平成17年4月13日
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能代断層帯の長期評価について
地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、88断層帯の長期評価を行い公表した。
今回、引き続き、能代断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。
評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。
平成17年4月13日 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 |
能代断層帯の評価
項 目 | 特 性 | 信頼度 (注3) |
根 拠 (注4) |
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1.断層帯の位置・形態 | ||||
(1)断層帯を構成す る断層 |
能代付近の断層、高野野(こうやの)断層、 小手萩断層,盤(いわお)断層、逆川(さ かがわ)断層など |
文献1、7による。 | ||
(2)
断層帯の位置・ 形状 |
地表における断層帯の位置・形状 断層帯の位置 (北端) 北緯40°17′東経140°02′ (南端) 北緯40°05′東経140°00′ 長さ 約22km以上 |
△ △ ○ |
文献1、7による。 位置及び長さは図2 から計測。 |
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地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向 N10°E 傾斜 東傾斜 幅 不明 |
○ ◎ ○ ○ |
上端の深さが0kmで あることから推定。 地形の特徴から推 定。 一般走向は、断層帯 の両端を直線で結ん だ方向(図2を参照)。 傾斜は文献8に示され た地質断面図による。 地震発生層の下限の 深さは15km程度。 説明文2.1(1)参照。 |
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(3)
断層のずれの向 きと種類 |
東側隆起の逆断層 |
◎ |
文献1、2、7、8 などに示された地形 の特徴と地質断面図 による。 |
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2.断層帯の過去の活動 | ||||
(1)
平均的なずれの 速度 |
約0.8−0.9m/千年(上下成分) |
○ |
文献1−4に示された 資料から推定。 |
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(2) 過去の活動時期 |
活動1(最新活動) 1694年(元禄7年)の能代地震 活動2及び活動3 (1つ前及び2つ前の活動) 約6千年前以後、1694年以前に2回の活 動があった可能性があるが、詳細な活動 時期は特定できない。 (このほか、約1万5千年前以後、約6千 年前以前にも、少なくとも1回の活動が あった可能性がある。) |
◎ △ |
文献1−3、9に示さ れた資料から推定。 文献1、2、4に示され た資料から推定。 文献1、2、4に示され た資料による。 |
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(3)
1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量 2−3m程度(上下成分) 平均活動間隔 1千9百−2千9百年程度 |
△ △ |
文献1−4に示され た資料による。 過去3回の活動から 推定。 |
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(4) 過去の活動区間 |
不明 |
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3.断層帯の将来の活動 | ||||
(1)
将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間 断層帯全体で1区間 地震の規模 マグニチュード7.1程度以上 ずれの量 2−3m程度(上下成分) |
△ △ △ |
断層の長さから推定。 過去の活動から推定。 |
項 目 | 将来の地震発生確率等 (注5) |
信頼度 (注6) |
備 考 |
地震後経過率(注7) 今後30年以内の地震発生確率 今後50年以内の地震発生確率 今後100年以内の地震発生確率 今後300年以内の地震発生確率 集積確率(注8) |
0.1−0.2 ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% |
b |
発生確率及び集積確 率は文献5による。 |
注1: | 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。 | ||
98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上 (いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。) |
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この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。 | |||
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合: | |||
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」 | |||
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合: | |||
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」 | |||
注2: | 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。 |
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)地震発生直前の
集積確率 (%)断層の平均活動
間隔 (千年)1995年兵庫県南部地震
(M7.3)六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5 1858年飛越地震
(M7.0−7.1)跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大約1.7−約3.6 1847年善光寺地震
(M7.4)長野盆地西縁断層帯
(長野県)ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は12%程度、3千年の場合8%程度である。 | |||
注3: | 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。 ◎:高い、○:中程度、△:低い |
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注4: | 文献については、本文末尾に示す以下の文献。 文献1:秋田県(2001) 文献2:秋田県(2002) 文献3:粟田(1985) 文献4:藤本(2001) 文献5:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001) 文献6:活断層研究会編(1991) 文献7:中田・今泉編(2002) 文献8:大沢ほか(1985a) 文献9:宇佐美(2003) |
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注5: | 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。 | ||
注6: | 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。 a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い 発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。 発生確率等の評価の信頼度 |
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a: | 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。 | ||
b: | 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。 | ||
c: | 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。 | ||
d: | 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。 | ||
注7: | 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価した数字のうち0.1は311年を2900年で、0.2は311年を1900年で割った値である。 | ||
注8: | 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。 |
注9: | 本評価で示した断層の名称のうち、「盤付近の断層」及び「能代付近の断層」については、中田・今泉編(2002)では、断層形態の記載のみで名称が付されていないことから、本評価で仮称している。 | |
注10: | 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。 | |
注11: | 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。 |
文 献
秋田県(2001):「平成12年度 地震関係基礎調査交付金 能代断層に関する調査 成果報告書」.秋田県,160p.
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吾妻 崇(1997):能代平野の地形発達と第四紀後期地殻変動.日本第四紀学会講演予稿集,88−89.
長谷紘和・平山次郎(1970):五城目地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,46p.
平野信一・中田 高(1980):活断層の変位時期に関する二、三の事例.日本地理学会1980年大会予稿集,18,72−73.
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活断層研究会編(1991):「新編日本の活断層−分布図と資料−」.東京大学出版会,437p.
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内藤博夫(1977):秋田県能代平野の段丘地形.第四紀研究,16,57−70.
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奥田義久・盛谷智之・細野武男(1987):海洋地質図30 西津軽海盆海底地質図1:200,000,同説明書.地質調査所,25p.
大沢 穠・池邊 穣・平山次郎・粟田泰夫・高安泰助(1984):能代地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,91p.
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大沢 穠・鯨岡 明・粟田泰夫(1985b):羽後浜田地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,57p.
太田陽子・成瀬 洋(1977):日本の海成段丘−環太平洋地域の海面変化・地殻変動の中での位置づけ.科学,47,281−292.
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項 目 | 数 値 | 備 考 |
地震後経過率 今後30年以内の発生確率 今後50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率 |
0.1−0.2 ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% |
発生確率及び集積確率は地 震調査研究推進本部地震調 査委員会(2001)参照。 |
指標(1)
経過年数 比 指標(2) 指標(3) 指標(4) 指標(5) |
マイナス1千−マイナス1千7百年 0.2 ほぼ0 ほぼ0% ほぼ0 0.0003−0.0005 |
地震調査研究推進本部地震 調査委員会長期評価部会 (1999) 参照。 |
注12: | 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。 |
指標(1) | 経過年数 | :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。 この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。 本断層帯の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険度は、1千9百−2千9百分の1(0.0003−0.0005)であり、いつの時点でも一定である。 BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後1千−1千7百年を要する。 |
指標(1) | 比 | :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。 |
指標(2) | :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。 | |
指標(3) | :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。 | |
指標(4) | :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。 | |
指標(5) | :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。 |
付表
地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。
ランク | 分類条件の詳細 |
a | 発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較 的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。 |
b | 平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらに より求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 |
c | 平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められ た発生確率等の値は信頼性がやや低い。 |
d |
平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、 発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる 可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないため に、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。 |