平成16年9月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会
活断層


鈴鹿西縁断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、59断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、鈴鹿西縁断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成17年1月12日 経験式を用いた場合のマグニチュードの標記を変更しました。(赤字)


平成16年9月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

鈴鹿西縁断層帯の評価

鈴鹿西縁断層帯は、滋賀県東部の鈴鹿山脈西縁に分布する活断層帯である。ここでは、平成11年度に地質調査所(現:産業技術総合研究所)によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

鈴鹿西縁断層帯は、滋賀県坂田郡米原町から、甲賀郡土山町に至る断層帯である。長さは約44kmで、ほぼ南北方向に延びる、東側が相対的に隆起する逆断層である(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

鈴鹿西縁断層帯の最新活動時期は明らかになっていない。既往の調査研究成果による直接的なデータではないが、本断層帯の長さをもとに経験則で求めた1回のずれの量と平均的な上下方向のずれの速度に基づくと、平均的な活動間隔は約1万8千−3万6千年であった可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

鈴鹿西縁断層帯は、全体が1つの区間として活動すると推定され、マグニチュード7.6程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の東側が西側に対して相対的に3−4m程度高くなる段差を生じる可能性がある(表1)。

本断層帯では、過去の活動が十分明らかではなく、最新活動時期が特定できていないことから、通常の活断層評価とは異なる手法により地震発生の長期確率を求めている。そのため信頼度は低いが、将来このような地震が発生する長期確率を算出すると、表2に示すとおりであり、本断層帯は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる(注1−3)。

4.今後に向けて

鈴鹿西縁断層帯では、過去の活動時期や平均活動間隔に関するデータが得られていないなど、断層帯の特性が精度よく求められていない。このため、本断層帯については、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。


表1 鈴鹿西縁断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注4)
根  拠
(注5)
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を構成す
  る断層
仏生寺(ぶっしょうじ)断層、彦根断層、
常安寺断層、斧磨(よきとぎ)断層、百済寺
(ひゃくさいじ)断層、甲津畑断層、綿向山
(わたむきやま)断層、鎌掛(かいがけ)断層、
瀬の音断層、黒滝断層
  文献3、4及び5に
よる。
  (2)断層帯の位置・
  形状
地表における断層の位置・形状
 断層の位置
  (北端)北緯35°19′東経136°20′
  (南端)北緯34°55′東経136°21′
 長さ     約44km







文献3、4及び5に
よる。数値は図2か
ら計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
        地表での長さ・位置と同じ
 上端の深さ  0km
 一般走向   ほぼ南北



 傾斜      30−40°東傾斜
             (深さ400m以浅)

 幅        約30−40km














上端の深さが0kmで
あることから推定。

一般走向は断層帯の
北東端と南西端を直
線で結んだ方向
(図2参照)。
傾斜は、地形の特徴や
反射法弾性波探査結
果から推定(文献1)。
傾斜と地震発生層の
深さの下限から推定。
  (3)断層のずれの向
  きと種類
東側隆起の逆断層

地形の特徴などに
よる。
2.断層帯の過去の活動
  (1)平均的なずれの
  速度
約0.1−0.2m/千年(上下成分)


文献2、3による。

  (2)過去の活動時期 不明
  (3)1回のずれの量
  と平均活動間隔
1回のずれの量  3−4m程度(上下成分)
平均活動間隔   約1万8千−3万6千年


断層の長さから推定。
平均的なずれの速度
と1回のずれの量から
推定。
  (4)過去の活動区間 断層帯全体で1区間 断層の地表形態から
推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1)将来の活動区間
  及び活動時の地
  震の規模
活動区間    断層帯全体で1区間
地震の規模   マグニチュード7.6程度
ずれの量    3−4m程度(上下成分)



断層の長さから推定。
断層の長さから推定。

 

表2 鈴鹿西縁断層帯の将来の地震発生確率等(ポアソン過程を適用)

項   目

将来の地震発生確率等
(注6)

信頼度
(注7)

備   考

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

0.08%0.2%
0.1%0.3%
0.3%0.6%
0.8%2%

 

d

最新活動時期が不明のため、平均活動間隔をもとにポアソン過程で推測した。

 


