パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. トップが直面する課題と求められるサポート体制

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)4月号)


 大規模な地震や水害等が発生した場合、都道府県知事や市町村長はすぐに防災担当部局や幹部職員に連絡をとり、勤務時間外であれば速やかに登庁して災害対
策本部を設置し、災害対策本部長として避難勧告・指示の発令や応急対応の指揮、自衛隊への応援要請などを行います。また本部員会議を招集して状況に対する認識を全庁で共有し、対応目標を示すとともに、記者会見を通してメッセージを発信することになります。

 被災者の救助や生活支援、地方自治体組織のマネジメント、被災地内外への情報発信など、地方自治体トップの果たす役割は非常に重要です。しかし、実際の災害では多くの課題に直面します。被災した地方自治体
首長のインタビューや手記を分析すると、「電話が使えず、連絡がとれなかった」、「家族が大ケガをしていた」、「庁舎が利用できなかった」、「登庁した職員が少なかった」などの理由により、計画どおりに対応できなかった例が多くみられます(表1)。
 ある首長は、「我々が被災したのは二度目。一度目は今後何が起こるのかわからず、不安が大きかった。
今回の方が被害は大きかったが、二度目であるため次の状況が予測でき、先手を打って落ち着いて対応することが出来た」という趣旨を述べられています。任期中に大規模な災害に何度も遭遇することは少ないため、多くの首長は、初めて災害対応をすることになり、被災地の状況がイメージできないのです。


 被災経験に代わる知識を身につけ、必要な資源管理を行い、災害時の課題に先手を打って対応するためには、平時における適切な研修や演習が重要になります。
人と防災未来センターでは、センター職員が各県に出向き、県内の市町村長を主な対象として、災害対応の経験不足を補い、突発事態に対して適切な状況認識や対応方針の提示を目的とした演習「トップフォーラム」を実施しています。
 このプログラムの特徴のひとつに、自然災害や災害対応に必要な知識・ノウハウを学ぶ講義(インプット)と、災害時を想定し実際に手を動かし方針・目標を作り上げる演習(アウトプット)を組み合わせている点があげられます(表2)。
 講義では、最近の災害の特徴や教訓、過去の災害対応事例から導き出された首長の果たすべき役割や教訓、マスコミを味方に付けた能動的な広報を実施するための心得・方法などが伝えられます。また、阪神・淡路大震災等の記録映像を流すことで、被災経験の無い首長にも、災害時の火災やインフラの被災、救命救急活動、避難所の状況などをイメージしてもらえるよう工夫しています。


 その後のワークショップでは、講義で得られた知識を基に、首長自らが手を動かし方針を考え、伝えるという演習を実践します。例えば、大地震や津波によって孤立集落や避難所環境の問題が発生した状況を付与し、5名前後の班に分かれて意見を出し合って将来の課題を予測し、トップとして全庁的に取り組むべき方針や1週間後の目標像をつくりあげます。そして首長として発信すべきメッセージを、模擬記者会見を通して被災者に伝え、災害対応を模擬体験するのです。平成22 年度は長野県、宮城県、長崎県で演習を実施し、参加者から高い評価を得ることが出来ました。


 災害に備えて平時に首長が行うべきもうひとつの仕事は、いざという時に、自らを支えてくれる参謀やネットワークを整えておくことです。手記等から過去の災害で首長が受けたサポートを分析すると、「地方自治体内部からのサポート」、「外部からのサポート」、「制度・費用面でのサポート」に大別されます()。
 交通や通信が途絶する被災直後には、地方自治体内部からのサポートが基本となります。情報分析、対策立案、組織マネジメントを行う防災監や防災担当部局の体制整備や訓練の実施など、参謀チームの機能・権限の強化が求められます。
 一方、危機には災害、NBC事故、テロなどさまざまな事象が存在しており、それらすべてを地方自治体内部の資源で対応するのは困難です。外部からのサポートとして、国、他の地方自治体、自衛隊、研究者・専門家などから、災害対応のノウハウや過去の経験などについて支援を受けられるネットワークをふだんから作っておくことが求められます。
 自ら下した判断を実現するためには、権限・予算の裏付けが必要です。特別措置法や復興基金など、首長の意思決定や復興施策の実施を裏付けてくれる制度・費用面でのサポートが求められます。2008年の新型インフルエンザのように対応の根拠となる法律・権限が不明確だと、国・他の地方自治体・関係機関との役割分担や情報共有を進めるため、多くの調整作業が発生します。首長がスムーズに判断できるよう、権限や予算措置についても平時に議論し定めておく必要があります。



参考文献
(1)DRI調査研究レポートvol.21『地方自治体の災害対応の要諦』人と防災未来センター,2009.3
(2)「自治体のオールハザード危機管理体制におけるバックアップのあり方」,(財)ひょうご震災記念21 世紀研究機構 安全安心なまちづくり政策研究群,2010.3
(3)「防災分野の人材育成 −人と防災未来センターにおける自治体首長を対象とした災害対応研修『トップフォーラム』−」,地域研究交流Vol.24,No.2(通巻81号),2008.10

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)4月号)

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する