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  3. 活断層の長期評価手法(暫定版)報告書を公表

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)1月号)



 地震調査研究推進本部(以下、地震本部)は、これまで活断層の長期評価手法の見直しに関する検討を行ってきましたが、このほどその基本的な考え方をとりまとめ、平成22年11月25日に公表しました。ここではその概要について解説します。


 地震本部では平成9年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画」を策定し、当面推進すべき施策の一つとして活断層調査を掲げています。現在、その対象(主要活断層帯)は全国で110(平成17年に追加された12断層帯も含む)に及んでいます。これらの主要活断層帯については、研究機関や地方公共団体などがさまざまな調査を実施しています。これまで、地震本部では、さまざまな調査の結果を参照して、主要活断層帯で将来発生が想定される地震の規模やその確率などを統一的に評価してきました。その標準的な評価手法は、「基盤的調査観測対象活断層の評価手法」報告書として具体的事例とともにまとめられ、平成17年8月に公表されています。
 この報告書では、調査・観測技術の進歩やデータの増加、研究の進展、あるいは社会的要請に応える形で今後も継続して評価手法の見直しや新たな評価手法の導入を図る必要があるとされています。このため、地震本部では、平成17 年1月に新たな活断層の評価手法を検討するための分科会(活断層評価手法等検討分科会)を設置し、評価手法を改良し、評価の精度・信頼度を向上させるための検討を進めてきました。
 今回公表された「活断層の長期評価手法(暫定版)」報告書は、これまでの検討に基づきとりまとめられた新たな評価の基本的な考え方と新たな評価手法に基づいた評価の形式を示したものです。


 新たな評価手法では、これまでの長期評価において指摘されたさまざまな課題を解決するため、現行の評価手法から多くの変更が行われています。ここでは、新たな評価手法の主なポイントについて説明します。

1)評価対象とする活断層の見直し
 新たな評価手法では、評価対象とする活断層を見直し、M6.8以上の地震が発生する可能性のある断層を詳細な評価の対象にします。
 現行の長期評価では、地表の長さ20km(M7.0に相当)以上などといった基準を満たす活断層を主要活断層帯として選定し、調査や評価を実施しています。
しかし、平成16年(2004年)に発生した新潟県中越地震(M6.8)、2008年に発生した岩手・宮城内陸地震(M7.2) のように、主要活断層以外の活断層でも大きな被害をもたらす地震が発生しています。
 このため、新たな評価手法では、既存の資料等に示されているすべての活断層について、長さや活動度に関係なく検討の対象に含めることにしました。検討の結果、地下の断層の長さが基準を超えると考えられる活断層については、現行の主要活断層帯と同等の詳細な評価を実施します(図1)。また、それ以外の「詳細な評価の対象としない断層」については、地表における概略の位置・形状を活断層の分布図に記すことにしました。これにより、活断層で発生する地震の危険性をより適切に評価できると考えられます。

2)地域評価の導入
 新たな評価手法では、従来の起震断層(同時に活動すると考えられる一連の活断層)ごとの評価に加え、ある地域に分布する複数の断層の活動を考慮した「地域評価」を実施することにしました(図2)。
 現行の評価手法では、主要活断層帯ごとに評価を実施し、その結果を公表しています。しかし、ある地域の危険度を理解するためには、その中もしくは周辺に分布する複数の活断層の特性などについても総合的に理解し、評価する必要があります。
 このため、新たな評価手法では、日本全国を10数個の「評価地域」に区分し、「評価地域」ごとに活断層で発生する地震を総合的に評価することにしました。具体的には、地殻変動、地震活動、地質構造、活断層の分布などの情報を基に、「評価地域」内に分布する活断層が形成された経緯や現在の地質・地形の分布と断層活動との関係について検討を行った上で、「評価地域」における活断層の分布状況や一定規模以上の地震が発生する確率、想定される地震の最大規模などを評価することとしました。地域評価を実施することにより、地域内の活断層の分布や、各起震断層の特性(断層の長さ、過去の活動履歴、将来の活動可能性)を俯ふ 瞰かんすることが可能となり、国民の防災意識の向上や効果的な地震防災対策の促進に一層役立つことが期待されます。

3)地表の長さが短い活断層について、地下の断層の位置・形状を総合的に評価(「短い活断層」の評価)
 新たな評価手法では、地表に短い活断層のみが分布する際に地下の震源断層の位置・形状を検討し評価することにしました。
 現行の評価手法では、地震を発生させる地下の断層の長さは地表で確認できる断層の長さと等しいと評価しています(図3)。しかし、これまでに発生した地震において、余震分布や地殻変動などから推定される地下の断層の長さが、地表で確認される断層(地表地震断層・活断層)の長さと異なる事例が知られています。
 このため、新たな評価手法では、地表に活断層がある場合、地震発生層(地殻の中で地震を発生させる領域)全体を破壊する地震が起こる可能性を考え、地質構造や重力異常分布など地球物理学的な情報も活用して地下深部の構造を総合的に検討し、地下の断層の長さおよびその確からしさを評価することとしました(図4)。検討の結果、最近の地質時代に一体となって活動していると考えられる地下の断層の長さが地表の活断層の長さよりも長い可能性が高い場合は、地下の断層の長さを用いて地震規模などを評価することとしました。

  
   


 現在、長期評価部会およびその下に設置された活断層分科会で本報告書に基づく評価を開始したところです。最初の「評価地域」は、九州地方を対象としており、今年の夏ごろまでの公表を予定しています。
 その後、全国の10数個の「評価地域」について順次評価を実施し、4, 5年程度で1巡目の「地域評価」を完了する予定です。1巡目の「地域評価」では、主として「短い活断層」などに関する検討・評価を行う予定です。すでに評価が実施されている主要活断層帯に含まれる起震断層については、評価改訂に係る時間と労力等を考え、1巡目の「地域評価」では、原則として現行の評価をそのまま踏襲することとします。これらの起震断層については、2巡目の「地域評価」で見直しを行うことを考えています。2巡目の評価では、主として長大な起震断層について、詳細な位置・形状情報に基づいた同時に活動すると考えられる最小単位の見直しや、起震断層全体だけでなくその一部分が活動して発生する地震の規模・確率などに関する評価の見直しを行う予定です。
 また、「活断層の長期評価手法(暫定版)」には、新たな評価手法に従って評価した事例が添付されていません。このため、短い活断層の長さ等に関する評価の信頼度の基準など、具体的な評価の事例について検討した上で最終的な報告書としてとりまとめることにしています。

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)1月号)

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