平成18年5月15日 |
雲仙断層群の長期評価の一部改訂について
地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について -地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。
雲仙断層群の評価は平成17年3月9日に公表しているが、その後、最近の調査結果により活動履歴などに関する新たな知見が得られたことから、これを基に評価の見直しを行い、一部改訂版としてとりまとめた。また、評価の新旧対比表を付録として巻末に示した。
評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。
平成18年5月15日 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 |
雲仙断層群の評価(一部改訂)
雲仙断層群は、島原湾から島原半島を経て橘湾にかけて分布する活断層群である。ここでは、平成14-16年度にかけて長崎県によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層群の諸特性を次のように評価した*。
雲仙断層群は、島原湾から島原半島を経て橘湾にかけてほぼ東西に分布する断層群である(図1)。雲仙断層群は、ほぼ東西方向の多数の断層から構成されるが、断層の走向や変位の向きから、雲仙断層群北部、雲仙断層群南東部及び雲仙断層群南西部の3つに区分される。なお、雲仙断層群が分布する島原半島のほぼ中央には、活火山の雲仙岳が位置している。
雲仙断層群北部は、長崎県島原市から諫早(いさはや)市南方沖の海域に至る断層群である。長さは30km程度以上で、ほぼ東西方向に延びる、主として相対的に北側が隆起する正断層である(図1、2及び表1)。
雲仙断層群南東部は、長崎県南島原市布津(ふつ)町東方沖から雲仙市小浜(おばま)町に至る断層群である。長さは23km程度で、ほぼ東西方向に延びる、相対的に南側が隆起する正断層である(図1、2及び表2)。
雲仙断層群南西部は、過去の活動時期から北部と南部に区分される。北部は、長崎県南島原市西有家(にしありえ)町から長崎市南東沖に至る断層群である。長さは30km程度で、ほぼ東西方向に延びる、主として相対的に南側が隆起する正断層である。南部は、長崎県雲仙市南串山町西方沖から長崎市南方沖に至る断層群である。長さは23km程度で、ほぼ東西方向に延びる、主として相対的に北側が隆起する正断層である(図1、2及び表3)。
雲仙断層群北部の最新活動時期は、約5千年前以後であった可能性があるが、平均活動間隔は不明である(表1)。
雲仙断層群南東部の最新活動時期は、約7千3百年前以後であった可能性があるが、平均活動間隔は不明である(表2)。
北部の平均的なずれの速度は、1m/千年程度であった可能性がある。最新活動時期は約2千4百年前以後、11世紀以前と推定され、平均活動間隔は、約2千5百-4千7百年であった可能性がある。南部の平均的なずれの速度は、0.3m/千年以上であった可能性がある。南部の活動時期については、約4千5百年前以後、16世紀以前に最新活動を含む1回あるいは2回の活動があった可能性がある。また、平均活動間隔は、約2千1百年-6千5百年であった可能性がある(表3)。
雲仙断層群北部は、全体が1つの活動区間として活動すると推定され、マグニチュード7.3程度以上の地震が発生する可能性がある。この場合、断層の北側が南側に対して相対的に2-3m程度以上高くなる段差を生じる可能性がある(表1)。
雲仙断層群北部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。
雲仙断層群南東部は、全体が1つの区間として活動すると推定され、マグニチュード7.1程度の地震が発生する可能性がある。この場合、断層の南側が北側に対して相対的に2m程度高くなる段差を生じる可能性がある(表2)。雲仙断層群南東部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。
雲仙断層群南西部は、北部と南部が単独で活動する場合、それぞれマグニチュード7.3程度及び7.1程度の地震が発生する可能性がある。この場合、北部では、断層の南側が北側に対して相対的に3-4m程度高くなる段差を生じる可能性がある。南部では、断層の北側が南側に対して相対的に2m程度高くなる段差を生じる可能性がある(表3)。
また、断層群南西部全体が1つの区間として活動する場合、マグニチュード7.5程度の地震が発生する可能性がある(表3)。
北部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表4に示すとおりとなる。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、北部は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる(注1、2)。南部については、平均活動間隔に対して最新活動時期が十分特定できないため、通常の活断層評価とは異なる手法により地震発生の長期確率を求めている。そのため、平均活動間隔の信頼度は低く地震発生確率にも幅があるが、将来このような地震が発生する長期確率は表4に示すとおりとなる。南部は、今後30年の間に地震が発生する確率が、我が国の主な活断層の中では、やや高いグループに属することになる(注1-3)。
断層群南西部全体が同時に活動する場合の地震発生確率は、北部及び南部が単独で活動する場合の確率を超えないものと考えられる。
雲仙断層群は、火山地域に分布する正断層で、多数の短い断層から構成されている。今回の評価では、これらを断層の走向や変位の向きから3つの断層帯に区分し評価した。しかし、島原湾における断層群北部や断層群南東部の東方延長、橘湾の断層群の詳細な分布位置なども依然として不明な点が多い。これらの断層群は互いに近接していることもあり、特に海域における断層の分布に関する資料をさらに集積するなどし、活動区間等についてさらに検討していく必要がある。
また、雲仙断層群では、断層群北部と断層群南東部で平均的なずれの速度、具体的な最新活動の時期、平均活動間隔などに関するデータが得られていないなど、断層群の特性が精度よく求められていない。このため、雲仙断層群全体について、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量などに関するより精度のよい資料を集積する必要がある。
さらに、今回の評価では、既往の評価同様、経験則を当てはめて地震の規模やずれの量の予測を行わざるを得なかったが、雲仙断層群の活動は火山活動とも密接な関係があることも考えられ、この点に関しても今後検討していく必要がある。
項 目 | 特 性 |
信頼度 (注4) |
根 拠 (注5) |
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1.断層群の位置・形態 | ||||
(1)断層群を構成 する断層 |
橘湾の断層群(湾奥北部)、千々石(ちぢわ) 断層、小倉断層、舞岳断層、九千部(くせ んぶ)断層、普賢岳北断層等 |
文献2、4、5、9、 10による |
||
(2) 断層群の位置・ 形状 |
地表における断層群の位置・形状 断層群の位置 (東端)北緯32°46′東経130°22′ (西端)北緯32°45′東経130°04′ 長さ 30km程度以上 |
△ △ △ |
文献2、4、5、9、 10による。数値は 図2から計測。 |
|
地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向 E-W 傾斜 高角度南傾斜 (約200m以浅) 幅 不明 |
○ ◎ ◎ △ |
上端の深さが0km であることから推 定。 一般走向は断層群 の東端と西端を直 線で結んだ方向(図2 参照)。 傾斜は、反射法弾性 波探査(文献10)、 地形の特徴や断層 露頭から推定(文献 2、6、9)。 地震発生層の下限の 深さは15km程度。 |
||
(3) 断層のずれの向 きと種類 |
主として北側隆起の正断層 |
○ |
地形の特徴及び反 射法弾性波探査(文 献10)などによる。 |
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2.断層群の過去の活動 | ||||
(1) 平均的なずれの 速度 |
不明 |
|
説明文2.1.2(1)参照。 | |
(2) 過去の活動時期 | 活動1(最新活動時期) 約5千年前以後 |
△ |
文献6、9による。 説明文2.1.2(2)参照。 |
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(3) 1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量: 2-3m程度以上 (上下成分) 平均活動間隔:不明 |
△ |
断層の長さから推定。 | |
(4) 過去の活動区間 | 断層群全体で1区間 |
○ | 断層の地表形態から 推定。 |
|
3.断層群の将来の活動 | ||||
(1) 将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間 断層群全体で1区間 地震の規模 マグニチュード7.3程度 以上 ずれの量 2-3m程度以上 (上下成分) |
○ △ △ |
断層の地表形態から 推定。 断層の長さから推定。 断層の長さから推定。 |
項 目 | 特 性 | 信頼度 (注4) |
根 拠 (注5) |
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1.断層群の位置・形態 | ||||
(1)断層群を構成 する断層 |
