資料 成4−(5)
震災対策の現状と課題
H12. 5.30
国土庁防災局
○地震防災に関する調査の成果を地震被害の軽減に活かすことが重要。
@ 地震防災対策の必要性を、防災関係者はもちろん、企業や住民が認識し、自らの問題として自覚することが不可欠であることを考慮すると、理学的・工学的見地に基づく調査研究の成果は、一般にも理解できる内容、表現とする必要がある。(指標を定量的に示すだけなく、定性的な解説を加えたり過去の被害地震と比較するなど)
A 地震発生可能性の評価等を行政における各種対策に反映させるためには、基準,規制等の根拠となりうる程度の具体性が求められる。
○地震対策には、「いつ」「どこで」「どの程度の」地震が起きるかについての情報が、予防対策・応急対策・復興対策の各段階において、優先度に違いはあるものの、いずれも不可欠である。これら各段階において、それぞれの対策を推進するにあたっては、各段階における防災対策を精緻・詳細に講じるために、調査研究の成果が活かしうるものとしては、例えば以下のことが挙げられる。
@予防対策
予防対策を進めていく上で求められる、調査研究の成果から得られるより精緻な情報としては、住民や地方自治体が予防対策を行う必要性を認識するための情報と行政が個々の対策を行うにあたって必要となる基準を決定するための情報とが考えられる。
A. 関係者が震災対策の必要性を認識する基となる情報
<活用方法>
・住民等への地震発生可能性の認識
→地震の発生可能性の評価の公表やハザードマップ,液状化マップの作成等により、住民,企業に地震の切迫性・危険性や想定される被害等についての知識を広め、地震対策に対する意識の向上を図ることにより、地震発生時における心構えの確認、構造物の耐震化等の民間における防災施策の実施を促す。
・地方公共団体等における震災対策の重点化
→地震発生可能性の評価等を踏まえ、地方公共団体が想定される地震に備えて、計画的な防災施設の整備、応急対策の備え等につき、効果的な対策が可能となる。
・国の地震防災に関する重点ポイントの決定
→東海地域、南関東地域等地震発生の可能性の高い地域、地震が発生した場合甚大な被害が予想される地域等に政策資源を重点配分した施策の推進が可能となる。
<課題>
住民等に地震を自らの問題として自覚し、具体の震災対策を講じようとの動機付けを与えるためには、住民等が興味を抱き、理解し、かつ行動に結びつく内容・表現であることが必要。しかしながら、このような「人を動かす」情報は、学術的に客観的かつ正確な情報とは必ずしも一致せず、住民等の地震防災意識の高揚に結びついていないのが現状。
B. 行政が対策の基準を決定する上で根拠となる情報
効率的に地震防災対策を推進するためには、精緻な分析に基づいて設計外力を算出し、耐震基準等を定めることが必要である。
<活用方法>
・耐震基準の設定
→阪神・淡路大震災を受けて改訂された防災基本計画においては、構造物・施設等の耐震性の確保についての考え方が見直され、基本的な目標が以下のように定められた。
a.供用期間中に1〜2度程度発生する確率を持つ一般的な地震動(レベル1地震動)に対して、機能に重大な支障が生じないこと。
b.発生確率は低いが直下型地震又は海溝型巨大地震に起因する更に高レベルの地震動(レベル2地震動)に対して、人命に重大な影響を与えないこと。このうち、強震動予測手法の高度化,活断層調査等によりレベル2地震動を想定することにより、耐震基準の設定が可能となる。
・地震被害の想定
→種々の調査結果より基準となる地震動について位置、規模等の設定が可能となり、これに基づき想定される地震被害を把握し、地域防災計画の策定等に活かす。
・土地利用の決定
→活断層調査,液状化調査等によって地区毎の危険度を把握し、土地利用計画の参考とする。
<課題>
地震対策の推進においては、各地域における危険度の把握が不可欠であるが、地域毎のレベル2地震動については未だ設定がなされていない。その他、地震危険度マップや地震動予測地図等を作成する必要がある。
A応急対策
応急対策を円滑に実施するためには、観測技術の向上等によって得られるいち早く、かつ正確な情報,またそれを把握するための情報体系の整備が重要である。
