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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 東南海・南海地震等海溝型地震に関する調査研究4

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)4月号)



 地震計とは地震波による揺れを計るための機械ですが、対象とする地震波によって、おおまかに、強震計、高感度地震計、広帯域地震計の三つに分類されます。
 強震計は、被害をもたらすような強い揺れを計るために使われるもので、テレビの速報でおなじみの震度は、強震計の一種である震度計で観測されたものです。高感度地震計は、微小な地震による体に感じない程のかすかな揺れを計るために使われます。三つ目の広帯域地震計はゆっくりとした揺れを計るために使われる特殊な地震計です。
 「東南海・南海地震等海溝型地震の調査研究プロジェクト」のサブテーマ「広帯域高ダイナミックレンジ孔井式地震計の開発」では、巨大な海溝型地震にともなって発生すると考えられる周期の長い地震波を高精度で観測することのできる、新しい広帯域地震計を開発しました。

 広帯域地震計は周期の長い地震波を観測するために使われる特殊な地震計です。広帯域地震計は、地震計の中でも特に製造が難しいものとされています。これは、地震波の周期が長くなると揺れが微弱になり、その検出が難しくなるためです。さらに、周期の短い地震波を観測する場合とは異なり、気温や気圧の変化が観測に影響を及ぼします。広帯域地震計はこのような環境変化があっても正確に地震波を観測するよう精密に作られる必要があります。
図1は広帯域地震計の仕組みを表したものです。ほとんどの広帯域地震計は、振子部分と電子回路を組み合わせた「フィードバック型」とよばれる方式をとっています。
 フィードバック型地震計では、振子(A)が揺れによって動くと、その動きが検出器(B)によって電気信号に変換されます。この電気信号はフィードバック回路(C)とよばれる電子回路によって処理され、フィードバックコイル(D)に電流を流します。フィードバックコイルに電流が流れると、振子の動きを止める力が発生します。
この一連の仕組みによって、揺れ(X)が出力信号(Y)に変換されます。フィードバック型地震計では、フィードバック回路(C)で信号を処理することで、微弱な長周期の揺れを観測することが可能となります(観測の広帯域化)。また、フィードバックコイル(D)が振子の動きを止める力を発生することで地震計の振り切れを防止し、ある程度大きな揺れまでを計ることが可能になります(観測の高ダイナミックレンジ化)。このように、フィードバック型地震計は振子部分と電子回路からなっているため、それぞれを工夫することで目的にあった地震計を作ることができます。たとえば、強震計に用いられる加速度計はフィードバック型地震計の一種ですが、振子部分がごく小さくなっています。これは、振子部分が重いと振り切れを防ぐための十分な力を発生することができず、強い揺れを計ることができないからです。一方、広帯域地震計のように微弱な揺れを計るためには、空気の動きなどによる雑音の影響を受けないように振子部分を大きくする必要があります。全ての性能を満足する地震計は実現できないことは明らかにされていますので、目的にあった地震計を作るためには性能間のバランスをとることが重要となります。


 地震の規模が大きくなると、観測される地震波の周期は長くなることが知られています。また、海溝型巨大地震の発生に関連して、前兆すべりやゆっくり地震等が起きる可能性が指摘されています。これらの現象の実体はまだよくわかっていませんので、その正体を解明するためには、数秒周期の地震波から数年周期の地殻変動現象までを逃さずカバーする新しい広帯域地震計が必要となります。この地震計の開発が今回の目的です。
 広い周期帯域をカバーする観測機器としては傾斜計が知られています。図2は傾斜計と地震計の原理を示したものですが、両者は同じ原理からなっていることがわかります。実際に、防災科学技術研究所では、図1の広帯域地震計と同じ仕組みを持つ傾斜計を多数使用しています。この傾斜計は観測用の井戸の底に設置できる孔井式の機器で、特に高精度の観測に適したものです。しかし、電子回路は高倍率の傾斜観測専用のもので、地震による振動で振り切れやすいという問題がありました。そこで、この傾斜計を基に電子回路を改良して、新しい広帯域地震計を開発しました。写真1は、試験観測中の新しい広帯域地震計です。実際の観測では、写真にある筒状の地震計本体が、耐圧容器に収められ、地中100m〜数1,000mの観測用の井戸の底に設置されます。このような地中深い場所では、広帯域地震計の大敵である気温や気圧による影響が軽減され高精度の観測にとって有利です。図3は茨城県つくば市で行った試験観測中に観測された平成19年中越沖地震の記録です。
上段が新しい広帯域地震計による記録で、下段は高性能広帯域地震計の代表であるSTS-1型地震計(スイス・ストレッカイゼン社製)によるものです。二つの記録は一致しており、新しい地震計の動作に問題がないことを示しています。なお、STS-1型地震計は、大型のため地中に設置することはできません。
  



 広帯域地震計は、地震がほとんど発生しない欧州で発展してきました。これには、広帯域地震計の開発目的が、地球の裏側にあたるような遠い場所で起きた地震を高精度に観測することにあったことが関係しているようです。
今回開発した地震計は、広帯域地震計として使えるだけでなく、震源域近くで発生する傾斜変動も観測することができます。さらに、これまでの広帯域地震計よりも振り切れにくいよう設計されていて、地震活動が活発な日本での観測に適した地震計といえます。今回開発した地震計の地上での試験結果は満足の行くものでしたが、地中への設置は高精度観測を行う上で大切なポイントとなります。実際の観測井戸に設置しての総合的な試験も早期にクリアするよう、今後も開発を進めて行きたいと考えています。

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)4月号)

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