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地震調査研究の最先端琉球海溝で起こる巨大地震津波の謎を探る

 私が研究対象としている琉球海溝(南西諸島海溝)は地震学的に見て非常に不思議な地域です。歴史的に巨大地震が繰り返し発生してきた南海トラフ地域と比べ、琉球海溝では巨大地震の記録が少ないのです。それにもかかわらず、琉球海溝の南西部にある先島諸島では巨大津波によって甚大な被害を受けています。1771年八重山地震津波がそれに該当します。この地震のマグニチュードは7.4とされているものの、石垣島から宮古島付近まで遡上高20m近い津波が襲い、石垣島の南東部では遡上高約30mに達しました。津波による死者は1万2千人に及んでいます。この津波の原因はまだ定かではありませんが、琉球海溝の海溝軸付近で発生したプレート間地震の可能性が高いと考えています。というのも、巨大津波は数百年間隔で繰り返し発生しているからです。繰り返し間隔は津波石(津波によってサンゴ礁の一部が剥がれて移動した岩塊)の打ち上がり時期から150年から400年という値が出されています。また石垣島で行われたトレンチ調査で検出された津波堆積物の堆積時期からは、約600年に1回の頻度で1771年八重山津波と同レベルの巨大津波が襲来していることが判明しています。繰り返し襲来する巨大津波を説明するには断層運動が最も都合が良いと考えています。
 では、なぜ琉球海溝では約百年に1回の頻度で発生する巨大地震が少ないのにも関わらず、数百年に一度、巨大津波を生み出す巨大地震が発生しているのでしょうか?これが最大の謎であり、その答えはまだ解明されていません。しかしそれを解く鍵は琉球海溝で活発に発生する超低周波地震やスロースリップイベントにあると考えています。超低周波地震は周期20秒から50秒の地震波に卓越した地震です。マグニチュードは4程度ですが、通常の地震と比べて非常にゆっくりとした揺れに卓越するため、体でその揺れを感じることはできません。しかし広帯域地震計では超低周波地震が琉球海溝に沿って長期的に発生している様子が記録されています。琉球海溝での超低周波地震は、日向灘より南側では奄美大島付近・沖縄本島付近・八重山諸島付近で特に多く発生していることが明らかになってきました。さらに琉球海溝南西部では巨大津波波源域付近やプレート間カップリングが強い場所で超低周波地震の活動が弱い傾向があり、プレート間カップリングと超低周波地震活動域が互いに住み分けている様子がわかってきています。
 琉球海溝で巨大地震津波が発生するメカニズムを解明する研究は次第に進展してゆくでしょうが、同時に、このような琉球海溝の特異な地震活動を考慮して津波防災対策をとらなければなりません。南西諸島では数十年から百数十年程度の間に1回程度の頻度で発生する津波(レベル1津波)と発生頻度は低いものの最大規模の津波(レベル2津波)の差が極めて大きい特徴があります。とくに先島諸島ではこれが顕著です。レベル1津波に対しては防潮堤などハード対策、レベル2津波に対しては避難を主とするソフト対策を実施してゆきますが、レベル1津波があまり大きくないためにハード対策の実施は極めて困難です。ソフト対策を重点的に行い、いかにして有効な教育活動・避難対策を行えるかが今後の課題です。

中村 衛 中村 衛(なかむら・まもる)
琉球大学 理学部 物質地球科学科 教授
1997年京都大学大学院理学研究科博士後期課程地球惑星科学専攻修了。博士(理学)。
琉球大学理学部物質地球科学科助教・同准教授を経て2015年5月より現職。
琉球大学島嶼防災研究センター教授兼務。
沖縄から台湾にかけての地震活動、地殻変動、巨大津波の研究を行っている。

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