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  1. 地震に関する評価
  2. 長期評価
  3. 三方・花折断層帯の長期評価について

平成15年3月12日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


三方・花折断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について -地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、32断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、三方・花折断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、従来より評価結果の一部について相対的な信頼度を付与してきたところであるが、地震発生確率等については示していなかったことから、今回、別添に示す手法で、地震発生確率等についても信頼度を付与することとした。


平成15年3月12日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

三方・花折断層帯の評価

三方・花折(みかた・はなおれ)断層帯は、若狭湾から京都盆地南東部に至る活断層帯である。ここでは、平成8-12年度の地質調査所(現:産業技術総合研究所)による調査や平成9、10年度の京都市による調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の特性を次のように評価した。

なお、本評価の範囲には、地震調査研究推進本部(1997)による京都盆地-奈良盆地断層帯の北部も含むものとする。

1.三方・花折断層帯の位置及び形状

三方・花折断層帯は、三方断層帯と花折断層帯の2つに区分される。

三方断層帯は、福井県三方(みかた)郡美浜(みはま)町沖合いの若狭湾から遠敷(おにゅう)郡上中(かみなか)町に至る断層帯である。全体として長さは約26kmで、ほぼ南北方向に延びており、断層の東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層である(図1-1、2-1,表1)。

花折断層帯は、滋賀県高島郡今津(いまづ)町から京都市を経て京都府宇治市に至る断層帯であり、京都盆地-奈良盆地断層帯北部を含む。全体として長さは約58kmで、北北東-南南西方向に延びているが、断層のずれの種類及び過去の活動時期から、断層帯北端の今津町から花折峠付近までの北部、花折峠付近から京都市左京区南部までの中部、及び京都市左京区南部から断層帯南端の宇治市に至る南部の3つの区間に細分される。北部と中部は右横ずれを主体とする横ずれ断層であり、南部は断層の東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層である(図1-1、2-1、2-2及び表3)。

2.断層帯の過去の活動

(1)三方断層帯

三方断層帯の最新活動は1662年(寛文2年)の地震と推定される。その際に三方湖付近では断層の東側が相対的に隆起するずれや撓(たわ)みが生じ、その量は断層両側の幅の広い範囲にわたって合計で3-5m程度に達した可能性がある。なお、この地震では、花折断層帯の北部も同時に活動した可能性がある。三方断層帯の過去十数万年間の平均的な上下方向のずれの速度は約0.8m/千年で、その平均活動間隔は約3千8百-6千3百年であった可能性がある(表1)。

(2)花折断層帯

花折断層帯は、過去の活動履歴などから、北部、中部、南部の3つに区分される。

花折断層帯北部の最新活動は15-17世紀と推定される。1662年(寛文2年)の地震で三方断層帯とともに活動した可能性がある。しかし、その平均活動間隔は不明である(表3)。

花折断層帯中部の最新活動時期は約2千8百年前以後、6世紀(約1千4百年前)以前であったと推定される。本区間の平均活動間隔は約4千2百-6千5百年であった可能性がある(表3)。

花折断層帯南部では過去の活動時期に関する資料は得られていない。しかし、断層は中部区間とほぼ連続することから、最新活動時期、平均活動間隔ともに中部と同じであった可能性がある(表3)。

3.断層帯の将来の活動

(1)三方断層帯

三方断層帯では、断層帯全体が一つの区間として活動し、マグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定される。また、その際に幅の広い範囲にわたって断層の東側が相対的に隆起する段差や撓みが生じ、その隆起・沈降量の合計は、3-5m程度に達する可能性がある。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。

(2)花折断層帯

花折断層帯は、最新活動と同様に少なくとも2つの区間に分かれて活動すると推定されるが、それ以上の区間に分かれる可能性もある。北部と、中部・南部を合わせた区間(以下、中南部とする)の2つに分かれて活動する場合、北部ではマグニチュード7.2程度の地震が発生し、その際には2-5m程度の横ずれが生じると推定される。中南部ではマグニチュード7.3程度の地震が発生し、中部では2-5m程度の横ずれが生じると推定されるが、南部のずれの量は不明である。

また、中部と南部が別々に活動する場合は、それぞれマグニチュード7.0、マグニチュード6.8程度の地震が発生すると推定される。

中南部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表4に示すとおりである。北部は平均活動間隔が不明なため、将来の地震発生確率を求めることはできない(注1)。中部と南部が別々に活動する場合の中部の経過率及び将来の地震発生確率は、中部が南部と同時に活動する場合と同じである。一方、南部が単独で活動する場合の経過率及び地震発生確率は不明である。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、花折断層帯中南部は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる(注2、3)

4 今後に向けて

三方断層帯では信頼度の高い平均活動間隔が得られていないため、過去の活動時期、平均変位速度及び1回の活動に伴う変位量をさらに精度よく求める必要がある。

花折断層帯の中部と南部は別々に活動する可能性もあるが、南部については過去の活動に関する資料はほとんど得られていない。このため、南部の過去の活動に関する資料を得る必要がある。また、北部は平均活動間隔が不明であり、中部で得られた平均活動間隔も信頼度が高いとはいえない。したがって、それぞれの区間において過去の活動に関するより一層の資料を得る必要がある。また、北部と中部の境界位置についても明らかにする必要がある。

花折断層帯の東側には琵琶湖西岸断層帯が分布しており、特に南部では数kmの間隔で近接する。花折断層帯の一部と琵琶湖西岸断層帯との活動に関連がある可能性もあり、両断層帯の地下の断層面の形状等を明らかにする必要がある。

表1 三方断層帯の特性


表2 三方断層帯の将来の地震発生確率等


表3 花折断層帯の特性



表4 花折断層帯(中南部)の将来の地震発生確率等

注1: 花折断層帯北部の将来の地震発生確率は不明であるが、最新活動後、評価時点までの経過時間は3百年余りで、通常の活断層の平均活動間隔と比べると経過時間は短いと考えられることから、近い将来の地震発生の可能性は低いと考えられる。
注2: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上-3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上-3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注3: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率及び集積確率(このうち、1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

