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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 首都直下プロ1被災者の生活再建支援を効果的に実現する「被災者台帳システム」

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)4月号)

 新潟大学 災害・復興科学研究所では、京都大学 防災研究所等と協働で、文部科学省の「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(研究代表:京大防災研 林春男教授)「東京都における‘被災者台帳を用いた生活再建支援システム’の実証実験」」の枠の中で、被災者台帳システムの開発・実装を実施しています。

 2011(平成23)年3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震が発生しました。東日本大震災は、地震の揺れが引き起こす建物損壊、津波浸水が引き起こす建物流出、液状化被害が引き起こす地盤損壊、そして原発災害が引き起こす環境被害など、被害を発生させる要因の多様さにおいて、これまでに体験した災害とは異なる特徴を持ちます。また、被災地域は複数の県域にまたがり、災害救助法においては、10都県にわたり被災地241市区町村がその適用を受けました。

 わが国において、これらの被災者に対する生活再建支援サービスは、過去の被災経験に基づいて、さまざまに整備されてきました。ところが、これらの支援サービス業務を効果的に実施するための「業務フローの標準化」や「支援ツールの構築」は未だ不十分です。被災地が広域化し、支援対象数が増えることにより業務量は膨大となり、業務フローや支援ツールの構築は必要不可欠です。筆者らの研究開発チームでは、効果的な被災者台帳支援を実現するための支援ツールとして「被災者台帳システム」を構築しました。

 日本の生活再建支援サービスの多くは、被災者が、生活拠点をおく「主たる居宅」に対する「被害程度」を基準として実施されるように制度設計されています。また、サービスの実施主体は、被災者が住民票をおく市町村です。被災者に生活再建支援サービスが行き届く道のりは以下のとおりです。
①建物被害認定調査(Building Inspection) の実施:被災地域における建物に対し国が定めた基準を用
いて、建物被害を認定する
②被害認定調査データベースの構築:建物被害認定調査結果を建物の位置ごとにデータベース化する
③り災証明書の発給:建物被害認定調査結果を被災者に証明書の形で知らせる
④生活再建支援サービスの提供:建物被害程度に基づき、被災者による行政等への申請ベースで支給される支援サービス、行政内部の事務手続きによって実施される減免サービスの2種類のサービスが提供される(図1)。
 「被災者台帳システム」は①~④の業務実施を支援するためのツールとして開発しました。これは、2004年新潟県中越地震の被災地である小千谷市、2007 年新潟県中越沖地震の被災地である柏崎市において、筆者ら産官学民連携支援チームにより、被災行政の業務支援を実施しながら開発を行ってきたものです(図2)。本年度は、①~③について、東京都において被災者台帳システムの平時導入の実証実験を実施、また、④については、東日本大震災の被災地である岩手県においてシステム開発・実装を展開中です。

 「誰が(人・世帯)」「何(家屋)に」「どのような被害」を受けたかを明らかにしたものが「り災証明」です。一般的に日本の地方自治体では、平時業務において「人/世帯(=「誰が」)を管理する住民基本台帳」と「居宅などの建物(=「どの家屋に」)を管理する課税台帳」はほとんど共通の統合キーをもたず、そのままでは統合作業を実施することは困難です。また、災害発生後、建物ベースで実施した「建物被害認定調査結果」を統合する必要があります。筆者らが開発した技術は、空間地理情報を活用して、被害建物枠の中に、それぞれの台帳の位置情報を落とし込み、空間地理上最も適切なもの同士をくるむ「GeoWrap技術」です(図3)。地理的な位置関係から「空間的な近さ」を「関係性の近さ」として読み替えることで、各情報を自動でゆるやかに結合することが可能になり、り災証明書発給データベースを構築することができました(図3)。このデータベースを用い、被災者との対話を通して、必要なデータベースから、確認可能な被災者の情報をもとに被災者のあいまい検索(「この辺り」検索)を実施し、必要な情報を効率的に引き出すことができる発給システムを構築しました(図4)。これによって、り災証明書申請受付・発給プロセスにおいて「被災者の合意」を得ながら、台帳に必要な情報を確定することができるようになりました。豊島区・調布市を実証実験の場として、行政・区民協働による本システムを用いた「り災証明書発給訓練」を実施しています(図5)。

 現在、被災地では「生活再建支援業務の全体像を共有できない」という課題が起きています。具体的には、
①行政各課が「どのように業務を進めているのか」が互いに見えない
②「どの被災者がどこまでの支援を受けているのか」が見えない
③被災地全体で「どこまでサービス支給が進んでいるか」が見えない
というものです。これらを解消するために「被災者生活再建支援システム」を開発・実装しています。今回は、広域に広がる被災地を効果的に支援するために、岩手県庁(盛岡市)のサーバーにシステムをおき、被災市町村は総合行政ネットワーク(LGWAN)を介してWeb ブラウザを用いた台帳の活用が実施できるようになりました。現在は、宮古市を重点プロジェクト地域として、“ぬけもれおち”のない生活再建支援の実現を目指して、活動を継続しています。

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)4月号)

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