平成9年度の地震調査研究関係予算概算要求について


平成8年8月30日
                         地震調査研究推進本部



 地震調査研究推進本部は、地震防災対策特別措置法第7条第2項第2号の規 定に基づき、平成9年度の関係行政機関の地震に関する調査研究予算について、 当該概算要求の構想を関係行政機関から聴取し、調整を行ったところ、以下のと おりである。

平成9年度の地震調査研究関係予算概算要求について


I.基本的考え方
  1. 地震調査研究の目的
  2. 地震調査研究関係予算概算要求の基本的方針
  3. (1) 地震調査観測網の整備推進
    (2) 観測結果等の収集、流通及び総合的評価とその国民への広報
    (3) 基礎・基盤研究の推進
    (4) 地方公共団体における地震調査研究等の推進
    (5) 必要な組織、人員の拡充及び人材の育成

II.具体的な施策

(1) 地震調査観測網の整備推進
(2) 観測結果等の収集、流通及び総合的評価とその国民への広報
(3) 基礎・基盤研究の推進
(4) 地方公共団体における地震調査研究等の推進
(5) 必要な組織、人員の拡充及び人材の育成




 地震調査研究は、「地震による災害の軽減に資すること」を基本目標とし、 これを達成するため、


  @地震現象の解明及びそれに基づく長期的な地震の発生の可能性の評価
  A地震動の解明とそれに基づく地震動の予測等

を目的として行うものとす る。


 上記の地震調査研究の目的に基づき、以下の事項に重点を置き、平成9年度 の地震調査研究関係予算について概算要求を行うことが必要である。 目次

 地震調査観測については、地震調査研究推進本部政策委員会調査観測計画部 会が本年1月10日に決定した中間報告書において、当面陸域においては、@微 小地震観測、A地殻変動観測(GPS(汎地球測位システム)連続観測)、B活 断層調査の3課題を基盤的調査観測として推進することを提言した。また、海域 における調査観測の重要性も指摘した。  さらに、上記報告書策定後の調査観 測計画部会の議論において、強震観測及び広帯域地震計による観測についても、 基盤的調査観測として推進することが必要であると指摘されている。

i)地震観測等
 微小地震を対象に稠密な高感度地震観測網を整備し、観測を行う。これによ り、内陸地震の震源決定精度を高めるだけでなく、伏在する断層等の詳細な地殻 構造、応力分布等に関する知見の蓄積に寄与することが期待される。また、これ により、震源及び地震の正確な発震機構解を取得することが可能になると期待さ れる。
 広帯域地震計による観測網を整備し、観測を行う。これにより、震源域にお ける主破壊の発震機構、プレートさらには地殻構造の解明等にも寄与することが 期待される。
 近地の大規模地震を対象として強震計による観測網を整備し、観測を行う。 これにより、震源での短周期地震波の発生過程の解明、地盤の応答特性の解明を 行うとともに、地下の不均質構造の地震動への影響解明に資する。また、リアル タイムで強震動地域の把握を行い、被害予測に資するとともに、地震動の予測等 にも寄与することが期待される。
 さらに、海底地震計の整備により、海域における地震活動を精度よく把握す るだけでなく、陸域(沿岸域)の地震の震源決定精度の向上等にも寄与すること が期待できる。
 また、津波計、検潮儀を整備し、観測を行うことにより、地震時の津波発生 規模の評価研究に資することができる。
ii)地殻変動等の観測
 GPS連続観測網を全国的に展開し、観測を行う。これにより、地殻歪の時 間的・空間的変化を即時的・定常的かつ広範囲に把握することができ、地震の発 生にいたるまでの歪の蓄積及び応力変化に関する知見が蓄積されることが期待さ れる。また、地震観測による成果と合わせ、地震テクトニクスや地震発生のメカ ニズムについての知見が蓄積されることが期待される。さらに、地震発生後の地 殻変動についても即時的に捕捉することができるため、余効変動から、次の地震 への準備過程についての知見が得られることも期待できる。
 VLBI(超長基線電波干渉計)観測及びSLR(人工衛星レーザー測距) 観測を行う。これにより、基盤的調査観測であるGPSを補完し、プレート運動 等の広域地殻変動をとらえる。
 また、GPSと併せて全国の三次元的な地殻変動を面的かつ詳細に捉えるた め、高精度三次元測量、高度基準点測量、水準測量、天文測量、重力測量、辺長 測量、験潮儀による観測を行うとともに、よりローカルな地殻変動を捉えるため に、歪計、傾斜計、伸縮計等による観測を行う。
 そのほか、地磁気・地電流の観測、地下水等の地球化学観測を行う。
iii)地殻構造の調査
 活断層の位置を調査することは、内陸地震が発生する可能性のある場所を評 価する上で有効である。また、活断層の過去の活動時期の調査は、内陸地震が発 生する時期を評価する上で有効である。さらに、活断層の長さ、変位量の調査は 、内陸地震の規模を評価する上で有効である。このため、地形地質調査、物理探 査、ボーリング調査、トレンチ調査等により、活断層の活動履歴の解明を目指す 。
 また、人工地震探査等弾性波探査、電磁気探査、重力探査等により、地下深 部構造の把握に努め、発生する地震の場所・規模の推定、地震動評価に必要とな る地盤構造の把握を目指す。さらに、津波の評価に必要となる海底地形の把握の ために、海底地形調査を行う。 目次

