平成17年4月13日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


能代断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、88断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、能代断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成17年4月13日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

能代断層帯の評価

能代断層帯は、能代平野に分布する活断層帯である。ここでは、平成12−13年度に秋田県によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

能代断層帯は、秋田県山本郡峰浜村から能代市を経て同郡八竜(はちりゅう)町に至る断層帯である。長さは約22km以上で、南北方向に延びており、断層の東側が相対的に隆起する逆断層である(図1及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

能代断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は、約0.8−0.9m/千年と推定される。最新活動は、1694年(元禄7年)の能代地震であり、活動時には、断層の東側が西側に対して相対的に2−3m程度隆起した可能性がある。また、平均活動間隔は1千9百−2千9百年程度であった可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

能代断層帯は、全体が1つの区間として活動する場合、マグニチュード7.1程度以上の地震が発生する可能性がある。その時、断層の近傍の地表面では、東側が西側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある(表1)。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。

4.今後に向けて

能代断層帯は、両端特に南端の位置に不確かさを伴うことから、北方及び南方への延長について調査を行い、位置を明確にする必要がある。その上で、活動履歴に関する精度良いデータを集積させて、活動区間や平均活動間隔を精度良く把握することが望ましい。


表1 能代断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注3)
根  拠
(注4)
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を構成す
  る断層
能代付近の断層、高野野(こうやの)断層、
小手萩断層,盤(いわお)断層、逆川(さ
かがわ)断層など
  文献1、7による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状
地表における断層帯の位置・形状
 断層帯の位置
  (北端) 北緯40°17′東経140°02′
  (南端) 北緯40°05′東経140°00′
 長さ    約22km以上






文献1、7による。
位置及び長さは図2
から計測。
地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
          地表での長さ・位置と同じ
 上端の深さ  0km

 一般走向   N10°E


 傾斜     東傾斜

 幅      不明










上端の深さが0kmで
あることから推定。
地形の特徴から推
定。
一般走向は、断層帯
の両端を直線で結ん
だ方向(図2を参照)。
傾斜は文献8に示され
た地質断面図による。
地震発生層の下限の
深さは15km程度。
説明文2.1(1)参照。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
 東側隆起の逆断層

文献1、2、7、8
などに示された地形
の特徴と地質断面図
による。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
約0.8−0.9m/千年(上下成分)

文献1−4に示された
資料から推定。
  (2) 過去の活動時期 活動1(最新活動)
 1694年(元禄7年)の能代地震

活動2及び活動3
    (1つ前及び2つ前の活動)
 約6千年前以後、1694年以前に2回の活
 動があった可能性があるが、詳細な活動
 時期は特定できない。
 (このほか、約1万5千年前以後、約6千
 年前以前にも、少なくとも1回の活動が
 あった可能性がある。)







文献1−3、9に示さ
れた資料から推定。


文献1、2、4に示され
た資料から推定。

文献1、2、4に示され
た資料による。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量 2−3m程度(上下成分)

平均活動間隔  1千9百−2千9百年程度



文献1−4に示され
た資料による。
過去3回の活動から
推定。
  (4) 過去の活動区間 不明
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間  断層帯全体で1区間
地震の規模 マグニチュード7.1程度以上
ずれの量  2−3m程度(上下成分)




断層の長さから推定。
過去の活動から推定。


表2 能代断層帯の将来の地震発生確率等
 
項  目   将来の地震発生確率等  
(注5)
 信頼度 
(注6)
備  考

地震後経過率(注7)

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注8)


0.1−0.2

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%
発生確率及び集積確
率は文献5による。

注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
  この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は12%程度、3千年の場合8%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
  ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:秋田県(2001)
  文献2:秋田県(2002)
  文献3:粟田(1985)
  文献4:藤本(2001)
  文献5:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
  文献6:活断層研究会編(1991)
  文献7:中田・今泉編(2002) 
  文献8:大沢ほか(1985a)
  文献9:宇佐美(2003)
注5: 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価した数字のうち0.1は311年を2900年で、0.2は311年を1900年で割った値である。
注8: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。



