平成16年9月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


庄川断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、59断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、庄川断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成17年1月12日 経験式を用いた場合のマグニチュードの標記を変更しました。(赤字)


平成16年9月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

庄川断層帯の評価

庄川(しょうかわ)断層帯は、両白山地と飛騨高地の境界付近に位置する活断層帯である。ここでは、平成3年度に地質調査所(現:産業技術総合研究所)によって実施された調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

庄川断層帯は、石川県金沢市東部から、富山県西砺波郡福光町、同県東砺波郡上平(かみたいら)村、岐阜県大野郡白川村、荘川村を経て、同県郡上市北部に至る断層帯である。全体の長さは約67kmで、ほぼ北北西−南南東に延びる。本断層帯は左横ずれを主体とし、加須良断層では東側隆起成分、白川断層と三尾河断層では西側隆起成分を伴う(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

庄川断層帯の最新活動時期は11世紀以後、16世紀以前と推定される。また、平均活動間隔は約3千6百−6千9百年の可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

庄川断層帯全体が1つの活動区間として活動する場合、マグニチュード7.9程度の地震が発生すると推定される。その際には、5m程度の左横ずれが生じる可能性がある。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来この様な地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。

4.今後に向けて

庄川断層帯では、1回のずれの量、平均的なずれの速度及び活動区間について十分な資料が得られていない。また、加須良断層に関しては、過去の活動履歴の詳細が明らかとなっていない。よって、これらの項目に関し、精度の良い資料を得る必要がある。


表1 庄川断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注3)
根  拠
(注4)
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を構成す
  る断層
加須良(かずら)断層、白川断層、
三尾河(みおご)断層、森茂断層
  文献2による。
  (2)断層帯の位置・
  形状
地表における断層の位置・形状
 断層の位置
  (北端)北緯36°30′東経136°48′
  (南端)北緯35°56′東経137°03′
 長さ     約67km






文献2による。
位置及び長さは図2
から計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置  地表での長さ・
                位置と同じ
 上端の深さ  0km
 一般走向   N20°W


 傾斜      高角(地表付近)



 幅        15km程度














上端の深さが0kmで
あることから推定。

一般走向は断層帯の
両端を直線で結んだ
方向(図2参照)。
傾斜は、文献2、3、
8、9等に示された断
層露頭、地形の特徴か
ら推定。
幅は、傾斜と地震発生
層の下限の深さ(約15
km)から推定。
  (3)断層のずれの向
  きと種類
 左横ずれ断層
 (加須良断層では東側隆起成分、白川断層、
  三尾河断層では西側隆起成分を伴う。)
文献2、3等に示され
た地形の特徴、断層露
頭による。
2.断層帯の過去の活動
  (1)平均的なずれの
  速度
 不明
 (活動度はB級)


括弧内の活動度(注
5)は文献2による。
  (2)過去の活動時期  活動1(最新活動)
   11世紀以後、16世紀以前
 活動2(1つ前の活動)
   約7千3百年前以後、約4千9百年前
   以前
 活動3(2つ前の活動)
   約8千2百年前以前






文献4−7、10に示
された資料から推定
(説明文2.2.(2)b)
参照)。
  (3)1回のずれの量
  と平均活動間隔
1回のずれの量  5m程度(左横ずれ成分)
平均活動間隔   約3千6百−6千9百年


断層の長さから推定。
過去3回の活動から
推定。
  (4)過去の活動区間 断層帯全体で1区間 断層の位置関係・形状
等から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1)将来の活動区間
  及び活動時の地
  震の規模
活動区間    断層帯全体で1区間

地震規模     マグニチュード7.9程度
ずれの量    5m程度
           (左横ずれ成分)



断層の位置関係・形状
等から推定。

断層の長さから推定。
断層の長さから推定。

 

表2 庄川断層帯の将来の地震発生確率等

項   目

将来の地震発生確率等
(注6)

信頼度
(注7)

備   考

地震後経過率(注8)

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注9)

0.06-0.3

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%

 

b

 

 

発生確率及び集積確率は、文献1による。

 

 


注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
  この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率 (うち、1995年兵庫県南部地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

地震名

活動した活断層

地震発生直前の30年確率(%)