・地震予知に関する研究の推進
→現状においては、東海地震を除き地震の直前予知は困難であるが、それが可能となった場合には避難等の適切な対策をとることによって大幅に被害を軽減することが可能となる。したがって、今後も直前予知の実用化に向けて調査研究を推進していく必要がある。
・地震災害軽減に関する対策
→ナウキャスト地震情報等による地震発生の早期把握により、地震災害の軽減に努める。
・速やかな応急対策の実施
→地震被害早期評価システム(EES)等により、各地の被害状況を早急に把握し、応急対策に活用する。
B復興対策
復興対策においても地震防災に関する調査の成果が事前に求められる。
・地震保険の料率の決定
→種々の調査研究の成果から得られる各地域における危険度(地震動の程度,液状化の有無等),個々の構造物についての耐震性に関する評価等に基づき、より精緻な地震保険の料率の決定が可能となる。
(別紙1)
震災対策の体系
(別紙2)
「中央防災会議大都市震災対策専門委員会提言 −大都市地域の震災対策のあり方について−」(平成10年6月10日)
目次
T.総論
第3 大都市地域における地震活動
第4 大都市地域における大規模震災の特殊性
第5 大都市地域における震災対策の重点課題
第6 地震発生可能性の評価に関する情報の活用のあり方
第7 大都市地域の震災対策に関する各種の対策の体系的あり方
第8 大都市地域の震災対策の推進体制
第6 地震発生可能性の評価に関する情報の活用のあり方
地震発生可能性の評価に関する情報の活用については、大都市地域に限らず全国共通の課題であるが、特に、大都市地域における大規模震災による被害の甚大性等を踏まえれば、事前対策を確実に行うことが重要であり、そのために地震発生可能性の評価に関する情報を活用する意義は大きいため、本専門委員会で検討を行ったものである。
1 地震発生可能性の評価に関する情報の防災対策への活用のあり方
(1) 地震防災に関する調査研究のうち、地震による被害の軽減に資するものとして、地震学を中心とした地震調査研究の成果による地震発生可能性の評価がある。
地震発生可能性の評価については、いつ(時間を示す要素)、どこで(場所を示す要素)、どの程度の大きさ(規模、地震動の大きさを示す要素)という3要素を備えた情報とし、防災機関のほか、行政、住民、企業、施設管理者などが行う具体的な防災対策・防災行動(施設・構造物等の耐震化、都市基盤整備、応急対策の備え、施設等の立地選択等)に結びつけるようその情報を活用することにより、死者の軽減、二次災害の軽減、国民生活や地域経済への影響の軽減など地震による被害の軽減に繋げることが可能となるものである。
(2) 地震発生可能性の評価については、地震調査研究推進本部等を中心とした地震調査研究の進展に伴い、活断層に関する評価や余震確率評価手法など新たな成果が得られつつある一方で、現在の調査研究の水準の限界から、その成果に関する情報を具体の防災対策・防災行動に活用する上での課題も多いが、次のような課題に留意して、関連する調査研究との連携を図りながら、検討を進める必要がある。
@ 情報内容についての検討の必要性
地震発生可能性の評価を情報として伝える際には、定量的な評価と定性的な解説を併せて発表することや、他の地域との比較や過去の地震との比較についての情報も併せて発表するなど、情報内容に工夫を講じることにより、防災機関や住民の防災対策・防災行動に繋げやすい形で発表するよう、検討を進めるべきである。
特に、長期的な期間を対象とする地震発生可能性の評価に関する情報については、地域における地震発生の危険性・切迫性を実感できる情報内容とする必要がある。例えば、数十年単位の期間を対象とした情報として提供されることが望ましい。
A 地震発生可能性の評価を的確に活用する手法の必要性
活断層に関する評価をはじめとする地震発生可能性の評価に関する情報を、地域の防災体制、被害想定やハザードマップ、住民に対する広報・啓発の材料などとして具体的に応用・活用する手法について、検討を進めるべきである。
