用語解説「重力異常」

 重力異常とは、文字通り「重力」の「異常」のことです。ここでいう「重力」とは地球上での重力加速度のこと、「異常」とは重力加速度の実測値と地球上での標準的な重力加速度の値との差のことを指します。
 地球上の物体には、地球からの引力と、地球の自転による遠心力が働きます(これらの力を合わせたものが重力です)。万有引力の法則と遠心力の性質から、ある地点の重力は標高と緯度に応じて決まることが期待されます。
 ところが、実際に重力を測定すると、標高と緯度から期待される重力値よりも、ごくわずかにずれた値になります。ずれの原因は、測定地点周辺の岩盤の密度の違いや、地形(周りの岩盤が引力を及ぼすため)にあります。測定値から地形の効果を除去し、さらに、平均的な密度の岩盤が海抜0mより上に存在すると仮定して、その岩盤からの引力を取り除いても残る重力値の差を、ブーゲー異常と呼びます(以降、重力異常と呼びます)。
 重力異常は、地下に高密度の岩石があると大きくなり、低密度の岩石があると小さくなります。平野など厚い堆積層に覆われた場所であっても、地下の岩盤に大きな起伏があると、重力異常値に起伏が現れます。この性質を利用することにより、基盤面に大きな落差を持つ断層を推定することができます。
 地震調査研究推進本部地震調査委員会による活断層の長期評価では、平成22年11月に公表された新たな評価手法(活断層の長期評価手法(暫定版))に基づき、地表で認められる断層の長さと、地下の断層の長さを別々に評価するように変わりました。平成25年2月に公表された九州地域の活断層評価では、活断層の地下での連続性が評価されましたが、このとき「重力異常」が重要な情報の一つとして用いられました。
 図1は九州地域の重力異常の変化率と活断層分布を示した図です。九州の中南部は正断層の多い地域です。断層を境に基盤に段差があることが期待されますが、重力異常の変化率が大きい場所に活断層が位置しています。図2は佐賀平野北縁断層帯付近の重力異常の変化率を示した図です。この断層帯は北側が相対的に隆起する正断層です。地表での断層(赤線)は断続的に確認できる程度ですが、地表の断層に沿って線状に重力異常の変化率の大きい場所が確認されたため、最終的に薄赤太線のように地下の断層が評価されました。

図1 九州地域の重力異常の変化率分布と活断層分布
(地震本部2013:九州地域の活断層評価、図6-2)

図2 佐賀平野北縁断層帯付近の重力異常の変化率分布
(地震本部2013:佐賀平野北縁断層帯の長期評価、図4)