    

「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は10%程度、5千年の場合は5%程度である。
注4: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
 ◎:高い、○:中程度、△:低い
注5: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001a)
文献2:海上保安庁(1980)
文献3:活断層研究会(1991)
文献4:小泉ほか(2002)
文献5:小松原ほか(1999)
文献6:小松原ほか(2000)
文献7:京都市(1999b)
文献8:水野ほか(1999)
文献9:岡田(1984)
文献10:岡田・東郷編(2000)
文献11:吉岡ほか(1998)
文献12:吉岡ほか(2001)
注6: 評価時点はすべて2003年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注7: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
   a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼度が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注8: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、三方断層帯の場合、0.05は300年を6300年で割った値であり、0.08は300年を3800年で割った値。
注9: 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。
注10: 文献8によれば、黄檗(おうばく)断層群は小野-醍醐(おの-だいご)断層、御蔵山(おぐらやま)断層、南山断層、菟道(とどう)断層からなる。
注11: 中部と南部の境界付近は断層が雁行しているため、各区間の長さの和は全体の長さより大きくなる。



(説明)

1.三方・花折(みかた・はなおれ)断層帯に関するこれまでの主な調査研究

本断層帯に関する主な調査研究として以下のものがある。

岡田(1984)は、三方五湖低地の形成過程と地殻変動について考察し、三方断層と熊川断層について記述するとともに、寛文地震時の地殻変動について指摘した。水野ほか(1999)は、三方五湖で音波探査やボーリング調査を実施し、三方断層付近の地下構造を明らかにした。小松原ほか(1999)は、トレンチ調査などにより三方断層の過去の活動、特に寛文地震との関係を考察した。さらに小松原ほか(2000)は、三方断層の北方延長部を含む若狭湾中部と三方五湖で音波探査を行い、三方断層の海域延長部の状況を明らかにした。

吉岡(1986)は、花折断層の変位地形を記載し、その全域にわたって右横ずれ変位が見られることを明らかにした。東郷ほか(1997)は、花折断層北部でトレンチ調査を行い、最新活動時期について言及した。吉岡ほか(1997,1998)は、花折断層において物理探査及びボーリング調査、トレンチ調査を行い、その活動履歴を明らかにした。京都市(1998a,b)は桃山断層において、また、京都市(1999a,b)は山科盆地において、それぞれ反射法弾性波探査及び地形地質調査を行った。

本断層帯付近の活断層の位置は、活断層研究会(1991)、岡田ほか(1996a,b)、岡田・東郷編(2000)、吉岡ほか(2000)、池田ほか(2002)などに示されている。

2.三方・花折断層帯の評価結果

三方・花折断層帯は、福井県三方郡美浜町北方の若狭湾から、京都府宇治市に至る断層帯である。本断層帯は、断層の分布位置などから松田(1990)の定義によれば、三方断層帯と花折断層帯の二つの起震断層に区分される。

両断層帯の間には熊川断層が分布する(図3)。熊川断層は、三方、花折両断層帯とほぼ直交しており、これらとは別の起震断層と考えられる。熊川断層の長さは文献によってやや異なるが、10数kmと短く、単独では地震調査研究推進本部(1997)の基盤的調査観測対象の活断層の基準には該当しないことから、ここでは評価の対象としないこととした。

以下、三方断層帯、花折断層帯それぞれについて記述する。

2.1 三方断層帯

2.1.1 断層帯の位置・形態

(1) 三方断層帯を構成する断層


三方断層帯は、若狭湾から福井県三方郡美浜(みはま)町をとおり、遠敷(おにゅう)郡上中(かみなか)町に至る断層帯である(図1-1、2-1)。三方断層帯の陸域の位置・形態については、活断層研究会(1991)、岡田・東郷編(2000)などで概ねよい一致を示す。また、若狭湾内の断層位置は、海上保安庁(1980)に示されている。

三方断層帯は、若狭湾内のA断層系、陸域の日向(ひるが)断層、三方断層及び倉見峠断層よりなる。日向断層と三方断層の北部、また、三方断層の南部と倉見峠断層はそれぞれ雁行ないし並走関係にある。

各断層の位置及び名称は、陸域は岡田・東郷編(2000)に、また、海域については海上保安庁(1980)及び岡田(1984)によった。

(2)断層面の位置、形状

三方断層帯全体の長さ及び一般走向は、断層帯の北端と南端を直線で結ぶと約26km、走向はほぼ南北となる。両端の位置は図2-1及び表1に示すとおりである。

地下の断層面の位置及び形状は、地表における断層帯の位置及び形状と地震活動のデータ等から推定した。

断層面上端の深さは、断層または撓曲による変位がほぼ地表に達していることから0kmとした。

断層面の傾斜は、海域における音波探査結果(図4)、陸域の断層帯周辺の地形、地震の発震機構などから高角で東傾斜と推定されるが、具体的な傾斜角は不明である。

断層面下端の深さは、地震発生層の下限である15km程度と推定されるが、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注12)

三方断層帯は、上述のように東傾斜と推定され、海上保安庁(1980)、活断層研究会(1991)、小松原ほか(2000)などに示された変位地形から、東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層と考えられる。横ずれ成分を示す資料はない。

2.1.2 断層帯の過去の活動

(1) 平均変位速度(平均的なずれの速度)
(注12)

水野ほか(1999)は、久々子(くぐし)湖東岸の三方断層の上盤側では、最終間氷期の海成段丘堆積物が標高5-10mに分布しているのに対し、断層下盤側にあたる久々子湖南岸のほぼ海水準に近いところで実施したボーリングでは同じ地層と考えられるシルト層が深さ22―26m付近に分布していることから、この地層を基準とする三方断層の平均上下変位速度を0.2-0.3m/千年程度と推定した。