赤松谷断層、深江断層、鴛鴦ノ池(おしど りのいけ)断層、布津(ふつ)断層、高岩 山断層、柳原断層、布津沖の断層等 |
文献2、3による |
||
(2) 断層群の位置・ 形状 |
地表における断層群の位置・形状 断層群の位置 (東端)北緯32°43′東経130°30′ (西端)北緯32°45′東経130°15′ 長さ 23km程度 |
△ ○ △ |
文献2、3による。 数値は図2から計測。 |
|
地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向 N80°W 傾斜 高角度北傾斜 (地表・海底付近) 幅 不明 |
○ ◎ ◎ ○ |
上端の深さが0km であることから推定。 一般走向は断層群 の東端と西端を直 線で結んだ方向(図2 参照)。 傾斜は、地形の特徴 や断層露頭から推 定(文献2、8、9)。 地震発生層の下限の 深さは15km程度。 |
||
(3) 断層のずれの向 きと種類 |
南側隆起の正断層 |
○ |
地形の特徴などによる。 | |
2.断層群の過去の活動 | ||||
(1) 平均的なずれの 速度 |
不明 |
|
説明文2.2.2(1)参照。 | |
(2) 過去の活動時期 | 活動1(最新活動時期) 約7千3百年前以後 |
△ |
文献9、10による。 |
|
(3) 1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量: 2m程度 (上下成分) 平均活動間隔: 不明 |
△ |
断層の長さから推定。 | |
(4) 過去の活動区間 | 断層群全体で1区間 |
○ | 断層の地表形態から 推定。 |
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3.断層群の将来の活動 | ||||
(1) 将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間 断層群全体で1区間 地震の規模 マグニチュード7.1程度 ずれの量 2m程度 (上下成分) |
○ △ △ |
断層の地表形態から 推定。 断層の長さから推定。 断層の長さから推定。 |
項 目 | 特 性 | 信頼度 (注4) |
根 拠 (注5) |
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1.断層群の位置・形態 | ||||
(1)断層群を構成 する断層 |
北部:小浜(おばま)断層、金浜断層、諏訪池 断層、橘湾の断層群の一部 (およそ 北緯32°41′より北のもので湾奥 北部のものを除く) 南部:橘湾の断層群の一部 (およそ北緯 32°41′より南のもの) |
文献2、7、9、10 による。詳細は図2 参照。 |
||
(2) 断層群の位置・ 形状 |
地表及び海域における断層群の位置・形状 断層群の位置 北部:(東端)北緯32°43′東経130°17′ (西端)北緯32°42′東経129°57′ 南部:(東端)北緯32°40′東経130°07′ (西端)北緯32°37′東経129°53′ 長さ 全体:38km程度 北部:30km程度 南部:23km程度 |
○ △ △ △ △ △ △ |
文献2、7、9、10 による。 数値は図2から計測。 |
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地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向 全体:N80°E 北部:E-W 南部:N80°E 傾斜 北部:高角度北傾斜 (地表・海底付近) 南部:高角度南傾斜 (海底付近) 幅 南部、北部とも不明 |
○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ △ |
上端の深さが0km であることから推定。 一般走向は断層群 の東端と西端を直 線で結んだ方向(図2 参照)。 北部の傾斜は、地形 の特徴や断層露頭 から推定(文献2、8、 9、10)。 南部の傾斜は文献 9、10などによる。 地震発生層の下限の 深さは15km程度。 |
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(3) 断層のずれの向 きと種類 |
北部:主として南側隆起の正断層 南部:主として北側隆起の正断層 (東端の一部は南側隆起の 正断層を示すものもある) |
○ △ |
地形の特徴や文献 10などによる。 文献10などによる。 |
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2.断層群の過去の活動 | ||||
(1) 平均的なずれの 速度 |
北部:1m/千年 程度(上下成分) 南部:0.3m/千年 以上(上下成分) |
△ △ |
文献8、10に示され た資料から推定。 |
|
(2) 過去の活動時期 | 北部:活動1(最新活動時期) 約2千4百年前以後、11世紀以前 :活動2(1つ前の活動時期) 約5千6百年前以後、約4千1百年前 以前 南部:約4千5百年前以後、16世紀以前に 1回あるいは2回活動があった可能性 がある :なお、約6千9百年前以後、約6千3百 年前以前にも1回活動の可能性がある 17世紀以後に、南西部南部付近から 発生したと考えられる被害地震は知ら れておらず、最近約4百年間は活動し ていないと考えられる |
○ △ △ |
活動1、2ともに、 文献8、10に示され た資料から推定。 南部は文献10に示 された資料から推定。 |
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(3) 1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量 北部:3-4m程度(上下成分) 南部:2m程度(上下成分) 平均活動間隔 北部:約2千5百-4千7百年 南部:約2千1百-6千5百年 |
△ △ △ △ |
文献8、10に示され た資料と断層の長さ から判断して推定。 北部は過去2回の活 動時期等から推定 (説明文2.3.2(4) 参照)。 南部は、文献10に 示された資料から 推定。 |
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(4) 過去の活動区間 | 北部と南部の2区間 | ○ | 過去の活動時期及び 断層の地表形態から 推定。 |
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3.断層群の将来の活動 | ||||
(1) 将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間 北部と南部の2区間 地震の規模 全体:マグニチュード7.5程度 北部:マグニチュード7.3程度 南部:マグニチュード7.1程度 ずれの量 北部:3-4m程度(上下成分) 南部:2m程度(上下成分) |
○ △ △ △ △ △ |
過去の活動時期及び 断層の地表形態から 推定。 断層の長さから推定。 文献8、10に示された 資料と断層の長さから 判断して推定。 |
項 目 | 将来の地震発生確率等 (注6) |
信頼度 (注7) |
備 考 |
<北部> 地震後経過率 (注8) 今後30年以内の地震発生確率 今後50年以内の地震発生確率 今後100年以内の地震発生確率 今後300年以内の地震発生確率 集積確率 (注9) <南部> 今後30年以内の地震発生確率 今後50年以内の地震発生確率 今後100年以内の地震発生確率 今後300年以内の地震発生確率 |
0.2-1.0 ほぼ0% - 4% ほぼ0% - 7% ほぼ0% - 10% ほぼ0% - 40% ほぼ0% - 50% 0.5% - 1% 0.8% - 2% 2% - 5% 5% - 10% |
b d |
北部の発生確率及び集積確率は、 文献1による。 南部の発生確率はポアソン過程 による。 |
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率(%)地震発生直前の
集積確率(%)断層の平均活動
間隔(千年)1995年兵庫県南部地震
(M7.3)六甲・淡路島断層帯
主部淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%-8% 0.06%-80% 約1.7-約3.5 1858年飛越地震
(M7.0-7.1)跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)ほぼ0%-13% ほぼ0%-
90%より大約1.7-約3.6 1847年善光寺地震
(M7.3)長野盆地西縁断層帯
(長野県)ほぼ0%-20% ほぼ0%-
90%より大約0.8-約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は12%程度、5千年の場合は5%程度である。 | ||
注3: | 雲仙断層群南西部南部では、平均活動間隔と比べて最新活動時期を十分特定することはできなかったため、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の長期確率を求めることができない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、このような更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしていることから、ここでは、ポアソン過程を適用して断層群の将来の地震発生確率を求めた。しかし、ポアソン過程を用いた場合、地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり、本来時間とともに変化する確率の「平均的なもの」になっていることに注意する必要がある。 なお、グループ分けは、通常の手法を用いた場合の全国の主な活断層のグループ分け(注2参照)と同じしきい値(推定値)を使用して行った。 |
