平成17年1月12日
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境峠・神谷断層帯の長期評価について
地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、73断層帯の長期評価を行い公表した。
今回、引き続き、境峠・神谷断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。
評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。
平成17年1月12日 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 |
境峠・神谷断層帯の評価
境峠・神谷断層帯は、長野県中西部に分布する活断層帯である。ここでは、平成14年度から15年度にかけて産業技術総合研究所によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。
1.断層帯の位置及び形態
境峠・神谷(さかいとうげ・かみや)断層帯は、境峠・神谷断層帯主部及び霧訪山−奈良井(むとうやま−ならい)断層帯からなる。
境峠・神谷断層帯主部は、長野県南安曇郡安曇村から同郡奈川(ながわ)村、木曽郡木祖村、同郡日義(ひよし)村、同郡楢川(ならかわ)村、上伊那郡南箕輪村飛地を経て、伊那市に至る断層帯である。全体の長さは約47kmで、概ね北西−南東方向に延びる。本断層帯は左横ずれを主体とする断層からなり、北部では北東側隆起成分、南部では南西側隆起成分を伴う(図1−1、図2及び表1)。
霧訪山−奈良井断層帯は、長野県塩尻市及び岡谷市から、上伊那郡辰野町、木曽郡楢川村を経て、同郡木祖村に至る断層帯である。全体の長さは約28kmで、概ね北東−南西方向に延びる。本断層帯は右横ずれを主体とする断層からなる(図1−1、図2及び表3)。
2.断層帯の過去の活動
(1)境峠・神谷断層帯主部
境峠・神谷断層帯主部の最新活動時期は、約4千9百年前以後、3世紀以前であった可能性がある。また、平均活動間隔は約1千8百−5千9百年の可能性がある(表1)。
(2)霧訪山−奈良井断層帯
霧訪山−奈良井断層帯では、過去の活動に関する直接的な資料は得られていない。
3.断層帯の将来の活動
(1)境峠・神谷断層帯主部
境峠・神谷断層帯主部は、全体が1つの区間として同時に活動する場合、マグニチュード7.6程度の地震が発生すると推定され、その際には4m程度の左横ずれが生じる可能性がある(表1)。
本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率を算出すると表2に示すとおりとなる。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる(注1、2)。
(2)霧訪山−奈良井断層帯
霧訪山−奈良井断層帯では、全体が1つの区間として同時に活動する場合、マグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定され、その際には2m程度の右横ずれが生じる可能性がある(表3)。ただし、本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。
4.今後に向けて
境峠・神谷断層帯主部では、過去の活動履歴に関して精度の良い値が求められていない。特に、最新活動時期と平均活動間隔が共に十分に絞り込めていないため、将来の地震発生確率に関しても大きく幅を持たせた評価となっている。境峠・神谷断層帯主部の将来の活動性を明確にするためには、最新活動時期と活動間隔をさらに精度良く明らかにするとともに、平均的なずれの速度や1回のずれの量に関する資料を集積する必要がある。
霧訪山−奈良井断層帯に関しては、過去の活動についてほとんど資料が得られていない。したがって、平均的なずれの速度や活動時期など、過去の活動履歴を明らかにする必要がある。
また、境峠・神谷断層帯の周辺に位置する糸魚川−静岡構造線断層帯や伊那谷断層帯、木曽山脈西縁断層帯の活動との関連性についても検討する必要がある(図1−2)。
表1 境峠・神谷断層帯主部の特性
項 目 | 特 性 | 信頼度 (注3) |
根 拠 (注4) |
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1.断層帯の位置・形態 | ||||
(1)
断層帯を構成す る断層 |
境峠断層、神谷断層 | 文献2による。 |
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(2)
断層帯の位置・ 形状 |
地表における断層帯の位置・形状 断層帯の位置 (北西端) 北緯36°12′東経137°36′ (南東端) 北緯35°51′東経137°54′ 長さ 約47km |
○ ◎ ○ |
文献2による。 位置及び長さは図2 から計測。 |
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地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・ 位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向 N35°W 傾斜 高角 (地表付近:北部で は高角東傾斜) 幅 15km程度 |
◎ ◎ ◎ ○ △ |