地震発生直前の集積確率(%)

断層の平均活動間隔(千年)

1995年兵庫県南部地震
(M7.3

野島断層
(兵庫県)

0.4 %−8 %

%80%

1.8−約3.0

1858年飛越地震
(M7.07.1

跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)

ほぼ0%13 %

ほぼ0%90%より大

1.7−約3.6

1847年善光寺地震
(M7.4

長野盆地西縁断層帯
(長野県)

ほぼ0%−20%

ほぼ0%90%より大

0.8−約2.5


「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が4千年の場合は30年確率の最大値は6%程度、7千年の場合は30年確率の最大値は4%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
  文献2:活断層研究会編(1991)
  文献3:中田・今泉編(2002)
  文献4:杉山ほか(1991a)
  文献5:杉山ほか(1991b)
  文献6:杉山ほか(1993a)
  文献7:杉山ほか(1993b)
  文献8:竹村・藤井(1984)
  文献9:竹村(1987)
  文献10:宇佐美(2003)
注5: 庄川断層帯では、平均的なずれの速度を具体的に示すことはできないが、活断層の活動の活発さの程度、すなわち活動度(松田,1975)は推定できるので、それを示した。
・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。
注6: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注7: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度  
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注8: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回評価した数字のうち0.06は400年を6900年で割った値であり、0.3は1000年を3600年で割った値である。
注9: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1.庄川(しょうかわ)断層帯に関するこれまでの主な調査研究

本断層帯は、岡山(1956)が高度不連続線である白川線として存在を指摘した。廣田(1962)は御母衣(みぼろ)ダムの調査で本断層帯のうち白川断層の位置や形態を確認した。また、河田(1982)、河田ほか(1988)及び脇田・小井土(1994)は、5万分の1地質図幅において該当地域の地質構造と本断層帯を構成する各断層について記述を行った。

本断層帯を構成する断層のうち加須良(かずら)断層に関しては、藤井・竹村(1979)、竹村(1980,1983,1987)、竹村ほか(1981)及び竹村・藤井(1984)などが、富山堆積盆地や飛騨山地北縁部の周辺に位置する活断層の1つとして記載した。また、森茂断層に関しては、熊木(1983)が詳細な記載を行っている。なお、神嶋(1990)は、本断層帯の東方に位置する跡津川断層が庄川を横切って西方へ延長すると指摘し、西方延長部を荒谷断層と命名した。ただし、本断層帯との関係は不明としている。

活断層研究会編(1991)はこれらの研究を総括した形で、加須良断層、白川断層及び三尾河(みおご)断層からなる御母衣断層系と森茂断層を、第四紀に活動を繰り返した活断層として図示した。そして、松田(2000)は、加須良断層、白川断層、三尾河断層からなる断層帯を庄川断層帯として示した。また、中田・今泉編(2002)では本断層帯のうち白川断層と三尾河断層を図示している。

本断層帯の第四紀後期の特性に関する調査としては、杉山ほか(1991a,b,1993a,b)による白川断層と三尾河断層におけるトレンチ調査がある。
また、1586年(天正13年)の天正地震をはじめとする歴史地震との関係に関しては、恒石(1980)、飯田(1987)などの研究がある。

2.庄川断層帯の評価結果

2.1 庄川断層帯の位置及び形態

(1)庄川断層帯を構成する断層

庄川断層帯は、石川県金沢市南部から、富山県西砺波郡福光町、同県東砺波郡上平(かみたいら)村、岐阜県大野郡白川村、荘川村を経て、同県郡上市北部に至る断層帯で、加須良断層、白川断層、三尾河断層及び森茂断層から構成される。このうち、加須良、白川、三尾河の各断層は概ね直線状に分布するが、加須良断層と白川断層の間には小規模のステップを有する。また、森茂断層は白川断層の東方に2−5km程度の間隔をとって分布する。

本断層帯の位置は、活断層研究会編(1991)、中田・今泉編(2002)などに示されており、中部−南部にかけてその分布は概ね一致する。なお、中田・今泉編(2002)では、北部の約24km区間(加須良断層)において、最近数十万年間に活動を繰り返したことを示す変位地形を認めていない。しかし、加須良断層に沿って、複数の地点で第四紀後期の活動を示す断層露頭が発見されていること(竹村・藤井,1984;竹村,1987など)から、ここでは加須良断層も本断層帯に含めて評価した。