|
注4: | 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。 |
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◎:高い、○:中程度、△:低い | ||
注5: | 文献については、本文末尾に示す以下の文献。 | |
文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001) 文献2:活断層研究会編(1991) 文献3:国土地理院(1982) 文献4:国土地理院(1988) 文献5:九州活構造研究会編(1989) 文献6:松岡ほか(2004) 文献7:松岡・岡村(2000) 文献8:長崎県(2003) 文献9:長崎県(2004) 文献10:長崎県(2005) |
||
注6: | 評価時点はすべて2006年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。 | |
注7: | 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。 | |
a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い | ||
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。 発生確率等の評価の信頼度 |
||
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。 b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。 c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。 d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。 |
||
注8: | 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。雲仙断層群南西部北部の場合、今回の評価の数字で、0.2は906年を4700年で割った値であり、1.0は2400年を2500年で割った値。 | |
注9: | 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。 |
雲仙断層群(雲仙地溝断層群:松田,1990)は、雲仙火山を中心とする地溝を形成しており、松本(1979)によって「別府-島原地溝帯」と命名された地域の西端部にあたる。本地域は、南北方向の引張応力場にあるとされ(多田,1985,1993)、東西走向の正断層群が発達する。その成因としては、沖縄トラフの延長(多田,1985,1993)、あるいは中央構造線の横ずれに伴う地溝(佃,1993)と考えられている。
金子(1973)、千田(1979)、堤(1987)は、主に空中写真判読により、陸域の地形分類と活断層の認定を行った。活断層研究会編(1980,1991)、九州活構造研究会編(1989)は、空中写真判読及び既存の資料の総括を行い、雲仙断層群及びその周辺の活断層の分布と諸元を取りまとめた。また、松岡・竹村(1993)は、唐比(からこ)低地のボーリングを行い、千々石断層の平均変位速度を報告している。
海域(橘湾及び島原湾)の活断層については、国土地理院(1982,1988)、海上保安庁水路部(1994,1996)及び松岡・岡村(2000)などによる海上音波探査によって、その分布が明らかになっている。また、本田ほか(1995)でも海域の活断層の活動履歴が検討されている。
長崎県(2003,2004,2005)は、雲仙断層群全域にわたる断層変位地形・露頭の記載、沈降域のボーリング調査、海域の音波探査、断層を挟んだコアリング調査などを行い、活動履歴を検討している。
また、Hoshizumi et al.(1999)、星住・宇都(2000)は、豊富な年代試料を基に、火山地質学的な立場から、雲仙火山の形成史をまとめている。
さらに、科学技術振興調整費「雲仙火山:科学掘削による噴火機構とマグマ活動解明のための国際共同研究」の一環として、島原半島中央部で反射法弾性波探査が行われたほか(清水ほか,2002)、断層露頭調査やトレンチ調査が実施され雲仙断層群の活動履歴が検討されている(松岡ほか,2004)。
雲仙断層群は、島原湾から島原半島をほぼ東西に横断し橘湾に分布する断層群である。雲仙断層群は、断層の走向や変位の向きから、雲仙断層群北部、雲仙断層群南東部及び雲仙断層群南西部の3つに区分した(図1及び2)。なお、雲仙断層群が分布する島原半島のほぼ中央には、活火山の雲仙岳が位置している。
本評価において、断層群の位置は、陸上部分は主として活断層研究会編(1991)、島原湾部分は国土地理院(1982)、橘湾部分は松岡・岡村(2000)と長崎県(2004,2005)によった。
なお、橘湾において、海上保安庁水路部(1994)は、更新世中期以前に活動したものも含めて活断層として一括して表記している。これに対し、松岡・岡村(2000)では、更新世中期以前に活動した断層と、これより新しい時期に活動した断層とは走向が異なる可能性を指摘している。さらに、国土地理院(1988)と長崎県(2004,2005)も海上保安庁水路部(1994)と走向を異にし松岡・岡村(2000)に近い走向を示している。したがって、本評価では橘湾における断層位置の記載は、松岡・岡村(2000)、長崎県(2004,2005)を主とし、一部を国土地理院(1988)によることとした。
さらに、松岡・岡村(2000)と長崎県(2004,2005)の調査領域(概ね北緯32度37分以南)の南西延長にも、東シナ海東縁から沖縄トラフへと断続的に続く断層群の分布が知られているが、陸域・沿岸域の基盤的調査観測対象断層としての雲仙断層群の範疇を逸脱するものと判断できる。したがって、松岡・岡村(2000)と長崎県(2004,2005)の調査領域外となる東シナ海東縁から沖縄トラフへと断続的に続く断層群は、本評価の対象としないこととした。
雲仙断層群北部は、長崎県島原市から諫早(いさはや)市南方沖までほぼ東西方向に延び橘湾の断層群(注10)の北部、千々石(ちぢわ)断層、小倉断層、舞岳断層、九千部(くせんぶ)断層、普賢岳北断層等から構成される(図1、2)。雲仙断層群北部を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、国土地理院(1988)、海上保安庁水路部(1994)、松岡・岡村(2000)、中田・今泉編(2002)、長崎県(2004,2005)などに示されている。断層の位置はこれらの資料でほぼ一致している。
本評価では、国土地理院(1988)、海上保安庁水路部(1994)、松岡・岡村(2000)に従い、国土地理院(1988)により記載された諫早市南東沖に分布する断層の西端を雲仙断層群北部の位置としたが、その信頼度は低い。
また、東端の位置については、長崎県(2005)による反射法弾性波探査(図3)にて、千々石断層の東延長上に位置すると考えられる断層変位が認められた島原市栄町付近とした。さらに、雲仙断層群北部は東方の海域(島原湾)に延長する可能性があるが、1792年の眉山(まゆやま)崩壊堆積物が厚く分布するため、これまで変位地形が確認できていない。島原湾の沖合いでは、海上保安庁水路部(1996)が、層(中部更新統相当)中に伏在する断層を断片的に記載している。しかしながら、島原湾においては全般的に鮮明な音波探査記録が得られていないため、雲仙断層群北部がどこまで東方海域に延長するかは不明である。
雲仙断層群北部の長さ及び一般走向は、図2に示された断層群の東端と西端を直線で結ぶとそれぞれ30km程度以上、ほぼ東西となる。
断層面上端の深さは、断層変位が地表及び海底面付近に達していることから0kmとした。
断層面の傾斜は、長崎県(2005)による反射法弾性波探査結果(図3)や断層露頭及び変位地形の特徴などから、約200m以浅では高角度南傾斜の可能性がある。なお、清水ほか(2002)が島原半島のほぼ中央部で行った反射法弾性波探査結果では、千々石断層が約2km以浅で高角度南傾斜を示唆する結果が得られているが、断層の位置が測線の北端付近にあたり、やや反射記録が不明瞭であることから参考扱いとする。
断層面の下端の深さは、地震発生層の下限の深さが15km程度と推定されることから、15km程度と推定されるが、断層面の幅は不明である。
雲仙断層群北部は、断層変位地形や断層露頭(長崎県,2004など)及び反射法弾性波探査結果(長崎県,2005)などから、主として相対的に北側が隆起する正断層と推定される。
長崎県(2004)は、雲仙火山起源の溶岩流・火砕流または火山麓扇状地の堆積面を変位基準として平均上下変位速度を報告している。ここで、雲仙火山起源の溶岩流・火砕流の年代は、K-Ar法、フィッショントラック法、放射性炭素法(星住・宇都,2000)及び熱ルミネッセンス法(Takashima and Watanabe,1994)による(長崎県,2004)。千々石断層中部の田代原地点においては、鳥甲山(とりかぶとやま)溶岩(約21万年前)が192m以上、吾妻岳溶岩(約14万年前)が315m以上上下変位していることから、平均上下変位速度はそれぞれ0.91m/千年以上、2.3m/千年以上と求められる。千々石断層中部の田代原西方付近においては、鉢巻山溶岩(約30万7千年前)が463m以上上下変位していることから、平均上下変位速度は1.5m/千年以上と求められる。千々石断層中部の愛野・千々石地点においては、中位扇状地面(約22万年前)が267m以上上下変位していることから、平均上下変位速度は1.2m/千年以上と求められる。
