森本・富樫断層帯の長期評価(一部改訂)について

平成25年11月22日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

 地震調査委員会は、これまで、社会的、経済的に大きな影響を与えると考えられるマグニチュード(M)7以上の地震を引き起こす可能性のある110の基盤的調査観測の対象活断層帯(主要活断層帯)について、長期評価を行ってきた。

 森本・富樫断層帯の評価は平成13年12月12日に公表しているが、その後、最近の調査結果により、活動履歴などに関する新たな知見が得られたことから、これを基に評価の見直しを行い、一部改訂版としてとりまとめた。また、評価の新旧対比表を付録として巻末に示した。

 評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成25年11月22日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

森本・富樫断層帯の長期評価(一部改訂)

 森本・富樫断層帯は、金沢平野の南東縁に発達する活断層帯である。 ここでは、平成8-10年度に石川県及び平成19年度に産業技術総合研究所によって行われた調査をはじめ、これまでこの断層帯に関して行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。*1


*1森本・富樫断層帯については、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001b)により、それまでに行われた調査結果に基づいた長期評価が公表されているが、産業技術総合研究所(2008)などによって同断層帯の形態や活動履歴に関する新たな知見が得られたことから今回再評価を行い、評価を一部改訂した。

1.断層帯の位置及び形態

 森本・富樫断層帯は、石川県河北郡津幡町(つばたまち)から金沢市を経て白山市明島(あからじま)町付近(旧 石川郡鶴来町(つるぎまち))に至る、長さ約26kmの断層帯で、断層帯の東側が西側に乗り上げる逆断層である(図1-1及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

 森本・富樫断層帯では、過去数十万年間-数万年間においては、平均的な上下方向のずれの速度が概ね1m/千年であった可能性がある。この断層帯の最新の活動は、約2千年前以後、4世紀以前にあったと推定される。本断層帯の1回の活動によるずれの量は3m程度、そのうち上下成分は2m程度であった可能性がある。平均的な活動間隔について直接的なデータは得られていないが、1千7百年-2千2百年程度であった可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

 森本・富樫断層帯では、断層帯全体が一つの区間として活動すると推定され、マグニチュード(M)7.2程度の地震が発生すると推定される(表1)。過去の活動が十分に明らかではないため信頼度は低いが、本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる(注1)。

4.今後に向けて

 今回の評価では、断層帯の傾斜角が求められたことにより、これを評価に反映することができた。また、主断層の活動時期が得られたことにより、最新活動時期を絞り込むことができた。一方、森本・富樫断層帯では、1回のずれの量および平均活動間隔を評価できる信頼度の高いデータが得られていないため、これらの過去の活動履歴を明らかにする必要がある。
 また、本断層帯の周辺に位置する邑知潟断層帯や砺波平野断層帯西部の活動との関連についても検討する必要がある(図1-2)。


表1 森本・富樫断層帯の特性
項目 特性   信頼度  
注3
根拠
注4
1.断層帯の位置・形態
(1) 森本・
 富樫断層
 帯を構成
 する断層
森本断層
野町断層
 付随する断層:長坂撓曲、野田山撓曲
富樫断層
文献51415による。
(2) 断層帯
 の位置・形
 状
地表における断層帯の位置・形状
 断層帯の位置
  (北端) 北緯36゜40.1′東経136゜44.4′
  (南端) 北緯36゜27.6′東経136゜36.9′
 長さ      約26km

地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
          地表での長さ・位置と同じ

 上端の深さ  0km
 一般走向   N26°E


 傾斜      東傾斜
       40-60°程度(深度約600m以浅)

 幅        17-31km程度


















文献11314
15による。数値は図2
ら計測。形状は図2を参
照。




上端の深さが0kmであ
ることから推定。
地形の特徴から推定。
一般走向は断層帯の北
端と南端を直線で結んだ
方向(図2参照)。
傾斜は、文献12に示さ
れた反射法弾性波探査
結果から推定。
地震発生層の下限(15-
20km程度)と断層面の
傾斜から推定。
(3) 断層の
 ずれの向
 きと種類
東側隆起の逆断層 文献212
1415に示された変位
地形・地質構造、反射法
弾性波探査結果による。
2.断層帯の過去の活動
(1) 平均的
  なずれの
  速度
概ね1m/千年(上下成分) 文献11014
による。
(2) 過去の
  活動時期
最新活動時期約2千年前以後、4世紀以前


