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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 宮城県沖地震における重点的調査観測

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)2月号)



 宮城県の沖合では海溝型の大地震が繰り返し発生しています(表1)。前回の1978年宮城県沖地震(M7.4)の発生から31年が経過し、これまでの地震発生の平均繰り返し間隔が約40年なので、次の宮城県沖地震はいつ起こっても不思議でない状態にあるといえます。地震調査研究推進本部によれば、今後30年以内に地震が発生する確率は99%以上で、各方面で地震への備えが急がれています。次の地震がいつ発生し、どのような大きさになるのか、どんな揺れになるのか、今よりもっと詳しく予想することができれば、こうした備えをより確かなものにすることに役立つでしょう。東北大学理学研究科・東京大学地震研究所・産業技術総合研究所は、こうした問いに答えるべく、文部科学省の委託を受け「宮城県沖地震における重点的調査観測」を2005年から行っています。


 宮城県沖の日本海溝では、太平洋プレートが日本列島を載せた北米プレートの下に沈み込んでいます。これらのプレート間の境界面の上には所々に引っかかり(アスペリティ)があり、アスペリティでは普段は海陸のプレートが固着した状態にあります。
プレート運動に抗して固着を続けることにより歪みが蓄積し、それが限界に達すると、固着が引きはがされてすべり、地震が発生します。アスペリティは、地震の発生後、再び固着状態を取り戻し、そしていずれまた次の地震を発生させます。宮城県沖では、M7.5程度の地震に相当するアスペリティがあり、それが約40年の間隔で固着とすべりを繰り返していると考えられてきました(図1a)。 


 2005年8月16日に宮城県沖でM7.2の地震が発生しました。震源は1978年の宮城県沖地震に近いのですが、予測されていた次の「宮城県沖地震」と比べると規模が小さいものでした。この重点的調査観測で得られた海底地震観測データの解析により、この地震の震源は間違いなくプレート境界面に震源があることが確かめられましたが(図2 a)、1978年の地震と2005年の地震のアスペリティの位置と大きさを比較したところ、2005年の地震時にすべったアスペリティは1978年の地震時にすべったアスペリティの範囲内に完全に収まってしまうことがわかったのです(図2 b)。このことから、「宮城県沖地震」のアスペリティは1つではなく、3つ程度の一回り小さいアスペリティの集合体であると、私たちは考えました(図1 b)。1978年の地震では全てのアスペリティが同時にすべり、2005年では南側のかなりの部分がすべる一方で、北側の一番大きなアスペリティはほとんどすべることなく残ったのです。そうすると、2005年の地震は「宮城県沖地震」の部分的な再来と言っても良いかもしれませんが、まだ動いていないアスペリティが残っているということになります。
 1978年のもう一つ前の宮城県地震は1936年に発生していますが(表1)、その前後の1933年と1937年にもM 7級の地震が宮城県沖で起こっており、これらの地震も宮城県沖にある複数のアスペリティが別々に活動した結果である可能性が高いことがわかりました。
注意したいのは、1930年代には比較的短い時間間隔で小さなアスペリティの活動が続発したということです。ひょっとすると、2005年の地震とそれほど時間をあけずに、残された北側のアスペリティが活動するかもしれません。




 宮城県沖地震の発生履歴のなかで、1793年の地震だけがM8.2程度と飛び抜けて大きくなっています(表1)。
この地震は、大きな津波を伴ったことから、通常の「宮城県沖地震」のアスペリティが、さらに日本海溝よりにある別のアスペリティと、同時に(連動して)動くことにより生じた巨大地震だったと考えられています。このような巨大地震の発生は、「宮城県沖地震」の繰り返しの歴史の中でも希であり、その実体はよくわかっていません。
 こうした巨大地震の発生履歴を明らかにするために、津波堆積物の調査を進めています。大きな津波が襲来すると、海岸線付近に堆積する砂が津波によって陸上にまで運ばれ、そこで堆積します(津波堆積物)。津波堆積物の分布を地質調査によって調べれば、過去の大津波がどこまで及んだのかがわかります。また、その砂の層が堆積した年代を決定することにより、その大津波の発生年代がわかります。
 調査の結果、869年(貞観11年)に発生した巨大地震に伴う津波による堆積物の分布が明らかとなりました(図3 a、b)。さらに、数値シミュレーションを行い、地質調査の結果を説明できる震源モデルを推定した結果が図3c d です。貞観地震の震源モデルが明らかとなっただけでなく、同様の巨大地震が何度も宮城県沖において発生したらしいことも明らかとなりつつあります。


 大地震による強い揺れ(強震動)の予測は、地震被害の想定・対策の基礎です。その精度向上のためには、①震源での地震波の生じ方、②震源からの地震波の伝わり方、③地盤の地震波による応答、の三要素すべてが高精度でわかっていることが必要です。宮城県沖地震はアスペリティの繰り返し破壊ですから、過去の宮城県沖地震のデータから震源での地震波生成過程を解明し、それとともに地下構造モデルの高度化することにより、強震動予測の高精度化を進めています。


 こうした調査により、次に発生する「宮城県沖地震」の規模と発生時期に関する予測の高精度化が実現しようとしています。さらに、過去の連動型地震の発生履歴の解明や強震動予測の精度の向上は、津波や地震への備えの指針を我々に与えてくれるものといえるでしょう。

  

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)2月号)

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