また、水野ほか(1999)は、水月湖の中心部よりやや北側で実施したボーリングで、最終間氷期の堆積物と考えられる海成層が標高マイナス86-88mの深さに分布すること、また、この堆積物の直下には河川あるいは湿地に堆積したと考えられる堆積物が認められることから、この海成層は海面上昇に従い海が内陸部に進入した時期の堆積物と推定し、最終間氷期以降の水月湖中心部の沈降速度は0.7m/千年に達するとした。

一方、小松原ほか(2000)は、若狭湾で実施した音波探査から、日向断層の北方延長部に当たる断層によって、約5万-2万5千年前と推定した地層が12m撓曲していることから、その平均上下変位速度を0.2-0.5m/千年と推定した。

また、小松原ほか(2000)は、上記地点よりやや南側の日向断層の北方延長部の海域で、約1万年前と推定した地層が約10m変位していることから、平均上下変位速度を約1m/千年と求めている。

以上のように、本断層帯では、断層ごとにいくつか平均変位速度が求められている。このうち、水野ほか(1999)が三方断層の変位速度を求めた付近の西側には日向断層が並走しており、その西側では水月湖中心部の沈降速度が得られている。水野ほか(1999)によると、三方断層の上盤側では最終間氷期の海成段丘堆積物が標高5-10mに分布しており、日向断層の西側にあたる水月湖中心部では最終間氷期の海成層が標高マイナス86-88m付近に分布している。これらは同じ地層であるかどうか不明であるが、ほぼ同じ時期の海成堆積物であることから、これを三方断層や日向断層の活動に伴うものとすれば、その平均上下変位速度は0.76-0.82m/千年となる。したがって、この速度を本断層帯の平均上下変位速度とみなせば、本断層帯の過去約12万年間の平均上下変位速度は約0.8/m千年となる。この数値は北方で小松原ほか(2000)が求めた数値と大きく変わるものではない。

(2) 活動時期

○ 地形・地質的に認められた過去の活動
a)久々子湖南地点
 美浜町気山の久々子湖南東岸に分布する最終間氷期の海成段丘面西端の崖の基部からその西方の平地にかけて、小松原ほか(1999)によりトレンチ調査が実施された(図5)。トレンチでは地震性の地殻変動に伴うと思われる高角の地割れ構造が認められ、約5千-4千8百年前(注13)の年代を示すC層がこれに落ち込んでいる。その上位のB層はこの地割れと接しておらず、その関係は不明である。したがって、この付近では約5千年前以後に活動があった可能性があるが、これが確実に本断層帯の活動によるものであるかどうかは不明であり、また、この地割れを生じさせた活動以後に別な断層活動があったかどうかも不明である。

b)気山地点
小松原ほか(1999)は、上記久々子湖南地点から1kmほど南に位置する三方町気山で、低位段丘を累積変位させる断層崖の延長に位置する最低位の扇状地面上においてトレンチ調査を実施した(図6)。トレンチで認められた断層は、平安時代の土器を産出する砂礫層(C層)の下部を確実に切っているが、上位の砂層(B2層)は変動を受けていないようにみえる(注14)。したがって、断層活動はC層堆積開始以後、B2層堆積前であった可能性があり、その時期は、C層から産出した土器とB2層から得られた14C年代値から、平安時代以後(8世紀末以後)、17世紀初頭以前の可能性がある。

○ 先史時代・歴史時代の活動
1662年6月16日(旧暦寛文2年5月1日)に近畿地方の中北部に大きな被害をもたらす地震が発生した。大長・松田(1982)は、歴史記録から、この地震の際に三方五湖付近とその北方の海岸で地殻変動があったこと、また、菅湖から東へ流れ出ていた気山川が、地盤の隆起によって堰き止められたことなどを示し、この地震によって、琵琶湖西岸の比良断層と三方断層に挟まれる比良・矢筈山地が隆起したと考えた。宇佐美(1996)は、この地震の震央を琵琶湖の西岸付近とし、地震規模を7・1/4-7.6と推定している。また、小松原ほか(1999)は、歴史記録をもとに、この地震による三方五湖付近の地変を記載し(図7)、日向断層や三方断層がこの地震で活動した可能性が高いとした。金田ほか(2000)もこの地震による三方五湖及び若狭湾沿岸の地殻変動について古文書の記述をもとに推定している。

気山トレンチの調査結果によると、本断層帯の最新活動時期は17世紀初頭以前で、1662年のの地震よりも前となる。しかし、歴史記録によれば1662年の地震の際に本断層帯付近で大きな地殻変動があったことは確実と考えられることから、本断層帯の最新活動は1662年の地震と推定される。トレンチから得られた年代値は試料の再堆積等の可能性も考えられる。なお、後述のように1662年の地震では花折断層帯北部も同時に活動した可能性がある。

最新活動より前の活動については資料が得られていないため不明である。

(3)1回の変位量(ずれの量)

小松原ほか(1999)は、1662年の地震時の三方五湖周辺の変動を記載した歴史記録を吟味した。その結果、久々子湖周辺では東西幅7kmにわたって海水準に対し3m程度の隆起が生じたことを指摘した。また、気山川河口付近では3-3.6m程度、菅湖東岸付近では2.4m程度、菅湖から水月湖の北東岸が1.5-2.4m程度それぞれ隆起したのに対し、三方湖・水月湖の西岸は約1.5m程度沈降した可能性があるとして、これらから、1662年の地震による久々子湖から菅湖に至る地域の上下変位量は、歴史記録の信憑性の高い隆起側だけで3-3.6m程度に達し、信憑性に若干の疑問が残る沈降側を加えると、4.5-5.1m程度になるとした。

