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  3. 南海トラフ海底地殻変動モニタリング のための孔内観測網の構築
地震調査研究推進本部2017年春

調査研究機関の取り組み 南海トラフ海底地殻変動モニタリングのための孔内観測網の構築 ―国立研究開発法人海洋研究開発機構―

●はじめに

 南海トラフでは、プレート間の歪の蓄積、解放プロセスに伴い巨大地震が約100~ 200年周期で繰り返し発生してきました。地震調査研究推進本部では過去に発生した地震の統計的な解析により、この地域で今後10年間にマグニチュード8~ 9の巨大地震が発生する確率を10%、30年以内に発生する確率を70~ 80%と推定しています ( 参考文献① )。海洋研究開発機構を中心とした研究グループは、2016年度までに2点の孔内観測点を南海トラフ熊野灘に設置し、この南海トラフ巨大地震の準備・活動状況の把握を目指した海底地殻変動の監視を開始しています。さらに、2018年2月には3点目の孔内観測点を設置し、観測網の拡充を進めています。本レポートでは、この3点目の孔内観測点の設置を中心に孔内観測網の構築に向けた取り組みを紹介します。

●南海トラフ巨大地震震源想定域に展開された孔内観測網

 海洋研究開発機構を中心とした研究グループは、これまでの10年間で南海トラフ巨大地震震源想定域における孔内観測網の構築に取り組んできました。孔内観測網では、国際深海科学掘削計画 (IODP)の掘削孔内に地震・地殻変動センサーを設置し、同海域の海底に展開された地震・津波観測監視システム(DONET)の海底ケーブル網に接続することで、巨大地震の想定震源域直上でのリアルタイム海底地殻変動観測を実現しています。我々の研究グループは、2010年に最初の孔内観測点であるC0002の設置を行った後、2016年6月までにC0002、C0010の2点の孔内観測点をDONETケーブルに接続し、プレート境界断層に沿った複数点での観測を開始しました(図1)。さらに、2018年2月には、3点目の孔内観測点として、トラフ軸に近いプレート境界断層先端部付近に位置するC0006の設置に成功し、同年3月にはDONETケーブルへの接続を行うことで計3点の孔内観測網による広域地殻変動観測が開始される予定です。次項では、このC0006観測点に設置した孔内センサー、設置作業の概要を紹介し、さらに既存観測点の観測データから得られた成果についても紹介します。

図1 東南海地震震源域の熊野灘に展開されたDONET1(ケーブル: 赤線、観測点: 赤丸、ノード: 赤四角)と
孔内観測システム(C0002, C0010, C0006: 紫三角)の位置
図中白矢印は沈み込むフィリピン海プレートの向き


●孔内観測システムの設置と海底ケーブルへの接続

 孔内観測システムは、微小な地殻変動、地震動を観測するための体積歪計、傾斜計、地震計、温度計および間隙水圧計等の高精度なセンサー群から構成されます。2018年2月には、これらのセンサー群はIODP第380次航海中に地球深部探査船「ちきゅう」により水深3900mの海底下約500mまで掘削されたC0006観測孔内に設置されました(図2、図3)。C0006はトラフ軸近傍に位置するため、設置に際してはその水深が課題となりました。一部のセンサーについては、コネクタ・耐圧容器等のデザインを見直し、耐圧性能を向上させるなどの改良が必要でした。さらに、「ちきゅう」搭載ROVの動作限界を上回る水深のためROVを用いたセンサーの動作確認が実施できないことから、海水中での音響通信を用いたセンサー動作確認機器を新たに開発し、設置途中および設置後のセンサー健全性確認を行い、2018年3月のDONETケーブルへの接続に向けて設置を完了しました。


図2 C0006孔内観測システム模式図
孔内に設置したセンサーは良好な観測を行うためセメントで孔壁に固定されている
図3 「ちきゅう」船上における孔内センサー編成の組み上げ作業(写真は歪計)


 孔内観測で得られたデータからは、これまでの陸上、海底の観測では得られなかった新しい知見が得られています。既設2点の孔内間隙水圧計のデータ解析からは、プレート境界震源域で何度も繰り返し「ゆっくり滑り」が発生し、これによりプレート沈み込みに伴い蓄積する歪エネルギーの30~ 55% が解放されていることが分かりました(図4、参考文献②)。今回新たにトラフ軸付近の震源断層先端部にリアルタイム地殻変動観測点が追加されることで、この「ゆっくり滑り」の空間的、時間的な広がりがより詳細に観測されるようになり、地震発生と関係の深いプレート固着域における歪エネルギーの蓄積・解放過程の理解が深まることが期待されます。

図4 孔内間隙水圧計で観測された「ゆっくり滑り」の波形。


●おわりに

 海洋研究開発機構では、南海トラフ巨大地震の震源想定域直上に長期孔内観測網を構築し、海底地殻変動の監視を開始しています。2018年2月には、新たに3点目の孔内観測点を設置し、観測網の拡充に向けた取り組みも進めています。孔内観測網で観測されたデータを解析することで「ゆっくり滑り」等の新たな現象も明らかとなってきており、地震発生・準備過程の理解につながる成果がでてきています。一方で、現状の観測は南海トラフ熊野灘に限られており、巨大地震を引き起こす歪エネルギーの空間的、時間的な分布を知るには、さらに多くの観測点を構築し、広域での海底地殻変動の連続観測を行うことが重要です。今後も、さらなる観測網の拡充、および観測システムの精度向上を目指して技術開発を行っていきたいと考えています。


参考文献:
①平成30年2月9日地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価による地震発生確率値の更新について(https://www.static.jishin.go.jp/resource/evaluation/long_term_evaluation/updates/prob2018.pdf
② Araki, E., D. M. Saffer, A. J. Kopf, L. M. Wallace, T. Kimura, Y. Machida, S. Ide, E. Davis, and IODP expedition 365 shipboard scientists, 2017, Recurring and triggered slow-slip events near the trench at the Nankai Trough subduction megathrust, Science, 356, 1157-1160.


木村 俊則(きむら としのり)

木村 俊則(きむら としのり)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 地震津波
海域観測研究開発センター 海底観測技術開発グループ 技術研究員
京都大学大学院工学研究科 博士後期課程修了 博士(工学)
2009年海洋研究開発機構に入所後、孔内観測を含む海底地殻変動観測システムの開発と海底地震観測データの解析に携わる。孔内観測システムの開発では、孔内センサーの開発と評価試験、および開発したセンサーの設置・観測網の構築に従事。

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