松岡ほか(2005)は雲仙火山起源の溶岩流・火砕流または火山麓扇状地の堆積面を変位基準として、千々石断層西部の中位扇状地面(約20万年前)、鳥甲山溶岩(約21万年前)の上下変位から、平均上下変位速度を0.75m/千年、0.86m/千年としている。
しかしながら、以上に示した、平均変位速度については、溶岩や火砕流堆積物等の分布を変位基準としているが、形成時の起伏が不明であることや沈降側が浸食されている可能性があることから、参考扱いとする。
また、松岡・竹村(1993)は、千々石断層西部の諫早市南東部の唐比低地において、低地の沈降が断層変位に起因するものと仮定し、海成粘土層が泥炭層に変化する層準が深度10.88mであり、その年代を5千8百年前と仮定して、平均上下変位速度を1.9m/千年と求めているが、年代推定の根拠が不明であるため参考扱いとする。なお、長崎県(2003,2005)も同地点において縄文海進時の海成層上面が海面下8.5-11mに認められるとしている。さらに、長崎県(2005)は、同地点において堆積速度変化からも4千5百-5千年前頃の急激な沈降を想定しており、これらから約4千5百年前の断層活動を示唆している。しかし、長崎県(2004)は、ほぼ同地点において実施した反射法弾性波探査において明瞭な断層面が確認できないことなどから、唐比低地の沈降の原因は断層活動によるものとは限定できないとしているため、この値も参考扱いとする。
一方、雲仙断層群北部の海域部分においては、長崎県(2004)が、橘湾の断層群の北部のF4断層、F5断層において海底音波探査を実施した結果、鬼界アカホヤ火山灰層(約7千3百年前:注12)が1.0-1.2m上下変位していることから、平均上下変位速度を0.14-0.16m/千年と報告している(図4)。しかし、F4、F5断層は雲仙断層群北部の一般的な変位の向きとは逆向きの変位を持ち、副断層と考えられることから、雲仙断層群北部の平均上下変位速度はこの値より大きいとしか言えない。
以上より、雲仙断層群北部の平均上下変位速度については、上述した個々の値の信頼性が十分高いとは言えないため、不明とする。ただし、長崎県(2004)で示された多くのデータから、雲仙断層群北部の平均上下変位速度が、1m/千年程度を超える可能性が十分示唆されることには留意する必要がある。
松岡ほか(2004)は、九千部断層の舞岳南地点において断層露頭調査を行った結果、鬼界アカホヤ火山灰層(7千3百年前)及び約7千7百-7千5百年前の14C年代値を示す黒ボク土壌が断層によって変位を受けているとしている(図5)。これより、約7千3百年前以後に最新活動があったと推定される。
松岡ほか(2004)は、小倉断層の雲仙市千々石町橘神社地点においてトレンチ調査を行った結果、姶良Tn火山灰(約2万8千年前:注12)起源のガラスを含む層が開口亀裂に落ち込んでいることから少なくとも約2万8千年前以後に最新活動があったとしている(図6)。これより、約2万8千年前以後に最新活動があったと推定される。
長崎県(2004)は、橘湾の断層群の北部のF4断層(諫早市有喜南方沖地点:注10)において音波探査及びピストンコアリング調査を行い、断層を挟んだコアの堆積物の層厚の変化から断層活動を認定している(図4)。長崎県(2004)は、堆積物から得られた14C年代値(注13、14)に基づいて、最新活動時期を約2千4百年前以後、1つ前の活動時期を約5千年前以後、約2千4百年前以前、2つ前の活動時期を約7千6百年前以後、約6千3百年前以前としている。しかしながら、長崎県(2004)の指摘した最新活動及び2つ前の活動については、堆積物の厚さの変化が不明瞭であるため、ここでは参考扱いとする。さらに、F4断層は上下方向のずれの向きが逆の副次的な断層であるため、雲仙断層群北部の活動すべてを示すものではない。よって、F4断層の活動から、約5千年前以後、約2千4百年前に活動があったことは言えるが、活動の回数を限定することはできないと判断した。
長崎県(2004)は、橘湾の断層群の北部のF5断層(橘湾中央地点:注10)において音波探査及びピストンコアリング調査を行い、断層を挟んだコアの堆積物の層厚の変化から断層活動を認定している。長崎県(2004,2005)は、堆積物から得られた14C年代値に基づいて、最新活動時期を約3千4百年前以後、14世紀以前、1つ前の活動時期を約4千5百年前以後、約4千3百年前以前としている。しかしながら、長崎県(2004)の指摘した最新活動については、堆積物の厚さの変化が不明瞭であるため、ここでは参考扱いとする。さらに、F5断層は上下方向のずれの向きが逆の副次的な断層であるため、雲仙断層群北部の活動すべてを示すものではない。よって、F5断層の活動から、約4千5百年前以後、約4千3百年前以前に活動があったことは言えるが、活動の回数を限定することはできないと判断した。
以上のように、雲仙断層群北部では、橘湾北部(F4断層及びF5断層)の調査結果から、約5千年前以後、約2千4百年前以前と、約4千5百年前以後、約4千3百年前以前にそれぞれ活動があった可能性があるが、ともに逆向きの副次断層における調査結果であることと、平均活動間隔が約2-3千年程度より短くなることも示唆されていること(2.1.2(4)参照)を考慮すると、この2つのデータが同じ活動を示していると言い切れない。したがって、雲仙断層群北部の最新活動時期については、約5千年前以後の可能性があるとしか言えない。
なお、雲仙断層群北部では、以下のような報告があるが、いずれも参考扱いとする。
長崎県(2003)は、千々石断層東部の鳥甲山東方地点において、15世紀の14C年代値(注13)を示す年代試料を挟むローム層が礫層と接している露頭を断層露頭として報告している。しかしながら、これらの地層の境界は不明瞭であり、断層であるかどうかは確認できないため、本評価では参考扱いとした。
長崎県(2003)は、千々石断層の南分岐断層である舞岳断層の舞岳南西地点において、姶良Tn火山灰層(約2万8千年前)が断層によって引きずり変形しているとする露頭を報告している。しかしながら、長崎県(2003)の露頭スケッチからは、ここに断層が存在するか否かを判断することは困難である。また、長崎県(2004)は同地点においてトレンチ調査を行った結果、姶良Tn火山灰層を変位させる小断層群が鬼界アカホヤ火山灰に覆われると指摘している(舞岳トレンチA・B)。しかし、長崎県(2004)では、変位量が小さいこと、数多くの小断層が並存することから、これを主断層ではないと判断していることから、参考扱いとした。
長崎県(2003)は、九千部断層の舞岳南地点(九千部岳東方)において断層露頭調査を行った結果、鬼界アカホヤ火山灰(約7千3百年前:注12)を挟む黒ボク土壌が断層によって変位を受けているとしている。しかしながら、長崎県(2003)の露頭スケッチから、断層であるかどうかを判断することができないため、本評価では参考扱いとした。
長崎県(2003)は、普賢岳北断層の舞岳林道終点地点において露頭調査を行い、火砕流堆積物と崖錐堆積物の境界を断層と認定し、鬼界アカホヤ火山灰層を挟む16-17世紀の14C年代値を示す黒ボク土壌が断層上で落ち込んでいるとしている。しかし、黒ボク土壌が断層変位によるものか否かを露頭スケッチから確認することができないため、参考扱いとした。
雲仙断層群北部の近傍で発生した歴史地震としては、1792年(寛政4年)の雲仙岳の地震(マグニチュード6.4)が知られている(宇佐美,2003)。この1792年の雲仙岳の地震では、眉山が崩壊したために島原湾で津波が発生し、死者1万5千人以上の「島原大変・肥後迷惑」と呼ばれる大災害となった(宇佐美,2003)。ただし、この地震と、雲仙断層群北部との関係は不明である。
以上より、雲仙断層群北部では、約5千年前以後、約3千7百年前以前に活動があった可能性があるが、最新活動時期として限定することはできず、少なくとも約5千年前以後に最新活動があった可能性があるとしか言えない。
橘湾の断層群の北部のF4断層とF5断層において、鬼界アカホヤ火山灰堆積より後の活動を1回とすると、1回の上下変位量は1.0-1.2mと求められる。ただし、この値は雲仙断層群北部の一般的な変位の向きと逆であるので、この値以上としか言えない。一方、断層長が30km程度以上であることから、松田(1975)の経験式を用いると、1回の変位量は約2.4m以上と計算される。
以上のことから、雲仙断層群北部での1回の変位量は2-3m程度以上であった可能性がある。
用いた経験式は松田(1975)による次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。
LogL=0.6 M-2.9 (1)
LogD=0.6 M-4.0 (2)
雲仙断層群北部では、平均活動間隔を直接的に求めるための資料は得られていない。
なお、本評価では雲仙断層群北部での平均変位速度は不明としたが、平均変位速度が1m/千年程度以上になる可能性を示す多くのデータが存在する(2.1.2(1)参照)ことを考慮すると、1回のずれの量が2-3m程度以上(計算値は2.4m以上)であることから、活動間隔が2千-3千年程度より短くなる可能性もある。また、島原湾に断層が延びると1回のずれの量が大きくなる可能性もあり、その場合は2千-3千年程度より長くなる可能性もある。
雲仙断層群北部は、断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動があったと推定される。
雲仙断層群北部周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層群周辺で南北方向の伸びが見られる。
また、1997年から8年間のGPS観測結果では、雲仙断層群北部周辺で南北方向のわずかな伸びが見られる。