この断層帯付近では、西暦1799年の金沢の地
震(M6.0±1/4)が知られているが、本断層帯
の固有規模の地震ではない。
活動時期は文献2
101216記載の
資料より推定。
文献1116による。
(3) 1回の
 ずれの量
 と平均活
 動間隔
1回のずれの量      3m程度(全体) 

                2m程度(上下成分) 

平均活動間隔       1千7百-2千2百年程度




断層帯の長さ及び傾斜
から推定。


1回のずれの量と平均
的なずれの速度(どち
らも上下成分)から推
定。
(4) 過去の
 活動区間及
 び地震の規
 模
活動区間          断層帯全体で1区間

地震の規模         M7.2 程度



断層の位置関係・形状
などから推定。
活動区間の長さから推
定。
3.断層帯の将来の活動
(1) 将来の
 活動区間及
 び活動時の
 地震の規模
活動区間          断層帯全体で1区間

地震の規模         M7.2 程度


断層の位置関係・形状
などから推定。
活動区間の長さから推
定。



表2 将来の地震発生確率
項目   将来の地震発生確率等
注5
 信頼度 
注6
備考
 地震後経過率(注7

 今後 30年以内の発生確率 
 今後 50年以内の発生確率 
 今後100年以内の発生確率 
 今後300年以内の発生確率 

 集積確率(注8
0.7 - 1.2

2%-8%
3%-10%
7%-30%
20%-60%

10%-80%
発生確率及び集積確率
文献7による。

注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯: 30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯: 30年確率の最大値が0.1%以上-3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯: 30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
  この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上-3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率及び集積確率 (このうち、1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001a)による暫定値)は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
野島断層
(兵庫県)
0.4%-8% 2%-80% 約1.8-約3.0
1858年飛越地震
(M7.0-7.1)
跡津川断層
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%-10% ほぼ0%-
90%より大
約1.9-約3.3
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層
(長野県)
ほぼ0%-20% ほぼ0%-
90%より大
約0.8-約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は10%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデ-タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
  ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
文献1: 池田ほか編(2002)
文献2: 石川県(1997)
文献3: 石川県(1998)
文献4: 石川県(1999)
文献5: 活断層研究会(1991)
文献6: 木村(2002)
文献7: 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001b)
文献8: 中川ほか(1996)
文献9: 中田・今泉編(2002)
文献10: 佐藤・高山(1988)
文献11: 寒川(1986)
文献12: 産業技術総合研究所(2008)
文献13: 堤ほか(2010)
文献14: 東郷ほか(1998a)
文献15: 東郷ほか(1998b)
文献16: 宇佐美(2003)
注5: 評価時点はすべて2013年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。
各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
   a: (信頼度が)高い  b: 中程度  c: やや低い  d: 低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、0.7は1613年(4世紀:西暦2013年-西暦1600年)を2,200年で割った値であり、1.2は2,000年を1,700年で割った値。
注8: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1.森本・富樫断層帯に関するこれまでの主な調査研究

