平成18年12月18日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


人吉盆地南縁断層の長期評価について


 地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
 地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、平成17年4月までに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。

 その後、「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月30日 地震調査研究推進本部)の中で、新たに基盤的調査観測の対象とすべき12の活断層帯が挙げられた。
 今回、このうち人吉盆地南縁断層について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

 評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。



平成18年12月18日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

人吉盆地南縁断層の評価

 人吉盆地南縁断層は、人吉盆地の南縁に沿って分布する活断層である。ここでは、平成17年度に産業技術総合研究所によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

 人吉盆地南縁断層は、熊本県球磨郡湯前町(ゆのまえまち)から同郡多良木町、同郡あさぎり町、同郡錦町を経て、人吉市東部に至る断層である。長さは約22kmで、概ね北東−南西方向に延びる。本断層は、断層の南東側が北西側に対して相対的に隆起する正断層である(図1及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

 人吉盆地南縁断層の平均的な上下方向のずれの速度は、約0.1−0.2m/千年であった可能性があり、最新活動時期は、約7千3百年前以後、約3千2百年前以前であった可能性がある。活動時には、断層の南東側が北西側に対して相対的に2m程度隆起したと推定される。また、平均活動間隔は約8千年以上の可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

 人吉盆地南縁断層は、全体が1つの区間として活動し、マグニチュード7.1程度の地震が発生すると推定される。その際、断層近傍の地表面では、断層の南東側が北西側に対して相対的に2m程度高まる段差が生じると推定される(表1)。人吉盆地南縁断層の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる(注1)。

4.今後に向けて

 人吉盆地南縁断層に関しては、過去の活動について精度の良い値が求められていない。特に平均活動間隔が絞り込めていないため、地震発生確率の信頼度は低い。したがって、活動履歴に関する詳細なデータを集積させる必要がある。



表1 人吉盆地南縁断層の特性

項  目 特  性   信頼度  
注3
根  拠
注4
1.断層の位置・形態
  (1)構成する断層
人吉盆地南縁断層
  文献1による。
  (2) 断層の位置・形
   状
地表における断層の位置・形状
 断層の位置
 (北東端)北緯32°16′東経131°00′
 (南西端)北緯32°09′東経130°48′
 長さ    約22km






文献5による。
位置及び長さは図2
から計測。
地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置   地表での長さ・
                 位置と同じ
 上端の深さ  0km
 一般走向   N60°E


 傾斜     北西傾斜(高角度)
       
 幅      不明












上端の深さが0kmで
あることから推定。
地形の特徴から推定。
一般走向は、断層の
両端を直線で結んだ
方向(図2参照)。
傾斜は断層露頭など
の地質構造から推定。
地震発生層の下限の
深さは15km程度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
南東側隆起の正断層

文献1、3−6などに
よる。
2.断層の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
約0.1−0.2m/千年 (上下成分)
平均活動間隔と1回
のずれの量から推定。
  (2) 過去の活動時期 活動1(最新活動)
  約7千3百年前以後、約3千2百年前以前
  (最新活動に先立つ活動は、少なくとも
   約1万5千年前以前と推定される)



文献6に示された資料
から推定。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量   2m程度 (上下成分)

平均活動間隔    約8千年以上



文献6に示された資料
による。
説明文2.2(4)参照。
  (4) 過去の活動区間  断層全体で1区間
断層の位置関係、形
状等から推定。
3.断層の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間   断層全体で1区間

地震の規模 マグニチュード7.1程度
ずれの量   2m程度 (上下成分)




断層の位置関係、形
状等から推定。
断層の長さから推定。
過去の活動から推定。


表2 人吉盆地南縁断層の将来の地震発生確率等
 
項  目   将来の地震発生確率等
注6
 信頼度 
注7
備  考

地震後経過率(注8

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注9
 

0.9以下

1%以下
2%以下
4%以下
10%以下

40%以下

発生確率及び集積確
率は文献2による。


注1: 地震調査委員会の活断層評価では、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間の地震発生確率について、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
   