なお、1997年までの約100年間の水準測量結果によると、島原半島東岸における雲仙断層群北部と雲仙断層群南東部の間の区間(島原市南部から南島原市深江町にかけての区間)は、約2m/千年で沈降している。
最近約5年間の地震観測結果によると、雲仙断層群北部付近の地震活動は、東部で低調、西部で活発である。雲仙断層群北部周辺の地震発生層の下限は15km程度であるが、雲仙岳直下で発生している火山性地震の深さの下限は浅く、約5kmである。
また、馬越ほか(1996)は、1990-1991年の雲仙岳噴火前後の島原半島西部下の地震について、橘湾下では震源の深さは10-15kmがほとんどであるが、西海岸付近から東に向かって次第に震源の深さの下限が浅くなる傾向が見られると報告している。
なお、雲仙岳付近では深さ約15-30kmで低周波地震が発生している。
雲仙断層群北部は、全体が1つの活動区間として活動すると推定される。この場合、雲仙断層群北部の長さが30km程度以上であることから、経験式(1)、(2)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.3程度以上の可能性がある。この際に、断層の北側が南側に対して相対的に2-3m程度高くなる段差を生じる可能性がある。
雲仙断層群北部は平均活動間隔に関するデータが得られていないため、将来における地震発生の可能性は不明である。なお、活動度(注15)がA級相当であることを示す平均変位速度の参考データ(2.1.2(1)参照)から判断すると、平均活動間隔が2千-3千年程度より短い可能性があることや、最新活動時期(約5千年前以後)からある程度時間が経過していることも考えられることに留意しておく必要がある(注16)。
雲仙断層群南東部は、長崎県南島原市布津(ふつ)町東方沖から雲仙市小浜(おばま)町まで、ほぼ東西ないし西北西-東南東方向に延び、概ね東から、布津沖の断層(注10)、赤松谷断層、深江断層、鴛鴦ノ池(おしどりのいけ)断層、布津断層、高岩山断層、柳原断層などから構成される(図1、2)。雲仙断層群南東部を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、国土地理院(1982)、海上保安庁(1996)、松岡・岡村(2000)及び中田・今泉編(2002)などに示されている。各断層の位置は、陸域及び海域ともこれらの資料でほぼ一致している。ここで、断層群の東端は島原湾の中央(東経130度30分付近)付近において、国土地理院(1982)により断層が確認された位置までとした。これより東の島原湾においては、調査が行われていない。また、西端の位置は活断層研究会編(1991)による鴛鴦ノ池断層の西端(雲仙市小浜町鴛鴦ノ池付近)とした。
なお、雲仙断層群南東部を構成する断層の位置は、活断層研究会編(1991)、国土地理院(1982)、名称は活断層研究会編(1991)によった。
断層群南東部全体の長さ及び一般走向は、図2に示された断層群の東端と西端を直線で結ぶとそれぞれ23km程度、N80°Wとなる。
断層面上端の深さは、断層変位が地表及び海底面付近に達していることから0kmとした。断層面の傾斜は、変位地形の特徴や断層露頭(長崎県,2003,2004)などから、地表付近では高角度で北傾斜と推定される。
断層面の下端の深さは、地震発生層の下限の深さが15km程度と推定されることから、15km程度と推定されるが、断層面の幅は不明である。
雲仙断層群南東部は、断層変位地形や断層露頭(長崎県,2003,2004)などから、相対的に南側が隆起する正断層と推定される。
長崎県(2004)は、布津断層において低位扇状地面(約9万年前)に88mの上下変位(断層崖の比高)が認められることから、平均上下変位速度を0.98m/千年としている。ただし、低下側はやや新しい扇状地
'面であることから、真の平均上下変位速度はこの値より大きい可能性がある。
また、長崎県(2004)は、赤松谷断層において古江火砕流堆積物(約2万3千年前)が60m上下変位していることから、平均上下変位速度を2.6m/千年としている。ただし、この断層崖は、水無川の侵食崖である可能性もある。長崎県(2004)は、深江断層において俵石岩屑なだれ堆積物(約6万年前)に120mの上下変位(断層崖の比高)が認められることから、平均上下変位速度を2m/千年としている。また、地質断面図において、俵石岩屑なだれ堆積物(約6万年前)に55-70mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度は0.92-1.2m/千年となる(長崎県,2004)。さらに、長崎県(2004)が、布津断層周辺で作成した地質断面図において、湯河内火砕流堆積物(9万年前)に40-70mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度は0.44-0.78m/千年となる(長崎県,2004)。
松岡ほか(2005)は、雲仙火山起源の溶岩流・火砕流または火山麓扇状地の堆積面を変位基準として、赤松谷断層の野岳火砕流堆積物(約7万年前)、吹越溶岩(約10-11万年前)、古江火砕流堆積物(約2.3万年前)の上下変位から、平均上下変位速度を1.7m/千年、0.9-1.2m/千年、3m/千年としている。
しかしながら、以上に示した平均変位速度については、溶岩や火砕流堆積物等の分布を変位基準としているが、形成時の起伏が不明であることや沈降側が浸食されている可能性があることから、評価に採用できるほどの信頼度があるとは言えないため、参考として記述するに留める。
以上より、雲仙断層群南東部の平均変位速度については、上述した個々の値の信頼性は十分高いとは言えないため、不明とする。ただし、長崎県(2004)で示された多くのデータから、雲仙断層群南東部の平均上下変位速度が1m/千年程度を超える可能性が十分示唆されることには留意する必要がある。
長崎県(2004)は、南島原市布津町柳地点において布津断層のトレンチ調査を行った結果、鬼界アカホヤ火山灰を含む崖錐堆積物が断層に切られているのを確認している(図7)。さらに、長崎県(2004)では、この上位の15-17世紀の14C年代値が得られている表土には、断層の延長上に不明瞭な境界が認められるとしているが、この境界が断層活動に起因するものかどうかは明らかでないため、この露頭調査結果からは鬼界アカホヤ火山灰降下以後に断層活動があったとしか言えない。
さらに、同地点で、長崎県(2003)は、姶良Tn火山灰を含む地層が断層に切られているとしているが、露頭スケッチから追認することはできない。
以上から、雲仙断層群南東部では、約7千3百年前以後に最新活動があった可能性があるが、これ以上、年代を絞りこむことはできない。
なお、雲仙断層群南東部では、他に以下のような報告があるが、いずれも参考扱いとする。
長崎県(2004)は、島原市大野木場(おおのこば)地点において赤松谷断層のトレンチ調査を行った。トレンチ壁面には、約8千2百-8千年前の14C年代値を示す土石流堆積物が露出したが、断層は確認されていない。また、長崎県(2003)は、南島原市深江町古江名地点において、深江断層の断層露頭調査を行い、砂礫層を切る断層を確認しているが、堆積物の年代試料が得られていないため、活動時期は不明である。長崎県(2004)の深江断層トレンチ(平之坂地点)では、ブロック化した崖錐堆積物に約7千3百-7千1百年前の14C年代値を示すローム層が挟まれていることが確認されたが、断層との関係は不明である。さらに、長崎県(2004)が、雲仙市小浜町空知地点において、鴛鴦ノ池断層のトレンチ調査を行った結果、鬼界アカホヤ火山灰が混入するローム層が露出したが、トレンチ壁面には断層は確認されなかった。
雲仙断層群南東部の近傍で発生した歴史地震としては、2.1.2(2)で示した1792年の雲仙岳の地震が知られている。
その他には雲仙断層群南東部の周辺で発生した被害地震は知られていない。
以上のことから、雲仙断層群南東部では、少なくとも約7千3百年前以後に最新活動があった可能性がある。
雲仙断層群南東部では、1回の変位量を直接示す資料は得られていない。しかし、断層長が23km程度であることから、前述の松田(1975)の経験式を用いると、1回の変位量は1.8mと計算される。
以上のことから、雲仙断層群南東部での1回の変位量は2m程度であった可能性がある。
雲仙断層群南東部では、平均活動間隔を直接求めるための資料は得られていない。
なお、本評価では雲仙断層群南東部での平均変位速度は不明としたが、平均変位速度が1m/千年程度以上になる可能性を示す多くのデータが存在する(2.2.2(1)参照)ことを考慮すると、1回のずれの量が2m程度(計算値は1.8m)であることから、活動間隔が2千年程度より短くなる可能性もある。
雲仙断層群南東部は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動があったと推定される。
雲仙断層群南東部周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層群周辺でほぼ南北方向の伸びが見られる。
また、1997年間から8年間のGPS観測結果では顕著な歪みは見られない。
なお、1997年までの約100年間の水準測量結果によると、島原半島東岸における雲仙断層群北部と雲仙断層群南東部の間の区間(島原市南部から南島原市深江町にかけての区間)は、約2m/千年で沈降している。
最近約5年間の地震観測結果によると、雲仙断層群南東部付近の地震活動は低調である。雲仙断層群南東部周辺の地震発生層の下限の深さは15km程度である。
雲仙断層群南東部は、全体が1つの活動区間として活動すると推定される。この場合、断層群の長さが23km程度であることから、経験式(1)(2)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.1程度の可能性がある。この際に、断層の南側が北側に対して相対的に2m程度高くなる段差を生じる可能性がある。