本断層帯を構成する各断層の位置と名称は活断層研究会編(1991)によった。

(2)断層面の位置・形状

庄川断層帯の長さ及び一般走向は、本断層帯の北端と南端を結んで計測すると約67km、N20°Wとなる(図2)。

断層面上端の深さは、変位地形が地表に認められることから0kmとした。

断層面の傾斜は、断層露頭(竹村・藤井,1984;竹村,1987など)や断層帯周辺の地形の特徴から、地表付近では高角と考えられる。
断層面の幅は、地下深部の傾斜も地表と同様に高角であるとすれば、地震発生層の下限の深さが約15kmであること(後述)から、15km程度と推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

活断層研究会編(1980,1991)や中田・今泉編(2002)などに示された谷や尾根地形の系統的な左方向の屈曲や、トレンチ調査で杉の字型に配列する逆断層群が認められていること(杉山ほか,1993b)に基づくと、庄川断層帯は全体に左横ずれを主体とする断層帯と考えられる。また、同様に活断層研究会編(1980,1991)などに示された山地高度の不連続や低断層崖などの地形の特徴や、断層露頭の調査結果などから、加須良断層では東側隆起成分、白川断層、三尾河断層では西側隆起成分を伴うと考えられる。

2.2 庄川断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

本断層帯では、平均変位速度に関する資料は得られていない。
なお、活断層研究会編(1991)は、地形の特徴から本断層帯の活動度(注5)をB級としている。また、本断層帯を横切る桂川、加須良川、横谷などの河川の屈曲量は最大で1,000m程度である。この量は、平均変位速度が2−3m/千年とされる跡津川断層の1/2以下である。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

[1]白川断層木谷(きだに)地点

本断層帯の中部に位置する白川断層では、白川村木谷地区の河岸段丘を変位させる比高2−5mの低断層崖を横切ってトレンチ調査(KA・KBトレンチ)が実施されている(図3、4:杉山ほか,1991a,b,1993a)。

トレンチ壁面には複数の断層(F1−F4断層)が認められる。このうち、F1−F3断層は表層直下の腐植土層(B層)の少なくとも中部までを変位させている。よって、これらの断層が同時期に活動したか、もしくはそれぞれ異なる時期に活動したかは不明であるが、少なくともB層の堆積中−堆積後に1回以上の断層活動があったと考えられる。このうち、KAトレンチの南壁面では、F3断層により約2千4百−2千8百年前の年代を示す層準が切られている。したがって、本地点での最新活動時期は約2千8百年前以後と推定される。

また、砂基質の礫層(D層:年代試料なし)とそれを覆うシルト基質の礫層(C層:年代試料なし)を切るF1断層が腐植土層(B層)に覆われている。B層下部には鬼界アカホヤ火山灰(約7千3百年前;注11)が挟まれ、F1断層近傍のB層基底からは約8千7百−8千2百年前の年代が得られている。したがって、本地点では約8千2百年前以前にも断層活動があったと推定される。

[2]三尾河断層寺河戸(てらこうど)地点

三尾河断層南端部から約4kmの寺河戸地点では、断層が通過する山地の鞍部においてトレンチ調査(A・B・Cトレンチ)が行われている(図5、6:杉山ほか,1991a,b,1993b)。

A−Cトレンチとも、炭化木片を大量に含む腐植土層(e層)の中部までを確実に切り、崩積堆積物(杉山ほか,1991b:d層)、あるいは腐植質粘土層(b−c層)に覆われる断層が認められる。このe層及び上位の地層からは、下位層よりも古い14C年代も得られていることから、杉山ほか(1991b)は、これらの地層は再堆積によるものと推定している。ここでは、本地点の最新活動はe層堆積より後、d層堆積より前に生じた可能性があり、その年代はe層から得られた最も若い年代(11−13世紀)よりも新しい可能性があると判断する。