金田ほか(2000)も同様の推定を行い、日向断層を挟んだ1662年の地震時の地殻変動量を求めており、小松原ほか(1999)と概ね同じような結果を得ている。

以上のことから、三方断層帯の1662年の地震時の上下変位量は3-5m程度であった可能性があり、これをもって本断層帯の1回の活動に伴う上下変位量とみなす。

(4)活動間隔

本断層帯では、平均上下変位速度が約0.8m/千年、最新活動時の上下変位量が3-5mと求められていることから、これらを用いて断層帯の平均活動間隔を求めると、約3千8百-6千3百年となる。

(5)活動区間

三方断層帯は、北からA断層系、日向断層、三方断層等が雁行配列するが、松田(1990)の定義によれば、これらは1つの起震断層を形成していると考えられ、本断層帯を構成する各断層が過去別々に活動したという資料は得られていないことから、本断層帯は全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

三方断層帯、花折断層帯周辺の最近約100年間及び約10年間の測地観測結果からは、東西方向ないし北西-南東方向の縮みがみられる。また、最近4年間のGPS観測結果では東西方向の縮みがみられる。

(7)地震観測結果

三方断層帯、花折断層帯周辺の地震活動は比較的活発である。地震発生層の深さの下限は、三方断層帯周辺で15km程度、花折断層帯周辺では15-20km程度である。発震機構はともに東西方向に圧力軸を持つ逆断層型が多い。

2.1.3 三方断層帯の将来の活動

(1)活動区間及び活動時の地震の規模

三方断層帯は、断層帯全体が1つの区間として活動すると推定される。本断層帯の活動に伴って発生する地震の規模は、断層帯の長さが約26kmであることから、経験式(1)により、マグニチュード7.2となる。しかし、1662年の地震時の上下変位量の最大値からは規模がより大きな地震も想定されるので注意が必要である。また、1662年の地震時の変位量から、地震発生時の上下変位量は3-5mに達する可能性がある。なお、最新活動時には花折断層北部も同時に活動した可能性があることから、本断層帯は次の活動においても花折断層北部と同時に活動するとすれば、その場合の地震規模はさらに大きくなる可能性もある(注15)。

用いた経験式は松田(1975)による以下の式である。

      LogL=0.6M-2.9    (1)

ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mは地震のマグニチュードである。

(2)地震発生の可能性

本断層帯の平均活動間隔は約3千8百-6千3百年と求められており、最新活動は1662年の地震であったと推定される。本断層帯では、最新活動後、評価時点(2003年)までの経過時間は約3百年で、平均活動間隔の0.05-0.08倍の時間が経過していることになる。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001a)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、すべて、ほぼ0%となる。また、現在までの集積確率もほぼ0%となる。表5にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

2.2 花折断層帯

2.2.1 断層帯の位置・形態

(1)花折断層帯を構成する断層

花折断層帯は、滋賀県高島郡今津町から京都市を経て京都府宇治市に至る断層帯である(図1-1、2-1、2-2)。花折断層帯の位置・形態は、活断層研究会(1991)、岡田・東郷編(2000)、吉岡ほか(2000)及び池田ほか(2002)などで概ねよい一致を示す。

花折断層帯は、花折断層、銀閣寺-南禅寺(断層)(注16)、桃山断層、黄檗(おうばく)断層群及び花山-勧修寺(かざん-かんしゅうじ)断層からなる。黄檗断層群と花山-勧修寺断層は、地震調査研究推進本部(1997)では、京都盆地-奈良盆地断層帯の一部とされていたが、宇治市以北のこれらの断層は、三方-花折断層帯最南部と近接して並走することから、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001b)が三方・花折断層帯とともに評価することとしていたものである。

岡田・東郷編(2000)によると、黄檗断層群は、小野-醍醐(おの-だいご)断層、御蔵山(おぐらやま)断層、木幡断層、南山(断層)及び菟道(とどう)断層からなる。花折断層の南端部と銀閣寺-南禅寺(断層)は並走しており、また、桃山断層と黄檗断層群も5km程度の距離で並走している。桃山断層と黄檗断層群との間には花山-勧修寺断層が分布している。

各断層の位置及び名称は岡田・東郷編(2000)によった。

(2)断層面の位置、形状

花折断層帯は、断層面の傾斜と変位の種類の違いから、花折断層と銀閣寺-南禅寺(断層)とが並走する付近で南北に二分されると推定される。このうち北側の区間は、過去の活動時期の違いから(後述)、さらに2つに細分される、以下では、本断層帯を北部、中部、南部の3つの区間に分けて記述する。

北部及び中部を構成するのは花折断層で、その北端から南端までを直線で結ぶと、北部と中部を合わせた長さは約46km、一般走向はほぼN20°Eとなる。北部と中部の境界は断層の地表形態からは明らかではないが、吉岡ほか(1998)は、花折断層は全体としてN10°-20°E程度の走向をなしているのに対し、花折峠付近でゆるく屈曲し、ほぼ南北走向となることから、花折峠付近がセグメント境界であることを示唆している.吉岡ほか(1998)の考えに基づき、北部と中部の境界を花折峠付近とすると、北部及び中部の長さはそれぞれ、約26km、約20kmとなり、一般走向はともにN20°Eとなる。

南部は、銀閣寺-南禅寺(断層)から黄檗断層群までの諸断層からなる。銀閣寺-南禅寺(断層)の北端と黄檗断層群の南端を直線で結ぶと、南部の長さは約15km、また、一般走向は概ね南北(N-S)となる。花折断層の南端部と銀閣寺-南禅寺(断層)の北端部は並走している(図2-1、2-2)。