上端の深さが0km であることから推定。 一般走向は断層の 両端を直線で結んだ 方向 (図2参照)。 傾斜は文献3に示さ れた断層露頭や断層 の形状から推定。 幅は、傾斜と地震発 生層の下限の深さ( 約15km)から推定。 |
||
(3)
断層のずれの向 きと種類 |
左横ずれ断層 (北部では北東側隆起、南部では南西側 隆起成分を伴う。) |
◎ |
文献2などに示され た地形の特徴による。 |
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2.断層帯の過去の活動 | ||||
(1)
平均的なずれの 速度 |
不明 (活動度はA−B級) |
△ |
括弧内の活動度
(注 5) は文献2による。 |
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(2) 過去の活動時期 |
活動1 (最新活動) 約4千9百年前以後、3世紀以前 活動2 (1つ前の活動) 約7千6百年前以後、約6千7百年前以前 (上記活動のほか、約3万8千年前以後、 約9千4百年前以前に少なくとも2回 の活動があったと推定される。) |
△ △ |
活動時期は、文献3、 4に示された資料か ら推定。 |
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(3)
1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量 4m程度 (左横ずれ成分) 平均活動間隔 約1千8百−5千9百年 |
△ △ |
断層の長さから推定。 過去2回の活動から 推定。 |
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(4) 過去の活動区間 | 断層帯全体で1区間 | ○ | 断層の位置関係、形 状等から推定。 |
|
3.断層帯の将来の活動 | ||||
(1)
将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間
断層帯全体で1区間 地震の規模 マグニチュード7.6程度 ずれの量 4m程度 (左横ずれ成分) |
○ ○ △ |
断層の位置関係、形 状等から推定。 断層の長さから推定。 断層の長さから推定。 |
表2 境峠・神谷断層帯主部の将来の地震発生確率等
項 目 | 将来の地震発生確率等 (注6) |
信頼度 (注7) |
備 考 |
地震後経過率 (注8) 今後30年以内の地震発生確率 今後50年以内の地震発生確率 今後100年以内の地震発生確率 今後300年以内の地震発生確率 集積確率 (注9) |
0.3−2より大* ほぼ0%−13%* ほぼ0%−20%* ほぼ0%−40%* ほぼ0%−70%* ほぼ0%−90%より大* |
c* |
発生確率及び集積確 率は、文献1による。 |
*この評価では、最新活動時期を約4千9百年前以後−3世紀以前、1つ前の活動を約7千6百年前以後−約6千7百年前以前の可能性があるとし、これら過去2回の活動の間隔を基に平均活動間隔(約1千8百−5千9百年)を求めている。ただし、最新活動時期の年代幅は3千年程度と大きく、そのため、平均活動間隔に関しても十分に時期を絞り込むことができなかった。したがって、これらの値から算出した地震後経過率(0.3−2より大(実際には2.7))及び将来の地震発生確率(今後30年:ほぼ0%−13%)は、いずれも大きく幅を持たせた評価となっていることに留意する必要がある。 |
表3 霧訪山−奈良井断層帯の特性
項 目 | 特 性 | 信頼度 (注3) |
根 拠 (注4) |
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1.断層帯の位置・形態 | ||||
(1)
断層帯を構成す る断層 |
東山西方の断層、高尾山断層、霧訪山
(む とうやま) 断層、奈良井(ならい)断層 |
文献2による。 |
||
(2)
断層帯の位置・ 形状 |
地表における断層帯の位置・形状 断層帯の位置 (北東端) 北緯36°06′東経138°01′ (南西端) 北緯35°56′東経137°47′ 長さ 約28km |
○ ◎ ○ |
文献2による。 位置及び長さは図2 から計測。 |
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地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・ 位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向 N50°E 傾斜 高角 (地表付近) 幅 15km程度 |
◎ ◎ ◎ ○ △ |
上端の深さが0km であることから推定。 一般走向は、断層の 両端を直線で結んだ 方向 (図2参照)。 傾斜は断層の形状か ら推定。 幅は、傾斜と地震発 生層の下限の深さ( 約15km)から推定。 |
||
(3)
断層のずれの向 きと種類 |
右横ずれ断層 |
◎ |
文献2などに示され た地形の特徴による。 |
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2.断層帯の過去の活動 | ||||
(1)
平均的なずれの 速度 |
不明 (活動度はA−B級) |
括弧内の活動度
(注 5) は文献2による。 |
||
(2) 過去の活動時期 |
不明 |
|||
(3)
1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量 2m程度
(右横ずれ成分) 平均活動間隔 不明 |
