花輪東断層帯の長期評価について

平成20年2月18日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

 地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
 地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、平成17年4月までに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。

 その後、「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月30日 地震調査研究推進本部)の中で、新たに基盤的調査観測の対象とすべき12の活断層帯が挙げられた。
 今回、このうち花輪東断層帯について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

 評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。

・平成20年3月6日 記載の誤りを修正しました。(赤字)



平成20年2月18日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

花輪東断層帯の評価

 花輪東断層帯は、奥羽山脈の北端付近の花輪盆地の東縁に分布する活断層帯である。ここでは、平成18年度に産業技術総合研究所によって行われた調査をはじめ、これまで行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

 花輪東断層帯は、秋田県鹿角市(かづのし)に分布する断層帯である。長さは約19kmで、概ね南北に延びている。本断層帯は断層の東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層である(図1図2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

 花輪東断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は、0.3−0.5m/千年程度と推定され、最新活動時期は約1万5千年前以後と考えられる。平均活動間隔は3千−5千年程度の可能性がある。

3.断層帯の将来の活動

 花輪東断層帯は、全体が1つの区間として活動する場合、マグニチュード7.0程度の地震が発生する可能性がある。その際、断層近傍の地表面では、断層の東側が西側に対して相対的に1−2m程度高まる段差や撓(たわ)みが生じる可能性がある(表1)。本断層帯では、最新活動時期が平均活動間隔に対して十分特定できていないため、通常の活断層評価とは異なる手法により地震発生の長期確率を求めている。そのため信頼度は低いが、将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりであり、本断層帯は、今後30年以内に地震の発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では、やや高いグループに属することになる(注1)。

4.今後に向けて

 花輪東断層帯では、最新活動時期が非常に幅の広い評価となっている。このため、将来の地震発生確率も信頼度の低い評価となってしまっている。また、断層帯北部の小豆沢(あずきざわ)断層の位置や地下形態などの情報が不足している。今後は、最新活動時期をより特定し地震発生確率を絞り込むとともに断層帯全体の位置及び形態についても精度を高め、評価の信頼度を向上させる必要がある。さらに、最新活動時期以前の活動についても把握することが望ましい。


表1 花輪東断層帯の特性
項  目 特  性   信頼度  
注4
根  拠
注5
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を構成する
   断層
花輪東断層、小豆沢(あずきざわ)断層、
柏木森東の断層、谷内(たにない)東方の
断層など
  文献2、3による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状
地表における断層帯の位置・形状
 断層帯の位置
  (北端)北緯40°14′東経140°51′
  (南端)北緯40°05′東経140°46′
 長さ     約19km





文献2、3による。
位置及び長さは図2
から計測。
地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置  地表での長さ・
                位置と同じ
 上端の深さ   0km
 一般走向    N10°E


 傾斜       東傾斜 約40−50°程度
             (地下500m以浅)

 幅        不明











上端の深さが0km
であることから推定。
地形の特徴から推定。
一般走向は、花輪東
断層の走向(図2
照)。
文献7に示された反
射法弾性波探査結果
による。
地震発生層の下限の
深さは15 km程度。
  (3)断層のずれの向
   きと種類
 東側隆起の逆断層
文献2−7などに示
された地形の特徴に
よる。
2.断層帯の過去の活動
  (1)平均的なずれの
   速度
 0.3−0.5m/千年程度(上下成分)
文献6、7による。
  (2)過去の活動時期 活動1 (最新活動)
 約1万5千年前以後

2.2(2)a)参照。
  (3)1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量
 1−2m程度 (上下成分)

平均活動間隔
 3千−5千年程度






断層の長さから推定。

平均的なずれの速度
と1回のずれの量か
ら推定。
  (4)過去の活動区間  断層帯全体で1区間
断層帯の位置関係・
形状等から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1)将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間    断層帯全体で1区間

地震の規模   マグニチュード7.0程度
ずれの量    1−2m程度 (上下成分)