また、Aトレンチの北側壁面では、鬼界アカホヤ火山灰を含む腐植土層(h層)を切る断層が崩積堆積物(杉山ほか,1991b:g層)に覆われている。したがって、h層堆積(約7千3百年前)より後、g層堆積(g層上位のf層基底の年代:約5千3百−4千9百年前)より前に断層活動があったと考えられる。

なお、杉山ほか(1991b)は、腐植土層(j層)と黄褐色シルト−粘土層(l層)に挟まれる礫混じり腐植土層(k層)を、断層活動により生じた崩積堆積物として、l層堆積以後、k層堆積以前にも断層活動を認定している。ただし、k層の形状を考慮すると、断層活動により生じたとするだけの特徴は不明瞭であると推定され、詳細は不明である。

なお、加須良断層の南部にあたる富山県上平村ブナオ峠付近の露頭では、約1万3千年前の年代を示す表層の風化土壌を切る断層露頭が報告されている(竹村・藤井,1984)。しかし、露頭で認められた断層は、加須良断層の一般走向(NNW−SSE)と大きく斜交する走向(N63°W)を示し、ブナオ峠付近は地すべり地帯でもあることから、これは地すべりに伴う断裂である可能性があると判断した。

b)先史時代・歴史時代の活動

庄川断層帯付近で記録されている歴史時代の地震としては、1586年(天正13年)の天正地震、1855年(安政2年)の飛騨白川・金沢の地震及び1858年(安政5年)の飛越地震がある(宇佐美,2003)。

1586年(天正13年)の天正地震(マグニチュード8.2:飯田,1987;もしくはマグニチュード7.8:宇佐美,2003)では、中部地方の西部から近畿地方の東部にかけての広い地域で、震度Yに相当する被害があったとされる(宇佐美,2003)。急峻な山間部に位置する本断層帯付近では、規模の大きな地すべりや崩壊が多数引き起こされた(例えば、恒石,1980;飯田,1987;杉山ほか,1991bなど)。このような地すべりや崩壊地形の分布と、上述の地形・地質調査から推定される11世紀以後といった最新活動時期に基づくと、1586年(天正13年)の天正地震で本断層帯が活動したことも示唆される。しかし、本断層帯付近では天正地震に伴う揺れの被害そのものの記録が残されておらず、また、天正地震に関しては、阿寺断層など他の幾つかの断層が活動したとする説もある(宇佐美,2003など)。このように、本断層帯と天正地震との関係を断定できる資料は無く、不明な点が多い。

1855年(安政2年)の飛騨白川・金沢の地震(マグニチュード6 3/4±1/4:宇佐美,2003)では、白川郷野谷村で浄蓮寺の本堂庫裏が損じるとともに民家にも被害があり、岐阜県美濃市保木脇(ほきわき)でも山崩れのため民家2軒が潰れた。また、金沢では城内の石垣・堀が崩れ、城端でも石垣が崩れたとされている(宇佐美,2003)。しかし、この地震は、本断層帯で推定される固有地震の規模(マグニチュード7.9程度)に比べてマグニチュードが1程度小さいことから、本断層帯の固有地震ではないと考えられる。

1858年(安政5年)の飛越地震(マグニチュード7.0−7.1:宇佐美,2003)では、本断層帯中部の白川断層付近では比較的被害が大きかった(潰家率20−60%)とされる(宇佐美,2003)。ただし、本断層帯の東方に位置する跡津川断層帯沿いで、潰家率50−100%程度のより著しい被害が発生していること(宇佐美,2003)から、この地震では、跡津川断層帯が活動したと推定されている(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2004など)。

以上のように、庄川断層帯付近で記録されている歴史地震のうち、1586年(天正13年)の天正地震に関しては、トレンチ調査結果から推定される本断層帯の最新活動(11世紀以後)に対応する可能性も残るが、両者の詳細な関係は不明である。ここでは、少なくとも1586年より後には、庄川断層帯の活動により生じた可能性のある固有地震は存在しないと判断し、本断層帯の最新活動時期を11世紀以後、16世紀以前と推定する。

また、前述の地形・地質調査に基づき、1つ前の活動は約7千3百年前以後、約4千9百年前以前にあったと推定し、2つ前の活動は約8千2百年前以前にあった可能性があると判断する(図7)。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