 森本・富樫断層帯について、望月(1930a,b)は、金沢平野とその南東側の丘陵とを境する直線状の急崖を認め、それに沿って地層が急傾斜していることを示した。その後の地質調査によって、急傾斜する地層は、第四紀・前期更新世の大桑累層、前期更新世末-中期更新世の卯辰山層などであることが明らかにされてきた(今井,1959; 坂本,1966; 別所ほか,1967; 楡井,1969; 佐藤・高山,1988)。中川ほか(1996)は、金沢平野の地下地質をとりまとめ、この断層帯による卯辰山層の上下変位量が最大600m以上に及ぶことを示した。
 この断層帯の第四紀後期の活動について、三崎(1980)及び活断層研究会(1980)は、森本断層及びその南方延長部で中-低位段丘面を変位させていることを見いだし、その活動度をB級とした。その後、東郷ほか(1998a,b)及び池田ほか編(2002)は、この断層帯の位置を詳しく記載するとともに、断層帯の平均変位速度が1m/千年以上であること、及び沖積面にも低断層崖や撓曲崖が分布することを明らかにした。木村(2002)及び中村ほか(2003)は、それぞれ金沢南方の段丘面について、テフロクロノロジー(火山灰層序学)を用いた編年の見直しを行い、その結果に基づき断層帯の上下方向の平均変位速度を報告している。また、中村ほか(2006)は、森本・富樫断層帯全域について段丘面の区分と編年を行い、断層帯沿いの上下方向の変位速度分布を明らかにした。
 石川県(1997,1998,1999)は、浅層反射法弾性波探査とボーリング調査等によって、この断層帯の地下地質構造を明らかにし、さらにトレンチ調査等によって第四紀完新世における活動の解明を試みた。断層帯を構成する副断層のトレンチ調査では、完新世における複数回の活動が推定された(石川県,1997,1998,1999)。また、産業技術総合研究所(2008)は、浅層反射法弾性波探査により断層帯の傾斜を明らかにし、また群列ボーリング・ジオスライサー調査により完新世における活動を検討した。
 この断層帯付近では1799年の金沢の地震によって大きな被害を受けたことが知られている。その被害分布に基づき、寒川(1986)は、この地震が森本断層の活動によるものであることを指摘した。

2.森本・富樫断層帯の評価結果

2-1. 断層帯の位置・形態

(1)森本・富樫断層帯を構成する断層

 森本・富樫断層帯は、金沢平野とその東部の砺波丘陵(宝達丘陵南部)との境界に沿い、石川県河北郡津幡町(つばたまち)から金沢市を経て白山市明島(あからじま)町付近(旧石川郡鶴来町(つるぎまち))に至る断層帯である(図2)。この断層帯の位置・形状については、活断層研究会(1991)が「新編日本の活断層」に示したが、それらは東郷ほか(1998a,1998b)、池田ほか編(2002)、中田・今泉編(2002)及び堤ほか(2010)にさらに詳しく示された。
 この断層帯は、森本断層、野町断層及び富樫断層により構成され、松田(1990)の基準にしたがえば、一つの起震断層を構成しているとみなされる。断層帯全体の長さは約26kmである。森本断層は、石川県津幡町付近から金沢市北部にかけて分布する長さ11kmの断層、野町断層は金沢市街地付近に分布する長さ9kmの断層、富樫断層は金沢市南部から白山市明島町(旧鶴来町)付近にかけて分布する長さ7kmの断層である。これら三つの断層は、雁行しながら概ね北北東-南南西方向に連続して分布し、いずれも断層線の東側に幅500m程度以上の第四紀中-後期の地層及び段丘面の撓曲構造をともなっている。また、断層に沿っては、第四紀完新世の地形面が断層や撓曲によって変位している(東郷ほか,1998a,b)。
 なお、野町断層の東側に付随する断層として、北東-南西走向で長さ2.5kmの長坂撓曲と、東北東-西南西走向で長さ2.5kmの野田山撓曲がある(図2)。
 また、本断層帯の北方に位置する邑知潟断層帯及び東方に位置する砺波平野断層帯西部については、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2005,2008)にて、別途評価されている(図1-2)。

(2)断層面の位置・形状

 地下の断層面の位置及び形状は、地表における断層帯の位置及び形状と地下の地質構造等から推定した。
 断層面の位置及び一般走向は、北北東-南南西走向(N26°E)の一つの断層面で近似する。
断層面の傾斜については、産業技術総合研究所(2008)によって金沢市利屋(とぎや)地点で実施された反射法弾性波探査に基づく反射断面の再検討から、深度約600m以浅では東傾斜40-60°程度の可能性がある(図3)。
 断層面上端の深さは、断層による変位が地表に達していることから0kmとする。断層面下端の深さは、地震発生層の下限(後述)である15-20km程度と推定される。
 断層面の幅は、上述の断層面の傾斜が深部まで変化しないものとした場合、地震発生層の下限深度から17-31km程度になる可能性がある。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)注9

 森本・富樫断層帯は、中川ほか(1996)、石川県(1997,1998,1999)及び東郷ほか(1998a,b)に示される地質構造、変位地形や反射法弾性波探査結果(図3図4)からみて、断層帯の東側が西側に対して相対的に隆起している。また断層線の東側で隆起側に膨らみを伴う撓曲構造があることから、東側が西側に乗り上げる逆断層と考えられる。