注1: 鈴鹿西縁断層帯では、最新活動時期が特定できていないため、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の長期確率を求めることができない。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、このような更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適用せざるを得ないとしていることから、ここでは、ポアソン過程を適用して鈴鹿西縁断層帯の将来の地震発生確率を求めた。しかし、ポアソン過程を用いた場合、地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり、本来時間とともに変化する確率の「平均的なもの」になっていることに注意する必要がある。
なお、グループ分けは、通常の手法を用いた場合の全国の主な活断層のグループ分け(注2参照)と同じしきい値(推定値)を使用して行なった。
注2: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注3: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率(うち、1995年兵庫県南部地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

地震名

地震を引き起こした活断層

地震発生直前の30年確率(%)

地震発生直前の集積確率(%)

断層の平均活動間隔(千年)

1995年兵庫県南部地震
(M7.3

野島断層
(兵庫県)

0.4 %−8 %

%80%

1.8−約3.0

1858年飛越地震
(M7.07.1

跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)

ほぼ0%13 %

ほぼ0%90%より大

1.7−約3.6

1847年善光寺地震
(M7.4

長野盆地西縁断層帯
(長野県)

ほぼ0%−20%

ほぼ0%90%より大

0.8−約2.5


「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が1万年の場合は30年確率の最大値は3%程度、2万年の場合は1%程度である。
注4: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注5: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:吾妻ほか(2000)
  文献2:池田ほか(2002)
  文献3:活断層研究会編(1991)
  文献4:中田・今泉編(2002)
  文献5:岡田・東郷編(2000)
注6: 鈴鹿西縁断層帯は最新活動時期を特定できていないため、通常の手法による確率の値は推定できない。そのかわりとして、 長期間の確率の平均値を示した。最新活動時期によってはこの値より大きく、または小さくなるが、その確率値のとり得る範囲は平均活動間隔から求めることが できる。本断層帯は平均活動間隔が1万8千−3万6千年程度と求められているので、この場合の通常の手法による30年確率のとり得る範囲はほぼ0%−1%となる。
注7: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度  
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。


(説明)

1.鈴鹿西縁断層帯に関するこれまでの主な調査研究

辻村(1932)は、本断層帯を関ヶ原断層系の一部(霊仙山断層崖、綿向山断層崖)として記載した。また、池邊(1934)は鈴鹿山脈の中古生界と古琵琶湖層群等との地質境界として、本断層帯を記載している。

植村(1979)、池田ほか(1991)は、主に空中写真判読に基づいて地形分類を行ない、本断層帯の断層変位地形を認定している。

Takaya(1963)、横山ほか(1968)、吉田(1978)などによって、本断層帯の活動に関連すると思われる、古琵琶湖層群の地質構造が記載されている。また、本断層帯の周辺地域の地質構造・層序については、宮村ほか(1976,1981)及び原山(1989)による5万分の1地質図幅に記載されている。

なお、本断層帯付近の活断層の位置は、活断層研究会編(1991)、岡田・東郷編(2000)、中田・今泉編(2002)に総括的に示されている。

2.鈴鹿西縁断層帯の評価結果

2.1 鈴鹿西縁断層帯の位置・形態

(1)鈴鹿西縁断層帯を構成する断層

鈴鹿西縁断層帯は、鈴鹿山脈の西縁に沿って、滋賀県坂田郡米原町付近から、彦根市、犬上郡多賀町、同郡甲良(こうら)町、愛知郡秦荘(はたしょう)町、同郡湖東町、神崎郡永源寺町、蒲生(がもう)郡日野町を経て、甲賀郡土山町に至る断層帯である。本断層帯は、おおむね北から、仏生寺(ぶっしょうじ)断層、彦根断層、常安寺断層、斧磨(よきとぎ)断層、百済寺(ひゃくさいじ)断層、甲津畑断層、綿向山(わたむきやま)断層、鎌掛(かいがけ)断層、瀬の音断層、黒滝断層から構成される(図1、2)。本断層帯は、断層の分布位置等から、松田(1990)の起震断層の定義に基づけば、単一の断層帯とみなすことができる。