雲仙断層群南東部は、平均活動間隔に関するデータが得られていないため、将来における地震発生の可能性は不明である。ただし、活動度がA級相当であることを示す参考データ(2.2.2.(1)参照)から判断すると、平均活動間隔が短い可能性があることや、最新活動時期(約7千3百年前以後)からある程度時間が経過していることも考えられることに留意しておく必要がある(注16)。
雲仙断層群南西部は、長崎県南島原市西有家(にしありえ)町から長崎市の南方沖まで、ほぼ東西ないし東北東-西南西方向に延び、概ね東から、小浜断層、金浜断層、諏訪池断層、橘湾の断層群などから構成される(図1、2)。雲仙断層群南西部を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、国土地理院(1988)、海上保安庁(1994)、松岡・岡村(2000)、中田・今泉編(2002)、長崎県(2004,2005)などに示されている。このうち、橘湾内では、国土地理院(1988,1989)、松岡・岡村(2000)、長崎県(2004,2005)と海上保安庁(1994)とでは断層線の走向が異なっている(2.雲仙断層群の評価結果の項参照)。なお、雲仙断層群南西部を構成する断層の位置は、陸域は活断層研究会編(1991)、海域は国土地理院(1988)、松岡・岡村(2000)及び長崎県(2004,2005)、名称は活断層研究会編(1991)によった。雲仙断層群南西部は過去の活動時期の違いから(2.3.2(2)参照)、長崎県南島原市西有家町から長崎市の南東沖に至る北部と長崎県雲仙市南串山町の西方沖から長崎市の南方沖に至る南部に区分した。
北部の東端の位置は、活断層研究会編(1991)による金浜断層の東端(高岩山付近)とし、西端の位置は、長崎県(2004,2005)による長崎市茂木港沖とした。
南部の東端の位置は、長崎県(2004,2005)による雲仙市南串山町西方沖とし、西端の位置は、長崎県(2004,2005)による長崎市二ッ岳崎沖の橘湾の断層群の西端とした。
雲仙断層群南西部の長さ及び一般走向は、図2に示されたそれぞれの東端と西端を直線で結ぶと雲仙断層群南西部全体で38km程度、N80°E、北部で30km程度、E-W、南部で23km程度、N80°Eとなる。断層面上端の深さは、断層変位が地表及び海底面付近に達していることから0kmとした。
断層面の傾斜は、北部では断層露頭や音波探査結果(長崎県,2003:図8)及び変位地形の特徴などから、地表及び海底付近では高角度北傾斜と推定される。
南部における断層面の傾斜は、音波探査結果(長崎県,2005:図10)、広域応力場と周辺の断層の状況などから、海底付近では高角度南傾斜の可能性がある。
断層面の下端の深さは、北部及び南部とも地震発生層の下限の深さが15km程度と推定されることから、15km程度と推定されるが、断層面の幅は不明である。
雲仙断層群南西部北部は、断層変位地形や断層露頭などから、主として、南側が相対的に隆起する正断層と推定される。
南部は、音波探査結果(図10)及び広域応力場と周辺の断層の状況などから、主として、北側が相対的に隆起する正断層の可能性がある。ただし、南部の東端の一部には南側が相対的に隆起する正断層を示すものもある。
長崎県(2003)は、橘湾の断層群の島原半島沖(小浜-金浜沖)のF1-F3断層(飛子北方沖:金浜北西方沖:木指西方沖)で音波探査及びピストンコアリング調査を行い、F1-F3断層が鬼界アカホヤ火山灰層(約7千3百年前)を7.5m上下変位させているとしている(図9)。このことから、平均上下変位速度は1.0m/千年と求められる。
以上のことから、北部の平均上下変位速度は、1m/千年程度の可能性がある。
なお、北部の平均上下変位速度については以下の報告もあるが参考扱いとする。
長崎県(2004)の金浜断層における地質断面図からは、古期雲仙前期火砕流堆積物(42万年前)に75-90mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度は0.18-0.21m/千年と求められる。また、長崎県(2004)は、小浜断層の絹笠山溶岩(約30万3千年前)に90-110mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.31-0.36m/千年としている。しかしながら、絹笠山溶岩については溶岩形成時の起伏が不明であることや、沈降側が浸食されている可能性があることから、参考扱いとする。さらに、長崎県(2004)は、金浜断層の高位扇状地面(42万年前)に145mの上下変位(断層崖の比高)が認められることから、平均上下変位速度を0.35m/千年としている。ただし、断層の低下側は新期の扇状地に覆われているので、平均上下変位速度はこれよりも大きな値になる可能性があるため参考扱いとする。
長崎県(2004,2005)は、橘湾の断層群の西部、大崎東方沖で音波探査及びピストンコアリング調査を行った。その結果、鬼界アカホヤ火山灰層(約7千3百年前)が最大2.5m上下変位していることから、平均上下変位速度は0.34m/千年としている。ただし、この上下変位量は橘湾の断層群の西部の1地点から得られた値であり、断層群全体の変位量はこれを上回る可能性がある。
以上のことから、南部の平均上下変位速度は、0.3m/千年以上の可能性がある。
長崎県(2004)は、橘湾の断層群の東部、雲仙市小浜町沖(以下、小浜-金浜沖)のF1断層(注10)において、音波探査及びピストンコアリング調査を行い、断層を挟んだ堆積物の層厚の変化から、最新活動時期を鬼界アカホヤ火山灰堆積(約7千3百年前)以後としている。ただし、鬼界アカホヤ火山灰層より上位の地層は削剥されている可能性があるため、約7千3百年前以後の活動回数を特定することはできない。
長崎県(2004)は、橘湾の断層群の東部、小浜-金浜沖のF2断層(注10)において、音波探査及びピストンコアリング調査を行い、断層を挟んだ堆積物の層厚の変化から、最新活動時期を鬼界アカホヤ火山灰堆積(約7千3百年前)以後としている。ただし、鬼界アカホヤ火山灰層より上位の地層の対比が不明確なことや、隆起側の堆積物が削剥されている可能性があるため、約7千3百年前以後の活動回数を特定することはできない。
長崎県(2003)は、橘湾の断層群の東部、小浜-金浜沖のF3断層(注10)において音波探査及びピストンコアリング調査を行い、断層を挟んだコアの堆積物の層厚の変化から断層活動を認定している(図9)。堆積物から得られた14C年代値に基づくと、最新活動時期は約2千4百年前以後、11世紀以前、1つ前の活動時期は約5千6百年前以後、約4千1百年前以前となる。断層を挟んだコア中の層厚の差は、1つ前の活動より最新活動の方が顕著であることから、最新活動の方がより確実性が高いと考えられる。また、鬼界アカホヤ火山灰堆積(約7千3百年前)以後、約5千6百年前以前には、断層を挟んだコアの堆積物の層厚の差が認められていないため、約7千3百年前以後、約5千6百年前以前には断層活動はなかったと考えられる。
以上のことから、北部の最新活動時期は、約2千4百年前以後、11世紀以前であったと推定され、1つ前の活動時期は約5千6百年前以後、約4千1百年前以前であった可能性がある。
なお、北部の活動時期については、以下の報告もあるが参考扱いとする。
本田ほか(1995)は、長崎県(2003)とほぼ同地点においてピストンコアリング調査を行い、2,493yBP及び4,600yBP(暦年未補正)に2回の断層活動があったと報告しているが、年代値の推定根拠が明らかではないため、ここでは参考扱いとする。さらに、長崎県(2004)は、雲仙市小浜町茂無田(しげむた)の金浜断層において露頭調査を行い、古期の土石流堆積物と火砕流堆積物が接する断層を確認している。しかし、これらの地層から年代試料が得られていないため、活動時期を特定することはできない。
長崎県(2005)は、橘湾の断層群の西部、大崎東方沖のF6、F7断層において、音波探査及びピストンコアリング調査などを行い、断層を挟んだコア試料間の対比基準面を認定した(図11)。この対比基準面(図11の-
及び1-10)間の層厚の差に基づき、断層活動の認定とその変位量の算出を行っている。
F6断層では、対比基準面以後及び
-
間に層厚の差があることから、この間にそれぞれ活動があった可能性がある。堆積物から得られた14C年代値に基づくと、活動時期は約4千6百年前以後と、約7千年前以後、約5千4百年前以前となる。
F7断層では、対比基準面1以後及び6-5間に層厚の差があることから、この間にそれぞれ活動があった可能性がある。堆積物から得られた14C年代値に基づくと、活動時期は約4千5百年前以後と、約6千9百年前以後、約6千3百年前以前となる。なお、長崎県(2005)は、対比基準面6-3間に活動を認定しているが、この中の5-3間の層厚の差はわずかであることから、活動は6-5間にあったと判断した。
以上のことから、南部では約4千5百年前以後と、約6千9百年前以後、約6千3百年前以前に活動があった可能性がある。
後述するように、約6千9百年前以後、約6千3百年前以前の活動に伴う層厚の差から、この地点での1回の活動による変位量が求められる。約4千5百年前以後の活動に伴う層厚の差は、F6断層においては1回程度の活動による変位量を、F7断層においては2回程度の活動による変位量を示すことから、約4千5百年前以後の活動回数は1あるいは2回の可能性がある。
以上のことから、南部は約4千5百年前以後に最新活動を含む1ないし2回活動の可能性があり、これに先立って約6千9百年前以後、約6千3百年前以前にも活動があった可能性がある。
雲仙断層群南西部北部の近傍で発生した被害地震としては、1922年(大正11年)の千々石湾の地震(12月8日にマグニチュード6.9及び6.5の地震)が知られている(宇佐美,2003)。