   なお、2005年4月時点でひととおり評価を終えた98の主要断層帯のうち、最新活動時期が判明しており、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の確率を求めたものについては、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間に地震が発生する確率の割合は以下のとおりとなっている。
30年確率の最大値が0.1%未満 : 約半数 
30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 : 約1/4
30年確率の最大値が3%以上 : 約1/4
(いずれも2005年4月時点での算定。確率の評価値に幅がある場合はその最大値を採用。)
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
 「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。30年確率の最大値は平均活動間隔が8千年の場合は3%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
   ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
   文献1:千田(2000)
   文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
   文献3:活断層研究会編(1991)
   文献4:九州活構造研究会編(1989)
   文献5:中田・今泉編(2002)
   文献6:産業技術総合研究所(2006)
注5: 人吉盆地南縁断層では、平均的なずれの速度を具体的に示すことはできないが、活断層の活発さの程度、すなわち活動度(松田,1975)が求められているので、それを示した。
・ 活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・ 活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・ 活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。
注6: 評価時点はすべて2006年1月1日現在。なお、計算にあたって用いた最新活動時期と平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注7: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注8: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価した数字のうち0.9は7300年を8000年で割った値である。
注9: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1.人吉盆地南縁断層に関するこれまでの主な調査研究

 人吉盆地については、大谷(1930)により、その地形的特徴から盆地の南東縁が断層によって限られる断層角盆地と考えられてきた。活断層研究会編(1980,1991)や九州活構造研究会編(1989)は、湯前町から多良木町、錦町などの盆地南東縁に断片的に活断層を示したが、その一方で古い河川の浸食崖である可能性もあるとされ、必ずしも確実な活断層として認定されていなかった。その後、千田(2000)が大縮尺空中写真判読に基づいた研究により、盆地南東縁をほぼ連続して延びる断層の分布を明らかにし、これを人吉盆地南縁断層と命名した。産業技術総合研究所(2006)は、本断層を対象として、ボーリング調査、トレンチ調査などを行い、断層の活動履歴などについて新たな知見を得ている。本断層の詳細な位置については、中田・今泉編(2002)に示されている。

2.人吉盆地南縁断層の評価結果

2.1 人吉盆地南縁断層の位置及び形態

(1)人吉盆地南縁断層を構成する断層

 人吉盆地南縁断層は、熊本県球磨郡湯前町から同郡多良木町、同郡あさぎり町、同郡錦町を経て人吉市東部に至る断層である(図1)。
 人吉盆地南縁断層を構成する断層の位置・形態は、九州活構造研究会編(1989)、活断層研究会編(1980,1991)、中田・今泉編(2002)などに示されている。ここでは、断層の位置は中田・今泉編(2002)に、断層の名称は千田(2000)によった。

(2)断層面の位置・形状

 人吉盆地南縁断層の長さ及び一般走向は、断層の両端を直線で結んで計測すると、約22km、N60°Eとなる(図2)。
 断層面の上端の深さは、断層による変位が地表まで及んでいることから0kmとした。
 断層面の傾斜は、産業技術総合研究所(2006)に示されたトレンチ調査、断層露頭調査の記載から、北西傾斜(高角度)であると考えられる。
 断層面の下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると15km程度と推定される。しかし、地下深部の断層面の傾斜が明らかでないため、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)注10

 人吉盆地南縁断層は、変位地形(千田,2000;中田・今泉編,2002など)や断層露頭などの地質構造(産業技術総合研究所,2006など)及び前述のように断層面が北西傾斜であることから、断層の南東側が北西側に対して相対的に隆起する正断層と推定される。
 なお、千田(2000)は断層を横切る河流の屈曲現象などから右横ずれ成分を含む可能性を指摘しており、中田・今泉編(2002)にも右横ずれ成分の記載がある。

2.2 人吉盆地南縁断層の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)

 九州活構造研究会編(1989)は、田上(たのえ)−田畑において低位段丘面(約1万年前)に比高2−4m、本別府(もとんびゅう)において低位段丘面(約2万年前)に比高5−10mの南側隆起の低断層崖を指摘し、活動度をB級(0.1−1m/千年、注5参照)と記載している。
 また、後述するように、上下成分の1回の変位量が約1.7m、平均活動間隔が約8千年以上と求められることから、これらの値に基づき計算すると、平均変位速度として、0.2m/千年以下という値が得られる。
 これらのことから本断層の平均上下変位速度は、約0.1−0.2m/千年の可能性がある。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