△ |
断層の長さから推定。 |
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(4) 過去の活動区間 | 断層帯全体で1区間 | ○ | 断層の位置関係・形 状等から推定。 |
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3.断層帯の将来の活動 | ||||
(1)
将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間
断層帯全体で1区間 地震規模 マグニチュード7.2程度 ずれの量 2m程度 (右横ずれ成分) |
○ ○ △ |
断層の位置関係、形 状等から推定。 断層の長さから推定。 断層の長さから推定。 |
注1: | 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。 | ||
98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上 (いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。) |
|||
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。 | |||
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合: | |||
「本断層帯は、今後30年の間に発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」 | |||
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合: | |||
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」 | |||
注2: | 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。 |
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)地震発生直前の
集積確率 (%)断層の平均活動
間隔 (千年)1995年兵庫県南部地震
(M7.3)六甲・淡路島断層帯主
部淡路島西岸区間「野
島断層を含む区間」
(兵庫県)0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5 1858年飛越地震
(M7.0−7.1)跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大約1.7−約3.6 1847年善光寺地震
(M7.4)長野盆地西縁断層帯
(長野県)ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は12%程度である。 | ||
注3: | 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。 ◎:高い、○:中程度、△:低い |
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注4: | 文献については、本文末尾に示す以下の文献。 文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001) 文献2:活断層研究会編(1991) 文献3:吉岡ほか(2003) 文献4:吉岡ほか(2004) |
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注5: | 境峠・神谷断層帯及び霧訪山−奈良井断層帯では、平均的なずれの速度を具体的に示すことはできないが、活断層の活発さの程度、すなわち活動度(松田,1975)は推定できるので、それを示した。 ・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。 ・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。 ・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。 |
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注6: | 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた最新活動時期と平均活動間隔に関しては、いずれも年代幅が十分に絞り込めていないため、信頼度は低い(△)ことに留意されたい。 | |
注7: | 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。 a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い 発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。 発生確率等の評価の信頼度 |
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a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。 b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。 c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。 d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。 |