一方、17世紀以後、雲仙断層群南西部南部から発生したと考えられる被害地震の記述はない(宇佐美,2003)ことから、少なくとも最近約4百年間は南部では活動していないと考えられる。
以上のことから、雲仙断層群南西部北部の最新活動時期は、約2千4百年前以後、11世紀以前であったと推定され、1つ前の活動時期は約5千6百年前以後、約4千1百年前以前であった可能性がある(図12)。
また、雲仙断層群南西部南部の活動時期については、約4千5百年前以後、16世紀以前に最新活動を含む活動があった可能性があり、この間の活動回数は1回あるいは2回の可能性がある。これに先立つ活動は約6千9百年前以後、約6千3百年前以前であった可能性がある。
長崎県(2003)が行った小浜-金浜沖のF1-F3断層における音波探査(図8)とピストンコアリング調査結果(図9)から、鬼界アカホヤ火山灰層が約7.5m上下変位していることと、鬼界アカホヤ火山灰堆積(約7千3百年前)より後に2回の活動があったことが明らかになっている。このことから、1回の上下変位量は約3.8mであったと求められる。なお、北部の断層長が30km程度であることから、前述の松田(1975)の経験式を用いると、1回の変位量は約2.4mと計算される。
以上のことから、北部での1回の上下変位量は、3-4m程度であった可能性がある。
長崎県(2005)が行った橘湾の断層群の西部、大崎東方沖のF6、F7断層における音波探査記録とピストンコアリング調査結果から、断層を挟んだ堆積物の層厚の変化より活動が読み取れた(図11)。ただし、F6断層における約7千年前以後、約5千4百年前以前の活動の1回の上下変位量は堆積の年代とその層厚との関係から-
の間に示された値の可能性がある。よってこれら1回の上下変位量は約0.4-0.8mであった可能性がある。しかし、断層変位はより広域的に及んでいる可能性があることから、南部における1回の変位量はこれ以上であると推定される。
一方、南部の断層長が23km程度であることから、前述の松田(1975)の経験式を用いると、1回の変位量は約1.8mと計算される。
以上のことから、南部での1回の上下変位量は、2m程度であった可能性がある。
前述(2.3.2(2))の小浜-金浜沖のF3断層における過去2回の活動時期と、この2回の活動が鬼界アカホヤ火山灰堆積より後であることに基づくと、北部の平均活動間隔は約2千5百-4千7百年であった可能性がある。なお、平均変位速度が1m/千年程度、1回のずれの量が3-4m程度であった可能性があることから、平均活動間隔は3千-4千年程度と求められ、この数値は上記の値と矛盾しない。
南部の活動間隔に関する直接的な資料は得られていない。前述(2.3.2(2))したように、F6、F7断層における断層活動が認定できた対比基準面の変位量と、これ以後に活動が想定できる期間の変位量をもとに、約6千9百年前以後に2ないし3回の断層活動があった可能性がある。これらの活動回数(2ないし3回)とその活動が想定される期間(約6千9百年前以後、約6千3百年前以前と約4千5百年前以後、16世紀以前)に基づき計算すると、平均活動間隔は約2千1百年-6千5百年と求まる。
雲仙断層群南西部は、活動時期の違いから、北部と南部の2つの区間に分かれて活動があったと推定される。
雲仙断層群南西部周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層群周辺で南北方向の伸びが見られる。
また、1997年から8年間のGPS観測結果では、雲仙断層群南西部周辺で南北方向のわずかな伸びが見られる。
最近約5年間の地震観測結果によると、雲仙断層群南西部付近の地震活動は活発である。雲仙断層群南西部周辺の地震発生層の下限の深さは15km程度である。
また、馬越ほか(1996)は、1990-1991年(平成2-3年)の雲仙岳噴火前後の島原半島西部下の地震について、橘湾下では震源の深さは10-15kmがほとんどであるが、島原半島西海岸付近から東(雲仙岳の山頂方向)に向かって次第に震源の深さの下限が浅くなる傾向が見られると報告している。
雲仙断層群南西部は、北部と南部の2つの区間に分かれて活動すると推定される。この場合、北部の長さが30km程度であることから、経験式(1)(2)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.3程度の可能性がある。この際に、断層の南側が北側に対して相対的に3-4m程度高くなる段差を生じる可能性がある。
南部は、長さが23km程度であることから、経験式(1)(2)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.1程度の可能性がある。この際に、断層の北側が南側に対して相対的に2m程度高くなる段差を生じる可能性がある。
また、雲仙断層群南西部全体が1つの活動区間として活動する可能性がある。この場合、全長が約38kmであることから、経験式(1)に基づくと、発生する地震の規模はマグニチュード7.5程度となる。
以上のように、雲仙断層群南西部は、北部と南部の2つの区間に分かれて活動すると推定される。
北部では、平均活動間隔が約2千5百-4千7百年、最新活動時期が約2千4百年前以後、11世紀以前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.2-1.0となる。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれほぼ0%-4%、ほぼ0%-7%、ほぼ0%-10%、ほぼ0-40%となる(表4)。また、現在までの集積確率は、ほぼ0%-50%となる。表5にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。
本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、北部は今後30年の間に地震が発生する確率が我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる(注1-3)。
一方、南部の平均活動間隔は、約2千1百-6千5百年であった可能性がある。しかし、最新活動時期については、約4千5百年前以後、16世紀以前に最新活動を含む活動があった可能性があるとしか言及できず、平均活動間隔に対して最新活動時期が十分特定できないため、上記のようなマグニチュード7.1程度の地震が発生する長期確率を更新過程(地震の発生確率が時間と共に変動するモデル)を用いて評価することはできない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、地震の発生確率を求めるに当たって、通常の活断層評価で用いている更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしている。信頼度の低い平均活動間隔を用いた計算であることに十分留意する必要があるが、平均活動間隔が2千1百-6千5百年であることを基に、ポアソン過程を適用して求めると、今後30年以内、50年以内、100年以内及び300年以内の地震発生確率は、それぞれ0.5-1%、0.8-2%、2-5%及び5-10%となる(表4)。
本評価で得られた平均活動間隔の信頼度は低く、また、値が十分に絞り込まれていないため、地震発生確率にも幅があるが、南部は、今後30年の間に地震が発生する確率が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる(注1-3)。
雲仙断層群南西部全体が同時に活動する場合の地震発生確率は、北部及び南部が単独で活動する場合の確率を超えないものと考えられる。
雲仙断層群は、火山地域に分布する正断層で、多数の短い断層から構成されている。今回の評価では、これらを断層の走向や変位の向きから3つの断層帯に区分し評価した。しかし、島原湾における断層群北部や断層群南東部の東方延長、橘湾の断層群の詳細な分布位置なども依然として不明な点が多い。これらの断層群は、互いに近接していることもあり、特に海域における断層の分布に関する資料をさらに集積するなどし、活動区間等についてさらに検討していく必要がある。
また、雲仙断層群では、断層群北部と断層群南東部で平均的なずれの速度、具体的な最新活動の時期、平均活動間隔などに関するデータが得られていないなど、断層群の特性が精度よく求められていない。このため、雲仙断層群全体について、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関するより精度のよい資料を集積する必要がある。
さらに、今回の評価では、既往の評価同様、経験則を当てはめて地震の規模やずれの量の予測を行わざるを得なかったが、雲仙断層群の活動は火山活動とも密接な関係があることも考えられ、この点に関しても今後検討していく必要がある。
注10: | 本評価では、活断層研究会編(1991)において橘湾断層群(S2-S6)としたものを橘湾の断層群とし、その北部に位置するものは断層群北部、それ以外は断層群南西部に位置するものとした。なお、長崎県(2003,2004)が音波探査調査及びコアリング調査を行った断層については、説明上の都合から長崎県(2003,2004,2005)による表記(F1-F7断層)も併用した(図2、説明文)。また、布津断層の東延長で島原湾沖に国土地理院(1982)等の調査で分布が確認されている断層は、活断層研究会編(1991)において布津断層海底延長部(S1)と表記されているが、本評価では単に「布津沖の断層」と表記した。 | |
注11: | 「変位」を、1-3頁の本文、6-10頁の表1、2、3では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1、2、3の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。 | |