 人吉盆地南縁断層の活動履歴に関する資料としては、以下のものがある。

・宮の谷地点(トレンチ調査・ピット調査)

 産業技術総合研究所(2006)は、本断層南西部の錦町宮の谷において、低位段丘面に認められる比高約2mの低崖でトレンチ調査を行った。トレンチ壁面には、砂礫、シルト・砂互層などが概ね緩い北西傾斜で露出し、それらの地層を変位させる北西傾斜の断層が認められた(図3)。
 トレンチ東西壁面のスケッチに基づくと、断層は鬼界アカホヤ火山灰層(約7千3百年前:注11)及びその上位の地層を変位させ、表土(黒色土壌)に覆われる。
 また、鬼界アカホヤ火山灰層及びそれより下位の地層には、変位の累積性が認められないことから、最新活動に先立つ活動は、少なくともトレンチの最下部の砂礫層(約1万5千年前)堆積以前であったとされている(産業技術総合研究所,2006)。
 さらに、トレンチ調査地点から30m程度東側において、産業技術総合研究所(2006)は、低位段丘面より形成年代が若く、地表に断層変位が認められない地形面において地形測量とピット調査を実施した。断層の下盤側に位置する第2ピットにおける観察結果から、この地形面は砂層により構成されている。この堆積物と周辺の地形の特徴から、伏在する断層を覆うものと判断した。この砂層から約3千4百−3千2百年前を示す14C年代値が得られていることから最新活動時期は、約3千2百年前以前の可能性がある。 

 以上の検討結果から、本地点の最新活動時期は、約7千3百年前以後、約3千2百年前以前であった可能性がある。また、1つ前の活動時期は少なくとも約1万5千年前以前であったと推定される。

 この他、湯前町城泉寺及び錦町横山では、産業技術総合研究所(2006)によってトレンチ調査が実施されているが、トレンチ壁面には明瞭な断層変位や変形は認められなかった。ただし、断層はトレンチ外を通過している可能性もあることから、両地点での調査結果から活動時期を特定することはできない。

b)先史時代・歴史時代の活動

 人吉盆地南縁断層の活動を直接示すような被害地震は知られていない。

 以上のことから、本断層の最新活動時期は、約7千3百年前以後、約3千2百年前以前であった可能性がある。また、1つ前の活動時期は少なくとも約1万5千年前以前であったと推定される。

(3)1回の変位量(ずれの量)

 前述(2.2(2)a))の本断層南西部の宮の谷地点におけるトレンチ調査に基づくと、砂礫層やシルト層、鬼界アカホヤ火山灰層に約1.5−2.1m(平均1.8m)の上下変位が認められる(図3;産業技術総合研究所,2006)。
 以上のことから、本断層の1回の活動に伴う上下変位量は2m程度であったと推定される。

 なお、本断層の長さは約22kmであることから、次の松田(1975)の経験式に基づくと、1回の活動に伴う変位量は1.7m(上下成分)程度と求められる。

            Log L=0.6M−2.9 (1)
            Log D=0.6M−4.0 (2)

 ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

(4)活動間隔

 前述(2.2(2)a))の宮の谷地点におけるトレンチ調査結果に基づくと、少なくとも約1万5千年前以後、約7千3百年前以前には断層活動がなかったとみなすことができる。
 以上のことから、本断層の平均活動間隔は約8千年以上の可能性があると判断した。

(5)活動区間

 人吉盆地南縁断層は、断層が連続的に分布することから、松田(1990)の起震断層の定義に基づけば全体が1つの区間として活動してきたと推定される。

(6)測地観測結果

 人吉盆地南縁断層周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果や、2006年4月までの8年間のGPS観測結果では、顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

 人吉盆地南縁断層周辺の最近約10年間の地震観測結果によると、本断層の東端付近において小規模であるがまとまった活動があり、地震発生層の下限の深さは15km程度と推定される。

2.3 人吉盆地南縁断層の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

 人吉盆地南縁断層は全体が1つの活動区間として活動すると推定される。この場合、長さが約22kmであることから、前述の経験式(1)を用いて地震の規模を求めると、マグニチュード7.1程度と推定される。また、このような地震が発生した場合、過去の活動と同様に、断層の近傍の地表面では断層の南東側が相対的に2m程度高まる段差が生じると推定される。