2-2.断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)注9

 森本・富樫断層帯によって、約80万年前以後(佐藤・高山,1988)の第四紀前期更新世の末-中期更新世に堆積した卯辰山層が大きく変位している。卯辰山層基底面は、断層帯東側の宝達丘陵では標高約100m以上に分布し、また西側の金沢平野では深さ400-500mに分布している(中川ほか,1996)。したがって、卯辰山層が堆積を始めた約80万年前以後の上下変位量は500-600m以上であり、断層帯の平均変位速度は、0.6-0.75m/千年(上下成分)以上と考えられる。
 東郷ほか(1998b)及び池田ほか編(2002)は、断層帯中央部を構成する野町撓曲(野町断層)による低位段丘面1(泉野面)の上下変位量を20m以上と見積もり、また同面の形成時期を約2万年前と推定し、上下方向の平均変位速度が1m/千年を上回っているとした。その後、木村(2002)は、テフロクロノロジー(火山灰層序)に基づく地形面の編年の再検討により、泉野面の形成時期を3万年前と推定した。また、付近のボーリングデータから野町撓曲の低下側で沖積面下に埋没する礫層を泉野面であるとして分布深度を検討し、同面の上下変位を30mとした。これにより、野町撓曲の上下方向の平均変位速度を1m/千年と見積もった。しかし、沖積面下の礫層が泉野面であるかは不明であるためこの平均変位速度は参考値とする。中村ほか(2006)は、町田・新井(2003)により改訂された火山灰の降下年代に基づき、笠舞Ⅱ面の形成時期を約3万-3万5千年前と見積もった。この年代を用いた場合、野町撓曲の平均変位速度は約0.4-0.7m/千年となる。ただし、中村ほか(2006)の変位量の見積もりには、野町撓曲の低下側の笠舞Ⅱ面が新しい堆積物に覆われていることが考慮されていない。この点を考慮すると、上下平均変位速度は約0.4-0.7m/千年を上回る可能性がある。さらに、野町撓曲の南東には長坂撓曲及び野田山撓曲が分布しており(図2)、それぞれ平均変位速度の上下成分として、0.1m/千年以下(中村ほか,2006)及び0.45-1m/千年以上(木村,2002; 中村ほか,2006)が報告されている。このうち長坂撓曲は野町撓曲とほぼ並行しており、両者とも笠舞Ⅱ面に変形を与えている。なお、中村ほか(2006)は、森本・富樫断層帯に沿う平均変位速度の分布を検討し、上下方向の平均変位速度の最大は断層帯中央部の金沢市市街地付近に認められるとしている。

 以上のことから、森本・富樫断層帯の第四紀中-後期における平均変位速度は、概ね1m/千年である可能性があると判断する。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動
利屋地点(図2の地点1
 金沢市利屋地点では、産業技術総合研究所(2008)が森本断層の活動により形成された撓曲崖を横切る群列ジオスライサー・ボーリング調査を実施し、撓曲地形と調和的な地層の撓曲変形を認めた。産業技術総合研究所(2008)は、これらの調査結果及び採取試料の放射性炭素同位体年代(14C年代)に基づき、森本断層の最新活動をⅥ層堆積後、Ⅳ層堆積前とし、その時期を9百-2千7百年前以後、7百-1千1百年前としている(図5)。しかし、上盤側の地層の14C年代値に逆転が見られるなど、総じて地層の年代の信頼度が低い。一方、Ⅷ層は撓曲変形を受けていることは確実であり、その上位のⅢc層は変形を受けていないと考えられる。したがって、Ⅷ層(約7千1百年前以前)堆積後、Ⅲc層(10世紀以前)堆積前に活動があったと判断できる。

