平成19年8月23日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


山形盆地断層帯の長期評価の一部改訂について


 地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

 地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、平成17年4月までに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。

 山形盆地断層帯の評価は平成14年5月8日に公表しているが、その後、最近の調査結果により活動履歴などに関する新たな知見が得られたことから、これを基に評価の見直しを行い、一部改訂版としてとりまとめた。また、評価の新旧対比表を付録として巻末に示した。付録として巻末に示した。

 評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成19年8月23日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

山形盆地断層帯の評価(一部改訂)

 山形盆地断層帯は、山形盆地の西縁に位置する活断層帯である。ここでは、平成9−11年度に山形県及び平成17年度に産業技術総合研究所によって行われた調査をはじめ、これまで行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した


山形盆地断層帯については、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002a)により、それまで行われていた調査研究に基づいた長期評価が公表されているが、産業技術総合研究所(2006)によって新しい知見が得られたことから、今回再評価を行った。


1.断層帯の位置及び形態

 山形盆地断層帯は、山形県北村山郡大石田町(おおいしだまち)から村山市、西村山郡河北町(かほくちょう)、寒河江市(さがえし)、東村山郡中山町、同郡山辺町(やまのべまち)、山形市を経て、上山市(かみのやまし)に至る断層帯である(図1−1図1−2及び図2)。全体の長さは約60kmで、概ね南北方向に延びる。山形盆地断層帯は断層の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層である。本断層帯は複数の断層から構成されており、断層帯の北端付近ではこれらは並走して分布することがある (図2及び表1)。山形盆地断層帯は、過去の活動時期の違いから、北村山郡大石田町から寒河江市に至る山形盆地断層帯北部と、寒河江市から上山市に至る山形盆地断層帯南部に区分される。

2.断層帯の過去の活動

 山形盆地断層帯北部の平均的な上下方向のずれの速度は、1m/千年程度の可能性がある。最新活動時期は、約3千9百年前以後、約1千6百年前以前であったと推定される。また、平均活動間隔は、約2千5百−4千年と推定される (表1)。
 山形盆地断層帯南部の平均的な上下方向のずれの速度は、1m/千年程度の可能性がある。また、野外調査から直接得られたデータではないが、経験則から求めた1回のずれの量と平均的なずれの速度に基づくと、平均活動間隔は2千5百年程度の可能性がある (表1)。

3.断層帯の将来の活動

 山形盆地断層帯は、過去の活動と同様に北部と南部の2つの区間に分かれて活動すると推定されるが、断層帯全体が1つの区間として同時に活動する可能性もある (表1)。
 山形盆地断層帯北部では、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定され、その際に断層の近傍の地表面では、断層の西側が東側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓(たわ)みが生じる可能性がある (表1)。山形盆地断層帯北部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は、 表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯北部は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる (注1)。
 山形盆地断層帯南部では、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定され、その際に断層の近傍の地表面では、断層の西側が東側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある (表1)。山形盆地断層帯南部では、活動時期が十分特定できていないことから、通常の活断層評価とは異なる手法により地震発生の長期確率を求めている。そのため信頼度は低いが、将来このような地震が発生する確率は、 表2に示すとおりである。本断層帯南部は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる (注1)。
 山形盆地断層帯全体が同時に活動する場合には、マグニチュード7.8程度の地震が発生すると推定される。山形盆地断層帯全体が同時に活動する場合の確率は、北部あるいは南部が単独で活動する場合の確率を超えないものと考えられる。

4.今後に向けて

 今回の評価では、過去の活動時期の違いから断層帯を2つの活動区間に区分することができた。また、山形盆地断層帯北部に関しては活動時期を従来の評価より短い範囲に推定することができた。しかしながら、将来の地震発生確率を絞り込むまでには至らなかった。これは、現行の評価手法ではこれ以上の地震発生確率値の絞り込みが困難であることを示している。今後は新たな視点と必要な情報を加えた新たな評価手法を構築し、さらに活動時期を絞り込むとともにその信頼度を向上させるための調査を行う必要がある。山形盆地断層帯南部に関しては最新活動時期を特定するための調査を行い、地震発生確率の信頼度を高める必要がある。
 また、近接する長井盆地西縁断層帯の活動との関連性について検討する必要がある。(図1−2 )。

表1 山形盆地断層帯の特性
項  目 特  性   信頼度  
注4
根  拠
注5
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を
  構成する断層
北部: 駒籠(こまごめ)−横山断層、富並断層、
高森山断層、湯野沢断層
南部: 寒河江(さがえ)−山辺(やまのべ)
断層、村木沢断層、上山(かみのやま)断層
  文献2、3、5、6、7、
9、12、15、17によ
る。
  (2) 断層帯の位置・
   形状
地表における断層帯の位置・形状
断層帯の位置
北部
  (北端) 北緯38°39′東経140°21′
  (南端) 北緯38°24′東経140°16′
南部
  (北端) 北緯38°24′東経140°17′
  (南端) 北緯38°07′東経140°15′
長さ
  北部: 約29km
  南部: 約31km
  全体: 約60km