本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、池田ほか(1991)、活断層研究会編(1991)、岡田・東郷編(2000)、中田・今泉編(2002)などに示されている。断層の位置は各資料でほぼ一致しているが、活断層とする断層の認定について各文献ごとに若干の相違がみられる。また、吾妻ほか(2000)は、常安寺断層の南方延長部の百済寺断層西方に、平野に伏在する撓曲構造(古琵琶湖層群は変形、その上位の年代は不明)を認定しているが、その詳細な分布は不明である。

本断層帯を構成する断層の位置は、活断層研究会編(1991)、岡田・東郷編(2000)及び中田・今泉編(2002)、名称は岡田・東郷編(2000)によった。

なお、活断層研究会編(1991)、岡田・東郷編(2000)の鎌掛断層と、中田・今泉編(2002)の瀬の音断層は、相互に交差する。宮村ほか(1981)の地質図によれば、鎌掛断層が古琵琶湖層群と基盤岩の地質境界となっていることから、岡田・東郷編(2000)の鎌掛断層を採用し、瀬の音断層は鎌掛断層から南側のみとした。

(2)断層面の位置・形状

本断層帯全体の長さ及び一般走向は、図2に示された仏生寺断層の北端と黒滝断層の南端を直線で結ぶとそれぞれ約44km、ほぼ南北となる。
本断層帯の南北端の位置については、岡田・東郷編(2002)に基づき、北端を滋賀県坂田郡米原町中部の西坂付近、南端を甲賀郡土山町東部山女原付近とする。

断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。

断層面の傾斜は、断層変位地形の特徴、吾妻ほか(2000)による百済寺断層の反射法弾性波探査断面(図3)から約400m以浅で約30−40°の東傾斜と推定される。なお、宮村ほか(1981)、原山ほか(1989)によれば、綿向山断層では、50°及び56°東傾斜の断層面を示す断層露頭が確認されている。

断層面の幅は、地震発生層の下限の深さが約20kmと推定されること及び断層面の傾斜が深度400m以浅で30−40°であることから、断層面の傾斜が深度400m以深においても30−40°であると仮定すれば、約30−40kmの可能性がある。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注8)

本断層帯は、断層変位地形の特徴や反射断面(吾妻ほか、2000)、断層露頭(宮村ほか,1981;原山ほか,1989)などから、主に東側隆起の逆断層と考えられる。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)
(注8)

活断層研究会編(1991)は、常安寺断層において、約20万年前に形成された高位面に20mの変位が認められるとし、平均上下変位速度を0.1m/千年としている。

池田ほか(1991)は百済寺断層において約10万年前に形成されたM1面に20mの変位、約2万年前に形成されたL1面に5mの変位が認められるとし、平均上下変位速度を約0.2−0.25m/千年としている。但し、いずれの文献においても、段丘面の年代根拠は明示していない。L1面の変位量を考慮するとこれは少数回の変位でしかないため、これから求めた平均変位速度の精度は高くないと言える。

なお、中田・今泉編(2002)は、常安寺断層付近で高位面に20m、低位面に5m、沖積面に2mの上下変位を記載しているが、地形面の年代推定の根拠が不明確で、信頼性が十分とは言えないと思われるので、この値は参考値とする。

以上より、本断層帯の平均上下変位速度は、約0.1−0.2m/千年の可能性がある。

(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動


本断層帯ではトレンチ調査など過去の活動時期に関する調査は行われておらず、活動履歴を直接的に検討できる資料は無いため、断層帯の過去の活動時期については明らかになっていない。なお、池田ほか(1991)は、百済寺断層において約2万年前に形成されたL1面に変位が認められるとし、また、中田・今泉編(2002)は、常安寺断層付近で沖積面の変位を記載しているが、これらはいずれも段丘面の年代の信頼度が十分でなく、これらの記載から最新活動時期を限定するには至らない。

○先史時代・歴史時代の活動


宇佐美(2003)によると、本断層帯の周辺では、1819(文政2)年にマグニチュード7 1/4±1/4の地震が発生し、近江八幡・彦根付近を中心に、近江、伊勢、美濃一帯に被害をもたらしている。ただし、本断層帯との関係は不明で、石橋(1999)は被害分布と余震が少ないことから、スラブ内地震の可能性があるとしている。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注8)