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注8: | 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回評価した数字のうち、境峠神谷断層帯主部の0.3は1,700年を5,900年で割った値である。 | |
注9: | 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。 |
(説明)
1.境峠・神谷断層帯に関するこれまでの主な調査研究
境峠・神谷(さかいとうげ・かみや)断層帯については、辻村(1926)、片田・礒見(1962)などが飛騨山脈南部から木曽山脈北部にかけて延びる顕著な断層崖として記載している。その後、本断層帯は、松田(1968)、松田ほか(1976)、金子(1979)、仁科(1982)、仁科ほか(1985)、松島(1995)などによって、空中写真判読などから、横ずれ断層として図示されるようになった。
活断層研究会編(1980,1991)はそれらの研究を総括し、断層の位置とその諸特性を取りまとめた。中田・今泉編(2002)では、本断層帯を構成する主要な断層について第四紀後期に活動を繰り返した断層として図示している。
本断層帯の第四紀後期における活動性についての調査としては、狩野ほか(2001,2002)、吉岡ほか(2003,2004)による地形・地質調査や断層露頭調査、トレンチ調査がある。
2.境峠・神谷断層帯の評価結果
境峠・神谷断層帯は、飛騨山脈南部から木曽山脈北部にかけて分布する断層帯である。
本断層帯は、断層の走向や変位の向きから、松田(1990)の起震断層の定義に基づけば、北西−南東走向の境峠・神谷断層帯主部と北東−南西方向に延びる霧訪山−奈良井(むとうやま−ならい)断層帯の2つの断層帯に区分することができる(図1−1、図2)。
なお、境峠・神谷断層帯主部の南方に位置する伊那谷断層帯と木曽山脈西縁断層帯及び霧訪山−奈良井断層帯の北方をほぼ北西−南東方向に横切る糸魚川−静岡構造線断層帯については、別途評価を実施している(図1−2:地震調査研究推進本部地震調査委員会,1996,2002,2004)。
2.1 境峠・神谷断層帯主部
2.1.1 境峠・神谷断層帯主部の位置及び形態
(1)境峠・神谷断層帯主部を構成する断層
境峠・神谷断層帯主部は、長野県南安曇郡安曇村から同郡奈川(ながわ)村、木曽郡木祖村、同郡日義(ひよし)村、同郡楢川(ならかわ)村、上伊那郡南箕輪村飛地を経て、伊那市に至る断層帯である(図1−1、図2)。
本断層帯は、境峠断層と神谷断層から構成される。
本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、中田・今泉編(2002)などに示されている。ここでは、各断層の位置及び名称は活断層研究会編(1991)によった。
(2)断層面の位置・形状
境峠・神谷断層帯主部の長さと一般走向は、断層帯の北西端と南東端を直線で結ぶとそれぞれ約47km、N35°Wとなる(図2)。
断層面上端の深さは、断層による変位が地表に認められることから0kmとした。
断層面の傾斜は、断層露頭やトレンチ壁面において高角の断層面が確認されること(吉岡ほか,2003,2004など)、及び断層トレースが直線的であることから、地表付近では高角と推定される。また、断層帯の北半部では、トレンチ壁面に認められる断層の傾斜から地表付近では高角東傾斜を示すと推定される。
断層面の幅は、地下深部も地表付近と同様に高角であるとすれば、地震発生層の下限の深さ(約15km:後述)から、15km程度の可能性がある。
(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)
境峠・神谷断層帯主部は、系統的な河川の屈曲などの地形の特徴や断層露頭などから、左横ずれを主体とし、北部では北東側隆起成分、南部では南西側隆起成分を伴うと考えられる。
2.1.2 断層帯の過去の活動
(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)
境峠・神谷断層帯主部では、平均変位速度に関する詳細な資料は得られていない。
なお、活断層研究会編(1991)は、境峠断層の活動度(注5)をB級、神谷断層の活動度をA−B級としている。また、中野ほか(1995)は、梓湖付近の大野川右岸において中期更新世(6−20万年前:清水ほか,1998など)の乗鞍岳番所(ばんどころ)溶岩流の分布が約200m左に横ずれ屈曲するような形態を呈していることを指摘し、これを断層変位と考えると、境峠断層の平均横ずれ変位速度は1−3m/千年と見積もることができるとしている。しかし、この形態が断層活動によるものかどうかは明らかではない。
(2)活動時期
a)地形・地質的に認められた過去の活動
境峠断層ソグラ沢地点(トレンチ調査)
境峠断層のほぼ中央に位置する奈川村ソグラ沢では、尾根上の緩斜面上を断層線が2条横切っており、その東側のトレースにおいてトレンチ(SA・SBトレンチ)が掘削された(吉岡ほか,2004)。トレンチ壁面には、数条の高角度の断層が認められた(図3)。