位置及び長さは図2
ら計測。
地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置  地表での長さ・位
                置と同じ
 上端の深さ  0km

一般走向 
 北部: N20°E
 南部: N−S
 全体: N10°E

傾斜     
 北部: 西傾斜
 南部: 西傾斜

幅 不明 (北部、南部とも)














上端の深さが0kmであ
ることから推定。


断層帯の両端を直線
で結んだ方向(図2
照)。



文献8、12、13に示さ
れたトレンチ調査、断
層露頭、浅層反射法弾
性波探査結果による。
地震発生層の下限の
深さは15km程度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
北部:西側隆起の逆断層
南部:西側隆起の逆断層


文献2、3、5、6、7、
9、12−15、17など
による。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
北部: 1m/千年 程度(上下成分)
南部: 1m/千年 程度(上下成分)


文献8、9、13、14
による。
  (2) 過去の活動時期 北部:
 活動1(最新活動)
約3千9百年前以後、約1千6百年前以前
 活動2(1つ前の活動)
約5千9百年前以後、約5千8百年前以前
 活動3(2つ前の活動)
約9千5百年前以後、約8千8百年前以前

南部:
 活動(最新活動とは限定できない)
約5千1百年前以後、約4千3百年前以前










文献8、10、13、14、
16に示された資料から
推定。






文献8の資料から推定。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量 
北部: 2−3m程度(上下成分)
南部: 2−3m程度(上下成分)

平均活動間隔
 北部: 約2千5百−4千年

 南部: 2千5百年程度









文献8による。
断層の長さから推定。


過去の3回の活動から
推定。
平均的なずれの速度と
1回のずれの量から推
定。
  (4) 過去の活動区間 北部と南部の2区間

過去の活動から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間    北部と南部の2区間
断層全体が同時に活動する可能性もある。

地震の規模
 北部: マグニチュード7.3程度
 南部: マグニチュード7.3程度
 全体: マグニチュード7.8程度

ずれの量
 北部: 2−3m程度(上下成分)
 南部: 2−3m程度(上下成分)











過去の活動から推定。


断層の長さから推定。





過去の活動から推定。
断層の長さから推定。


表2 山形盆地断層帯の将来の地震発生確率等(南部はポアソン過程を適用)
項  目   将来の地震発生確率等  
注6
 信頼度 
注9
備  考
  <北部>
 地震後経過率(注7

 今後30年以内の発生確率 
 今後50年以内の発生確率 
 今後100年以内の発生確率 
 今後300年以内の発生確率 

 集積確率(注8

  <南部>
 今後30年以内の地震発生確率
 今後50年以内の地震発生確率
 今後100年以内の地震発生確率
 今後300年以内の地震発生確率


0.4−1.6

0.002%−8%
0.004%−10%
0.01%−20%
0.1%−60%

0.006−90%より大


1%
2%
4%
10%















発生確率及び集積
確率は文献4による。






南部の発生確率はポ
アソン過程による。


注1: 地震調査委員会の活断層評価では、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間の地震発生確率について、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
   なお、2005年4月時点でひととおり評価を 終えた98の主要活断層帯のうち、最新活動時期が判明しており、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の長期確率を求めたものについては、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間に地震が発生する確率の割合は以下のとおりとなっている。
30年確率の最大値が0.1%未満 : 約半数
30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 : 約1/4
30年確率の最大値が3%以上 : 約1/4
(いずれも2005年4月時点での算定。確率の評価値に幅がある場合はその最大値を採用。)
注2: 山形盆地断層帯南部では、平均活動間隔は2千5百年程度と求められている。しかし、最新活動時期を特定することはできなかったため、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の確率を求めることができない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、このような更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしていることから、ここでは、ポアソン過程を適用して断層帯の将来の地震発生確率を求めた。しかし、ポアソン過程を用いた場合、地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり、本来時間とともに変化する確率の「平均的なもの」になっていることに注意する必要がある。
 なお、相対的評価(注1参照)は、通常の手法を用いた場合の我が国の主な活断層のグループ分けと同じしきい値(推定値)を使用して行った。
注3: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5