梅田北地点及び梅田南地点(図2の地点2及び地点3)
 金沢市梅田付近では、森本断層により形成された撓曲帯(東郷ほか,1998a)においてボーリング調査が実施されている(石川県,1997,1998)。ここでは、それらのデータから、東西約500m区間において約8千年前以後(石川県,1998)に離水した沖積面が緩く西傾斜を示すと推定される。断層線から約250m東側の撓曲帯中の副断層群においては、遺跡発掘調査によって断層変位地形と推定される遺構面の段差が発見され、石川県(1997,1998,1999)がトレンチ調査を実施している(梅田北地点及び梅田南地点; 図610)。
 梅田北地点において石川県(1997,1998)が実施したトレンチ調査では、西上がりの逆断層が認められた(図7)。この断層は、変位のセンスが東上がりの断層帯全体とは逆であり、主断層に対する共役性の副断層と考えられる。この副断層では、遺跡面(図6)を構成する弥生時代後期後半(14C年代は約2千年前-2世紀)と考えられる地層が、西傾斜約35-40°の断層によって約1m西上がりに変位していることが確認された。また、トレンチ掘削地点付近では、この副断層の延長部を横切る弥生時代後期後半の遺構(水路跡;SD-112)は、断層を境に西側が約50cm高くなっているが、同時代のそれより上位の遺構(水路跡;SD-109:水路内の炭化物が示す14C年代は3-4世紀)は断層活動によって生じたと考えられる低崖の下端に沿って掘削されていることから、変位が生じたあとに形成された可能性が高い(石川県,1997,1998; 図6)。また、断層を横切る古墳時代前期の水路跡(水路内の木片の14C年代は8-9世紀を示す)は変位していない(石川県,1997,1998)。なお、このトレンチでは、約5千年前の堆積物の上下変位も西上がりに約1mであり、約2千年前-2世紀の地層の変位量と同じであった。
したがって、この副断層では約5千年前以後に1回の活動しか生じておらず、最新の活動は約2千年前-4世紀にあったと考えられる。
 梅田南地点では、石川県(1999)が別の副断層においてトレンチ調査を実施している。この地点では、遺跡発掘調査により、弥生時代以前の遺構面に、東北東-西南西方向に延びる幅約10m、比高約1mの丘陵側隆起、平野側沈降の撓曲崖状の地形が見られた(石川県,1999)。掘削されたトレンチでは、東傾斜20-30°の逆断層が確認され、断層を水平に覆う約6千9百年前以前のs層堆積より前に断層変位があったことが推定された(図910)。

 上記の3地点における活動時期は、図11のようにまとめられる。
 主断層における11世紀以後の活動は認められていないこと、および、平均活動間隔(後述)を考慮して、副断層である梅田北地点で認められた約2千年前以後、4世紀以前の活動を本断層帯の最新活動とみなした。なお、仮にこの活動以後10世紀までに別の活動があったとすると、地震後の経過時間が短くなるため、地震発生確率は低くなることになる。

b)先史時代・歴史時代の活動
 1799年の金沢の地震(M6.0±1/4; 宇佐美,2003)では、森本断層付近から野町撓曲付近、及びそれらの北西側の海岸付近で被害が大きかったことが知られている(寒川,1986)。また石川県(1997)は、古文書の記述から、野町断層北部の現在の金沢市小坂町付近で、地震に伴って撓曲変位が生じた可能性を指摘している。宇佐美(2003)は、震度5の地域は半径12kmの範囲であったとして、この地震の規模をM6.0±1/4と求めている。この地震の規模と、後述の経験式(2)から推定される地震断層の長さ(10km程度)から判断すると、1799年の地震では森本・富樫断層帯の一部が活動した可能性は否定できないが、この地震は本断層帯の固有規模の最新活動ではないと考えられる。なお、このようなM6.0程度の地震については、活断層調査による評価は一般的に困難である。
 このほか、遺跡発掘調査等によって、森本断層付近の堅田遺跡では鎌倉時代の遺構面を切る噴砂跡が、また、金沢市西方の日本海沿岸の倉部遺跡では弥生時代後期後半の噴砂跡が発見されている(石川県,1997,1998)。平松・小阪(2013)は、富樫断層西方の白山市部入道(ぶにゅうどう)遺跡において、弥生時代後期月影式土器(約1千8百-1千9百年前)を含む竪穴式住居跡が確認された面において噴砂痕を検出し、この噴砂痕が古代-中世(12世紀から13世紀:約7百-9百年前)の地層には貫入していないことから、噴砂痕の形成年代が約1千8百-1千9百年前から約7百-9百年前の間であると推定し、富樫断層の活動との関連を指摘している。しかし、噴砂痕は断層活動の直接的な証拠ではないため、森本・富樫断層帯の活動との関係は不明である。