(2)地震発生の可能性

 人吉盆地南縁断層は、平均活動間隔が約8千年以上、最新活動時期が約7千3百年前以後、約3千2百年前以前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在までにおける地震後経過率は0.9以下となる。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、1%以下、2%以下、4%以下、10%以下となる。また、現在までの集積確率は40%以下となる。本評価で得られた地震発生の確率には幅があるが、その最大値をとると、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することとなる。 表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

 3.今後に向けて

 人吉盆地南縁断層に関しては、過去の活動について精度の良い資料が得られていない。特に平均活動間隔が絞り込めていないため、地震発生確率の信頼度が低い。したがって、活動履歴に関する詳細なデータを集積させる必要がある。


注10: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 鬼界アカホヤ火山灰(K−Ah)の降下年代値については、町田・新井(2003)にしたがい、約7千3百年前(暦年補正値)とした。
注12: 炭素同位体年代については、Ramsey(1995,2001)、Reimer et al.(2004)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値を百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年より古い年代値については、1千年単位で四捨五入して示した。



文 献

千田 昇(2000):人吉盆地南縁の活断層.活断層研究,19,87−90.

地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(1999):「(改定試案)長期的な地震発生確率の評価手法について」.74p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.

活断層研究会編(1980):「日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,363p.

活断層研究会編(1991):「新編日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,437p.

九州活構造研究会編(1989):「九州の活構造」.東京大学出版会,553p.

町田 洋・新井房夫(2003):「新編火山灰アトラス[日本列島とその周辺]」.東京大学出版会,336p.

松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について.地震,第2輯,28,269−283.

松田時彦(1990):最大地震規模による日本列島の地震分帯図.地震研究所彙報,65,289−319.

中田 高・今泉俊文編(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会,DVD−ROM2枚,付図1葉,60p.

大谷寿雄(1930):肥後人吉盆地の地質学的素描.地質学雑誌,34,333−334.

Ramsey,C.B.(1995):Radiocarbon Calibration and Analysis of Stratigraphy:The OxCal Program.Radiocarbon37,425−430.

Ramsey,C.B.(2001):Development of the Radiocarbon Program OxCal.Radiocarbon43,355−363.

Reimer,P.J.,Baillie,M.G.L.,Bard,E.,Bayliss,A.,Beck,J.W.,Bertrand,C.,Blackwell,P.G.,Buck,C.E.,Burr,G.,Cutler,K.B.,Damon,P.E.,Edwards,R.L.,Fairbanks,R.G.,Friedrich,M.,Guilderson,T.P.,Hughen,K.A.,Kromer,B.,McCormac,F.G.,Manning,S.,Ramsey,C.B.,Reimer,R.W.,Remmele,S.,Southon,J.R.,Stuiver,M.,Talamo,S.,Taylor,F.W.,van der Plicht,J.and Weyhenmeyer,C.E.(2004):IntCal04 terrestrial radiocarbon age calibration,0−26 cal kyr BP.Radiocarbon46,1029−1058.

産業技術総合研究所(2006):人吉盆地断層帯の活動性および活動履歴調査 「基盤的調査観測対象活断層の追加・補完調査」成果報告書.No.H17−6,9p.

宇佐美龍夫(2003):「最新版 日本被害地震総覧[416]−2001」.東京大学出版会,605p.





表3 人吉盆地南縁断層の地震発生確率及び参考指標
 
項  目          数  値         備   考
地震後経過率

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率
0.9以下

1%以下
2%以下
4%以下
10%以下

40%以下
発生確率及び集積確率は
地震調査研究推進本部地
震調査委員会(2001)参
照。
指標(1) 経過年数
       比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
1千7百年以下
1.3以下
2.9以下
40%以下
0.3以下
0.0001以下
地震調査研究推進本部地
震調査委員会長期評価部
会(1999)参照。

 評価時点はすべて2006年1月1日現在。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。


指標(1) 経過年数 当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。ポアソン過程を適用した場合の危険度は、8千分の1(0.0001)以下であり、いつの時点でも一定である。
人吉盆地南縁断層では、BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点で2千7百分の1(0.0004)以下であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達してからすでに1千7百年が経過していることになる。
指標(1) 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) 評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) 評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標(5) ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。


付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。
平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。
平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。
平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。