「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。30年確率の最大値は平均活動間隔が3千年の場合は8%程度である。
注4: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
  ◎:高い、○:中程度、△:低い
注5: 文献については、 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
 文献1:阿子島ほか(2004)
 文献2:池田ほか編(2002)
 文献3:今泉ほか(2001)
 文献4:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
 文献5:活断層研究会編(1991)
 文献6:中田・今泉編(2002)
 文献7:澤ほか(2001)
 文献8:産業技術総合研究所(2006)
 文献9:鈴木(1988)
 文献10:鈴木・阿子島(1987)
 文献11:宇佐美(2003)
 文献12:山形県(1998)
 文献13:山形県(1999)
 文献14:山形県(2000)
 文献15:八木ほか(2001)
 文献16:山野井(2000)
 文献17:山野井ほか(1986)
注6: 評価時点はすべて2007年1月1日現在。なお、計算に当たって用いた山形盆地断層帯南部の平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。本断層帯南部は最新活動時期が特定できていないため、通常の手法による確率の値は推定できない。そのかわりとして、長期間の確率の平均値を示した。最新活動時期によってはこの値より大きく、または小さくなるが、その確率値のとり得る範囲は平均活動間隔から求めることができる。本断層帯南部は平均活動間隔が2千5百年程度と求められているので、仮に2千5百年とした場合の通常の手法による30年確率のとり得る範囲はほぼ0%−10%となる。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字のうち、0.4は1600年を4000年で割った値であり、1.6は3900年を2500年で割った値である。
注8: 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。
注9: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度


a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用い て求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて 求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求め た発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用い て求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていない ため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。


(説明)

1.山形盆地断層帯に関するこれまでの主な調査研究

 山形盆地について、藤原(1967)、皆川(1970)は、弾性波探査資料やボーリング資料などから盆地西縁に伏在する断層の存在を推定し、その活動は第四紀まで継続していたことを指摘した。活断層研究会編(1980,1991)、佐藤・池田(1980)、山野井ほか(1986)、鈴木(1988)は、地形学的手法により盆地西縁に複数の活断層の存在を指摘した。その後、澤ほか(2001)、今泉ほか(2001)、八木ほか(2001)は大縮尺空中写真を用いた詳細な判読に基づき、山形盆地断層帯の全体の分布を明らかにした。
 鈴木・阿子島(1987)は、盆地北西縁部において完新世に活動したことを示す断層露頭を発見し、この断層が横ずれ成分を有する可能性があることを指摘した。鈴木(1988)は、山形盆地と新庄盆地の変位地形の記載を行い、両盆地の活構造を比較して、これらの断層運動様式が異なることを明らかにし、これに基づいて両盆地の発達過程について考察した。小松原(1997)は、山形盆地の構造運動が西に偏った沈降運動を示していることから、この地域において従来活動度B級 (注10)とされていた断層は、盆地の沈降を含めて考えた場合、活動度がA級となる可能性があることを指摘した。山野井(2000)は断層露頭調査から、阿子島ほか(2004)はトレンチ調査から第四紀の活動を指摘した。
 山形県(1998、1999、2000)は、本断層帯を対象として、反射法弾性波探査、ボーリング調査、トレンチ調査などを行った。さらに、産業技術総合研究所(2006)によって断層帯の活動履歴などについて新たな知見が得られている。
 本断層帯の詳しい位置は、池田ほか編(2002)及び中田・今泉編(2002)などに示されている。

2.山形盆地断層帯の評価結果

2.1 山形盆地断層帯の位置及び形態

(1)山形盆地断層帯の評価結果

 本断層帯は、山形盆地とその西側の出羽丘陵との境界付近に位置する西側隆起の逆断層である。
 本断層帯を構成する断層の位置・形態は、活断層研究会編(1980,1991)、山野井ほか(1986)、鈴木(1988)、山形県(1998)、澤ほか(2001)、今泉ほか(2001)、八木ほか(2001)、池田ほか編(2002)、中田・今泉編(2002)などに示されている。これらでは、主要な断層分布についてほぼ共通した認識が示されている。ここでは、断層の位置及び名称は、澤ほか(2001)、今泉ほか(2001)、八木ほか(2001)を基本とし、南端付近は中田・今泉編(2002)によった。
 本断層帯は、山形県北村山郡大石田町(おおいしだまち)から村山市、西村山郡河北町(かほくちょう)、寒河江市(さがえし)、東村山郡中山町、同郡山辺町(やまのべまち)、山形市を経て、上山市(かみのやまし)にかけて延びる。その北部で並走・雁行する駒籠(こまごめ)−横山断層、富並断層、高森山断層、湯野沢断層と、南部の寒河江−山辺断層、村木沢断層、上山断層によって構成される (図2)。これらは、村木沢断層と上山断層の隔たりが5km弱である以外は、相互の隔たりが3km以内で近接し、変位の向き(ずれの向き) (注11)を同じくする断層群であることから、松田(1990)の基準にしたがって、1つの起震断層を構成しているとみなすことにする。
 本断層帯は、後述するように、過去の活動時期の違いに基づき、北部と南部の2つの活動区間に分けられる。本断層帯北部は駒籠(こまごめ)−横山断層、富並断層、高森山断層、湯野沢断層、本断層帯南部は寒河江−山辺断層、村木沢断層、上山断層などからそれぞれ構成される。
 なお、本断層帯の東側に近接して分布する尾花沢−楯岡断層、半郷断層は、山形盆地とその東側の奥羽脊梁山脈との境界付近に位置する東上がりの断層 (図3)で、新庄盆地断層帯(新庄盆地とその東側の奥羽脊梁山脈との境界付近に位置する東上がりの断層)と同系列のものと推定される。これらの断層は、本断層帯とは変位の向きが異なるので、評価の対象としないこととした。また、北方の新庄盆地の西縁に分布する鮭川断層は、新庄盆地と出羽丘陵との境界付近に位置する西上がりの断層(図3)で、本断層帯と同系列のものと推定されるが、本断層帯北部の駒籠−横山断層とは12km程度の隔たりがあることから、評価の対象としないこととした。
 なお、山形盆地断層帯の南西方に位置する長井盆地西縁断層帯については、別途評価を実施している(図1−2;地震調査研究推進本部地震調査委員会,2005)。

