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発生確率の時間変化

対数正規分布とPoisson過程の違いをより明確に示すために,図4.24.10に,表4.1で示した南海トラフ,宮城県沖,阿寺断層,丹那断層,跡津川断層及び長野盆地西縁断層の地震について,経過年数に対する危険率のグラフを掲げた。これらのグラフは各断層の現在おかれている状況及び地震発生直前の状況をよく示している。これらの図から,その断層からの地震発生を注意喚起するためのいくつかの指標を考えることができる。それらの指標を表4.2にまとめて示した。


図 4.2: data set 宮城沖III(宮城県沖地震)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.3: data set 南海I(南海地震)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.4: data set 南海IV(想定東海地震)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.5: data set 阿寺I(現在の阿寺断層)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.6: data set 阿寺I'(最新の地震発生直前の阿寺断層)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.7: data set 丹那I(現在の丹那断層)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.8: data set 丹那I'(最新の地震発生直前の丹那断層)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.9: data set 跡津川I'(最新の地震発生直前の跡津川断層)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ


図 4.10: data set 長野I'(最新の地震発生直前の長野盆地西縁断層)における,危険率 tex2html_wrap_inline5886 の経過年数 tに対するグラフ

table2779
表 4.2: 断層の活動を注意喚起するための指標(データは暫定)

4.2で,指標(1)の欄はPoisson過程の危険率を越えてからの経過年数(負符号はその危険率を越えるまでに残された年数),及び前回の地震発生時から評価時点までの経過時間(B)と前回の地震発生時から Poisson過程の危険率を越えるまでの時間(A)の比(B/A)を示す。両者とも大きくなるほど,注意が必要であることを意味する。指標(2)は評価時点の危険率とPoisson過程の危険率の比である。これも大きいほど注意が必要であることを意味する。なお,指標(2)は指標(1)の「経過年数」の正負に応じて1より大きくなったり,小さくなったりするという性質がある。指標(3)は集積確率(%)である。これは前回の地震発生時点で見て,その時から評価時点までに地震が発生しているはずの確率である。大きい数字ほど注意が必要であることを意味する。仮に数多くの断層を地震発生直前に評価したとすれば,半分の断層は指標(3)が50%以下で,残りの半分は50%以上で地震を起こしたことになると考えられる。指標(4)は今後30年間の発生確率と対数正規分布モデルでの確率の極大値(4.2節の後半の説明及び図4.1参照)の比で,これは表4.1の該当する2つの欄の値から計算される。これも大きいほど注意が必要であることを意味する。指標(5)はPoisson過程での1年間あたりの地震発生回数である。これは地 震の発生間隔よりも十分長い期間で平均したもので,間隔の短い断層ほど大きな値をとる。

この表から,例えば次のようなことを読みとることができる。まず,南海地震の現在の状態であるが,30年確率(表4.1)は data set IとIIIとで大きく違っていたが, Poisson過程の危険率を越えるのはいずれも約40年後と,それほど大きな違いはない。想定「東海地震」の場合は1854年の地震発生からPoisson過程の危険率を越えるまでの時間の 1.3倍以上の期間(実年代でいうと約40年)がすでに経過しており,集積確率も約40%に達している。宮城県沖の地震は表4.1の30年確率では高い値を示したものの, Poisson過程の危険率を越えるまでに約5年ぐらいある。 1586年の阿寺断層の地震(天正地震)は集積確率が約50%の時に発生した。この地震が起きているために阿寺断層の次の地震は, Poisson過程の危険率を越えるまでにまだ800年以上残っている。 1930年の丹那断層の地震(北伊豆地震)も1858年の跡津川断層の地震(飛越地震)も Poisson過程の危険率を越えてすぐ(それぞれ,約9年後,約52年後)に起こった。これらの地震は,表4.1にあるように, 30年確率が2.8%あるいは1.4%という低い値のときに起こったが,値が低いと言っても対数正規分布での確率の極大値の,ともに1/6(約0.17)程度の大きさは持っていた。 1847年の長野盆地西縁断層帯の地震(善光寺地震)はPoisson過程の危険率を越えた後, 300年以上経過してから起こった。

なお,表4.2の数字の多くは3桁で記入されているが,これらは前提の与え方によって大きく変化するものであり,取り扱いや解釈には十分な注意が必要である。


地震調査研究推進本部
Wed Jan 13 17:30:00 JST 1999