 以上のことから、森本・富樫断層帯の最新の活動時期は、約2千年前以後、4世紀以前であったと考えられる。

(3)1回の変位量(ずれの量)注9

 梅田北地点においては、約2千年前以後、4世紀以前に起こった活動に伴う逆向き副断層の上下変位量が、約1mであったと考えられる。幅広い撓曲帯を伴う森本・富樫断層帯全体の1回の変位量は明らかではないが、少なくとも副断層の変位量である上下成分約1mよりも大きいものと推定される。
 利屋地点では、産業技術総合研究所(2008)は、1回の上下変位量をⅦ層を基に約2.3mであるとしている。しかし、上盤側の基準面の取り方に曖昧さが認められることから、この上下変位量は参考値とする。
 森本・富樫断層帯の全体の長さは約26kmであることから、松田ほか(1980)の次の経験式(1)に基づくと、1回の変位量は3m程度(計算値は2.6m)、そのうち上下変位量は2m程度(計算値は約1.7-2.2m)であった可能性がある。
       D = 10-1L          (1)
 ただし、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)。上下変位量の計算では断層の傾斜角40-60°を考慮した。

(4)活動間隔

 森本・富樫断層帯の活動間隔を直接示すデータはない。しかし、断層帯の長さから推定される1回の変位量(上下成分2m程度、計算値は約1.7-2.2m)と、第四紀中-後期の平均変位速度(上下成分概ね1m/千年)から計算した値に基づくと、活動間隔は1千7百-2千2百年程度であった可能性がある。

(5)活動区間及び地震の規模

 森本・富樫断層帯を構成する森本・野町・富樫の各断層はいずれも互いに連続して分布していることから、松田(1990)の定義にしたがって一つの起震断層とみなし、それらは一つの活動区間として同時に活動したと仮定する。なお、中村ほか(2006)は、森本・富樫断層帯の変位速度分布パターンから、同断層帯は独立した起震断層であり、北方に位置する石動山断層(邑知潟断層帯)と同時に活動する可能性は低いとしている。
 森本・富樫断層帯の長さは約26kmであることから、松田(1975)の次の経験式(2)に基づくと、地震の規模はマグニチュード(M)7.2程度であった可能性がある。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはその時のマグニチュードである。
       log L = 0.6 M - 2.9      (2)

(6)測地観測結果

 森本・富樫断層帯の周辺では、1895年以降の最近約100年間は北西-南東方向の縮みが観測されている(図12-1)。2006年からの5年間のGNSS連続観測結果からも、北西-南東方向の縮みが認められている(図12-2)。

(7)地震観測結果

 森本・富樫断層帯付近は、最近の20年間の観測期間においては地震活動が比較的低調である。断層帯周辺地域で発生した地震を参考にすると、本断層帯付近における地震発生層の下限は15-20km程度と推定される(図13)。

2-3.断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

 森本・富樫断層帯は、断層帯全体(長さ約26km)が一つの活動区間として活動すると推定できることから、上述の経験式(2)によると、そこから発生する地震の規模はM7.2と計算される。
 したがって、森本・富樫断層帯で発生する地震の規模はM7.2程度の可能性がある。

(2)地震発生の可能性

 森本・富樫断層帯の平均活動間隔は1千7百-2千2百年程度の可能性があり、最新の活動時期は約2千年前以後、4世紀以前であったと推定される。この断層帯では、最新活動後、評価時点(2013年)までの経過時間は約1千6百年-約2千年で、平均活動間隔の7-12割程度の時間が経過していることになる。
 また、平均活動間隔は信頼度が低いことに十分留意する必要があるが、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001a)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、2%-8%、3%-10%、7%-30%、及び20%-60%となる。また、現在までの集積確率は、10%-80%となる(表3)。本評価で得られた将来の地震発生確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。