(説明)


1.能代断層帯に関するこれまでの主な調査研究

能代断層帯は、能代平野に位置する東側隆起の活断層帯である。
本断層帯は、活断層研究会編(1980)により、撓曲帯など一部が図示された。山崎ほか(1986)及び活断層研究会編(1991)は、海岸線に沿って伏在する活断層として示した。
大沢ほか(1984)は、能代衝上断層群・北由利衝上断層群・仁賀保衝上断層群・酒田衝上断層群を総括したものを北由利衝上断層系と命名し、大沢ほか(1984,1985a,b)は、能代衝上断層群について記載した。粟田(1988)は、能代衝上断層群を含む北由利衝上断層系の活動開始時期や平均変位速度等について議論を行った。さらに、藤本(2001)は能代市内のボーリング資料を解析し、能代衝上断層群の活動時期などについて検討した。
本断層帯の変動地形については、内藤(1977)は能代平野の段丘地形の検討をする中で記載した。太田ほか(1977)、宮内(1988)は、海成面の分布高度から後期更新世以後の垂直変動量について検討した。
本断層帯と歴史地震の関係については、今村(1921)が、1694年(元禄7年)に発生した能代地震について、建物倒壊率をもとに被害分布域を示した。粟田(1985)は、古文書の解析から1694年の能代地震時に地殻変動が生じていたことを指摘した。Awata and Kakimi(1985)は、北由利衝上断層系と歴史地震の関係について考察を行った。
また、秋田県(2001,2002)は、反射法弾性波探査、ボーリング調査などを実施し、本断層帯についての総合調査を実施した。本断層帯の詳細な位置については、大沢ほか(1984,1985a),中田・今泉編(2002)により示されている。

2.能代断層帯の評価結果

2.1 能代断層帯の位置及び形態

(1)能代断層帯を構成する断層

本断層帯は、秋田県山本郡峰浜村から能代市を経て同郡八竜(はちりゅう)町にかけて分布している(図1)。
本断層帯を構成する断層の位置・形態は、活断層研究会編(1980,1991)、大沢ほか(1984,1985a)、秋田県(2001,2002)、中田・今泉編(2002)などに示されている。これらでは、断層分布についてほぼ共通する認識が示されている。ここでは、断層帯の位置は中田・今泉編(2002)にしたがった。なお、断層帯の南端の位置は、後述するように、八郎潟の北岸に分布する沖積段丘が断層活動により変位している可能性があることから、秋田県(2001)に基づき、沖積段丘3面(A3面)の西端の位置とした。断層の名称は活断層研究会編(1991)にしたがった。
本断層帯は、東側隆起で幅1−2km程度の撓曲帯をなす能代付近の断層を主断層とし、その東側の高野野(こうやの)断層、小手萩断層、盤(いわお)付近の断層、逆川(さかがわ)断層などの西側隆起を示す副次的な断層によって構成される(注9)。
なお、秋田県(2001)の八郎潟北岸での反射法弾性波探査によって、能代付近の断層の約3km西側に東側隆起の逆断層が推定されているが、地表における変位は明らかではなく、連続性についても明らかではないことから、ここでは扱わないこととした。

(2)断層面の位置・形状

本断層帯の長さ及び一般走向は、図2に示された断層帯の両端を直線で結んで計測すると、約22km、N−Sとなる。ただし、北端については、東側隆起の主断層が海岸付近を北方へ延びていく可能性があり、また、南端については八郎潟の中を伏在して南方へ延びていく可能性があることから、北端、南端の位置には不確かさを伴っており、長さは約22km以上と推定される。
断層面の上端の深さは、変位が地表まで及んでいることから0kmとした。
断層面の傾斜については、大沢ほか(1985a)などに示される地質断面図から東傾斜であると推定される(図3)。
断層面の下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると15km程度と推定されるが、断層面の傾斜が深部では低角になる可能性もある(大沢ほか,1985a)ことから、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