その検討においては、地震発生可能性の評価に関する情報を具体的な手法に応用・活用可能なものとするとともに、その手法については、行政や住民の災害予防のための対策・行動に具体的に繋げる契機となるよう留意する必要がある。その際、地震学と関連工学(土木工学、建築学等)、社会学など関連分野との相互連携により、調査研究を総合的に推進する必要がある。
B 情報を行政や住民の具体の対策・行動に繋げる方策の必要性
地震発生可能性の評価に関する情報を地域防災計画、被害想定やハザードマップ、住民に対する広報・啓発の材料などとして活用し、地震による被害の軽減という効果を達成するためには、地震学的な情報及びそれを応用・活用した情報をさらに行政や住民の具体的な防災対策・防災行動に繋げる方策が必要である。
このため、例えば次のような方策について、地震発生可能性の評価に関する情報を活用可能なものとするとともに、それを行政や住民の具体の防災対策・防災行動に繋げることが可能となるよう、検討を進める必要がある。
・ 都市整備による火災の延焼防止や救助体制の準備等の事前の備えに結びつけるための方策として、防災都市づくりの目標・マスタープランを策定し、地域防災計画、都市計画等に反映すること。
・ 危険地域への立地を減少させるような選択に結びつけるための方策として、軟弱地盤、液状化危険地域、土砂災害危険区域、延焼危険区域など土地条件等に応じた詳細な危険性を把握し、住民に対する公表により周知すること。
・ 施設・構造物等の耐震補強による倒壊防止、ライフラインの支障防止等に結びつけるための方策として、公共施設及び民間施設の耐震性の評価・診断結果を活用すること。
C 調査研究の成果の活用に当たっての重点化の必要性
地震発生可能性の評価に関する情報を地震による被害の軽減という最終的な効果に結びつけていくための方策を検討するに当たっては、死者の軽減等重要な効果に確実に結びつく分野に特に重点を置いて、情報の活用を検討する必要がある。
例えば、阪神・淡路大震災では圧死が死因の9割近くを占めたことから、圧死者の軽減に確実につながる個人住宅の耐震補強を促進するため、地震発生可能性の評価に関する情報をどのように住民に伝え、耐震診断・耐震改修という行動に繋げていくかについて、特に重点を置いて検討を進める必要がある。
D 地震予知研究の推進
地震の直前予知は、東海地震を除き一般には困難であるのが現状であるが、地震の直前予知が可能となれば適切な予防措置をとることによって地震による被害を大幅に軽減できる可能性がある。
被害の軽減を図るための事前対策としては、直前予知に全面的に依存するのではなく、予防対策や応急対策の備えのための施策が重要であることは当然であるが、それらにより被害を軽減することには限界があること及び直前予知の効果の大きさを考慮した場合、今後も直前予知の実用化に向けた期待は大きい。そのため、地震発生に至る全過程の把握によってその最終段階にある地域の特定を進めるなど、将来的な地震の直前予知の実用化を目標とした調査研究推進の努力を今後も継続する必要がある。
2 地震防災対策と地震調査研究との関係のあり方
阪神・淡路大震災以後に設けられた地震調査研究推進本部を中心として、地震調査研究の新たな成果が得られつつあり、防災機関は、その成果を十分に理解するよう努める必要がある。また、地震調査研究においては、今後、その成果による情報が防災機関や住民の防災対策や防災行動に一層実効的に活用可能なものとなるような調査研究を一層推進することが望まれる。
このため、今後、「地震による被害の軽減」という共通の目標のもとに、防災対策と地震調査研究の相互の連携を一層図る必要があり、両者の情報交換を行うための場を設けることなど連携の具体的あり方を検討する必要がある。中央防災会議においても、地震調査研究推進本部等との連携を図りつつ、地震調査研究の成果を活用した防災行政の推進及び防災行政に実効的に活用可能な地震調査研究の推進を図るべきである。
また、地震学における調査研究と地震学以外の地震防災に関する研究についても、相互の連携を一層図りながら総合的に推進し、防災行政への活用を図っていく必要がある。
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