断層帯の位置関係・
形状等から推定。
断層の長さから推定。
断層の長さから推定。


表2 花輪東断層帯の将来の地震発生確率(ポアソン過程を適用)
項   目  将来の地震発生確率 
注6
 信頼度 
注7
備   考

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率


0.6−1%
1−2%
2−3%
6−10%
発生確率は文献1による。


注1: 花輪東断層帯では、最新活動時期が平均活動間隔に対して十分特定できていないため、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の長期確率を求めることができない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、このような更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしていることから、ここでは、ポアソン過程を適用して断層帯の将来の地震発生確率を求めた。しかし、ポアソン過程を用いた場合、地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり、本来時間とともに変化する確率の「平均的なもの」になっていることに注意する必要がある。
 なお、相対的評価(注2参照)は、通常の手法を用いた場合の全国の主な活断層のグループ分けと同じしきい値(推定値)を使用して行なった。
注2: 地震調査委員会の活断層評価では、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間の地震発生確率について、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
   なお、2005年4月時点でひととおり評価を終えた98の主要活断層帯のうち、最新活動時期が判明しており、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の長期確率を求めたものについては、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間に地震が発生する確率の割合は以下のとおりとなっている。
30年確率の最大値が0.1%未満 : 約半数 
30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 : 約1/4
30年確率の最大値が3%以上 : 約1/4
(いずれも2005年4月時点での算定。確率の評価値に幅がある場合はその最大値を採用。)
注3: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
 「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。30年確率の最大値は平均活動間隔が3千年の場合は8%、5千年の場合は5%程度である。
注4: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
   ◎:高い、○:中程度、△:低い
注5: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
  文献2:活断層研究会編(1991)
  文献3:中田・今泉編(2002)
  文献4:大月(2001)
  文献5:大月(2005)
  文献6:大月ほか(1998)
  文献7:産業技術総合研究所(2007)
注6: 評価時点はすべて2008年1月1日現在。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。花輪東断層帯は最新活動時期が平均活動間隔に対して十分特定できていないため、通常の手法による確率の値は推定できない。そのかわりとして、長期間の確率の平均値を示した。最新活動時期によってはこの値より大きく、または小さくなるが、その確率値のとり得る範囲は平均活動間隔から求めることができる。本断層帯は平均活動間隔が3千−5千年程度と求められているので、仮に3千年とした場合の通常の手法による30年確率のとり得る範囲は花輪東断層帯でほぼ0%−8%となる。
注7: 発生確率の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。


(説明)

1.花輪東断層帯に関するこれまでの主な調査研究

 花輪東断層帯については、藤井ほか(1969)が重力異常の急勾配に一致する小豆沢(あずきざわ)断層を報告し、内藤(1970)も基盤の分布から東側隆起の小豆沢断層を報告している。活断層研究会編(1991)は、小豆沢断層を確実度II(南端の一部はI)の活断層として認定している。大月ほか(1998)は、小豆沢断層の西側の花輪盆地内部に2条の断層を認め、これらが十和田八戸火砕流堆積物(約1万5千年前;町田・新井,2003)およびそのラハール面(二次的な火山泥流堆積面)に変位を与えているとし、平均上下変位速度を0.2−0.5m/千年と見積もった。さらに、大月(2001)及び中田・今泉編(2002)は、空中写真判読により本断層帯の詳細な位置を提示した。
 地震調査研究推進本部(2005)は、これらの先行研究を踏まえて、花輪東断層帯を断層長20km、平均変位速度0.3m/千年と推定し、基盤的調査観測の基準を満たすと判断した。これに基づき、産業技術総合研究所(2007)は、本断層帯を対象として、地形調査、ボーリング調査、トレンチ調査、反射法弾性波探査などを行い、活動履歴などについて新たな知見を得ている。
 本断層帯の詳しい位置は、活断層研究会編(1991)、中田・今泉編(2002)に示されている。

