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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 海底地殻変動観測について



 2011年の東北地方太平洋沖地震のような巨大地震はなぜ起きるのか?この謎を解いたのは50年ほど前に提唱されたプレートテクトニクス理論である。海洋プレートが海溝で沈み込む時に、プレート境界の摩擦により陸側の上盤プレートが引きずり込まれ、そのひずみが限界に達すると、プレート境界に急激なすべりが生じてひずみを解消するという明快な解釈がなされ(図1)、その後の観測で実証された。地震の原因となるこの上盤の地殻のひずみを測ることができるのが地殻変動観測である。
 しかし海洋プレートの運動速度は年間に10cm 以下(爪が伸びる速さ程度)であり、上盤地殻に蓄積されるひずみの変化は極めて小さく、 広域にわたるひずみの分布を測定することは極めて困難な課題であった。この課題をクリアしたのがGPSである。GPS観測により、プレート運動などの地球規模の地殻変動から、陸上の断層付近の局所的な変動まで、毎日の変化を連続的にモニターすることができるようになっている。



 M8クラスの後半からM9クラスという巨大地震はすべて海洋プレートの沈み込みに伴う海溝型地震であり、海溝陸側の海底下で起こる。したがって海底の地殻変動観測が極めて重要である。陸上のGPS観測網のように海底でも地殻変動を観測できれば、震源域でのひずみの蓄積過程、つまり海溝型地震の準備状況を精度よく知ることができる。そうすれば、地震の発生予測に関する研究もかなり進展すると期待できる。
 しかし、GPSの電波が届かない海底の地殻変動観測には、専用の観測手法が必要となる。現在cmオーダーの精度を有する海底地殻変動観測の手法として注目されているのは、海上でのGPS測位と海中の音響測位を結合した海底精密測位の繰り返し(海底GPS)である。この手法は水平変動の観測に適しており、上下変動の観測には海底圧力の連続観測が注目されている。
 国土地理院が運用しているGEONETは、1,300ほどの観測点で日本列島をカバーしている強力なGPS観測網であるが、陸から150km以上離れた海底の地殻変動にはほとんど感度がないと言われている。2011年東北地方太平洋沖地震では、そのような海溝近くで大きなすべりがあったと推定されているが、それを決定づけたのは、図2に示すような海底GPS観測の結果である。しかし、推定されている最大すべりは、これら海底GPS観測点よりはるかに海溝側であり、地震によるすべり域の詳細については議論中である。



 現状の海底GPS観測による測位精度は、条件により1 〜 5cm程度(陸上のGPS観測と比べて1桁低い)であり、また観測網ではなく孤立した観測点である。
陸上では連続観測が標準であるが、海底の地殻変動観測は年に1 回から3 回、1 回あたり半日から1 日のキャンペーン観測である。このようにGEONET等の観測と比べると大きな違いがある。
 そこで、条件によらず1cm程度の測位精度を得ること、多点観測を可能にするために観測時間を短縮すること、セミリアルタイムの連続観測に向けた観測システムを開発することなどを目標に、平成22年度から5か年計画で、文部科学省の委託事業として「海底地殻変動観測技術の高度化」の研究が開始された。要点は、海中の音速構造の推定精度が音響測位の精度を決めるということである。これまでは、音速構造の空間変化も時間変化すると仮定して、半日から1 日観測し、その平均値を求めることにより海中の音速変化の影響を除いてきたが、海中の音速構造の時空間変化そのものを推定して、短時間の観測で測位精度を向上させる試みがなされている。
 3 月11日の東北地方太平洋沖地震の発生により、緊急に取り組むべき新たな課題が明らかになった。震源域周辺では、海溝軸に沿って100km間隔に1点程度の海底GPS観測が行われていた。しかし地震の準備状況を把握するにも、余効変動を観測するにも密度がきわめて不十分であった。また、海溝軸近くのプレート境界は強度が弱く固着していないと考えられていたが、今回の地震時に大きくすべったと推定されており、この場所の固着状態の把握が、今回の巨大地震発生のメカニズムを解明する鍵と言われている。水深5,000mを超える大深度での観測技術を確立し、海溝軸付近での観測を開始するとともに、沈み込む海洋プレート側の運動速度も実測する必要がある。
 このような新たに浮上した課題をクリアするために、宮城県沖を中心とする震源域において、図3に示すような広域多点の海底GPS観測を開始することが計画されている。これにより、上記の課題に対応する観測を進めるとともに、さまざまな観測条件(海況や海底地形)で測位精度向上技術を高度化する試みが可能となるほか、密な観測網の中で個々の観測点での測位精度の信頼度の評価も可能となると期待されている。
一方、自律的な観測が可能な自航式ブイを開発するなど、多点観測に対応する効率的な観測システムの試行も計画している。
    

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