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気になる地震、スロースリップ—文部科学省、気象庁、国土地理院、防災科学技術研究所—

1.千葉県東方沖で発生したスロースリップ

 今年の6月に入った頃から、千葉県東部や周辺の沖合でゆっくりすべり(スロースリップ)に起因すると考えられるまとまった地震活動が観測されました(図1)。これらの地震の中には最大震度4の揺れが観測されたものもあることから、スロースリップの状況を逐次把握することは、それに起因する地震発生の可能性を検討する上で重要です。そのため、地震活動や地殻変動を常時観測している機関では、スロースリップの発生、進行状況等について監視しています。

図1 6月の房総半島沖周辺の地震の震源分布(震度1以上が観測された地震)
図1 6月の房総半島沖周辺の地震の震源分布(震度1以上が観測された地震)

2.「地震」と「スロー地震」

 スロースリップはスロー地震と呼ばれる現象の一つです。通常の地震はプレート運動等によって地下の岩盤に蓄積されたひずみエネルギーが断層運動によって解放される現象です。通常の地震では、断層が高速でずれ動くことで、蓄積されたひずみエネルギーの解放に伴って、地震波を放射し、私たちはその揺れに気づきます(図2の②)。一方、スロー地震はプレート境界の断層がゆっくり動く現象で、それ自体は私たちが気づくような揺れを発生させませんが(図2の③)、スロー地震に伴い、わずかな地殻変動や、通常より周期が長いわずかな地震波を放出する低周波地震(または低周波微動)がとらえられることがあります。ただし、千葉県東方沖の場合は、今年の6月頃の事例のように、有感地震を伴うことが知られています。
 スロー地震はそれ自体が直接被害を発生させるものではありませんが、南海トラフ地震など、巨大地震との関連性が指摘されていて、スロー地震が巨大地震の震源域に与える影響等、巨大地震の発生メカニズム解明のための研究対象として注目されています。
 スロースリップと巨大地震との関連を示すものとして、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の例があります。本震の2日前に発生した前震(M7.3)の後にスロースリップが発生し、それが本震の破壊開始点に向かって移動していったことが断層の破壊を促進させた可能性があること等がこれまでの研究でわかっています。

図2 「通常の地震」と「スロースリップ」平成28-32年度 文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業 新学術領域研究「 スロー地震学」(JP16H06472)一般向けリーフレットより

図2 「通常の地震」と「スロースリップ」
平成28-32年度 文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業 新学術領域研究「スロー地震学」(JP16H06472)一般向けリーフレットより

3.どう見つける?スロースリップ

 スロースリップは発生しても大きな揺れを伴わないので、私たちが生活の中でその発生に気づくことはありません。しかし、スロースリップの発生を捉え、その進行状況を監視することは、プレート運動によって生じたひずみエネルギーの蓄積/解放の仕組みや巨大地震発生との関連性の解明などのために重要です。では、どのようにスロースリップの発生を捉えるのでしょうか。ここではスロースリップの発生・進行を監視する観測手法について紹介します。全国で高精度な観測ができる体制が整っていることで気づきにくい変化を捉えることができるのです。

〈地殻変動観測〉
 国土地理院では、全国約1,300箇所に電子基準点(GNSS連続観測点)を設置して、常に地表の動き(地殻変動)を1cmレベルの精度で監視しています(図3)。これまでの観測から、主に日本列島に対する太平洋プレートとフィリピン海プレートの沈み込み運動により、日本の各地点では少しずつほぼ一定の速さ・方向に動きながら、ひずみエネルギーが蓄積されていく様子が捉えられています。もし、スロースリップによってひずみエネルギーの解放が始まると、その周辺では通常とは異なる地殻変動が生じます。これにより、スロースリップの発生を捉えることができます(図4)。
 地殻変動はその場所の傾きとしても現れます。防災科学技術研究所が全国に設置している高感度地震観測網(Hi-net)では、微小地震を観測するだけでなく、地面の傾きを測ることができます。水平に置いた10km棒の片側を1mm持ち上げた程度の傾きまで検出することができるので、スロースリップに伴うわずかな変動の有無を検出することができます(図4、5)。さらに、気象庁や産業技術総合研究所では非常に小さな変化も捉えることができるひずみ計による地殻変動の監視も行っています(図6)。

〈地震観測〉
 2018年6月からの千葉県のスロースリップでは、まとまった地震活動が見られ、震度1以上の地震が20回以上観測されました。一方、中部地方南部や近畿地方南部、四国地方でもしばしばスロースリップが発生しますが、その際には私たちが感じることのない深部低周波地震(微動)が多く観測されます。このように、スロースリップに伴って発生する地震活動は場所によって異なる特徴があることがわかっています。さらに、スロースリップの進行とともにそれに伴う低周波地震活動が東や西に移動していくこともあり、地震観測によってスロースリップ時のこのような地下深部の状況の変化を捉えることができます。

図3 今年6月のスロースリップに伴う地殻変動を捉えた電子基準点「千葉大原」の外観(電子基準点は主に学校や公園に設置されています)

図3 今年6月のスロースリップに伴う地殻変動を捉えた電子基準点「千葉大原」の外観
(電子基準点は主に学校や公園に設置されています)

図4 異常な変動によるスロースリップの検出(イメージ)
図4 異常な変動によるスロースリップの検出(イメージ)


図5 高感度地震観測網(Hi-net)の観測施設
図5 高感度地震観測網(Hi-net)の観測施設


図6 ひずみ計が設置されている施設(A)とひずみ計埋設時の写真(B)(Bの中央がひずみ計で、地中深くに設置されます)

図6 ひずみ計が設置されている施設(A)とひずみ計埋設時の写真(B)
(Bの中央がひずみ計で、地中深くに設置されます)

4.世界中で見られるスロー地震

 図7にあるように、スロー地震は世界中で観測されており、特に珍しい地震現象ではないことがわかってきています。またスロー地震の発生域の近くでは南海トラフや東北地方太平洋沖と同様に巨大地震が過去に発生しているところもあります。そのため、スロー地震は世界的にも注目されている地震現象であり、日本では、従来の「地震学」とは別のテーマで、科学研究費助成事業新学術領域研究「スロー地震学」として、東京大学地震研究所を中心に集中的な研究が行われています。
 私たちの足元で静かに発生するスロースリップ。その発生は何を意味するのか。今後の研究成果が期待されます。

図7 世界中で発生しているスロー地震

図7 世界中で発生しているスロー地震(SSE:スロースリップ、VLF:超低周波地震)
平成28-32年度 文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業 新学術領域研究 「スロー地震学」(JP16H06472)一般向けリーフレットより

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