地震調査研究推進本部の活動状況について
(この説明は「活断層研究」15号に掲載したものです)
平成8年 11月
科学技術庁防災科学技術推進調整官
岩渕 晴行
![]() 6千人を越える犠牲者を出した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて、地震に よる災 害から国民の生命、身体、財産を保護することを目的とした地震防災対 策特別措置 (平成7年6月16日公布、同年7月18日施行)が制定されまし た。この法律に づき、地震に関する調査研究を推進するため、平成7年7月1 8日付けで総理府に 震調査研究推進本部が設置されました。地震調査研究推進 本部は、本部長(科学技 庁長官)と本部員(関係省庁の事務次官クラス)から 構成され、そのもとに、関係 庁の職員及び学識経験者から構成される政策委員 会(委員長:伊藤滋 慶応大教授 と地震調査委員会(委員長:宮崎大和 (財) 日本測量調査技術協会顧問)が設置 れています。 地震調査研究推進本部は、地 震に関する調査研究に関し、 1.総合的かつ基本的な施策の推進 2.関係行政機関の予算等の事務の調整 3.総合的な調査観測計画の策定 4.関係行政機関、大学等の調査結果の収集、整理、分析及び評価 5.上記評価をふまえた広報 を行うこととしています。政策委員会は、このうち、1、2、3及び5について調 査審 議を行い,地震調査委員会は、4を行っています。2つの委員会は有機的に 連携し、 例えば、政策委員会が地震基盤調査観測の整備を担い、得られた情報 を地震調査委 会が評価し、その評価結果をもとにして、さらに政策委員会が広 報や新しい調査観 の整備計画を行うというように、地震の調査研究に関する企 画・調整・評価が緊密 進められることになります。以下、地震調査研究推進本 部の活動状況を説明します。 |
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![]() 政策委員会には調査観測計画部会、広報小委員会、予算小委員会の3つの委員 会が設けられています。 調査観測計画部会(部会長:長谷川 昭 東北大教授)は、地震調査研究の推進 方 策について検討を行い、調査観測計画を策定するために昨年10月に設けら れ、地震活動及び地殻変動等の観測施設の整備に関すること、活断層の調査に関 すること等を審議しています。 本年1月に調査観測計画部会は、「当面推進すべき地震に関する調査観測につ いて-- 基盤的調査観測の推進--」と題する報告書をまとめています。報告書で は、「当面、 長期的な地震発生の可能性の評価を行うことに配慮しつつ、体系 的な調査観測を格段に強化し、データの蓄積を図ることが必要である」との考え のもと、「発生する地震活動を客観的に把握するためには、全国的に偏りなくか つ継続的に調査観測を行い、基本的なデータを蓄積していくとともに、成果が広 く共有されることが必要である。このような調査観測は、地震活動を把握、評価 していく上での基礎となるものであるため、地震に関する基盤的調査観測と位置 づけて推進すべきである。」としています。基盤的調査観測の具体的内容は次の とおりです。 |
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(1)微小地震観測(高感度地 震観測) |
意義 |
内陸地震の震源決定精度を高め、地震の発生メカニズムの解明に貢献します。 |
現状 |
微小地震計は約500点(平成6年度末現在)。東海・南関東に重点整備され 全国に観測の空白域が存在します。 | |
計画 |
15〜20Km間隔を目安に全国的に観測施設を整備します。地震調査研究推進 本部事務局の見積もりでは全体で約100 0点となります。この観測施設を微 小地震から大地震まで観 測できるよう整備することについて陸域WG(後述) で検討 しています。 | |
(2)GPS連続観測 |
意義 |
地震の原動力である地殻の応力の変化を評価するために広域的な地殻歪を観測 します。 |
現状 |
GPS観測施設は約300点(平成6年度末現在)。東海・南関東に重点整備 され全国に観測の空白域が存在します。 | |
計画 |
地震調査研究推進本部事務局の見積もりでは、全体で約1000点となります 。 | |
(3)活断層調査 |
意義 |
内陸地震に関する長期的な評価を行うために活断層の位置、 活動履歴、長さ、変位量等を詳細に調査します。 |
現状 |
陸域に約2000の活断層が存在。活断層の位置等は概ね把握されていますが 、詳細な調査は不十分です。 | |
計画 |
規模が大きく活動度の高い断層、都市近郊の断層を対象として調査を実施しま す。地震調査研究推進本部事務局の見積もりでは全国で約100断層となります 。地方公共団体が科学技術庁からの交付金により調査するほか、通産省地質調査 所が調査します。 | |