 地震調査観測結果等については、地震防災対策特別措置法に基づき、気象庁 (地域地震情報センター)における収集を促進するとともに、地震調査研究推進 本部において、これら調査観測結果の分析及び総合的な評価を有効に行えるよう 、体制の整備を行うことが必要である。
 さらに、地震防災と地震調査研究の推進に資するためには、関係各機関、研 究者等が、観測結果、研究成果等を広く共有することを可能とする流通体制の整 備が不可欠である。現在、地震調査研究推進本部政策委員会調査観測計画部会で は、調査観測結果の流通体制等に関して、ワーキンググループを設けて検討を行 っている。この検討結果を踏まえつつ、調査観測結果の流通体制整備を推進する こととし、今後、必要な予算措置を講じていくことが極めて重要である。
 さらに、地震調査研究推進本部政策委員会広報小委員会では、昨年11月か ら地震調査研究に係る広報のあり方について議論を行っており、地震調査研究成 果の社会的還元をはかるため、防災対策との連携を考慮しつつ、地方公共団体を 始め国民一般への地震に関する正確で分かりやすい広報を実施することが重要で ある。 目次


 地震調査研究の進展に資するため、震源核形成に関する理論研究、岩石破壊 実験研究、地震サイクルのシミュレーションによる理論研究、観測機器・手法の 研究開発等を行うことが重要である。学際的な研究領域については、各専門分野 の有機的な連携を図り、多分野の国内外の研究者を結集した研究体制を整備する ことが重要である。また、幅広い視点から地震に関する先端的な研究を推進する ことが重要である。 目次


 上記の地震調査研究及び国民への広報は、国のみならず、地方公共団体の協 力も得つつ、地域に密着して行うことが効果的である。このため、平成7年度お よび平成8年度に創設された各地方公共団体への交付金制度及び補助金制度に基 づく事業を、平成9年度においても引き続き実施する。 目次


 これらの施策を円滑かつ効果的に推進するため、地震調査研究に携わる組織 、人員の拡充を図ることが不可欠である。また、国・地方公共団体における地震 防災担当者を対象に、地震調査研究に関する研修を行うことが重要である。 目次





i)地震観測等
 微小地震観測に関しては、大学等における観測研究に加えて、科学技術庁等 により基盤的観測網の全国的な整備を引き続き推進するとともに、巨大地震発生 時等の緊急調査研究への対応の推進を図る。運輸省気象庁においては大中小地震 観測施設等について、これまでに整備した施設の更新等、その維持に努める。海 底地震計については、科学技術庁、大学、気象庁により、ケーブル式海底地震計 や自己浮上式海底地震計による観測を行うとともに、引き続きケーブル式海底地 震計による観測網の整備を進める。
 広帯域地震計に関しては、科学技術庁防災科学技術研究所等における観測研 究に加えて、科学技術庁により、基盤的観測網の全国的な整備を推進する。   強震計に関しては、気象庁により整備された震度観測網による強震観測及び防災 科学技術研究所により整備された強震ネットワークによる観測を継続するととも に、建設省により所管の施設に設置を行っている地震計ネットワークシステムの 整備を継続して行う。また、科学技術庁により、基盤的調査観測網の全国的な整 備を推進する。
 津波観測に関しては、気象庁等により津波計、検潮儀の整備・運営を継続し て行う。
ii)地殻変動等の観測
 GPS連続観測施設に関しては、建設省国土地理院等により基盤的観測網の 全国的な整備を行うとともに、特定地域の観測研究、緊急調査研究への対応の推 進を図る。
 VLBI、SLRを活用した地殻変動観測・研究に関しては、郵政省通信総 合研究所等により引き続き実施する。傾斜計、伸縮計、歪計等を用いた地殻変動 連続観測・研究に関しては、大学、気象庁等によりその強化に努める。高精度三 次元測量、高度基準点測量、天文測量、水準測量、重力測量等については、国土 地理院等により引き続き実施する。  また、運輸省海上保安庁、国土地理院等 においては、面的に地殻変動をとらえるために、SAR(合成開口レーダ)干渉 解析による地殻変動測定の研究を行う。
 海域での地殻変動観測については、海上保安庁等においてGPS、SLRを 用いた地殻変動監視観測やプレート運動の観測を行うとともに、地殻変動監視の ためのシステムの構築及び観測を行う。また、巨大地震の発生が懸念されるプレ ート境界域において、精密海底反射強度観測を行い、海底の微細な変動地形を明 らかにする。
 潮位差観測については、国土地理院等において、引き続きその充実に努める 。  地磁気、地電流の観測・研究については、気象庁等において引き続き実施 するとともに、海域での観測については海上保安庁等において観測手法の開発を 行う。
 地下水等地球化学連続観測・研究については、地質調査所、大学等において 引き続き行う。
iii)地殻構造の調査
通商産業省工業技術院地質調査所等において、全国の活断層のうち、発生が想 定される地震の規模が大きく活動度の高い断層、あるいは都市部の近郊に存在す る活断層を対象に、トレンチ調査、ボーリング調査、物理探査等の各種調査手法 により、活動履歴や地震発生ポテンシャルを解明する調査・研究を実施する。国 土地理院においては、都市圏における活断層の詳細な位置の調査を空中写真の判 読等の変動地形調査等により実施する。科学技術庁では、活断層調査を実施する 自治体に対して交付金を交付し、活断層調査の推進を図る。また、科学技術庁で は、深さ数十キロまでの地殻構造を調査し、活断層の地下における形状の調査を 推進する。大学においては、人工地震による地下深部構造調査を行い、地震発生 の場であるプレート沈み込み帯や内陸地殻の詳細な構造を調査する。また、海上 保安庁、地質調査所等により、引き続き海底地形地質構造調査、海底活構造調査 、海底活断層調査を行う。 目次