(2)断層帯の位置・形状

 本断層帯北部と南部の長さ及び一般走向は、図2に示された断層帯の北端と南端を直線で結ぶと、北部が約29km、N20°E、南部が約31km、N−Sとなる。また、本断層帯全体では、約60km、N10°Eとなる(図2)。
 断層面の上端の深さは、断層変位が地表に達していることから、北部、南部とも0kmとした。
 断層面の傾斜は、断層露頭(山形県,1998,1999)や反射法弾性波探査結果(山形県,1999)及びトレンチ調査(産業技術総合研究所,2006)などから、北部、南部ともに地表付近で西傾斜と考えられる。
 断層面下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると15km程度と推定される。しかし、地下深部における断層面の傾斜が明らかでないため、断層面の幅は北部、南部ともに不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)

 本断層帯は、活断層研究会編(1980,1991)、山野井ほか(1986)、鈴木(1988)、山形県(1998,1999,2000)、澤ほか(2001)、今泉ほか(2001)、八木ほか(2001)、池田ほか編(2002)などに示された変位地形や、山形県(2000)が実施した反射法弾性波探査で見られた東に撓み下がる地質構造から、北部、南部ともに断層の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層と考えられ、北部の村山市大林、南部の山形市村木沢及び山辺町大寺では、その一部と見られる露頭が知られている。なお、鈴木・阿子島(1987)は、本断層帯北部の山地内で、変位地形と断層露頭から、左横ずれ変位を示す活断層(大高根断層)の存在を指摘しているが、この断層と本断層帯との関連性については不明である。これ以外に、本断層帯の変位に横ずれが伴われていることを示す資料はない。

2.2 山形盆地断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)

 本断層帯の平均変位速度を評価するための資料として、以下のものがある。
<北部>
 産業技術総合研究所(2006)は、大石田町横山(里集落)で山形県(2000)トレンチに近接した地点でトレンチを掘削した。産業技術総合研究所(2006)は、これらのトレンチ調査などの結果、C層上面に7−8mの上下変位が認められること、C層からは約1万年前を示す年代値が得られていることから、本地点の平均上下変位速度を約0.7−0.8m/千年と求めている(図4)。ただし、この地点の西側にも活断層が並走していることから、全体の平均変位速度はさらに大きくなると考えられると指摘している(産業技術総合研究所,2006)。なお、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002a)は山形県(2000)の同地点の地形測量、反射法弾性波探査、ボーリング調査及びトレンチ調査結果からC層上面の上下変位を約12mと評価していた。しかしながら、近接する撓曲帯をほぼ網羅するトレンチ(図4図5;産業技術総合研究所,2006)によりC層上面の上下変位が7−8mと求められたこと、C層は岩相と層厚の変化から初生勾配が小さいものと判断できることから、この範囲の平均上下変位速度は約0.7−0.8m/千年に限定できると判断した。

 村山市富並においては、富並川に沿って分布する低位段丘面(L1面)は、左岸の富並付近で、並走する2列の西側隆起の断層で変位しており(今泉ほか,2001)、その変位量は西側の断層で10m、東側の断層で8−9mとされている(図6;鈴木,1988)。鈴木(1988)は、これより東側で同じL1面を変位させるもう1列の断層の存在を指摘しており、この付近におけるL1面の上下変位量は20m以上となる。L1面の形成年代を約2−3万年前(鈴木,1988)とすると、これ以後の平均上下変位速度は0.7−1.0m/千年以上と求められる。