2.花輪東断層帯の評価結果

 花輪東断層帯は、奥羽山脈の北部、十和田カルデラの南南西の花輪(鹿角(かづの))盆地の東縁に位置し、地表における位置はその全体が秋田県鹿角市に含まれる、概ね南北に延びる断層帯である(図2)。
 中田・今泉編(2002)は、活断層研究会編(1991)が西側隆起とした谷内(たにない)東方の断層を東側隆起であるとし、さらにその西方にも数条の短い断層を推定している。また、中田・今泉編(2002)は、小豆沢断層については南端の一部を除き図示していない。大月(2005)は、小豆沢断層の西側の地形の特徴から、中期更新世後半以降は大半の区間において小豆沢断層の活動が停止もしくは不活発化し、断層活動が西側の花輪東断層に移行した可能性を指摘している。産業技術総合研究所(2007)は、断層帯中部の上野(うわの)・玉内(たまない)地区において、小豆沢断層が推定されている付近には西側隆起が推定される褶曲が存在しており、反射法弾性波探査断面の位置でも東傾斜の断層は確認できないとしている。
 これらのことから、小豆沢断層は南端の一部を除いては将来も活動を繰り返す活断層ではない可能性もある。しかし、活断層であることを明確に否定する調査結果も得られていないため、現時点では花輪東断層帯の範囲は小豆沢断層のうち活断層研究会編(1991)における確実度IIの区間の北端から、谷内東方の断層の南端までとすることが最も確からしいと考えられる。これに基づくと花輪東断層帯の長さは約19kmと判断される(2.1(2)で後述)。このため単独では基盤的調査観測対象の基準(長さ20km以上)を満たさないことになるが、詳細な調査が行われていることなどから、そのまま評価対象とした。
 なお、花輪盆地の西側には活断層研究会編(1991)により花輪断層(確実度III,5km)が記されており、さらにその南方にも断層が記されている。しかし、これは産業技術総合研究所(2007)による反射法弾性波探査の結果から、活断層ではないと考えられる。産業技術総合研究所(2007)は花輪断層の南側延長部に変位地形を認め、尾去(おさり)褶曲と仮称している。しかし、この地形は断層活動によってできたものではない可能性があると判断し、花輪東断層帯を構成する断層には含まないこととした。また、活断層研究会編(1991)による長井田南西の断層は花輪東断層などとは変位の向き(ずれの向き)(注9)が異なることなどから、本断層帯とは別の断層帯として区分し、評価の対象としないこととした。

2.1 花輪東断層帯の位置及び形態

(1)花輪東断層帯を構成する断層

 花輪東断層帯は、花輪東断層、小豆沢断層、柏木森東の断層(注8)、谷内東方の断層(注8)などから構成される。なお、産業技術総合研究所(2007)におけるFe1断層は花輪東断層にほぼ対比される。また、Fe2断層は大月ほか(1998)の「西側の断層」に対比されると考えられるが、本評価ではこれを花輪東断層の一部として扱った。
 各断層の位置及び名称は中田・今泉編(2002)を基本とし、一部は活断層研究会編(1991)によった。

(2)断層面の位置・形状

 地下における断層面の位置及び形状は、地表における断層帯の位置及び形状と地下の地質構造及び反射法弾性波探査結果から推定した。
 断層帯の長さは、断層帯の北端と南端を直線で結んで計測すると約19kmとなる。一般走向は花輪東断層などの走向からN10°Eとした。
 断層面上端の深さは、断層による変位が地表に達していることなどから0kmとした。
 断層面の傾斜は、変位地形や反射法弾性波探査結果(産業技術総合研究所,2007)から、東傾斜と考えられ、反射断面からは地下500m以浅で約40−50°と考えられる(図3)。
 断層面の下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると約15kmと推定されるが、地下深部の傾斜が明らかでないことから、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)

 花輪東断層帯は、変位地形及び反射法弾性波探査結果に基づくと、断層の東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層であると考えられる。
 なお、小豆沢断層について、活断層研究会編(1991)や大月(2005)などでは東側隆起の逆断層としているが、産業技術総合研究所(2007)は、ほぼ同じ位置に段丘面の撓曲変形から西側隆起の副次的な断層を推定している(図3)。

2.2 花輪東断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)