 科学技術庁、大学、気象庁は、気象庁における観測結果等の収集を推進する 。 また、科学技術庁では、地震防災、地震調査研究に資するため、観測結果等 を積極的かつ迅速に流通するための体制の整備を推進する。  気象庁では、気 象庁本庁の地震活動等総合監視システムの維持、管区気象台、沖縄気象台の地震 津波監視システムの維持に努めるとともに、科学技術庁では、関係機関の協力の 下に、地震調査研究推進本部における観測データ等の分析及び総合的な評価に関 する体制の整備を推進する。  さらに、気象庁等では、過去に観測された地震 に関するデータ等のデータベースの構築を行う。  そのほか、科学技術庁では 、地震調査研究推進本部政策委員会広報小委員会の議論に基づき、地震等に関す る国民の理解を促進するための施策の積極的な展開を図る。 目次

 各省庁において、別表2に示された様々な基礎・基盤研究を行う。  科学 技術庁では、深さ数十キロまでの地殻構造を調査し、活断層の地下における形状 の調査を推進する。また、各種観測データを活用し、大規模な地震が発生した場 合に、地震の主要動が到達する前に警報を出すとともに、リアルタイムで強震動 地域の把握を行う試行的なシステムを構築し、その実用性についての検討を図る 。防災科学技術研究所では、地震発生機構に関する研究を継続する。大学では、 地震発生のポテンシャル評価のための特別観測研究等の総合的観測研究事業及び 基礎研究の推進を継続して行う。地質調査所では、活断層調査等により、地震発 生ポテンシャル評価の研究を行う。気象庁気象研究所では、南関東における応力 場と地震活動予測及び内陸部の地震空白域における地震・地殻変動に関する研究 を継続して行う。通信総合研究所では、海底トラフ周辺に電磁界観測システムを 整備し、異常電磁波をオンラインで捕らえる研究を継続して行う。国土地理院で は、スーパーコンピューターを用いて地殻活動をシミュレートする、地殻活動総 合解析の研究を継続して行う。 目次

 科学技術庁では、活断層調査の推進を図るため、活断層調査を実施する地方 公共団体に対しては交付金を交付する。  また、科学技術庁では、微小地震計 、強震計等の地震調査観測施設の整備を行う地方公共団体に、事業費の補助を行 うとともに交付金を交付し、地震観測施設の整備を推進する。 目次

 これらの施策を円滑かつ効果的に推進するため、各関係機関において必要な 組織、人員の拡充を図る。また、科学技術庁では、地方公共団体における地震防 災担当者を対象に、地震調査研究に関する研修を推進する。


 以上に基づく、平成9年度の地震調査研究関係予算概算要求は、別表1及び 別表2のとおりである。 目次

予算小委員会名簿

 主 査  萩原 幸男    日本大学文学部教授
 委 員  安藤 雅孝    京都大学防災研究所教授
      菊地 正幸    東京大学地震研究所教授
      土岐 憲三    京都大学工学部教授
      鳥井 弘之    日本経済新聞論説委員
      廣井 脩     東京大学社会情報研究所教授
      本蔵 義守    東京工業大学教授

予算小委員会における審議経過

  平成8年7月26日 第1回予算小委員会
  平成8年7月30日 第2回予算小委員会
  平成8年8月19日 第3回予算小委員会

別表1.平成9年度地震調査研究関係政府予算概算要求(省庁別)

目次