。この際、現業機関等での将来活用を視野に入れプロジェクト実施時から気象庁、国土地理院等の機関と連携しシステム開発を進めていきます。さらに、構築したシステムよって得られる地震・地殻変動の現状と推移に関する結果は地震調査委員会や南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会等に随時情報提供を行っていきます。
 以下の章では、本研究課題を実施するために三つのサブテーマの計画をまとめます。

3.サブテーマ1-(a)
   高精度な3D構造モデルに基づく自動震源決定システムの開発

    汐見 勝彦

 南海トラフ海域では厚い堆積層や沈み込むプレートが存在するなど地下構造の不均質性が強く、従来の方法では地震活動状況を適切に把握することが困難でした。サブテーマ1-(a)では、地球内部、特に海域の地下を三次元的に詳細にモデル化するとともに、その三次元地下構造モデルを用いた震源決定を自動的に行うためのシステムを構築します。地下構造モデルについては、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト(平成25年度~令和元年度)」で構築したP波速度構造モデル等を基本とし、最新の様々な観測データや研究成果を取り入れることでモデルをより高精細化するとともに、S波速度や密度等、様々なパラメタの推定も行います。海底に設置された地震・津波観測監視システム(DONET)観測点においては、各観測点直下の堆積層構造を詳細に把握し、震源決定に不可欠な観測点補正値を求めます。自動震源決定システムでは、これらの地下構造に関する情報を基に、リアルタイムで収集される基盤的地震観測網のデータを逐次的に解析することで、詳細な震源情報を遅滞なく把握することを目指します。さらに、過去の情報と照らし合わせることで、地震活動状況の変化を検出する方法の研究開発を進めます。本サブテーマで構築した構造モデルは、本プロジェクトの基本モデルとしてプロジェクト内で共有するとともに、広く公開していきます。

図1 サブテーマ1-(a): 高精度な3D構造モデルに基づく自動震源決定システムの開発
図1 サブテーマ1-(a): 高精度な3D構造モデルに基づく自動震源決定システムの開発

4.サブテーマ1-(b)
   プレート固着・すべり分布のモニタリングシステムの構築

    太田 雄策

 プレート間の固着の様子や、地震発生時にそのすべりの状態を正確に捉えることは、プレート境界の現状把握の上で極めて重要です。一方、これらの正確な推定と、その利活用のためには、地下の現実的な構造を反映させる必要があるとともに、推定された結果が持つ不確かさを把握する必要があります。サブテーマ1-(b)では、南海トラフにおけるプレートの固着・すべりの様子を海陸の地殻変動データからその推定の不確かさも含めて推定するシステムの開発を行います。同システムでは三次元不均質粘弾性構造モデルにもとづいて地殻変動を計算する手法を実現するとともに、プレート境界だけではなく、海域の分岐断層等も含めたすべりを表現することを目指します。さらにプレート境界型の巨大地震発生後、迅速にすべりの様子を推定の不確かさとともに推定する手法の開発を進めます。これらすべり推定手法の開発は、電子基準点 (GEONET) を用いて地殻変動監視を行っている国土地理院と連携しつつ実施します。さらに南海トラフのプレート境界浅部を対象とした広帯域海底地震観測を行うことで、断層固着の様子を明らかにします。これらの実施項目によって、プレート境界において通常と異なる固着やすべりが生じた際に、迅速に情報発信するための技術を獲得します。

図2 サブテーマ1-(b):プレート固着・すべり分布のモニタリングシステムの構築
図2 サブテーマ1-(b):プレート固着・すべり分布のモニタリングシステムの構築

5.サブテーマ1-(c)
   3Dモデル・履歴情報を用いた推移予測

    堀 高峰

 南海トラフにおいて、一定規模以上の地震が想定震源域、あるいはその近傍で発生した場合や、通常と異なるゆっくりすべりが進行した場合に備えて、過去の地震履歴ならびにプレート境界の固着・すべりの現状把握の結果(サブテーマ1-(b)による)を活用し、プレート境界の固着・すべりの推移予測手法の確立を目指します。そのために、前回の南海トラフ地震以降の地殻変動データと整合する3D粘弾性構造モデルを構築するとともに、断層構成則と組み合わせることで、与えられた固着・すべりの後の推移を計算する手法を開発します。また、過去の地震履歴についての知見を拡充するため、海域および陸域の地層の中から過去の地震・津波の痕跡を検出するとともに、歴史地震について史料調査を実施します。陸域では掘削調査等から津波浸水や地殻変動の履歴を、海域では海底堆積物調査から地震・津波の発生履歴を解明し、それらの年代や拡がりから南海トラフ沿いで特に大きな地殻変動・津波を生じた年代・領域についての情報を得ることを目指します。また、史料解析に基づいて明応以降の歴史地震における津波波源やその元になる断層すべり分布をより正確に復元することを目指します。
 以上本研究課題で構築した地下構造モデルや最新の地震活動、プレート固着・すべりに関する知見は「地震防災情報創成研究」で活用されるともに、「創成情報発信研究」では現在得られている科学的データとして一般の方にも分かりやすい形で情報発信を行っていきます。

図3 サブテーマ1-(c): 3Dモデル・履歴情報を用いた推移予測
図3 サブテーマ1-(c): 3Dモデル・履歴情報を用いた推移予測

著者プロフィール

小平 秀一 (こだいら しゅういち)
海洋研究開発機構海域地震火山部門 部門長・上席研究員。専門は海域地球物理学。北海道大学理学研究科地球物理学専攻で博士(理学)を取得。その後、北海道大学理学部を経て海洋研究開発機構(当時の海洋科学技術センター)に着任。2019年度より現職。海域地球物理観測によりプレート境界での地震、火山など変動現象とそれらに起因するハザードに関する研究を進めている。地震調査研究推進本部地震調査委員会委員他を務める。

汐見 勝彦 (しおみ かつひこ)
防災科学技術研究所地震津波防災研究部門 副部門長。専門は固体地球物理学。東北大学大学院理学研究科にて博士(理学)を取得。国際航業(株)を経て、2002年に防災科学技術研究所に着任。2016年より現職。防災科研Hi-netの整備・運用に携わりつつ、地下構造解明や地震活動把握に関する研究開発に従事。地震調査研究推進本部長期評価部会委員他を務める。

太田 雄策 (おおた ゆうさく)
東北大学大学院理学研究科 准教授。専門は測地学。名古屋大学環境学研究科で博士(理学)を取得。その後、東北大学大学院理学研究科助教を経て2014年より現職。GNSS等の衛星測位技術を用いたリアルタイム地震規模推定システムの開発とそれを用いた津波即時予測に関する研究および海陸測地データを用いたプレート境界における地震発生メカニズムの解明に向けた研究を進めている。

堀 高峰 (ほり たかね)
海洋研究開発機構海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター センター長・上席研究員。専門は地震発生予測。京都大学大学院理学研究科で博士 (理学)学位取得。日本学術振興会特別研究員を経て海洋研究開発機構(当時の海洋科学技術センター)に着任。2019年度より現職。地震・津波防災のための沈み込み帯の現状把握・推移予測システムの構築に取り組んでいる。地震調査研究推進本部長期評価部会委員他を務める。

(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)秋号)

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