花折断層帯全体の長さ及び一般走向は、断層帯の北端と南端を直線で結ぶと約58km、一般走向はほぼN10°Eとなる。両端の位置は図2-1及び表1に示すとおりである。

地下の断層面の位置及び形状は、地表における断層帯の位置及び形状等から推定した。

断層面上端の深さは、断層または撓曲による変位がほぼ地表に達していることから北部、中部、南部とも0kmとした。

北部及び中部の断層面の傾斜は、これらが横ずれを主体とする断層であること、また、トレンチ壁面に認められた断層や地形からみて、地表近傍ではほぼ垂直と推定される。

南部は、断層露頭、トレンチ壁面、ボーリング調査結果などから、東傾斜と推定される。南部を構成する断層のうち、桃山断層では京都市(1999a,b)により反射法弾性波探査が実施されており(図8)、その結果から約200mより浅い部分では50°程度東に傾斜していることが確認されている。黄檗断層群では、小野-醍醐断層(京都市,1998a,b)及び木幡断層及び南山(断層)(小泉ほか,2002)において反射法弾性波探査が実施されている(図9)。京都市(1998a,b)によれば小野-醍醐断層では東傾斜が推定され、小泉ほか(2002)が示した断面図によると、黄檗断層群の小野-醍醐断層、木幡断層及び南山(断層)は、東傾斜で地下約100-300mよりも浅いところでは、概ね25-55°程度となる。なお、桃山断層と黄檗断層群の間に分布し(図2-2)、ほぼ南北方向に延びる花山-勧修寺断層は、西傾斜と考えられる。

後述のように、本断層帯付近の地震発生層の深さの下限は15-20km程度と推定される(後述)ことから、地下深部での断層面の傾斜が地表付近と同様であるとすれば、北部及び中部の断層面の幅は約15-20kmとなる。同様に南部においても地下深部における断層面の傾斜が地表付近と同様であるとすれば、南部の断層面の幅は約20-45kmとなる。

花折断層帯の東側には琵琶湖西岸断層帯が並走しており、特に南部ではその間隔が狭く、両断層帯の最南部付近では5-6km程度となる。琵琶湖西岸断層帯は西に傾斜していると考えられることから、地下では両者の断層面が近接している可能性があるが、地下の形状等を示す資料は得られていないため詳細は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注12)

花折断層帯のうち北部及び中部の断層沿いでは、断層を横切る小河川の右屈曲が認められる。このことから、北部及び中部は右横ずれ断層と考えられる。上下成分については、トレンチおよびボーリング調査から中部では東側隆起が確認されている。南部の桃山断層及び黄檗断層群は、反射法弾性波探査の結果や岡田・東郷編(2000)などに示された変位地形などから、東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層と考えられる。横ずれ成分は知られていない。この両断層(群)に挟まれる花山-勧修寺断層は山科盆地の西縁に沿って分布しており、西側が相対的に隆起する断層と考えられる。

2.2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注12)

本断層帯の北部及び中部は右横ずれを主体とする断層と考えられるが、この区間の平均右横ずれ変位速度に関する資料は得られていない。

本断層帯南部の桃山断層では、L面に約5mの上下変位がみられる(岡田・東郷編,2000)。L面の形成年代を約2万年前とすれば、桃山断層の過去約2万年間の平均上下変位速度は、約0.3m/千年と求められる。

(2)活動時期

○地形・地質的に認められた活動

本断層帯では、トレンチ調査など過去の活動時期に関する以下に示す調査が行われている。

〈北部〉

a)途中谷地点

本断層帯の北端に近い滋賀県高島郡今津町途中谷において、東郷ほか(1997)及び吉岡ほか(1998)によりトレンチ調査が行われている。

東郷ほか(1997)による2つのトレンチ調査は、小河谷の右ずれ屈曲部で行われた。2つのトレンチのいずれにおいても高角の断層が認められ、植林作業で生じたとされる人工擾乱層に覆われている。断層に切られる地層から得られた14C年代値から、この断層活動は9世紀以後にあったと考えられる。

吉岡ほか(1998)によるトレンチ調査は、東郷ほか(1997)によるトレンチ地点の約300m南で行われた。本トレンチ地点は、断層沿いに延びる浅い谷底で、西へ流れるごく小規模な沢の出口に位置しており、そこでは比高約2mの段差が認められる。トレンチはこの段差を挟んで掘削された。トレンチの南壁面には高角度の断層が認められ、この断層は15-17世紀の14C年代値を示す腐植層(B層)に覆われている(図10)。また、断層に切られている地層のうち、年代値が得られた最も上位の粘土層(Z層)からも15-17世紀を示す14C年代値が得られている。したがって、本地点では、15世紀以後、17世紀以前に断層活動があったと推定される。

〈中部〉

b)大原地点

本地点は、京都市左京区大原上野町の最終氷期極相期に形成されたと考えられる低位段丘面上の小規模な谷の出口に位置しており、ここで行われたトレンチ調査の結果は吉岡ほか(1997)及び吉岡ほか(1998)にまとめられている。トレンチ壁面には断層は認められないが、吉岡ほか(1998)は、大きく変形する地層がトレンチ内に認められることから断層活動を推定した。変形する地層に姶良-Tn火山灰(約2万8千年前,注17)が挟まれていることから、断層活動の時期は少なくとも2万8千年前以後と考えられる。

c)修学院地点

吉岡ほか(2001)は、京都市左京区修学院月輪寺町でトレンチ調査を行った。トレンチ地点の周辺は緩やかに西に傾斜する段丘化した扇状地となっている。トレンチ調査はこの扇状地上に認められる低崖を結ぶ線上で行われた。