注12: | 姶良Tn火山灰(AT)の降下年代値については、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。また、鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)の降下年代値については、町田・新井(2003)に従い、約7千3百年前(暦年補正値)とした。 | |
注13: | 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して千年単位で示した。 | |
注14: | 長崎県(2003,2004,2005)による海域での調査では、対比面の年代の補正方法が明記されていない。従って、ここでは断層活動時期の上下の年代測定値をNiklaus(1991)により暦年補正した値から、海水のリザーバ効果を考慮して、400年新しくした値を評価値としている。以下、リザーバ効果について簡単に記す。放射性炭素同位体年代測定では、宇宙線によって14Cが生成されてから、生物に固定されるまでの時間を考慮する必要がある。14Cの生成から生物による吸収・固定までの間に14Cが滞留する場所(海水・極氷など)をリザーバ、滞留期間中に進行する14Cの壊変の結果、生物に固定される際の14C濃度が大気中の初生14C濃度に比べて低下することをリザーバ効果とよぶ。大気も一つのリザーバであるが、大気中の炭素(CO2)は1-2年で拡散・混合されるため、陸上植物が光合成によって固定する14Cの濃度と大気中の初生14C濃度の差(大気のリザーバ効果)は無視することができる。しかし、貝やサンゴなど海成試料が固定する海水中の炭酸成分に含まれる14C濃度は、CO2が海水に溶け込み地球規模で循環する時間(最大2000年)を通じて壊変が進むため、大気の初生14C濃度より低くなる。従って同時に生存した陸上植物と海成生物の14C年代を比較すると、海成生物は海洋のリザーバ効果によって陸上植物より古い年代を示す。日本近海の最近数千年間の外洋水では14C年代にして400年前後に相当する海水のリザーバ効果が知られている。この値は湧昇流の強弱、海流、陸水の混入、また氷期の海水準変動等の影響を受け、空間的にも時間的にも変化する。 | |
注15: | 活断層の活動の活発さの程度を示す指標として、活動度が定義されている(松田,1975)。 ・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。 ・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。 ・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。 |
|
注16: | 今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することもあり得る(注2参照)。 |
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馬越孝道・清水洋・松尾紃道(1996):地震活動からみた雲仙普賢岳のマグマ供給システム.月刊地球号外,15,70-75.
宇佐美龍夫(2003):「最新版 日本被害地震総覧[416]-2001」.東京大学出版会,605p.
渡辺一徳・星住英夫(1995):2.5万分の1雲仙火山地質図.火山地質図8,地質調査所.
山科健一郎・三浪俊夫(1977):雲仙火山地域の応力場.火山,22,13-25.
項 目 | 数 値 | 備 考 |
地震後経過率 今後30年以内の発生確率 今後50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率 |
0.2-1.0 ほぼ0%-4% ほぼ0%-7% ほぼ0%-10% ほぼ0%-40% ほぼ0%-50% |
発生確率及び集積確率は地 震調査研究推進本部地震調 査委員会(2001)参照。 |
指標(1) 経過年数 比 指標(2) 指標(3) 指標(4) 指標(5) |
マイナス2千4百年-7百年 0.3-1.4 ほぼ0-3 ほぼ0%-50% ほぼ0-0.4 0.0002-0.0004 |
地震調査研究推進本部地 震調査委員会長期評価部 会 (1999)参照。 |
注17: | 評価時点はすべて2006年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10-5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。 |
指標(1) | 経過年数 | :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。 この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。雲仙断層群南西部(北部)の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険率は、2千5百分の1-4千7百分の1(0.0002-0.0004)であり、いつの時点でも一定である。 BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0-7百5十分の1(0.001)であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには、ほぼ0であれば今後約2千4百年を要し、7百5十分の1(0.001)であればすでに約7百年が経過していることになる。 |
指標(1) | 比 | :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。 |
指標(2) | :BPT分布モデルを適用した場合と、ポアソン過程を適用した場合の評価時点での危険率の比。 | |
指標(3) | :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。 | |
指標(4) | :評価時点以後30年以内の地震発生確率の値をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。 | |
指標(5) | :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。 |
地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。
ランク | 分類条件の詳細 |
a | 発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも 比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。 |
b | 平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これら により求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 |
c | 平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求めら れた発生確率等の値は信頼性がやや低い。 |
d | 平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に 低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により 値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分 特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均 値を確率としている。 |
雲仙断層群の評価についての新旧対比表
名 称 | 項 目 | 前回の評価 (平成17年3月9日公表) |
今回の評価 (平成18年5月15日公表) |
||
雲仙 断層群 北部 |
変更なし | ||||
雲仙 断層群 南東部 |
変更なし | ||||
雲仙 断層群 南西部 |
長さ | 38km | △ | 全体:38km 北部:30km 南部:23km |
△ △ △ |
一般走向 | N80°E | ◎ | 全体:N80°E 北部:E-W 南部:N80°E |
◎ ◎ ◎ |
|
傾斜 | 高角度北傾斜 (地表・海底付近) |
○ | 北部: 高角度北傾斜(地表・海底付近) 南部: 高角度南傾斜(海底付近) |
○ △ |
|
ずれの向きと種類 | 主として南側隆起の 正断層 |
○ | 北部: 主として南側隆起の正断層 南部: 主として北側隆起の正断層 |
○ △ |
|
平均的なずれの 速度 |
1m/千年 程度 (上下成分) |
△ | 北部: 1m/千年 程度 (上下成分) 南部: 0.3m/千年 以上(上下成分) |
△ △ |
|
最新活動時期 | 約2400年前以後、 11世紀以前 |
○ | 北部: 約2400年前以後、11世紀以前 南部: 約4500年前以後、16世紀以前 |
○ △ |
|
平均活動間隔 | 約2500-4700年 | △ | 北部: 約2500-4700年 南部: 約2100-6500年 |
△ △ |
|
1回のずれの量 | 3-4m程度 (上下成分) |
△ | 北部: 3-4m程度(上下成分) 南部: 2m程度 (上下成分) |
△ △ |
|
地震の規模 (マグニチュード) |
7.5程度 | △ | 全体: 7.5程度 北部: 7.3程度 南部: 7.1程度 |
△ △ △ |
|
地震発生確率 (30年) |
ほぼ0%-4% [BPT] |
b | 北部: ほぼ0%-4% [BPT] 南部: 0.5%-1% [ポアソン過程] |
b d |