本断層帯は、西へ撓み下がる変位地形や地質構造を形成していること(中田・今泉編,2002;大沢ほか,1984,1985a;秋田県2001,2002)及び前述のように断層面は東傾斜であることから、東側が西側に乗り上げる逆断層と考えられる。

2.2 能代断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

本断層帯の平均変位速度に関する資料として以下のものがある。

米代川南岸地点では、秋田県(2001)が、沖積段丘1面(A1面)とその西側に連続する新期砂丘上でボーリング調査を実施した。ここでは、反射法弾性波探査(秋田県,2001)により撓曲帯が確認されている。その結果、A1面を構成する地層の下部に挟まれる十和田八戸火砕流堆積物(約1万5千年前;町田・新井,2003)に、撓曲帯を挟んで約12mの高度差が認められた(図4)。また、この地点より北方の、米代川河口付近の沖積面下でも、この火砕流堆積物に撓曲帯を挟んで約13mの高度差がある(藤本,2001)。これらの資料から、平均変位速度として、0.8−0.9m/千年(上下成分)が導かれる。

北部の峰浜村畑谷(はたや)付近の高野野断層の東側では、中位段丘1面(M1面)の旧汀線高度は標高約55mである(秋田県,2001)。また、能代付近の断層に沿う能代市東雲(しののめ)付近では、中位段丘3面(M3面)の旧汀線高度は約35mである(秋田県,2001)。秋田県(2001)は、M1面の形成年代は約13万年前、M3面の形成年代は約10万年前とし、さらに、M1面形成当時の海水準は現在よりも0−5m高く、M3面形成当時の海水準は現在よりも10−25m低かったとしていることから、M1面形成後の隆起量は50−55m、M3面形成後の隆起量は45−60mとなる。したがって、この間の上盤側における隆起速度は、M1面で約0.4m/千年、M3面で約0.4−0.6m/千年と求まる。ただし、下盤側の沈降量を考慮すると、隆起速度はこれらの値を上回ると推定される。

大沢ほか(1985a)によれば、断層下盤側の試錐孔(能代GS−1)で、約260万年前の上部七座凝灰岩部層が標高約−2300m、約120万年前の笹岡層基底が標高約−950mに分布するのに対し、上盤側の試錐孔(峰浜AK−1)では、上部七座凝灰岩部層が標高約−500m、笹岡層基底が標高約−200mに分布している。これらの地層の断層を挟んでの高度差は、上部七座凝灰岩部層で1800m、笹岡層基底で750mとなる(大沢ほか,1984:図3)。この高度差を変位量とみなせば、平均変位速度として、約0.6−0.7m/千年(上下成分)が求められる。ただし、これらの地層の年代、変位量の見積もりには不確かさが伴う。

以上のことから、本断層帯の平均変位速度は、約0.8−0.9m/千年(上下成分)と推定される。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

本断層帯の活動履歴に関する資料としては、以下のものがある。

八竜町の八郎潟北岸では、本断層帯の上盤側に沖積段丘1面(A1面)、沖積段丘2面(A2面)及び沖積段丘3面(A3面)の3段の段丘が分布している。これらの段丘は、西向きの撓曲崖を形成し、東へ緩く傾動している。この傾動に伴う変位量はA1面で約1.5m、A2面で約1.0m、A3面で約0.5mと見積もられる(秋田県,2001:図5)。この変位量には一定の累積性が認められることから、これらの段丘は断層活動により形成された可能性がある。このうち、A1面構成層の最上部の14C年代値(注11)は約6千3百−6千年前であり、A1面は約6千年前に形成されたと判断される。また、後述するように、A3面は、1694年の能代地震の際に八郎潟の湖底が隆起して形成されたと考えられる。なお、A2面の年代に関する資料は得られていない。
これらのことから、八郎潟北岸地点では、約6千年前以後3回の断層活動の可能性があり、このうち最新活動は、1694年の能代地震と考えられる。