トレンチには、高角度の断層が認められ(図11)、この断層は3層以下の地層と2b層及び2c層を変位させており、北東側壁面では断層はさらに上位の2a層下部にまで達しているようにみえる。したがって、本地点では2a層堆積中に最新活動があったと推定される。3層からは、2千8百-2千4百年前を示す年代値が得られており、ほかにもほぼ同時期の年代値が得られているが、より古い年代値(3千年以上前)もいくつか得られている。一方、上位の2層からも3千年以上前の年代値が得られており、2層及び3層からは縄文時代後期(4千―3千年前)の土器片も得られている。吉岡ほか(2001)は、これらの年代値の矛盾について、2層及び3層は泥流堆積物及び扇状地堆積物であること、年代値のほとんどが木炭片から得られていて後世の汚染による若返りの可能性は小さいと考えられること、また、土器片のすべてが小断片であることから、古い年代値を示す試料は再堆積物である可能性が高いと考えられるとしている。また、明らかに断層を覆う1層の最下部の土壌から4-6世紀の14C年代値が得られている。この地層は耕作土であるため、より古い炭質物を含んでいる可能性が否定できないが、吉岡ほか(2001)は、直下の2層は砂礫層で炭質物をほとんど含まないことから、下位の地層が耕作により取り込まれている可能性は低いとし、断層活動はこの耕作土から得られた年代よりも古いとしている。

また、吉岡ほか(2001)は、3層、2c層及び2b層はほぼ平行に変形しており、構造的な差異がないのに対し、4層は北東側壁面の断層南東側で3層よりも急傾斜していること、南西側壁面では分岐した断層によってモザイク状に変形していることから、複数回の断層変位を受けているものと考え、最新活動に先行する活動の時期を推定している。4層から得られた14C年代値から、その時期は約7千9百年前以降となる。

以上、吉岡ほか(2001)にしたがうと、本地点における最新活動時期は約2千8百年前以後、6世紀以前で、これに先行する活動が約7千9百年前以後にあったと推定される。

d)上終町地点

石田(1967)は、京都市左京区北白川の上終町で行われた排水路工事によって現れた露頭で断層により切られている腐植層の14C年代を測定し、2,500±80(暦年未補正値。暦年補正すると約2千8百-2千5百年前)という年代値を得た。このことから、本地点付近では少なくとも約2千8百年前以後に断層活動があった可能性がある。

e)今出川地点

本地点は、京都市左京区北白川西町の吉田山の北西隅に位置しており、ボーリング調査及びトレンチ調査が行われている(吉岡ほか,1998)。トレンチ壁面には、東に傾斜する断層が認められ(図12)、南側壁面では、断層は縄文時代の土器片を含む腐植層(A層)を切っている。したがって、断層活動時期はA層堆積後と考えられ、その時期は、土器の年代から約4千年前以後と推定される。また、北側壁面では、南側壁面のA層と同時期と推定されるI層から下位のIV層までは、断層による変位量がほとんど同じであり、この間には断層活動はなかったと推定される。IV層からは年代値は得られていないが、A層から得られているもっとも古い年代値から、少なくとも約7千年前以後、約4千年前以前には断層活動がなかったと推定される。

〈南部〉

f)西野山地点

京都市山科区西野山射庭の山科盆地の西縁に沿う西上がりの勧修寺断層付近で、ボーリング調査及びトレンチ調査が京都市(1998a,b)により行われた。京都市(1998a,b)はトレンチ及びボーリングで得られた結果から地質断面図を作成し、断層が作る撓曲崖にアバットして堆積する数枚の腐植層の傾斜に累積性があるとして、これを断層活動によるものと考え、腐植層から得られた14C年代値と腐植層の間に含まれる姶良-Tn火山灰から、約25,000年前以後、約11,000年前(ともに暦年未補正値。暦年補正すると約2万8千年前以後、約1万3千年前以前)の活動と、約48,360年前(暦年未補正値)以後、約35,430年前(暦年未補正値。暦年補正すると約3万7千年前)以前の活動が考えられるとした。しかし、傾斜の変化はごくわずかであり、ボーリング調査の結果から推定した各地層の傾斜が確実に断層活動を表しているかどうかは不明である。

○先史時代・歴史時代の活動

1662年(寛文2年)の地震では、現在の滋賀県及び京都府を中心とする地方で大きな被害が生じた。2.1.2(2)で述べたようにこの地震は三方断層帯の活動によるものと推定されるが、吉岡ほか(1998)は、途中谷トレンチ地点で得られた花折断層北部の活動の年代と、この地震の被害が滋賀県西部を中心に広がっていることから、この地震で花折断層北部も活動した可能性が高いとしている。また、吉岡ほか(1998)は、大原以南には平安時代からの寺社が数多く存在するにもかかわらず、1662年の地震に関しては特に被害が記録されていないことから、大原よりも南ではこの地震では活動しなかったと推定している。

また、東郷ほか(1997)は途中谷トレンチの結果から、花折断層の最新活動は1185年(文治元年)の地震に相当する可能性を示している。また、この地方では1325年(正中2年)にも地震が発生し、被害を受けているが、宇佐美(1996)によれば、この地震ではむしろ滋賀県北部から福井県南部にかけて大きな被害が記録されている。

地形・地質的な調査から得られた資料によれば、各調査地点における過去の活動は図13のようにまとめられる。

図13によれば、花折断層帯は途中谷トレンチ地点を含む区間(本断層帯北部)と修学院トレンチ地点を含む区間(本断層帯中部)では最新活動時期が異なっており、少なくとも最新活動時にはこれらは別々に活動したと推定される。

途中谷地点を含む本断層帯北部の最新活動は15-17世紀と推定される。この時期は1662年の地震と概ね整合的であり、この地震で花折断層帯北部が三方断層帯と同時に活動した可能性がある。なお、これに先行する活動の時期は不明である。

一方、修学院地点を含む本断層帯中部では、最新活動が約2千8百年前以後、6世紀以前と推定される。また、最新活動より前の活動も同じ範囲が活動したとすれば、一つ前の活動は約7千9百年前以後、約7千年前以前であったと推定される。

本断層帯南部では、過去の活動時期に関する資料は得られていない。しかし、南部は中部と変位のセンスが異なっているものの両区間はほぼ連続して分布することから、過去の活動において南部は中部と同時に活動した可能性がある。

(3)1回の変位量(ずれの量)

