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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 南海トラフ巨大地震震源域の地震津波観測システム

 1年前の2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0のわが国最大級の地震でした。この巨大地震による大津波は東北地方沿岸域を中心として、太平洋沿岸域に甚大な被害を与え、東日本大震災と命名されました。近年の大津波災害としては、この東日本大震災のほか、1960年チリ津波、1933年昭和三陸津波ならびに1896年明治三陸津波による津波災害が挙げられます。
 この東北地方太平洋沖地震による大津波被害を受けて、国として津波警報のあり方、高精度化の議論が行われていましたが、今後の大津波対策として重要な点は、沖合で早期に津波を観測して津波警報に活用し、避難をより確実にすることです。つまり、海溝型巨大地震の震源域をリアルタイムでモニタリングするための海底観測網を設置し、地震・津波の早期検知、規模の早期評価を行い、緊急地震速報や津波警報の高度化を図ることこそが、今後の海溝型巨大地震・大津波に対する最重要対策のひとつと考えます。
 再来が危惧されている南海トラフ巨大地震震源域では、すでに東南海地震震源域である紀伊半島沖熊野灘に先進の海底観測網DONET(DenseOcean floor Network system for Earthquakesand Tsunamis)が展開され、現在、南海地震震源域である潮岬から室戸岬沖の紀伊水道沖を中心とした海域にDONET2の整備が開始されています。一方、東日本太平洋沖ではインライン式海底観測網の展開が予定されています(2月号、3月号参照)。

 東南海地震震源域の熊野灘で展開された海底ネットワークDONETは水深約1,900mから4,300mの深海底に20観測点を展開した海底観測システムです(図1)。

DONETは冗長性を確保するため、ループ状に展開した約250km長の基幹ケーブルから分岐した「ノード」と呼ばれる拡張装置と、さらに平均10kmケーブル長の展張ケーブルによって展開された20観測点(強震計、広帯域地震計、水圧計、微差圧計、温度計ならびにハイドロフォンを装備)から構成されています。これらの観測網・観測点により、地震・津波の監視ならびに震源域での地殻活動をモニタリングすることを目的としています(図2)。

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の際でも、すでに設置済みの観測点では、地震および津波を観測しました。津波観測に関しては、三重県尾鷲市や熊野市の沿岸域に津波が到達する約15分前に沖合で津波を検知できることが実証され、海域での観測の重要性があらためて認識されました(図3)。

 また、今回のDONETの津波観測データを用い、沖合から沿岸域に津波が伝播する際の振幅の増幅率が熊野灘沿岸域で約3~4倍と試算することができたことから、今後も沖合の津波観測から沿岸域での津波規模評価の精度の向上が期待されます。
 すでにDONETのデータは気象庁、防災科学技術研究所にリアルタイムで配信されています。近い将来には大学、研究機関へもデータ配信を行う予定です。
 そして、DONETでは地震・津波の早期検知だけでなく、東南海地震発生前に先駆的な地殻活動が発現した場合、多種の高精度な観測センサーにより、精緻な地殻活動をリアルタイムにモニタリングすることが期待できます。今後は蓄積されたデータを用いたデータ同化等により、地震発生予測の精度向上を目指しています。また、現在整備を開始しているDONET2と併せて、東南海地震と南海地震の各震源域の地殻活動を稠 ちゅうみつ密高精度にリアルタイムにモニタリングすることで、東南海、南海地震の連動発生評価が期待されています。さらに、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削坑を用いた長期坑内計測システムをDONETと接続することで、坑内計測のリアルタイムモニタリング計画も進められています。

 DONET2の基本システムはDONETをパワーアップしたものです(図4)。

DONETが3KVで運用するシステムに対し、DONET2では10KVで運用する、DONETをパワーアップしたシステムです。例えば、DONETで展開できる最大の観測点数40点に比べ、DONET2では100観測点、最大基幹ケーブル長はDONETが300km、DONET2では1,000kmです。なお、DONET2で装備する観測センサー群はDONETと同じ構成です。
 図5にDONET2の展開案を示します。DONET2で展開する29観測点を繋つなぐ海底ケーブルの陸揚げ局は、徳島県海陽町と高知県室戸市に置くことを想定しています。今後はDONETの20観測点とともに、新たにDONETに追加する2観測点と併せて、計51観測点を東南海地震震源域と南海地震震源域ならびに境界域に展開し、精緻なリアルタイムモニタリングを可能とします。これら海底観測網の整備によって地震・津波の早期検知の向上が可能となり、特に津波ではおよそ10分程度の猶予時間の増加が期待されます(図6)。

 さらに、1944年東南海地震と1946年の南海地震、ならびに1954年の安政地震のように、東南海地震が南海地震に先行する場合、シミュレーションから期待される地殻変動観測をDONETとDONET2で捉えた場合の例を図7に示します。今後はDONET、DONET2 のデータを用いたデータ同化手法の開発により、予測精度向上研究の推進を図ります。また、今後は足摺岬沖から日向灘に至る海域での海底観測網整備も必要です。

 最後に海底観測網は整備することが目的ではなく、長期間にわたり拡張性を組み込んで安定的に運用し、観測網から得られるデータ・情報を広く配信し、いろいろな分野で活用することで、南海トラフ巨大地震・大津波に対する減災研究、予測研究に貢献することが最終目標です。

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