 以上のことから、本断層帯北部の平均上下変位速度は1m/千年程度の可能性があると判断した。

<南部>
 山辺町大寺における山形県(1999)の地形測量及びボーリング調査の結果では、幅100−200mの範囲で12−14mの撓曲崖が認められ、さらにこの地形を構成する地層の下盤側が地下に埋没していることを示している。
 このことと、撓曲崖を作る地形面の形成時の傾斜と、産業技術総合研究所(2006)の地形面を構成する地層に関する調査結果を考慮し、実際の上下変位量は概ね10m強程度と判断した。
 撓曲した地形面の年代として、産業技術総合研究所(2006)のトレンチのDa層からは約1万1千−1万3千年前、山形県(2000)のodIII層からは約1万1千年前の年代値が得られていることから、この地点での平均上下変位速度は1m/千年程度の可能性がある。
 以上のことから、本断層帯南部の平均上下変位速度は1m/千年程度の可能性があると判断した。

(2)活動時期
a)地形・地質的に認められた過去の活動

 本断層帯の活動履歴に関する資料としては、以下のものがある。
<北部>
・大石田町横山地点(トレンチ調査)
 大石田町横山では山形県(2000)によって、丘陵基部から約300m離れた沖積低地内で認められる撓曲崖の基部でトレンチが掘削された。
 トレンチ壁面に基づくと、約1万年前以後に堆積した上方細粒化の級化層理を繰り返し示す砂層と有機質粘土層の互層(E4層−A1層)が露出している(図7)。 これらの地層群は、A1層を除きすべて、東へ傾斜している。この傾斜は、認められる位置、傾斜の向きが撓曲変形や反射法弾性波探査で明らかになったそれに対応する変形構造と調和的であることから、本地点に存在する断層の活動によって生じたものであると推定される。A2−A4層、B1−B3層、及びC1層以下の各地層群は、それぞれ勾配を同じくしているが、地層群ごとに比較すると、下位の地層群ほど不連続的に傾斜度が大きく(A2−A4層の地層群;5−6°、B1−B3層の地層群;7−9°及びC1層以下の地層群;13−15°)、より大きく東傾斜するE4−C1層上面にB1−B3層が、さらにその上面にA2−A4層が、それぞれアバットしている。これらのことから、C1層堆積後、B3層堆積前、及びB1層(ここでは強有機質層として図示されたものの上限をもってB1層の上面とする)堆積後、A4層堆積前の各時期に断層活動があった可能性がある。それぞれの断層活動の時期について、前者はC1層とB1層の14C年代値から約9千5百−7千年前、後者はB1層とA1層の14C年代値から約7千3百−1千4百年前となる。東へ傾斜するA2−A4層は、それが地表面と交差し、地表面で切られていること、また、山形県(2000)によると、トレンチ東方で掘削されたピットでは、A3層下面はほぼ水平であったとされていることから、A2層堆積後にさらに新しい断層活動があった可能性があり、その時期は、A4層下部の14C年代値に基づくと約6千1百年前以後となる。

 産業技術総合研究所(2006)は、山形県(2000)が掘削したトレンチの近傍(里集落)において、より詳細な活動履歴を得るため、連続する低崖を断層活動によるものと判断し、撓曲帯をほぼ網羅するより広範囲なトレンチを掘削した。
 産業技術総合研究所(2006)によると、横山地点里トレンチ壁面では、A2層は緩く傾斜するのに対し、A1層(腐植層)中の遺構の底面がほぼ水平である (図8)。このことから、本地点の最新活動はA2a層堆積以後、A1a層堆積以前としている(産業技術総合研究所,2006)。A2a層から約3千9百−3千6百年前、A1a層から約1千8百−1千6百年前を示す14C年代値が得られていることから、本地点の最新活動は約3千9百年前以後、約1千6百年前以前であったと推定される。
 また、A4b層は、B1a層にアバットして堆積していることから、その活動時期をB1a層堆積以後、A4a層堆積以前としている(産業技術総合研究所,2006)。B1a層から約5千9百−5千7百年前、A4a層から約6千1百−5千8百年前の年代値が得られていることから、その活動時期は約5千9百年前以後、約5千8百年前以前であったと推定される。
 さらに、B4層(図8ではB3層)はC1a層にアバットして堆積していることから、その活動時期を、C1a層堆積以後、B4a層堆積以前としている(産業技術総合研究所,2006)。C1a層から約9千6百−9千5百年前、B4a層から約9千1百−8千8百年前の年代値が得られていることから、その活動時期は約9千6百年前以後、約8千8百年前以前であったと推定される。

 以上のことから、本地点の最新活動は、約3千9百年前以後、約1千6百年前以前であったと推定される。また、これに先立つ1つ前の活動時期は約5千9百年前以後、約5千8百年前以前、2つ前の活動時期は約9千5百年前以後、約8千8百年前以前であったと推定される。