能代市の米代川南岸地点では、A1面上とその西側の本断層帯下盤側に位置する砂丘において、ボーリング調査及びジオスライサー調査が実施された(秋田県,2002:図4)。秋田県(2002)は、上盤側・下盤側の双方でシルト層とこれを覆う腐植層を検出し、より下位の地層の層相・層厚などから両者は一連の地層であるとしている。秋田県(2002)によれば、上盤側のシルト層は約6千4百−6千3百年前、これを覆う腐植層の下限は約6千−5千9百年前、また、下盤側の腐植層は約6千−5千6百年前の14C年代値をそれぞれ示している。秋田県(2002)は、このシルト層をA1面最上位層としているが、この年代値は八郎潟北岸のA1層とよく整合している。
このシルト層の分布深度が断層を挟んで異なることから、米代川南岸地点では約6千年前以後に断層活動があったと推定される。

上述の米代川南岸地点では、十和田八戸火砕流堆積物(約1万5千年前;町田・新井2003)の基底が上盤側で標高−39mに分布するのに対し、下盤側では標高−51mに分布しており、その高度差は約12mとなる(秋田県,2002:図4)。また、これより北方の米代川河口付近では、撓曲帯を挟んで同堆積物の上限面に約13mの高度差が認められる(藤本,2001)。これらの高度差は、A1面構成層上面の高度差(約8m)に比べ明らかに大きいので、約1万5千年前以後、約6千年前以前にも少なくとも1回の断層活動があった可能性がある。

b)先史時代・歴史時代の活動

1694年(元禄7年)の能代地震では、能代で家屋の倒壊・消失の被害が最も大きく、マグニチュードは7.0と推定されている(宇佐美,2003)。また、八郎潟北東部では、長さ7km、最大幅650mの範囲で湖底が隆起し干上がった(粟田,1985;大沢ほか,1985a:図6)。さらに、米代川河口付近では、地震後に水位が低下したとの記録もあり、本断層帯の上盤側が隆起したともされている(粟田,1985;大沢ほか,1985b;藤本,2000)。これらの資料から、地震の際、本断層帯の上盤側の地表で変動が生じたと考えられることから、この地震は本断層帯の活動によるものと考えられる。
 さらに、粟田(1985)及び大沢ほか(1985a)が指摘した八郎潟北岸の能代地震に伴う湖底の隆起域は、秋田県(2002)が示すA3面の分布とよく一致していることから、A3面は、能代地震の際の隆起に伴い形成されたと考えられる(図7)。

なお、本断層帯の周辺では、以下の被害地震も知られている。
本断層帯の北方では、1704年(宝永元年)に、マグニチュード7±1/4の地震が発生し、山本郡八森町から北方の青森県西津軽郡深浦町にかけての海岸付近で山崩れが多く生じるとともに(宇佐美,2003)、この付近が隆起したとの報告がなされている(今村,1921)。また、本断層帯の南西方では、1810年(文化7年)に、男鹿半島の東半部でマグニチュード6.5±1/4の地震が発生し、八郎潟西岸付近を中心に被害が生じるとともに、八郎潟の西岸が1m程度隆起したとの報告がある(宇佐美,2003)。

以上のことから、本断層帯では、約6千年前以後に3回の断層活動があった可能性があり、最新活動は1694年(元禄7年)の能代地震であったと判断される。また、約1万5千年前以後、約6千年前以前にも、少なくとも1回の断層活動があった可能性がある。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