 本断層帯の平均変位速度を評価するための資料として、以下のものがある。
 大月ほか(1998)は、花輪盆地中部付近において、十和田八戸火砕流堆積物及び二次泥流堆積面の変位から、0.2−0.5m/千年程度の平均上下変位速度を見積もっている。
 産業技術総合研究所(2007)は、断層帯北部の内山地点における花輪東断層において、L2面(十和田八戸火砕流堆積物またはその二次泥流堆積面)に約4mの上下変位が認められ、L2面を形成する火砕流(もしくは火山泥流)堆積物中の炭化木片からは約1万5千年前を示す年代値が得られていることから、本地点における平均上下変位速度を約0.3m/千年と見積もっている(図4)。
 産業技術総合研究所(2007)は、断層帯中部の大里地点において、L2面に1.5−2mの上下変位を認め、これと前述の年代値から平均上下変位速度を0.1m/千年と求めている(図6)。ただし、この地点だけでは断層帯全体の変位を反映していない可能性がある。
 さらに、産業技術総合研究所(2007)は、上野地点の西方ではL2面及びL3面にそれぞれ6−7m及び5mの上下変位が認められるとして、同地点における花輪東断層の上下変位量が約0.3−0.5m/千年程度である可能性を指摘している(図6)。
 以上のことから、花輪東断層帯の平均上下変位速度は0.3−0.5m/千年程度と推定されると判断した。
 なお、産業技術総合研究所(2007)は、断層帯中部で実施した反射法弾性波探査断面などを基に、反射断面の位置で花輪盆地堆積層は450m程度の層厚であることを示し、この盆地堆積層の基底年代すなわち盆地堆積層の堆積開始年代は100万−200万年の間と考えられるとして、花輪東断層低下側の沈降速度すなわち同断層の平均上下変位速度を0.2−0.5m/千年と算出している。しかし、この年代と地層対比は仮定であるため、ここでは採用しない。

(2)活動時期
a)地形・地質的に認められた過去の活動

 2.2(1)で記したとおり、花輪東断層帯付近には十和田八戸火砕流堆積物、二次泥流堆積面及び河成段丘面が広く分布しており、その一部に本断層帯の活動によって生じた地表変位が確認されている。このため、これらの面の形成年代によって本断層帯の過去の活動時期を推定することができる。
 本断層帯北部の内山地点および中部の上野・玉内地点では花輪東断層がL2面とL3面に変位を与えている。このことから、産業技術総合研究所(2007)はL3面の形成以降に断層活動があったと推定している。前述の通り、L2面からは約1万5千年前を示す値が得られている(産業技術総合研究所,2007)。しかし、L3面については、地形的にはL2面以降に形成されたことは明らかであるものの、形成年代を示す値が得られていない。
 以上のことから、本断層帯では約1万5千年前以後に活動があったと考えられる。
 なお、産業技術総合研究所(2007)は、上野・玉内地点のL7面に変位が認められないことから、L7面形成以後は活動がなかった可能性を指摘している。しかし、本地点における断層の位置は不明確であり、変位の判断が困難であるため、必ずしも活動がなかったとはいえないと判断した。
 このほか、産業技術総合研究所(2007)は、大里地点のL2面上でトレンチ調査を実施した。トレンチ調査では、十和田八戸火砕流堆積物の上面に高度差が認められるとともに、堆積物中に砂脈や軽石の再配列が観察された。この砂脈の形成が本断層帯の活動によるものと考えるならば、この活動は約1万5千年前以後、約3千6百年前以前と考えることもできるが(産業技術総合研究所,2007)、砂脈の形成は本断層帯の活動以外でも起こりうるため、ここでは採用しない。
 さらに、産業技術総合研究所(2007)は、大里地点においてL2面を開析する谷底面(L8面)が花輪東断層によって約0.8−1mの上下変位を受けているとしてピット調査等による年代測定を実施し、3千3百年前以後の活動を推定している。しかし、この地点は地形環境が安定しておらず、上下変位とされた高度差は必ずしも断層変位であるとは限らないため、ここでは採用しない。
 上記のほか、産業技術総合研究所(2007)は、米代川左岸の尾去・松館地点で地形測量を行い、低位段丘面上に3−5m程度の比高差を認め、尾去褶曲と仮称している。産業技術総合研究所(2007)は、この褶曲のうち、最も東に位置する背斜軸の北方延長に細長く分布している面は背斜の活動によって分化したものであるとし、約1万1千年前に活動があったとしている。しかし、この比高差は断層活動によるものではない可能性がある。

b)先史時代・歴史時代の活動

 本断層帯の活動を直接示すような地震被害は知られていない。

 以上のことから、本断層帯では約1万5千年前以後に活動があったと考えられる。しかし、これ以後の活動回数を含め、詳細は不明である。

(3)1回の変位量(ずれの量)