SAトレンチにおいて、断層は約5千5百−5千4百年前の14C年代値を示すS2層(黒色腐植土層)を変位させている。また、SBトレンチでは、断層は約4千9百−4千7百年前の14C年代値を示すS2層を切り、11−13世紀の14C年代値を示すS1層(黒色腐植土層)に覆われる。したがって、本地点での最新活動時期は、約4千9百年前以後、13世紀以前であったと考えられる。
さらに、SBトレンチ南壁面のスケッチに基づくと、S3層(ローム層)及びS2b層(腐植土層:約7千6百−7千5百年前)が断層によって変位するが、上位のS2a層(腐植土層)には変位は及んでいないと判断される。このS2a層から得られた最も古い14C年代値は約4千9百−4千6百年前を示す。したがって、本地点における1つ前の活動時期は約7千6百年前以後、約4千6百年前以前の可能性があると判断される。
なお、吉岡ほか(2004)は、SBトレンチ南壁面にみられるS1c層(黒色腐植土層下部の礫質な部分)を断層活動に伴う崩積性堆積物と考え、S1c層がS2a層より上位に分布することから、本地点での最新活動がS2a層(最も若い14C年代値で約3千7百−3千5百年前)の堆積より後に限定される可能性も指摘している。しかし、S2a層と断層との直接の関係は不明である。
境峠断層野麦峠スキー場南方地点(断層露頭調査)
奈川村の野麦峠スキー場南方地点では、狩野ほか(2001,2002)が断層露頭調査を実施している。本地点は、中田・今泉編(2002)などにより推定された活断層トレースからは200m程度南西方に位置する。
露頭では、カタクレーサイト化した花崗岩中にせん断変形を受けた脈状の腐植質土層(あるいは粉砕された炭化物片)が含まれており、約6千−5千8百年前の14C年代値を示す(狩野ほか,2001,2002)。よって、本地点では約6千年前以後に断層活動があったと考えられる。
なお、狩野ほか(2001,2002)は、7世紀の14C年代値を示す腐植質土層が断層活動により流動変形を被っているとしている。ただし、この流動変形が地震動によるとする根拠は示されておらず、また、本断層帯の活動との関係も不明であるため、ここでは採用しない。
境峠断層寄合渡(よりあいど)地点(トレンチ調査)
奈川村寄合渡では、分離小丘とそれに連続するリニアメントが認められ、そのトレースを横切ってトレンチ(YA・YBトレンチ)が掘削された(吉岡ほか,2004)。トレンチ壁面には、高角度の数条の断層が認められた(図4)。
YAトレンチにおいては、Y4層(礫混じり腐植土:上部で約8千−7千8百年前)やY3層(火山灰質堆積物:年代不明)を切り、Y1c層(黒色腐植土)に覆われる断層が認められる。Y1c層から得られた年代値にはばらつきがあるため採用できないが、Y1c層を傾斜不整合で覆うシルト質の堆積物(Y1b層)からは1−3世紀の14C年代値が得られている。したがって、本地点での最新活動時期は、約8千年前以後、3世紀以前であった可能性がある。
YBトレンチでは、Y4b層(黒色腐植土層下位:約7千7百−7千6百年前)以下の地層を切り、崩積性堆積物(吉岡ほか,2004)のY4c層に覆われる断層が認められる。また、Y4c層上位のY4a層からは約6千9百−6千7百年前の14C年代値が得られている。したがって、本地点での1つ前の活動時期は、約7千7百年前以後、約6千7百年前以前であったと考えられる。
さらに、YAトレンチの南壁面では、Y7層を切る断層がY6層に覆われることから、より古い時期に断層活動があったと考えられるが、年代試料が得られていないため、その時期を特定することはできない。
なお、吉岡ほか(2004)は、Y1c層を断層活動に伴う崩積性堆積物と考え、その下位に位置するY2層の堆積後に断層活動が起こった可能性も指摘している。しかし、Y2層と断層との直接の関係は不明である。
境峠断層上押出沢(かみおしでさわ)地点(断層露頭調査)
寄合渡地点の南南東約2.5kmに位置する木祖村上押出沢では、林道の路面を数10cm削り込んだ露頭の観察が行なわれている(狩野ほか,2002)。本地点は、中田・今泉編(2002)などにより推定された活断層トレースからは200m程度南西方に位置する。
露頭では、花崗岩と砂礫層を水平距離3.5m以上にわたり境する断層構造が見出されている(狩野ほか,2001,2002)。また、砂礫層からは約6千3百−6千1百年前の14C年代値が得られている。よって、本地点では約6千3百年前以後に断層活動があったと考えられる。
境峠断層細島(ほそしま)地点(トレンチ調査)
木祖村小木曽細島では、東向き斜面上に西落ちの逆向き低断層崖がみられ、この低断層崖と西側の山地斜面の間に、断層に沿って凹地が形成されている。吉岡ほか(2003)は、この凹地の南北両側においてトレンチ(A−Cトレンチ)を掘削した。トレンチ壁面には、東側に傾斜する見かけ上逆断層の形態を示す数条の断層が認められた(図5)。
Cトレンチにおいて、断層は約6千2百−6千年前の14C年代値を示すBa層(黒色腐植土層)を変形させ、A層(土壌)に覆われる。また、断層の上盤側では、約6千−5千8百年前の14C年代値を示すBb層(土壌)がくさび状に落ち込む。したがって、本地点における最新活動時期は約6千年前以後と考えられる。なお、断層を覆うA層から得られた14C年代値は、その値がかなりばらつくこと、またA層が断層崖の斜面上に堆積した土壌であることを考慮すると、断層活動後に再堆積した土壌の年代である可能性が高い。よって、この活動時期の上限は限定できない。
