関東平野南部の地下構造調査
−横浜市、川崎市を中心とした神奈川県東部地域に関する調査−
1 目的
兵庫県南部地震において、神戸市街を中心に震度7の地域が帯状の狭い地域に発生しました。これは「震災の帯」と名付けられ、原因の1つに基盤(地殻最上部)の3次元的形状が考えられています。
横浜市、川崎市を中心とした神奈川県東部地域は、人口が集中し防災上重要建築物が多く存在しており、このような「震災の帯」が発生した場合、大きな被害が発生する可能性があります。
そこで、神奈川県、横浜市及び川崎市では共同で横浜市、川崎市を中心とした神奈川県東部地域の基盤の構造を含めた地下構造を明らかにし、長期的に地震災害に強いまちづくりの基礎資料として活用することを目的として調査を行いました。
なお、この調査は、神奈川県地下構造調査合同準備委員会(委員長:嶋悦三東京大学名誉教授)、横浜市地下構造調査委員会(委員長:小島謙一横浜市立大学理学部長)及び川崎市地下構造調査委員会(委員長:小林啓美東京工業大学名誉教授)の指導のもとに実施しました。
2 調査内容
次のとおり調査を行いました。
文献調査 |
研究成果や問題点などを明らかにするために、関東平野の地下構造に関する既存の主要文献を調べました。 |
屈折法探査 |
地下の速度構造を明らかにするために、バイブレーターを用いて地震波を発生させました。 |
反射法探査 |
地下の層厚を明らかにするために、バイブレーターを用いて地震波を発生させました。 |
微動アレー探査 |
地下構造を推定するために、海の波浪などにより地面が動くことを観測し、他の観測点と比較しました。 |
高密度強震計ネットワークシステムを
活用した自然地震解析 |
地下構造を推定するために、横浜市が市内150ヶ所設置した地震計を用いて自然地震を観測しました。 |
3 調査結果(この調査結果は、横浜市、川崎市の見解によるものです。)
横浜市調査結果
- 文献調査から、横浜市南東部に基盤(先新第三系)が周辺より深い領域が存在すること、浅部の堆積層(上総層群)が横浜市域においてほぼ南西から北東にかけて厚くなる傾向が確認されました。また、横浜市域の弾性波速度は概ね4〜5層構造であることが確認されました。
- 既存人工地震データの再解析の結果、横浜市南東部において基盤深度が3500m程度の深い領域(金沢区、神奈川区、戸塚区東部など)が存在することが再確認され、新たに横浜市北部(都筑区、港北区)においても同様の深い領域が存在することが判明しました。また、横浜市南東部における4.8km/s層の層厚が厚い地域(泉区、金沢区など)と北東部における4.8km/s層の層厚が薄い地域(鶴見区等)が確認されました。今回新たに確認されたこととして、横浜市北部にも4.8km/s層の層厚が厚い地域(都筑区、港北区)が存在することが挙げられます。
- 高密度強震計ネットワークシステム観測記録を用いた解析の結果、地震によらず横浜市の南東部と北西部に走時遅れが大きい領域が存在し、中央やや西よりの地域では走時遅れが小さいことが判明しました。P波及びS波走時を使用した解析の結果、横浜市南東部及び北部に基盤深度が3500m程度の深い領域が存在する3次元速度構造モデルによってこの傾向が説明されることが確認されました。
- 微動アレー探査の結果、微動アレー探査の観測点全25点において位相速度分散曲線を求めることができ、大アレー5地点については位相速度分散曲線から逆解析により1次元のS波速度構造を推定することができました。速度構造としては6〜7層構造であり、S波速度のコントラストの最も大きい深度は2〜4kmであり、その速度は1.4〜1.8km/sから2.6〜3.3km/sに大きく変化しています。
- 上記調査結果をもとに作成した3次元速度構造モデルにより強震計ネットワークで観測されるP波、S波走時をほぼ説明できることが分かりました。
川崎市調査結果
- 大型バイブロサイス(油圧制御によるバイブレーター)による反射法探査の結果については、尻手黒川線という幹線道路沿いであったことにより、高ノイズのため必ずしも良好とは言えませんが、測線長約16kmにわたり、先新第三紀紀基盤の深度と形状及びその上部の堆積構造が明らかになりました。
- 基盤深度は測線の東端、中原区井田で約3100mであり、西方に向かって徐々に浅くなり中央部で傾斜が急になり、麻生区黒川付近で2500m弱でした。
- 基盤上部の堆積層については、表層の低速度層を除くと浅部から基盤までの速度は約1.8km/sから約3.5km/sまで変化します。この地域の上総層群と三浦層群の境界は、深度約1500mと考えられますが、この境界付近及び三浦層群の中では、水平方向の速度変化が大きく、不整合を示すパターンが見られ、また麻生区上麻生の付近では、凸状のアノマリー(特異点)が認められます。
- 反射法探査の受振器展開を利用した超高密度・多大チャンネルの屈折法探査は、データの信頼度の点で有効でした。
- バイブロサイス5台の約100重合による夜間発振で、震源距離約20kmまでの初動屈折波の検出ができ、基盤のP波速度が求められました。ただし、黒川地点での発振は、地表地質の悪条件のせいか、減衰が大きくなりました。
- レイトレーシング法及びタイムターム法による解析結果では、基盤の速度は約5.2km/sとなりました。
- P/S波油圧インパクタを振源とし、3成分地震計を用いて500mの測線でS波スポット反射法探査を実施し、深度500mまでのS波の速度が得られました。しかし、交通ノイズが大きく、深部(700m以深)のデータは得られませんでした。
- 反射法測線の西端の北約5kmの地点の府中地殻活動観測井(約2780m)における、油圧インパクタ振源・3成分孔内地震計によるVSPデータから、P/S波の垂直方向の速度が精度よく求められました。
- その結果、地表から基盤(四万十帯と考えられる)までのP波速度は、地表から約100mまでの低速度域を除くと、約1.7〜約3.1km/sまで増加し、基盤岩では平均4.9km/sの速度でした。また、S波速度については地下100mから基盤までは、約0.5〜約1.4km/sまで増加している。
- VSPのデータから求めた深度に対するVp/Vs比は、地表近くで4.5以上を示し、急速に減少して深度約400mから基盤までは、2.5から2.0の間になる。基盤岩中では平均1.7となります。VpとVsの関係については、基盤岩上の堆積層について、Vp約1.7km/s以上の領域では直線的な関係が顕著であり、回帰式として、Vs=0.8Vp-0.8(1.7km/s<Vp<3.0km/s)が求められました。
図4 反射法探査結果(川崎市)
4 問い合わせ先
神奈川県防災局防災消防課計画班
tel 045-201-1111(内線3632〜3634)
fax 045-212-8340
横浜市総務局災害対策室
tel 045-671-3454
fax 045-641-1677
川崎市建設局防災対策室
tel 044-200-2840
fax 045-245-8959
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