 なお、産業技術総合研究所(2006)は、前述の里集落トレンチから北西約500m付近においてもトレンチ調査(スキー場トレンチ)を実施した。しかしながら、産業技術総合研究所(2006)が実施したスキー場トレンチでは、西傾斜の逆断層の活動様式では説明できない構造が認められ、これが断層運動によるものか、それ以外の活動であるかの議論が困難であることから、ここでは活動履歴の資料として採用しないこととした。

・村山市山の内地点(露頭調査)
 村山市山の内では、鈴木・阿子島(1987)によって断層露頭が記載されている。ここでは、約1万年前に降下したとされる尾花沢軽石層(宇井ほか,1973)を含む低位段丘堆積物が変位しており、最近約1万年間に少なくとも1回の断層活動があったと考えられる。

<南部>
・寒河江市高瀬山地点(露頭調査)
 寒河江市高瀬山では、本断層帯上盤側に位置する中位段丘面(八木ほか,2001)上で断層露頭が見いだされ、ここに現れた西傾斜の逆断層は、段丘堆積物を約2m上下に変位させている (図9;山形県,1999;山野井,2000)。この断層は、さらに表層の腐植土層まで切断しており、その腐植土層の14C年代値から約1万年前以後に活動したと推定される。

 なお、齋藤(1999)は同地点で実施された遺跡調査で、弥生時代ないし古墳時代の土器を含む溝が断層変位を受けて傾斜していることから、この時期の断層活動を指摘している。しかしながら、崖の隆起側で溝が深く、溝が断層崖を掘り込んでいるようにも見えることから、この資料から活動時期を限定することはできないと判断した。

・山辺町大寺地点(トレンチ調査)
 山辺町大寺では、山形県(1999)によってトレンチが掘削された(図10)。本トレンチは、丘陵基部から約400m東に離れた平野内に位置し、ここに認められる比高12−14mを有する撓曲崖の基部で掘削された。トレンチ壁面には、約1万年前以後に堆積した地層群(E4層−A層)と、これらの一部を変位させる西傾斜の逆断層(fa断層)が露出した。南壁面の西側上方で確認されたfa断層は、C1層とこれを覆うB3層の一部を上下に約30cm変位させているが、B3層中で不明瞭となり、上方への連続は不明である。その上位のB2層は、層厚を著しく変化させることもなく、fa断層の上方延長部を横切って堆積しており、fa断層による変位を被っていないと考えられることから、C1層堆積後、B2層堆積前に断層活動があったと推定される。このことから、ここで認められる断層の活動時期は、fa断層面の下に位置するB3層下部とB2層の14C年代値から、約7千6百−3千7百年前となる。

 産業技術総合研究所(2006)はさらに詳細な活動履歴を得るため、山形県(1999)で掘削されたトレンチに隣接した地点でトレンチを掘削した。トレンチ壁面には西傾斜を示す断層とこれを覆う地層が認められた(図11)。
 トレンチ壁面に基づくとB3層以下の地層を変位させ、B2層に覆われることから、B3層堆積以後、B2層堆積以前の活動が指摘されている(産業技術総合研究所,2006)。さらに、産業技術総合研究所(2006)は、産業技術総合研究所(2006)と山形県(1999)のトレンチがごく近傍であることから、それぞれの地層の対比を行い、その活動時期を山形県(1999)のトレンチで得られたB3層と産業技術総合研究所(2006)のトレンチで得られたB2a層との間に絞り込んだ。すなわち、山形県(1999)のトレンチで得られたB3層の約5千1百−4千9百年前と、産業技術総合研究所(2006)のトレンチで得られたB2a層の約4千5百−4千3百年前を示す14C年代値から、その活動時期を約5千1百年前以後、約4千3百年前以前とした(産業技術総合研究所,2006)。なお、調査地点では同一地形面に比高12−14m程度の撓曲崖が形成されており、トレンチで確認された断層変位は、この撓曲変形と比較して明らかに軽微であることから、これ以降に活動があったことが否定できないため、上述の活動は本地点の最新活動とは特定できないと判断した。

 以上の検討結果から、本地点では、約5千1百年前以後、約4千3百年前以前に活動があったと推定される。また、この活動前後にも活動があった可能性もあるが、その時期及び回数については特定できない。

・上山地点(トレンチ調査)
 上山断層では阿子島ほか(2004)によって活動履歴などの調査が報告されている。
 阿子島ほか(2004)は、トレンチ3において、VIII層が断層変位を受けており、VIII層からは約3千9百−3千7百年前を示す14C年代値が得られていることから、本地点の最新活動時期を約3千9百年前以後と指摘している。しかしながら、VIII層は斜面堆積物であること、スケッチではVIII層まで断層線が延ばされていないことから、VIII層が断層変位を受けているとは判断できない。

b)先史時代・歴史時代の活動

 阿子島ほか(1997,1998)は、寒河江市の三条遺跡において、地震動による噴砂と地盤流動化の痕跡を検出し、それに関係した地震の発生時期を13世紀頃と推定した。しかしながら、本断層帯との直接的な関係は不明である。
 本断層帯周辺では、少なくとも19世紀初頭から地震の記録があるが、本断層帯から発生したと考えられる被害地震の記述がないこと(宇佐美,2003)から、最近約2百年間はこの断層帯は活動していないと考えられる。