また、上記の活動に先立つものとして、約3万8千年前以後−姶良Tn火山灰降灰(約2万8千年前;注11)以前に少なくとも1回、姶良Tn火山灰降灰以後に少なくとも1回断層活動があったとされる(吉岡ほか,2003)。Cトレンチのスケッチに基づくと、C層(ローム層)の中部に認められる断層運動に伴った地層の逆転構造が、Ba層基底部(黒色腐植土層:約9千6百−9千4百年前)に不整合で覆われると推定される。C層からは直接の年代を示す試料は得られていないが、AトレンチのC層下部から姶良Tn火山灰層起源の火山ガラスが検出されていることから、約2万8千年前以後、約9千5百年前以前に断層活動が生じたと推定される。さらに、両トレンチにみられるC層とV(D)層との間には、下位の地層が断層に向かって傾き下がる形態をとる傾斜不整合がみられる。Aトレンチでは、V(D)層の下位にあたるW層から約3万8千年前の14C年代値が得られていることから、約3万8千年前以後、約2万8千年前以前に断層活動が生じたと推定される。
なお、Aトレンチにおいて、E2層中に認められる分岐断層の一部が上位のE1層に覆われていることから、さらに古い時期に断層活動があったと考えられるが、年代試料が得られていないため、その時期を特定することはできない。
以上の検討結果から、境峠・神谷断層帯主部の最新活動時期は、約4千9百年前以後、3世紀以前、1つ前の活動時期は約7千6百年前以後、約6千7百年前以前であった可能性がある。また、約3万8千年前以後、約9千4百年前以前に少なくとも2回の活動があったと推定される。
なお、狩野ほか(2002)は前述した境峠断層上押出沢林道地点の南東方70m程度に位置する土取場において、7世紀の年代を示す崖錐性堆積物が断層変位を被ると報告した。しかし、狩野ほか(2002)のスケッチを見る限り、年代試料が採取された層準まで断層変位を受けているかどうかは断定できないため、ここでは採用しないこととした。
b)先史時代・歴史時代の活動
境峠・神谷断層帯主部の活動と直接関係する被害地震は知られていない(宇佐美,2003)。
(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)
境峠・神谷断層帯主部では、1回の活動に伴う変位量を示す直接的な資料は得られていない。
しかし、本断層帯の長さは約47kmと推定されることから、経験式(1)及び(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は約3.7mと計算される。したがって、本断層帯の1回の活動に伴う左横ずれ変位量は4m程度であった可能性がある。
用いた経験式は松田(1975)による次の式である。ここで、Lは断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量である。
LogL=0.6M−2.9 (1)
LogD=0.6M−4.0 (2)
なお、狩野ほか(2002)は、奈川村上押出沢の林道路面(境峠断層上押出沢林道地点1)において、花崗岩と砂礫層を水平距離で3.5m以上にわたり境する構造を見出し、メートルオーダーの変位が示唆されるとしている。しかし、計測可能な変位基準は得られておらず、具体的な変位量を求めることはできない。
(4)活動間隔
境峠・神谷断層帯主部では、最新活動時期が約4千9百年前以後、3世紀以前、1つ前の活動時期は約7千6百年前以後、約6千7百年前以前の可能性があることから、平均活動間隔は約1千8百−5千9百年であった可能性があると判断される。
(5)活動区間
境峠・神谷断層帯主部は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。
(6)測地観測結果
境峠・神谷断層帯主部周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層帯の周辺で北西−南東方向の縮みが見られる。
また、1985年からの約10年間では、北部で北西−南東方向の縮み、北東−南西方向の伸びが見られる。
最近のGPS観測結果では、北部で北西−南東方向の縮みが見られる。
(7)地震観測結果
境峠・神谷断層帯主部周辺の最近約6年間の地震観測結果によると、北部で微小地震活動が見られるが、南部では微小地震活動は低調である。地震発生層の下限の深さは約15kmである。発震機構解によると、断層帯周辺では北西−南東方向に圧力軸を持つ型が多い。
2.1.3 断層帯の将来の活動
(1)活動区間及び活動時の地震の規模
2.1.2(5)に記述したように、本断層帯は全体が1つの活動区間として同時に活動すると推定される。この場合、長さが約47kmと推定されることから、前述の経験式(1)及び(2)を用いて地震の規模を求めると、マグニチュード7.6程度の地震が発生すると推定され、その際には上下変位を伴う4m程度の左横ずれが生じる可能性がある。
(2)地震発生の可能性
境峠・神谷断層帯主部は、平均活動間隔が約1千8百−5千9百年、最新活動時期が約4千9百年前以後、3世紀以前の可能性があることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.3−2より大となる。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれほぼ0%−13%、ほぼ0%−20%、ほぼ0%−40%、ほぼ0%−70%となる。また、現在までの集積確率は、ほぼ0%−90%より大となる。表4にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。本評価では、最新活動時期と平均活動間隔が十分に絞り込めていないことから、得られた地震発生の長期確率にも大きな幅があるが、その最大値をとると、今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。