これらの基盤的調査観測の実施体制と、さらに海域における調査観測、調査観 測結果の収集、流通について検討するため、陸域観測WG(主査 長谷川 昭 東 北大授)、活断層調査WG(主査:岡田篤正 京大教授)、海域観測WG(主査 :木下肇海洋科学技術センター深海部長)、調査観測結果流通WG(主査:本蔵 義守 東工大教授)の4つのワーキング・グループが設けられ、引き続き検討を おこなっていす。 各WGとも今年中に調査観測計画部会に報告することを目途 に、活発な調査議を行っています。 広報小委員会(委員長:廣井脩 東大教授)は、地震調査委員会の成果を的確 に活用し、効果的に広報を行うため、広報に係る課題の摘出、広報のあり方につ いて検を行うため設置されています。 阪神・淡路大震災の教訓の一つに、これ まで行わてきた地震に対する観測、測量、調査及び研究の成果が、国民に充分還 元されていいという指摘がありました。このため地震について総合的な評価を行 うだけでなくその結果を積極的に国民に周知していくことが重要と考えられ、広 報小委員会でそ基本的な考え方をとりまとめているところです。 予算小委員会 (委員長:萩原幸日大教授)は、関係省庁の地震調査研究の予算要求をとりまと めて地震調査研究予算の事務の円滑な実施に資するため、本年6月に設置され、 予算要求についての各庁からのヒアリングを行い、見積もりの方針を決定するこ ととしています。そのほ政策委員会では、今後5年から10年を見通して、地震 調査研究の推進に関する総的かつ基本的な施策の策定についても検討を行ってい ます。 |
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![]() 地震調査委員会では、定例会議及び臨時会議を開催し、地震活動の現状評価 を行っ ています。また、長期的な観点からの評価を行うために長期評価部会( 部会長:島崎邦彦 東大教授)を設置しています。なお、地震調査委員会の庶務 は、科学技術庁が総括し、気象庁、国土地理院及び文部省が共同で当たっていま す。 毎月開催される定例会議では、全国の地震活動について関係各機関の観測 データを収集して地震活動の現状を評価し、取りまとめています。地震調査研究 推進本部は、その結果を記者発表によりマスコミを通じて一般に公表するととも に、毎月開催される地震調査研究推進本部定例説明会で地方公共団体をはじめと する防災関係機関に公表しています。また、被害地震が発生した場合、顕著な地 殻活動が発生した場合等には、臨時会議を開催することとしており、これまでに 、伊豆半島東方沖の群発地震や、宮城県北部での地震など発足以来5回の臨時会 を開催し、地震活動の現状や推移について評価を行いました。 長期評価部会は、昨年12月に設置され、「地殻変動、活断層、過去の地震等 の資 料に基づく地震活動の特徴の把握」と、「長期的な観点からの地震発生可 能性の評価手法の検討と評価の実施」を審議事項としています。 地震活動の特徴の把握では、国民一般へ地震に関する知識を普及・啓発するこ とを 目的として、これまでに得られている知見を整理して各地域の地震活動の 特徴を分かり易くまとめることを基本的な方針としています。その中で、特に行 政区分ごとに分けてその地域に被害を及ぼす地震という観点から特徴を記述する ことにしており、地方公共団体の防災担当者の地震に関する理解の促進を図り、 地域防災の一助にしたいと考えています。これは、阪神・淡路大震災のように「 まさか大地震が起こるとは思っていなかった。」ということがないようにしたい という考えによるものです。 これに基づき、長期評価部会の下に地域別の分科会として、北海道・東北を担 当す る北日本分科会(主査:平澤朋郎 東北大教授)、関東・中部を担当する中 日本分科会(主査:島崎邦彦 東大教授)及び近畿以西を担当する西日本分科会 (主査:安藤雅孝 京大教授)を設置し、とりまとめを行っているところです。 長期的な観点からの地震発生可能性の評価については、2〜3年後にとりまとめ ることを目標に、定量的な評価の可能性を含めて長期評価部会でその手法を検討 しているところです。このうち、内陸の直下型地震の評価の重要な要素となり、 現在精力的に調査が行われている活断層については、それに関する調査結果につ いて審議を行う活断層分科会(主査:松田時彦 熊本大学教授)を設置していま す。これまでに糸魚川・静岡構造線活断層系などの活断層の審議を行っています 。 |
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![]() 以上の地震調査研究推進本部の報告書や評価結果は、地震調査研究推進本部の ホーム・ページ(http://www.sta.go.jp/jishin/welcome.html)で公表しており ますので、ごらんになっていただければ幸いです。 |