庄川断層帯では、1回の活動に伴う変位量に関する直接的な資料は得られていない。
本断層帯の長さは約67kmと推定されることから、松田(1975)の経験式(1)、(2)を用いると、本断層帯における1回の活動に伴う変位量は5.3mと計算される。したがって、本断層帯の1回の活動に伴う左横ずれ変位量は5m程度の可能性があると判断する。
用いた経験式は、次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはその時のマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      Log L = 0.6M − 2.9    (1)
      Log D = 0.6M − 4.0    (2)

(4)活動間隔

庄川断層帯では過去3回の活動時期が得られており、それらの年代値から平均活動間隔は約3千6百−6千9百年の可能性があると判断する。
なお、杉山ほか(1991b)は、本断層帯周辺に位置する跡津川断層帯などの同規模の断層帯に比べて、トレンチで確認された活動に基づいた再来間隔が長いことから、トレンチ調査では検出できなかった別のイベントが存在している可能性も指摘している。しかし、主要河川の累積変位量は本断層に比べて跡津川断層帯のほうが有意に大きいことから、本断層帯の活動間隔が跡津川断層帯よりも有意に長いことと矛盾しない。

(5)活動区間

庄川断層帯は、構成する断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば、全体が1つの活動区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

庄川断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層帯周辺で北西−南東方向の縮みがみられる。また、1985年からの約10年間では、東西方向のわずかな縮みがみられる。
最近5年間のGPS観測結果では、北西−南東方向のわずかな縮みがみられる。

(7)地震観測結果

庄川断層帯周辺の最近6年間の地震観測結果によると、地震発生層の下限の深さは約15kmである。
なお、本断層帯の周辺では1961年の北美濃地震(マグニチュード7.0)及び1969年の岐阜県美濃中西部の地震(岐阜県中部地震,マグニチュード6.6)が発生している。ただし、1961年の北美濃地震の余震域は本断層帯の西方約20kmの地域に、1969年の岐阜県美濃中西部の地震の余震域は本断層帯の南端から南方約10−20kmの畑佐断層付近に集中している(恒石,1976など)。これらのことから、両地震は本断層帯の活動で発生したものではないと考えられる。

2.3 庄川断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

庄川断層帯は、断層帯全体が1つの活動区間として同時に活動すると推定される。断層帯の長さは約67kmと推定されることから、前述の経験式(1)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.9程度と推定される。また、その際、相対的に5m程度の左横ずれ変位が生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

庄川断層帯全体が同時に活動する場合、平均活動間隔が約3千6百−6千9百年で、最新活動時期が11世紀以後、16世紀以前と推定されることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は0.06−0.3となる。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、いずれもほぼ0%である。また、現在までの集積確率はほぼ0%となる。表3に、これらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

3.今後に向けて

庄川断層帯では、1回のずれの量、平均的なずれの速度及び活動区間について十分な資料が得られていない。また、加須良断層に関しては、過去の活動履歴の詳細が明らかとなっていない。よって、これらの項目に関し、精度の良い資料を得る必要がある。

注10: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 鬼界アカホヤ(K−Ah)火山灰の噴出年代は、年縞編年に基づいてAD1995年より7,325年前(福沢,1995)とされている(Machida,1999等)。
注12: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。

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表3 庄川断層帯の地震発生確率及び参考指標

項  目         数  値         備   考
地震後経過率

 今後30年以内の発生確率
 今後50年以内の発生確率
 今後100年以内の発生確率
 今後300年以内の発生確率

集積確率
0.06−0.3

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%



発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001)参照。
 指標(1)経過年数
      比
 指標(2)
 指標(3)
 指標(4)
 指標(5)
マイナス1千5百年−マイナス4千4百年
0.08−0.4
ほぼ0
ほぼ0%
ほぼ0
0.0001−0.0003

地震調査研究推進本部地震
調査委員会長期評価部会
(1999)参照。

注13: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。
本断層帯の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険度は、3千6百分の1−6千9百分の1(0.0001−0.0003)であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後1千5百年から4千4百年を要する。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

ランク

               分類条件の詳細

発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。


 

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。