2.2 霧訪山−奈良井断層帯
2.2.1 霧訪山−奈良井断層帯の位置及び形態
(1)霧訪山−奈良井断層帯を構成する断層
霧訪山−奈良井断層帯は長野県塩尻市及び岡谷市から、上伊那郡辰野町、木曽郡楢川村を経て、同郡木祖村に至る断層帯である(図1−1、図2)。
本断層帯は、東山西方の断層(注12)、高尾山断層、霧訪山断層及び奈良井断層から構成される。
本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、中田・今泉編(2002)などに示されており、これらの資料で概ね一致している。ここでは、各断層の位置及び名称は活断層研究会編(1991)によった。
(2)断層面の位置・形状
霧訪山−奈良井断層帯の長さと一般走向は、断層帯の北東端と南西端を直線で結ぶとそれぞれ約28km、N50°Eとなる(図2)。ただし、断層帯の北東端の位置については、糸魚川−静岡構造線断層帯と東山西方の断層との交点とした。
断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。
断層面の傾斜と深部形状についての直接的な資料は無いが、後述のように本断層帯は横ずれを主体とする断層からなり、断層の地表トレースが概ね直線的であることから、地表付近では高角であると推定される。
断層面の幅は、地下深部も地表付近と同様に高角であるとすれば、前述の地震発生層の下限の深さから、15km程度である可能性がある。
(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)
霧訪山−奈良井断層帯は、河川の屈曲などの地形的特徴(活断層研究会編,1991など)から、全体に右横ずれが卓越し、上下成分を伴うと推定される。
2.2.2 断層帯の過去の活動
(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)
霧訪山−奈良井断層帯では、平均変位速度に関する資料は得られていない。
なお、活断層研究会編(1991)は、本断層帯を構成する霧訪山断層の活動度をA−B級、奈良井断層の活動度をB級としている。
(2)活動時期
a)地形・地質的に認められた過去の活動
霧訪山−奈良井断層帯では、過去の活動に関する詳細な資料は得られていない。
b)先史時代・歴史時代の活動
霧訪山−奈良井断層帯の活動と直接関係する被害地震は知られていない(宇佐美,2003)。
(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)
霧訪山−奈良井断層帯では、1回の活動に伴う変位量を示す直接的な資料は得られていない。
しかし、本断層帯の長さは約28kmと推定されることから、前述の経験式(1)及び(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は約2.2mと計算される。したがって、本断層帯の1回の活動に伴う右横ずれ変位量は2m程度であった可能性がある。
(4)活動間隔
霧訪山−奈良井断層帯では、活動時期、平均変位速度等が求められていないため、平均活動間隔を求めることはできない。
(5)活動区間
霧訪山−奈良井断層帯は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。
(6)測地観測結果
霧訪山−奈良井断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果と1985年からの約10年間の測地観測結果では、顕著な歪みは見られない。
また、最近のGPS観測結果でも、顕著な歪みは見られない。
(7)地震観測結果
霧訪山−奈良井断層帯周辺の最近約6年間の地震観測結果によると、本断層帯の微小地震活動は低調である。地震発生層の下限の深さは約15kmである。
2.2.3 断層帯の将来の活動
(1)将来の活動区間及び地震の規模
2.2.2(5)で述べたように、本断層帯は全体が1つの活動区間として同時に活動すると推定される。この場合、長さが約28kmと推定されることから、前述の経験式(1)及び(2)を用いて地震の規模を求めると、マグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定され、その際には2m程度の右横ずれが生じる可能性がある。
(2)地震発生の可能性
霧訪山−奈良井断層帯では、過去の活動に関する資料が得られていないため、将来の地震発生確率は不明である。
3.今後に向けて
境峠・神谷断層帯主部では、過去の活動履歴に関して精度の良い値が求められていない。特に、最新活動時期と平均活動間隔が共に十分に絞り込めていないため、将来の地震発生確率に関しても大きく幅を持たせた評価となっている。境峠・神谷断層帯主部の将来の活動性を明確にするためには、最新活動時期と活動間隔をさらに精度良く明らかにするとともに、平均的なずれの速度や1回のずれの量に関する資料を集積する必要がある。
霧訪山−奈良井断層帯に関しては、過去の活動についてほとんど資料が得られていない。したがって、平均変位速度や活動時期など、過去の活動履歴を明らかにする必要がある。
また、境峠・神谷断層帯の周辺に位置する糸魚川−静岡構造線断層帯や伊那谷断層帯、木曽山脈西縁断層帯の活動との関連性についても検討する必要がある(図1−2)。
注10: | 「変位」を、1−2ページの本文、5−7ページの表1、3では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。 | |