 2.2(2)で述べた通り、花輪東断層帯の長さは約19kmであることから、次の松田(1975)の経験式に基づくと、1回の変位量は約1.5m(上下成分)と求められる。
      Log L = 0.6M − 2.9   (1)
      Log D = 0.6M − 4.0   (2)
 ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュード。
 以上のことから、本断層帯の1回の活動に伴う上下変位量は1−2m程度であった可能性がある。

(4)活動間隔

 本断層帯では、約1万5千年前以後に最新活動があったと考えられる。しかし、これ以外の活動時期に関するデータは得られていないため、活動時期から活動間隔を求めることはできない。しかしながら、平均上下変位速度(0.3−0.5m/千年)と前述により算出された1回の上下変位量(1.5m)から、平均活動間隔を3千−5千年と求めることができる。
 以上のことから、本断層帯の平均活動間隔は3千−5千年程度であった可能性がある。

(5)活動区間

 花輪東断層帯を構成する各断層は、概ね連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば、全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

 花輪東断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、顕著な歪みは見られない。
 また、2007年5月までの8年間のGPS観測結果でも顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

 最近約10年間の地震観測結果によると、花輪東断層帯付近の地震活動は低調である。地震発生層の下限は約15kmと推測される。

2.3 花輪東断層帯の将来の活動

(1)活動区間及び活動時の地震の規模

 2.2(5)で述べたように、本断層帯は全体が1つの区間として同時に活動すると推定される。この場合、長さが約19kmと推定されることから、前述の松田(1975)の経験式(1)及び(2)を用いて地震の規模を求めると、マグニチュード7.0程度の地震が発生する可能性があり、その際には過去の活動に基づくと断層の東側が西側に対して相対的に1−2m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

 花輪東断層帯では、2.2(4)で述べたように、経験式から平均活動間隔を3千−5千年程度と計算することができる。これに対し、最新活動時期は約1万5千年前以後と、平均活動間隔に対して非常に広い幅でしか特定されていない。このため、上記のような規模の地震が発生する長期確率を更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)を用いて評価することはできない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、地震の発生確率を求めるに当たって、通常の活断層評価で用いている更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしている。信頼度の低い平均活動間隔であることに十分留意する必要があるが、平均活動間隔が3千−5千年程度であることを基に、ポアソン過程を適用して求めると、今後30年以内、50年以内、100年以内及び300年以内の地震発生確率は、それぞれ0.6−1%、1−2%、2−3%、及び6−10%となる。
 本評価で得られた平均活動間隔の信頼度は低く、また、値が十分に絞り込まれていないため、地震発生確率にも幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。

2.4 今後に向けて

 花輪東断層帯は、最新活動時期が1万5千年前以後と、平均活動間隔(3千−5千年程度)に比べて非常に年代幅の広い評価となっている。このため、将来の地震発生確率も信頼度の低い評価となってしまっている。また、断層帯北端の小豆沢断層の位置や地下形態などについて情報が不足しているため、将来の地震の規模についても信頼度が低い。
 今後は、最新活動時期をより特定するための調査を実施して地震発生確率を絞り込むとともに、断層帯全体の位置及び形態についても精度を高め、将来の地震発生確率や規模などの信頼度を向上させる必要がある。さらに、最新活動時期以前の活動についても把握することが望ましい。

注8: 活断層研究会編(1991)で「柏木森東」「谷内東方」とのみ記されている断層について、本評価では、便宜上「柏木森東の断層」「谷内東方の断層」と仮称し、表記した。
注9: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注10: 炭素同位体年代については、Ramsey (1995,2001)、Reimer et al. (2004)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年より古い年代値については、1千年単位で四捨五入して示した。



文 献

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付表
地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

ランク 分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。
平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。
平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。
平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。