〈北部〉

吉岡ほか(1998)は、途中谷で掘削したトレンチの壁面において断層両側の地層の対比を行い、トレンチの東側に存在する谷地形が断層の西側では北側に移動しているとみることができることから、もともとまっすぐであった谷が、横ずれ断層活動で現在のようになったと考え、もとの谷壁斜面の横ずれ量を2-5mと計測して、これを1回の活動に伴う右横ずれ変位量とした。

東郷ほか(1997)も途中谷トレンチにおける断層を挟んだ地層のずれから、最新活動における本地点付近の右横ずれ変位量を3.5m余りとしており、上記吉岡ほか(1998)の数値と整合的である。
したがって、ここでは花折断層帯北部の1回の活動に伴う右横ずれ変位量は、2-5m程度であったと推定する。

〈中部〉

吉岡ほか(2001)は、修学院地点でトレンチの北東側壁面にのみ認められる砂礫層について、断層を挟んで北東側壁面を掘り増しした結果、断層北西側では少なくとも掘り増した2mまではこの砂礫層が連続して認められたのに対し、断層南東側にはその連続が見られないことから、最新活動時の横ずれ変位量を最低でも2mとした。また、南西側壁面にはこの砂礫層は全く見られないことから、この間の距離5mをもって最新活動時の横ずれ量の最大値とした。

以上のことから、花折断層中部の1回の活動に伴う右横ずれ変位量は、2-5m程度であったと推定される。

〈南部〉

花折断層帯南部では、1回の活動に伴う変位量は得られていない。

(4)活動間隔

〈北部〉

花折断層帯北部は、最新活動時期が得られているのみであり、その平均活動間隔は不明である。

〈中部〉

花折断層帯中部では、過去2回の活動時期が得られている。その間隔を本区間の平均活動間隔とみなせば、中部の平均活動間隔は約4千2百-6千5百年となる。

〈南部〉

花折断層帯南部の平均活動間隔を求めるための資料はないが、過去の活動において常に中部と同時に活動したとすれば、平均活動間隔は中部と同じとなる。

(5)活動区間

上述のように、本断層帯は最新活動では少なくとも2つの区間に分かれて活動したと推定される。また、中部と南部は変位の形態が異なることから、さらに細分され、北部、中部、南部の3区間に分かれて活動した可能性もある。最新活動よりも前の活動時の活動範囲は不明である。

なお、本断層帯の東側には琵琶湖西岸断層帯が分布している。上述のように琵琶湖西岸断層帯を構成する断層は西に傾斜していると考えられ、地下では両断層帯の断層面が近接している可能性もある。また、東郷(2000)や小松原ほか(1998)に基づけば、花折断層帯北部、中部と琵琶湖西岸断層帯の過去の活動時期はほぼ一致する可能性もあることから、琵琶湖西岸断層帯の活動時に花折断層帯の一部が同時に活動した可能性も否定できない。

(6)測地観測結果

2.1.2(6)参照

(7)地震観測結果

2.1.2(7)参照

2.2.3花折断層帯の将来の活動

(1)活動区間及び活動時の地震の規模

上述のように、花折断層帯は最新活動時に少なくとも2つの区間に分かれて活動したと推定される。したがって、将来においても少なくとも2つの区間に分かれて活動すると推定される。

この場合、北部は単独で活動する可能性もあるが、三方断層帯と同時に活動する可能性も否定できない。中部及び南部は、同時に活動する可能性があるが、別々に活動する可能性も考えられる。さらに、本断層帯の一部または全部と琵琶湖西岸断層帯が同時に活動する可能性も否定できない。

北部が単独で活動する場合は、長さが約26kmであることから、経験式(1)を用いると、マグニチュード7.2となる。また、その際に断層近傍では2-5m程度の右横ずれが生じると推定される。なお、三方断層帯と同時に活動するとすれば、その場合の地震規模はさらに大きくなる可能性もある(注15)。

また、中部と南部が同時に活動する場合は、長さが約32kmであることから、経験式(1)を用いて地震規模を求めると、マグニチュード7.3となる。また、その際に断層近傍では2-5m程度の右横ずれが生じると推定される

一方、これら3つの区間が上記とは異なる組み合わせで活動したり、断層帯全体が同時に活動する可能性も否定できない。中部、南部がそれぞれ単独で活動すれば、長さがそれぞれ、約20km、約15kmであることから、その際の地震規模はそれぞれマグニチュード7.0、6.8となる。 また、北部と中部が同時に活動するとすれば、長さは約46kmとなり、経験式(1)によりマグニチュード7.6となる。さらに、花折断層帯全体が同時に活動するとすれば、長さが約58kmとなることから、経験式(1)により、マグニチュード7.8となる。

(2)地震発生の可能性

以上のように、花折断層帯は少なくとも2つの区間に分けられ、将来においてもこれらの区間ごとに活動する可能性がある。

花折断層帯北部は、平均活動間隔が不明であるため、将来の地震発生確率を求めることはできない。しかし、最新活動後、評価時点までの経過時間は3百年余りで、我が国の一般的な活断層の平均的な活動間隔と比べると短い時間しか経過しておらず、また、我が国の他の活断層に対して花折断層帯北部の活動度が特段に高いということを示す資料もないことから、花折断層帯北部で、ごく近い将来に地震が発生する可能性は低いと考えられる。

断層帯中部と南部が同時に活動する場合及び中部が単独で活動する場合は、平均活動間隔が約4千2百-6千5百年で、最新活動時期が約2千8百年前以後、6世紀以前と求められていることから、最新活動後、評価時点(2003年)までの経過時間は約1千4百-2千8百年で、平均活動間隔の0.2-0.7倍の時間が経過していることになる。また、平均活動間隔の信頼度が低いことに十分留意することがあるが、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001a)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、ほぼ0%-0.6%、ほぼ0%-1%、ほぼ0%-2%、ほぼ0%-7%となる。また、現在までの集積確率は、ほぼ0%-6%となる。本評価で得られた将来の地震発生確率には幅があるが、その最大値をとると、花折断層帯中南部は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。表6にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