 以上のことから、北部の最新活動は約3千9百年前以後、約1千6百年前以前であったと推定され、1つ前の活動時期は約5千9百年前以後、約5千8百年前以前、2つ前の活動時期は約9千5百年前以後、約8千8百年前以前であったと推定される(図12)。
 南部の活動は約5千1百年前以後、約4千3百年前以前であったと推定される (図12)。しかしながら、これ以後の活動時期及び回数については不明である。

(3)1回の変位量(ずれの量)

<北部>
 北部では、前述したように大石田町横山地点のトレンチで、C層の堆積面の上面が約7−8m上下に変位しており、この変位量は3回の断層活動で生じた可能性がある(産業技術総合研究所,2006)。このことから、本断層の1回の活動に伴う上下変位量は2−3m程度となる。
 なお、本断層帯北部の長さは約29kmと推定されることから、松田(1975)の経験式(1)及び(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は約2.3m(上下成分)と計算される。
       Log L=0.6M−2.9   (1)
       Log D=0.6M−4.0   (2)
 ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは1回の活動に伴う変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。

 以上のことから、北部の1回の活動に伴う上下変位量は2−3m程度であった可能性がある。

<南部>
 南部では、1回の活動に伴う変位量を示す直接的な資料は得られていない。しかしながら、断層帯南部の長さは約31kmと推定されることから、前述の経験式(1)及び(2)を用いると、1回の活動に伴う上下変位量は約2.5mと計算される。

 以上のことから、南部の1回の活動に伴う上下変位量は2−3m程度であった可能性がある。

(4)活動間隔

<北部>
 北部の平均活動間隔は、上述のように過去3回の断層活動から、約2千5百−4千年であったと推定される。

<南部>
 南部の平均活動間隔に関する直接的な資料は得られていない。しかしながら、平均上下変位速度(1m/千年)と上述の経験式より求められた1回の上下変位量(2.5m)から、活動間隔は2千5百年程度と求められる。
 以上のことから、南部の平均活動間隔は2千5百年程度の可能性があると判断した。

(5)活動区間

 山形盆地断層帯は前述のように、過去の活動時期の違いから、北部と南部の2つの区間に分かれて活動があったと推定される。しかしながら、松田(1990)に基づくと1つの起震断層となることから、断層帯全体が1つの活動区間として活動した可能性もある。

(6)測地観測結果

 山形盆地断層帯周辺における1994年までの最近約100年間の測地観測結果では、断層帯南部で南北方向の伸びに加えて東西方向の伸びが見られる。また、2005年7月までの7年間のGPS観測結果では、断層帯周辺で東西方向の縮みが見られる。

(7)地震観測結果

 山形盆地断層帯周辺の最近約9年間の地震観測結果によると、特に断層帯北部の湯野沢断層付近と断層帯南部の村木沢断層付近で、ややまとまった地震活動がある。
 地震発生層の下限の深さは15km程度と推定される。

2.3 山形盆地断層帯の将来の活動

(1)活動区間及び活動時の地震の規模

 山形盆地断層帯は、過去の活動と同様に北部と南部の2つの区間に分かれて活動すると推定されるが、断層帯全体が1つの区間として同時に活動する可能性もある。北部と南部に分かれて活動する場合、北部では前述の松田(1975)の経験式(1)に基づくと、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定される。その際には過去の活動と同様に断層近傍の地表面で断層の西側が東側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある。
 南部では前述の松田(1975)の経験式(1)、(2)に基づくと、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定される。その際には断層近傍の地表面で断層の西側が東側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある。
 山形盆地断層帯全体が同時に活動する場合には、マグニチュード7.8程度の地震が発生すると推定される。

(2)地震発生の可能性

 以上のように、山形盆地断層帯は北部と南部の2つの区間に分かれて活動すると推定される。
 北部では、平均活動間隔が約2千5百年−4千年、最新活動時期が約3千9百年前以後、約1千6百年前以前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は0.4−1.6となる。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、0.002%−8%、0.004%−10%、0.01%−20%及び0.1%−60%となる。また、現在までの集積確率は、0.006%−90%より大となる(表2)。本評価で得られた地震発生の確率には幅があるが、その最大値をとると、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。
 南部では、平均活動間隔が2千5百年程度と求められているが、活動時期及び回数が求められていない。このため、上述のような規模の地震が発生する長期確率を通常の評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)を用いて評価することはできない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、地震の発生確率を求めるにあたって、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしている。南部では平均活動間隔が2千5百年程度であることをもとに、ポアソン過程を適用して地震発生確率を求めると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、1%、2%、4%及び10%となり(表2)、今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。なお、約5千1百年前以後、約4千3百年前以前の活動を南部の最新活動と仮定した場合、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は1.7−2.0となる。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、8%、10%、20%−30%及び60%となる。また、現在までの集積確率は、90%より大となる。
 山形盆地断層帯全体が同時に活動する場合の確率は、北部あるいは南部が単独で活動する場合の確率を超えないものと考えられる。