本断層帯の1回の活動に伴う変位量に関する資料としては、以下のものがある。

八郎潟北岸に分布するA3面は、1694年の能代地震の際に形成されたと考えられる。秋田県(2001)によれば、A3面の標高は1.0−1.8m程度を示しているが、1694年の能代地震発生以前はA3面は水面下にあったとされている(粟田,1985;大沢ほか,1985a;秋田県,2002)。これらの資料から、八郎潟北岸における能代地震時の本断層帯の上盤側の隆起量は、少なくとも2m程度であったと推定される。また、下盤側の沈降量を考慮すると、この付近における1回の変位量は2m程度以上と推定される。

能代市の米代川南岸地点では、A1面構成層とその相当層が撓曲帯を挟んで約8m変位している可能性がある。この変位は、A1面形成以後の3回の断層活動により生じた可能性があることから、1回の変位量は、約2.7mと求まる。

以上のことから、本断層帯における1回の変位量は2−3m程度の可能性がある。

なお、本断層帯の長さは約22km以上であることから、次の松田(1975)の経験式に基づくと、1回の変位量は1.8m以上(上下成分)と求められ、上述の値と整合的である。

      Log L=0.6M−2.9 (1)
      Log D=0.6M−4.0 (2)

ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。

(4)活動間隔

本断層帯の最新活動は、1694年(元禄7年)の能代地震であったと判断される。これに先立つ活動は、詳細な時期は特定できないものの、約6千年前以後、1694年以前に2回あった可能性があることから、活動間隔は1千9百−2千9百年と求められる。
以上のことから、本断層帯の平均活動間隔は、1千9百−2千9百年程度の可能性がある。

(5)活動区間

本断層帯の活動区間に関する直接的な資料は得られていない。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1981年までの約70年間の測地観測結果や最近5年間のGPS観測結果では、顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

本断層帯周辺の最近約7年間の地震観測結果によると、本断層帯付近の地震活動は低調であるが、本断層帯周辺の地震発生層の下限の深さは15km程度と推定される。

2.3 能代断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

本断層帯全体を1つの活動区間とした場合、上述の松田(1975)の経験式(1)に基づくと、本断層帯(長さ約22km以上)から発生する地震の規模はマグニチュード7.1程度以上の可能性がある。また、このような地震が発生した場合、過去の活動時と同様に、断層の近傍の地表面に西側隆起で2−3m程度高まる段差や撓みを生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

能代断層帯は、平均活動間隔は1千9百−2千9百年程度、最新活動が1694年(元禄7年)の能代地震と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は0.1−0.2となる。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、いずれもほぼ0%となり、現在までの集積確率もほぼ0%となる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

3.今後に向けて

能代断層帯は、両端特に南端の位置に不確かさを伴うことから、北方及び南方への延長について調査を行ない、位置を明確にする必要がある。その上で、活動履歴に関する精度良いデータを集積させて、活動区間や平均活動間隔を精度良く把握することが望ましい。

注9: 本評価で示した断層の名称のうち、「盤付近の断層」及び「能代付近の断層」については、中田・今泉編(2002)では、断層形態の記載のみで名称が付されていないことから、本評価で仮称している。
注10: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。


文 献

秋田県(2001):「平成12年度 地震関係基礎調査交付金 能代断層に関する調査 成果報告書」.秋田県,160p.

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表3 能代断層帯の地震発生確率及び参考指標
 
項  目                         数  値                  備   考
地震後経過率

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率
0.1−0.2

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%
発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001)参照。
指標(1) 経過年数
      比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
マイナス1千−マイナス1千7百年
0.2
ほぼ0
ほぼ0%
ほぼ0
0.0003−0.0005
地震調査研究推進本部地震
調査委員会長期評価部会
(1999) 参照。

注12: 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。
本断層帯の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険度は、1千9百−2千9百分の1(0.0003−0.0005)であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後1千−1千7百年を要する。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較
的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらに
より求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められ
た発生確率等の値は信頼性がやや低い。

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、
発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる
可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないため
に、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。