注11: | 姶良Tn火山灰層(AT)の降下年代値については、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。 | |
注12: | 東山西方の断層については、活断層研究会編(1991)では単に東山西方としか記載がないことから、本評価に関しては便宜上この断層を「東山西方の断層」と名称の後ろに「の断層」をつけて表記した。 | |
注13: | 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して1千年単位で示した。 |
文 献
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表4 境峠・神谷断層帯主部の将来の地震発生確率及び参考指標
項 目 | 数 値 | 備 考 |
地震後経過率 今後30年以内の発生確率 今後50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率 |
0.3−2より大** ほぼ0%−13%** ほぼ0%−20%** ほぼ0%−40%** ほぼ0%−70%** ほぼ0%−90%より大** |
発生確率及び集積確率は地 震調査研究推進本部地震調 査委員会 (2001) 参照。 |
指標(1)
経過年数 比 指標(2) 指標(3) 指標(4) 指標(5) |
マイナス2千4百年−3千6百年** 0.4−4** ほぼ0−8** ほぼ0%−90%より大** ほぼ0−0.9** 0.0002−0.0006** |
地震調査研究推進本部地 震調査委員会長期評価部 会 (1999) 参照。 |
**評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、説明文で述べたように、境峠・神谷断層帯主部に関しては、最新活動時期の年代幅が3千年程度と大きく、平均活動間隔も十分に時期を絞り込めているとはいえないため、地震後経過率と将来の地震発生確率値に関しても、大きく幅を持たせた評価となっていることに留意されたい。 |
指標(1) | 経過年数 | :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。 この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。境峠・神谷断層帯主部の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険率は、1千8百分の1−5千9百分の1(0.0002−0.0006)であり、いつの時点でも一定である。 境峠・神谷断層帯主部では、BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0−0.004(240分の1)であり、時間とともに増加する。ほぼ0であればBPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後2千4百年を要するが、0.004(240分の1)であればBPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達してからすでに3千6百年が経過したことになる。 |
指標(1) | 比 | :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。 |
指標(2) | :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。 | |
指標(3) | :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。 | |
指標(4) | :評価時点以後30年以内の地震発生確率の値をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。 | |
指標(5) | :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。 |
付表
地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。
ランク | 分類条件の詳細 |
a | 発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高 く (◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。 |
b | 平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く (△)、これらにより 求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 |
c | 平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く (△)、これらにより求められた発 生確率等の値は信頼性がやや低い。 |
d | 平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く (▲)、発 生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性 が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の 確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。 |