3.今後に向けて

 今回の評価では、過去の活動時期の違いから断層帯を2つの活動区間に区分することができた。また、山形盆地断層帯北部に関しては最新活動時期を従来の評価より短い期間内に推定することができた。しかしながら、将来の地震発生確率を絞り込むまでには至らなかった。これは、現行の評価手法ではこれ以上の地震発生確率値の絞り込みが困難であることを示している。今後は新たな視点と必要な情報を加えた新たな評価手法を構築し、さらに信頼度を向上させるための調査を行う必要がある。断層帯南部では最新活動時期が特定されていないため将来の地震発生確率等の信頼度が低くなっている。今後はトレンチ調査などによって最新活動時期を特定する必要がある。
 また、近接する長井盆地西縁断層帯の活動との関連性について検討する必要がある。


注10: 活動度(松田,1975)とは、活断層の運動の活発さの程度を示すもので、活動度の違いにより、以下のようなA〜Cのランクに区分されている。
・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。
注11: 「変位」を、1頁の本文及び5、6頁の表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓みの成分」よりなる。
注12: 炭素同位体年代については、Ramsey(1995,2001)、Reimer et al.(2004)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。



文 献

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表3 山形盆地断層帯(北部)の将来の地震発生確率及び参考指標
項  目                           数  値                  備   考
地震後経過率

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率
0.4−1.6

0.002%−8%
0.004%−10%
0.01%−20%
0.1%−60%

0.006−90%より大
発生確率及び集積確率は地震
調査研究推進本部地震調査委
員会(2001)参照。
指標(1) 経過年数
       比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
マイナス1千2百年 − 2千2百年
0.6−2.2
0.003−6.5
0.006%−90%より大
0.0004−0.8
0.0003−0.0004
地震調査研究推進本部地震調
査委員会長期評価部会(199
9)参照。
 評価時点はすべて2007年1月1日現在。

指標 (1) 経過年数 当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。ポアソン過程を適用した場合の危険率は、3千3百分の1−2千5百分の1(0.0003−0.0004)回であり、いつの時点でも一定である。BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0−3百分の1(0.003)であり、時間とともに増加する。ほぼ0であればBPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するまでには今後1千2百年を要するが、3百分の1であれば前者がすでに2千2百年が経過していることになる。
指標 (1) 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標 (2)
BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標 (3)
評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標 (4)
評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標 (5)
ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。



付表
地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。
平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。
平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。
平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、 単に長期間の平均値を確率としている。




<付録>

 山形盆地断層帯については、産業技術総合研究所(2006)によってトレンチ調査などが実施され、新たな知見が得られたことから、これに基づき再検討を行い、過去の活動履歴などについて改訂を行った。
 以下に改訂となった項目とその値について、前回の評価と今回の評価の対比表を示す。なお、評価にあたっては、下表に示す数値のほか各値を求めた根拠についても改訂していることに留意されるとともに、その詳細については評価文を参照されたい。

山形盆地断層帯の評価についての新旧対比表
項  目 前回の評価
(平成14年5月8日公表)
今回の評価
(平成19年8月23日公表)
長さ 約60km 全体: 約60km
北部: 約29km
南部: 約31km

平均的なずれの速度
概ね1−2m/千年
(上下成分)
北部:1m/千年程度
(上下成分)
南部:1m/千年程度
(上下成分)


最新活動時期 約6000年前以後 北部: 約3900年前以後、
約1600年前以前
南部:不明


平均活動間隔 およそ3000年 北部: 約2500−4000年
南部: 2500年程度

1回のずれの量 4−5m程度
(上下成分)
北部: 2−3m程度(上下成分)
南部: 2−3m程度(上下成分)

地震の規模
(マグニチュード)
7.8程度 全体: 7.8程度
北部: 7.3程度
南部: 7.3程度

地震発生確率
(30年)
ほぼ0%−7%
[BPT] 
北部: 0.002%−8%
[BPT]
南部: 1%
[ポアソン]



地震後経過率 0.07−2.0 北部: 0.4−1.6
南部: −

 対比表に示した(◎、○、△)及び(a、b、c、d)については信頼度を表す。それぞれの詳細については注4注9を参照のこと。