三重県の活断層調査

【布引山地東縁断層帯に関する調査】

1)調査地域及び断層位置

調査対象地域は、布引山地の東麓一帯で、亀山市から関町、芸濃町、安濃町、美里村、そして。県庁所在地である津市を経て、久居市に至る本県の中部に位置する。


図1 調査対象地域

 

 


2)調査実施概要

平成9年度は、既存資料調査、地形・地質調査及び物理探査を実施して、布引山地東縁断層帯の概要の把握に努めた。
なお、平成10年度には、この調査結果を基に、ボーリング調査やトレンチ調査を実施し、当該断層帯にかかる最終的な評価を行うこととしている。
 


3)調査結果の概要


(1)既存資料調査の概要

既存資料調査は、活断層の実態や研究史、古地震資料及び断層や地下の地質情報を入手し、地形・地質調査、ボーリング調査、トレンチ調査の基礎資料とするために行った。
地域地質や一志断層系に関する64篇の文献を収集した。各文献の詳細は、報告書巻末の「文献目録及び要旨」に収録してある。

@古地震資料等調査の概要
液状化の発生による噴砂の跡が、遺跡の発掘によって発見されており、三重県教育委員会埋蔵物文化財発掘センターから資料等を入手した(中勢道路関連の発掘調査:津市内、資料は2種類)
伊勢神宮文庫へ赴き古文書を調べたが、新たな知見は得られなかった。
また、その他にも、宇佐美(1997)、武者(1995)及び震災予防調査会(1904)などの文献も調べたが、調査地の布引山地東縁地域の活断層に起因したと見られる歴史地震は見出せなかった。
A既存ボーリング調査資料の概要
断層調査の地層状況と断層変位等を検討するために、建設省出先事務所、県出先事務所、各市町村及び日本道路公団等から、多数の既存のボーリング調査資料を収集した。収集したボーリング資料は、合計419本であり、各市町村ごとに整理番号を付けて、報告書巻末の「既存ボーリング資料一覧表」に整理した。


(2)地形・地質調査の概要

地形・地質調査は、布引山地東縁断層帯周辺の地形や地質を把握し、活断層に関する地形・地質情報を入手するために実施した。調査場所は明瞭な変位地形が認められる地域とした。

@地形面の対比
調査地の河川沿いには新旧の段丘面が発達しており、本調査では沖積面との比高・連続性・傾斜や開析度等に基づいてこれらをH1〜L2までの6段に区分した。地形面の各文献との対比は表1に示すとおりである。

 


表1 地形面対比表

 

A地形概要
布引山地は南北に連なる鈴鹿山脈の南に位置し、東縁は一志断層で境され、比高数百mの急崖を形成している。山地の東側には、東へ緩く傾斜する扇状地性の段丘面が発達し、丘陵地を形成している。調査地の河川は北から順に、安楽川、前田川、鈴鹿川、安濃川、雲出川の各主要河川が、北西から南東へ、もしくは西から東へ流下し、河川沿いには沖積面が発達する。

B地質調査
調査地に分布する地質は、以下のように大別される(表2参照)。
調査地西側はほぼ南北に山地が連なり、その東縁に丘陵地と平野が広がる。山地の大部分が新期領家花崗岩類からなり、一部、津市の長谷山に領家変成岩類が分布する。丘陵地には新第三系とこれを覆う段丘堆積物、主要河川沿いには沖積層が分布する。 

 


表2 地質層序表

 

(3)物理探査の概要

4地区で、主にP波による反射法探査を行った(椋本地区だけはS波による探査を併用)。測点間隔等の探査仕様は測線ごとに異なる。

@白木地区(P−1)
比較的浅部で東海層郡相当の反射面がある。深部の反射強度はあまり強くない。中央部に西傾斜の、東海層郡を切ると見られる断層等(白木断層)が認められた。これは地表踏査と地形判読で推定された断層位置と整合的である。


図2 解釈断面図


A椋本地区(P−2、S−1)
明瞭で平行な反射面が深部まで続いている。東海層郡を大きく変形させた撓曲構造及び断層(椋本断層)が捉えられ、西方の逆向き低崖に相当する断層(層面すべり)も推定された。また、S波探査と、P波重合前のフィルター処理(低周波カット)によって浅部の構造がより明確になった。

 


図3 解釈断面図



図4解釈断面図

 

B片田地区(P−3)
明瞭で平行な反射面が深部まで見られる。東海層群及び一志層郡の大規模な撓曲構造と西傾斜の断層構造が明瞭に把握できた。また、西上がりの逆断層であることも推定された。この断層は地表の沖積面に変位を与えておらず、“伏在断層”と言える。撓曲構造は「久居撓曲帯」(吉田ほか、1995)に相当する。

 


図5 解釈断面図

 

C庄田地区(P−4)
浅部に比較的明瞭な平行する反射面が見られる。深部は不明瞭である。測線中央部に一志層郡を切る複数の小断層(概ね西傾斜)が確認された。これは踏査と地形判読から推定された庄田断層の位置と調和的である。

 


図6 解釈断面図


4) 今後の課題と調査

今回の調査で、布引山地東縁地域の地質構造、断層変位地形については、ほぼ把握できた。特に、椋本地区、庄田地区では、段丘面を切る断層変位地形が明瞭であり、かなり正確に断層位置が推定できることから、今後は、地質精査、断層を挟んだボーリング調査、断層位置におけるトレンチ調査、年代試料・火山灰試料の分析等の調査を実施することによって、本地域の活断層の特性が、一層明らかになると思われる。
なお、平成10年度は、この2地区を中心に、ボーリング調査及びトレンチ調査等を行う予定である。
 
 


5)問い合わせ先


三重県地域振興部消防防災課 防災・情報グループ
         TEL:059−224−2157
         FAX:059−224−2199


○ただし、この解析及び評価は、三重県の見解です。



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