また、上記と別の組み合わせ、及び断層帯全体が同時に活動する場合の地震発生確率を求めることはできないが、中部が活動区間に含まれる場合の地震発生確率は、上記の中部が単独または中部と南部が同時に活動する場合の地震発生確率を超えることはないと考えられる。

ただし、上述のように、本断層帯は東側に分布する琵琶湖西岸断層帯と連動して活動する可能性も否定できない。この場合は、本断層帯の地震発生可能性は、琵琶湖西岸断層帯の地震発生可能性と同等となる可能性もある。

3 今後に向けて

三方断層帯では信頼度の高い平均活動間隔が得られていない。したがって、過去の活動時期、平均変位速度及び1回の活動に伴う変位量をさらに精度よく求める必要がある。

花折断層帯南部では、過去の活動に関する資料がほとんど得られていない。中部は横ずれ断層であるのに対し、南部は逆断層であり、両者は主たる変位の方向が異なっているため別々に活動した可能性も否定できない。このため、南部について過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。また、北部は最新活動時期以外ほとんど資料が得られておらず、三方断層帯との関係も不明である。したがって、北部についても過去の活動に関する資料をさらに精度よく得る必要がある。中部もその平均活動間隔は過去2回の活動時期から求められたものであり、より精度のよい平均活動間隔を得る必要がある。また、北部と中部の境界位置についても明らかにする必要がある。

花折断層帯の東側には琵琶湖西岸断層帯が分布しており、特に南部では数km程度の間隔で近接して並走する。このため、花折断層帯の一部と琵琶湖西岸断層帯が連動する可能性も考えられる。このため、本断層帯と琵琶湖西岸断層帯の地下の断層面の形状等を明らかにし、その関係について明らかにする必要がある。

注12: 「変位」を、1ページの本文及び4、5ページの表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれ」の成分と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注13: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して1千年単位で示した。
注14: 小松原ほか(1999)は、「C層中部以上には礫の再配列などの変形構造は認められないとしているが、C層は全体に粗しょうで締りが悪く、かつ、断層の変位量が小さいため仮に上位のA、B層堆積以降に断層活動が行われても、肉眼観察で認識できるような変形を受けていない可能性がある」として、断層活動の上限年代を限定できないとしている。
注15: 三方断層帯と花折断層帯北部は別の起震断層と考えられるが、これらを一つの活動区間とみなし、三方断層帯の北端と花折断層帯北部の南端を直線で結ぶと長さは約54kmとなる。これらに経験式(1)を適用するとこのときに発生する地震の規模はマグニチュード7.7程度となる。
注16: 吉岡ほか(2000)の鹿ヶ谷(ししがたに)断層に相当する。岡田・東郷編(2000)では、単に「銀閣寺-南禅寺」となっている。ここでは、このようなものについては、「(断層)」を名称の後ろにつけた。
注17: 姶良Tn火山灰層の降下年代値は、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会(1996)、小池・町田(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。



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吉岡敏和・宍倉正展・細矢卓志・徳田博明・山口弘志(2001):花折断層南部,京都市修学院地区における活動履歴調査.活断層・古地震研究報告,No.1(2001年),産業技術総合研究所地質調査総合センター,133-142.



表5 三方断層帯の地震発生確率及び参考指標


表6 花折断層帯(中南部)の地震発生確率及び参考指標

注18: 評価時点はすべて2003年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10-5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数

:当該活断層があることによって大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(ここではBPT分布モデルを適用した場合を考える。)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合にあたる。)。この指標は、BPT分布モデルによる危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。マイナスの値は、前者が後者に達していないことを示す。三方断層帯の場合、後者の危険率は6千3百分の1-3千8百分の1(0.0002-0.0003回)であり、時間によらず一定である。前者は評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。前者が後者の回数に達するには今後4千百年ないし2千4百年を要することになる

指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。



付表  
地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。




別添

活断層評価における地震発生確率等の評価の信頼度について


 地震調査委員会は、陸域の主な活断層で発生する大地震に関する長期評価を行っており、評価対象の各活断層(帯)における将来の地震発生確率等(地震後経過率、発生確率及び集積確率)を公表している。活断層評価では、従来より上記の地震発生確率等以外の評価項目(活断層の位置《長さ》や地震規模など)については信頼度を付与していたが、地震発生確率等については付与していなかった。
 しかし、地震発生確率等についても、その評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗があり、その信頼性には差がある。このことを表現したものが「地震発生確率等の評価の信頼度」である。

 本資料は、発生確率等の評価の信頼度についての考え方や信頼度の各ランク分けの条件などを記述したものである。また、これまでに公表した活断層に関する発生確率等の評価の信頼度も一覧表で掲載した。


(1)発生確率等の評価の信頼度のランク分けとその意味

 発生確率等の評価の信頼度は、評価に用いたデータの質的な充足性などから、確率等の確からしさを相対的にランク付けしたもので、a~dの一般的な意味は次のとおり
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い 

 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率の評価の信頼度を、活断層評価ではa~dの4つに区分することとしている。発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については(2)を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。

確率等の評価の信頼度

a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。

b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。

c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。

d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。


(2)確率等の評価の信頼度の分類条件について

確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

a:発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

b:平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

c:平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。

d:平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。

表 これまでに公表した活断層の地震発生確率等の評価の信頼度一覧

*糸魚川-静岡構造線断層帯、神縄・国府津-松田断層帯及び富士川河口断層帯の評価では、平均活動間隔、最新活動時期に信頼度を付与していなかったので、ここでは信頼度ランク分けの対象外とした。
*( )内の数値は30年確率、数値の後ろに「P」を付したのはポアソン過程を使用、それ以外はBPTを使用




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