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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 糸魚川-静岡構造線断層帯における重点的調査観測

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)11月号)




 糸魚川−静岡構造線は、中部日本を南北に切る全長約250km の構造線です(図1)。この断層に沿って多くの活断層が発達しています(これを糸魚川−静岡構造線断層帯と呼ぶことにします)。これまで、この断層帯の北部は、東側隆起の逆断層、中部では左横ずれ断層、南部では西側隆起の逆断層と考えられてきました。この断層帯の成因についてはまた多くの不明な点が残されています。断層帯北部では、今から2,500−1,500万年前に起こった日本海の生成に伴って正断層が形成されました。その後、この地域の応力は圧縮型に変わり、当初は正断層であった断層が、東側が隆起する逆断層として活動していると考えられています。この逆断層群は、北部フォッサマグナの西縁に沿って発達しています。一方、糸魚川−静岡構造線の中部及び南部の成因についてはまだよくわかっていません。南に行くに従って、中新世から続いている伊豆弧の本州への衝突の影響を大きく受け、より複雑な形成過程を経ていると考えられます。
 糸魚川−静岡構造線断層帯の北部と中部では、その変形速度が年間10mmを超えるといった報告も出されており、日本の中で最も活動度の高い活断層の一つとされています。平成8年に地震調査研究推進本部から出された長期評価によれば、この断層帯の北部・中部
域には今後数百年以内にマグニチュード8程度の規模の地震が発生する確率が高いとされています。さらに地震調査研究推進本部は平成17年8月に「今後の重点的調査観測について(—活断層で発生する地震及び海溝型地震を対象とした重点的調査観測、活断層の今
後の基盤的調査観測の進め方—)」を策定し、長期評価等の結果、強い揺れに見舞われる可能性が相対的に高い地域において、特定の地震を対象とした重点的な調査観測体制のあり方を示しました。これに対応して、平成17年度から5ヶ年計画で糸魚川−静岡構造線断層帯における重点的調査観測が始まりました。尚、この調査に先立って、平成14年から、パイロット的な重点的観測が行われ、この断層帯の予備的調査が行われています。この予備調査の成果も踏まえ、本調査観測では、北部から南部に至る本断層帯の深部形状の全体像の解明や断層帯周辺の物性の不均質構造、地震・地殻変動観測による地殻活動の実態の解明とともに、変動地形や活断層履歴の調査から過去の地震活動の特徴や地震時の変位量を明らかにし、この断層帯についてのより高精度な強震動予測モデルをつくることを目的としています。


 この断層帯で将来発生する地震による揺れを精度よく予測するには、深部までの断層の形状を知らなくてはなりません。このためには、地球物理学的調査(反射法地震探査、地震波トモグラフィ、電磁気的調査)が有効な方法です。反射法探査は、パイロット的調査を含めて、この断層帯の多くの場所で実施されました(図1)。これらの調査によれば、断層帯北部では緩やかな角度(10−30度)で東に傾く面が
明らかにされました。一方、断層帯南部では、逆に西傾斜の断層面が明瞭な形で捉えられています。その角度は、15−30°程度です。特に、平成17年度に実施した下円井−市ノ瀬断層を横断する反射法地震探査では、年間7.5−10mm という大きい変位速度が推定され、この断層帯がこの部分まで顕著な活動をしていることがわかりました。
この成果は、断層帯南部で発生する地震の規模推定に重要です。この地域の地震波トモグラフィ解析では、更に深部に西傾斜の面がイメージングされており、同断層帯のより深部の構造や断層帯の西側の地形形成を考える上で重要な知見となりました。
 断層帯中部(諏訪湖周辺)の調査は、平成18年及び19年の2ヶ年に渡って実施されました。平成18年度の調査は、断層帯浅部の構造を明らかにするために実施されたものです。諏訪湖の西岸では東傾斜の断層運動が推定されました。これは、断層帯北部の形状と調和的です。また、諏訪湖東岸の調査では、断層帯南部と同様の西傾斜の面の存在が推定されています。つまり、少なくとも諏訪湖の北部付近では、断層帯の北部と南部の特徴の両方が共存しているのです。平成19年には、諏訪湖中部を横断する大規模な調査が実施されました。この調査では、陸域部の調査の他に諏訪湖にも測器を設置し、湖面上でも発振を行いました。その結果を図2に示しました。この結果は西に高角度(60−70°)で傾斜する断層が卓越していることが明瞭となりました。即ち、糸魚川−静岡構造線断層帯は、諏訪湖の北部付近を境として、その構造が大きく変化していることが明らかとなったのです。




 この断層帯で発生する揺れを予測するためには、第2節で述べたような断層の形の予測とともに、地震時の断層面上のすべりの量を把握しなければなりません。この目的のために、本調査観測では、変動地形調査が精力的に実施されています。この調査では、航空写真測量とLiDAR(レーザレーダー)計測によって地表の詳細な高精度DEM(数値標高モデル)を作成し、変位地形
に現れた断層運動による累積的な変位量を高密度で計測して、地形学的手法により平均変位速度(slip rate)分布を求めようとするものです。これにより地震時の変位量が求められつつあります。この断層帯で発生する地震の揺れの予測は、特に人口密集地域の災害予測や対策に重要です。そのためには、発生する地震の断層の情報とともに、市街地の地下の構造を知らなくてはなりません。本調査観測では、松本・諏訪盆地及び長野盆地で強震動観測や地下構造調査を実施しています。
 本調査観測によって、糸魚川−静岡構造線の様々な特徴が明らかとなってきました。それに伴い、この断層帯のように日本列島内に発達する断層帯の複雑性も明らかとなって来ました。例えば、中部域の北部の牛寺伏(ごふくじ)断層域では、構造調査では東傾斜の運動が推定されるのに対し、GPS データや微小地震のメカニズム、変動地形観測は、垂直横ずれ断層の存在を支持するのです。このような事実は、GPS や地震活動で取られている今現在の変動現象と構造調査から推定される地質学的時間での変動の累積メカニズムに大きな違いがあるのかもしれません。また、断層周辺や地殻内における、我々がまだ想定していない変形のメカニズムを反映している可能性があります。
 本調査観測では、平成20年度より、これまでの成果を集積してこの断層帯で発生する断層のモデルの構築とともに揺れの予測の計算に着手しています。最終年度にあたる本年度は、このような予測をより精緻にしていく予定です。
 
 

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)11月号)

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