2-4.今後に向けて

 今回の評価では、断層帯の傾斜角が求められたことにより、1回のずれ量の上下成分及び断層面の幅を傾斜角を考慮して評価することができた。また、主断層の最新活動時期が得られたことから、断層帯の最新活動時期を絞り込むことができた。一方、森本・富樫断層帯では、完新世に複数回の断層活動があった可能性があるが、これらの活動時期や1回の変位量などは、十分に解明されていない。また、断層帯の平均的な活動間隔についても信頼度の高いデータは得られていない。このため、これらの過去の活動履歴を明らかにすることが必要である。
 また、本断層帯の周辺に位置する邑知潟断層帯や砺波平野断層帯西部の活動との関連についても検討する必要がある

注9: 「変位」を、1頁の本文及び5頁の表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注10: 20,000年BPよりも新しい放射性炭素同位体年代(14C年代)については、較正年代としてIntCal13 (Reimer et al.,2013)を用いた較正プログラム OxCal 4.2 (Bronk Ramsey,1995,2001)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。 このうち、2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古く、10,000年前よりも新しい年代値については、四捨五入して百年単位で、10,000年前よりも古い年代値は四捨五入して千年単位で示した。


文 献

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表3 地震発生確率及び参考指標
項目 将来の地震発生確率等(注11 備考
地震後経過率

今後 30年以内の発生確率
今後 50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率
0.7 - 1.2 

2%-8% 
3%-10% 
7%-30% 
20% -60% 

10%-80%
発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001a)参照。
指標(1) 経過年数
指標(1) 比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
1百年-8百年 
1.1 - 1.7 
1-5 
10%-80% 
0.2-0.6 
0.0005-0.0006
地震調査研究推進本部地
震調査委員会長期評価部
会(1999)参照。

注11 :  評価時点はすべて2013年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10-5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
 指標(1)  経過年数  : 当該活断層があることによって大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(ここではBPT分布モデルを適用した場合を考える。)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合にあたる。)。この指標は、BPT分布モデルによる危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。マイナスの値は、前者が後者に達していないことを示す。森本・富樫断層帯では、ポアソン過程を適用した場合の危険率は2千分の1-1千7百分の1(0.0005-0.0006)であり、時間によらず一定である。BPT分布モデルを適用した場合の危険率は時間とともに増加する。森本・富樫断層帯では、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達してから既に1百年から8百年が経過していることになる。
指標(1) 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) 評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) 評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。
指標(5) ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。
平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。
平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。
平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。


<付録>

 森本・富樫断層帯については平成19年度に産業技術総合研究所による反射法弾性波探査などにより、新たな知見が得られたことから、これらに基づき再検討を行い、断層帯の形状、最新活動時期などについて改訂を行った。
 以下に改訂となった項目とその値について、前回の評価と今回の評価の対比表を示す。なお、評価にあたっては、下表に示す数値のほか各値を求めた根拠についても改訂していることに留意されるとともに、その詳細については評価文を参照されたい。
 また、本評価では、1回の地震で活動する断層の長さとずれの量との関係について、松田ほか(1980)による経験式を採用した。各断層帯の位置、長さ及び一般走向の数値の変更は、地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(2010)に示された記述の仕方に従ったことによる。

森本・富樫断層帯の評価についての新旧対比表
項目 前回の評価
(平成13年12月12日)
今回の評価
(平成25年11月22日)
断層帯の位置 (北端) 北緯36°40′
     東経136°44′
(南端) 北緯36°28′
     東経136°37′
(北端) 北緯36°40.1′
     東経136°44.4′
(南端) 北緯36°27.6′
     東経136°36.9′
一般走向 北北東-南南西  N26°E
傾斜 東傾斜 東傾斜40-60°程度
(深度約600m以浅)
不明    17-31km程度
1回のずれの量 概ね2m (上下成分) 3m程度 (全体) 
2m程度 (上下成分)

 過去の活動時期  最新活動時期 約2千年前 
以後(-約2百年前) 

この断層帯付近では、 西暦
1799年に金沢の地震(M6.0±
1/4)が知られているが、断層
帯の活動との関係は不明。
 最新活動時期 約2千年前 
以後、4世紀以前 

この断層帯付近では、西暦
1799年の金沢の地震(M6.0±
1/4)が知られているが、本断
層帯の固有規模の地震ではな
い。
平均活動間隔 約2千年 1千7百-2千2百年程度
地震発生確率
(30年)
ほぼ0%-5% 2%-8%
地震後経過率  0.1-0.8   0.7-1.2 
変更が生じた項目のみ表示。