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確率の数値評価のまとめ

  海溝型地震及び陸域の活断層による地震の地震発生確率を,モデルを対数正規分布にとり, 今後30年以内に発生する確率としてまとめると表4.1のようになる。 この表には,用いたデータセット別に,対数正規分布での地震発生確率の極大値及び 対応する平均発生間隔を用いたPoisson過程による地震発生確率も併せて示した。 これまでにも述べてきたことであるが,活断層の一部のデータには, 信頼度の低いものも含まれているので注意が必要である。信頼度の低い データしか得られていない断層については,調査を充実させることにより,信頼 度を高める必要があることはいうまでもない。そして,信頼度の高いデータが得 られた場合は,その都度,計算値を更新することが重要である。 例えば,活断層調査が進んで新たなデータが得られた場合, 再計算した確率の値が大きく変わるという事態は十分考えられることである。

   table2604
表 4.1: 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における, 今後30年以内の地震発生確率(データは暫定,モデルは対数正規分布,確率の単位はいずれも%)

表を見ると,評価時点が現在の中では, 宮城県沖の地震が最も高い確率を示していることが分かる。 これは,発生間隔がおおよそ45年, 前回の地震から約20年経過しているという状況下で, しかも今後30年間という,発生間隔に匹敵するほどの 長い時間幅の発生確率を計算したという事情を反映したものである。 次いで高い確率を示すのは想定「東海地震」の震源域である。 ここで基づいた仮定は,駿河湾の地震はこれまでおおよそ170年間隔で 繰り返して発生してきたが,前回の1854年の地震から140年以上経過している, という,最も単純なものである。

南海トラフ沿いの巨大地震の現時点における発生確率は, 何種類かのデータセットを用いて,更新過程を利用して計算した。 得られた確率の値は,用いるデータセットによって, 表に示した程度の差異(4.8%と1.0%)が見られる。 この地震については,室津の地殻変動データを利用して 時間予測モデルも用いて計算したが, 更新過程による結果と大きく異なる結果(32%)が得られている。 この事情は,更新過程に基づく計算では, 前回の地震発生時点から平均発生間隔の時間が経過するまではまだ60年以上 (用いるデータセットによっては100年以上)あるのに対し, 時間予測モデルに基づく計算では,図3.2から読みとると, 既に40年以下となっていることと対応していると考えられる。 いずれが現実にあっているかは今後の検討課題である。 なお,前回の南海地震(1946年)は30年確率が42%の時に発生したことが分かる。 これは,次回の南海地震もそのとおりになることを意味するものではないことは もちろんである。

4.1で,陸域の断層における地震の発生確率は, 式(4.2)で求めた平均的な tex2html_wrap_inline6058 の値を用いて 再計算した結果も掲載してある。 活動間隔が約2,000年の阿寺断層は 1586年の活動から400年程度しか経過していないので,現在の確率は非常に低い状態にある。 これはある意味では安心情報と言える。 しかし,阿寺断層の周辺には多くの活断層が走っており, 特定の場所が強震動をこうむる可能性を検討するためには, 周辺の活断層の状態も評価する必要があることはいうまでもない。 丹那断層の現在の状態も同様である。

3.2.1.2節及び3.2.1.3節において, 丹那断層における北伊豆地震(1930年)や跡津川断層における飛越地震(1858年)は かなり低い確率しかない時に発生したと述べた。 平均的な tex2html_wrap_inline6058 の値を用いて再計算した結果でも, 発生した時の30年確率は5%よりも低いことに変わりはないものの, Poisson過程での確率,つまり,地震は時間的に一定の確率で 不規則に発生すると考えたときの確率よりは大きな確率で起こったことが分かる。 善光寺地震(1847年)発生直前の長野盆地西縁断層や現在の牛伏寺断層は, 兵庫県南部地震の直前時点の野島断層よりも,高い確率になっていることが分かる。 断層の活動間隔のばらつきを考慮すると,牛伏寺断層の次回の活動時期については なお100年以上のあいまいさが残るが, 今回扱っている統計モデルからはこれ以上のことは推定できない。

さて,確率の数字の使い方について,統計的仮説の有意性の検定において, 統計学の習慣では,有意水準を5%あるいは1%に設定して, それ以下の確率しか持たない事象は起こらないと判断することが多い。 しかし,その有意水準の値に必然的な理由があるわけではない。 特に,統計的検定に基づく判断が誤った場合には重大な影響があるような案件では, 有意水準はもっと小さな値に設定されるべきであろう。 極端な場合には,可能性が0でない以上,対策をとっておく, という判断もあるかもしれない。 また,ここで取り扱っている確率の数字は, それを評価する期間の長短に応じて大小することも重要な性質である。 つまり,有意水準をある値に設定するとしても, それが30年間の確率なのか,100年間の確率なのかも同時に指定する必要がある。 一般に,確率を評価する期間の長さは, 対策の対象とするものの使用年限に応じて決定されるべきものであろう。


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地震調査研究推進本部
Wed Jan 13 17:30:00 JST 1999