本断層帯の1回の活動に伴う変位量に関する直接的資料は得られていない。
本断層帯は長さが約44kmであることから、経験式(1)、(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は約3.6mと求められる。
以上のことから、1回の活動に伴う本断層帯の上下変位量は3−4m程度である可能性がある。
用いた経験式は松田(1975)による次の式である。ここで、Lは断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      Log L = 0.6M − 2.9    (1)
      Log D = 0.6M − 4.0    (2)

(4)活動間隔

本断層帯の活動間隔に関する直接的資料は得られていない。
本断層帯の平均上下変位速度が約0.1−0.2m/千年、1回のずれの量が計算上は3.6mと求められていることから、活動間隔は約1万8千−3万6千年である可能性がある。

(5)活動区間

本断層帯は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、ほぼ東西方向の縮みが見られる。1985年から10年間の測地観測結果では、この断層帯周辺で北西−南東方向の縮みが見られる。最近5年間のGPS観測結果では東西方向のわずかな縮みが見られる。

(7)地震観測結果

本断層帯周辺の最近約6年間の地震観測結果によると、本断層帯付近の地震活動は低調である。本断層帯付近の地震発生層の下限の深さは約20kmである。

2.3 断層帯の将来の活動

(1)将来の活動区間及び地震の規模


鈴鹿西縁断層帯は、全体が1つの活動区間として活動すると推定される。この場合、断層帯の長さが約44kmであることから、経験式(1)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.6程度と推定される。また、この際に、断層帯の東側が西側に対して3−4m程度高くなる段差を生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯の平均活動間隔は、直接的なデータではないが、約1万8千−3万6千年の可能性がある。しかし、最新活動時期が特定できていないために、上記のようなマグニチュード7.6程度の地震が発生する長期確率を更新過程(地震の発生確率が時間と共に変動するモデル)を用いて評価することができない。

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)は、地震の発生確率を求めるに当たって、通常の活断層評価で用いている更新過程が適用できない場合には、特殊な更新過程であるポアソン過程(地震の発生時期に規則性を考えないモデル)を適応せざるを得ないとしている。信頼度の低い平均活動間隔を用いた計算であることに十分留意する必要があるが、ポアソン過程を適用して地震発生確率を求めると今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、0.08%−0.2%、0.1%−0.3%、0.3%−0.6%、0.8%−2%となる。

平均活動間隔の信頼度が低く、また値が十分絞り込まれていないため、地震発生確率にも幅があるが、もっとも高い値に着目すると、鈴鹿西縁断層帯は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。

なお、通常の活断層評価で用いられている更新過程によった場合、平均活動間隔が約1万8千−3万6千年と求められているので、今後30年以内の地震発生確率のとり得る範囲はほぼ0%−6%となる。

3.今後に向けて

鈴鹿西縁断層帯では、過去の活動時期や平均活動間隔に関するデータが得られていないなど、断層帯の特性が精度よく求められていない。このため、本断層帯については、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。また、吾妻ほか(2000)によって指摘された、百済寺断層の西方の平野地下に伏在する撓曲構造についても、その活動性を把握する必要がある。

注8: 「変位」を、1ページの本文、4ページの表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。

文 献

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池田 碩・大橋 健・植村善博(1991):滋賀県・近江盆地の地形.『滋賀県自然誌−総合学術調査研究報告−』,(財)滋賀県自然保護財団,105−295.

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活断層研究会編(1980):「日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,363p.

活断層研究会編(1991):「新編日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,437p.

小池一之・町田 洋編(2001):「日本の海成段丘アトラス」.東京大学出版会,CD−ROM3枚・122p.+付図2葉.

町田 洋・新井房夫(2003):「新編 火山灰アトラス−日本列島とその周辺」. 東京大学出版会, 336p.

松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について.地震,第2輯,28,269−283.

松田時彦(1990):最大地震規模による日本列島の地震分帯図.地震研究所彙報,65,289−319.

松田時彦・岡田篤正・藤田和夫編(1976):日本の活断層分布図およびカタログ.地質学論集,12,185−198.

宮村 学・三村弘二・横山卓雄(1976):地域地質研究報告5万分の1図幅「彦根東部地域の地質」.地質調査所,49p.

宮村 学・吉田史郎・山田直利・佐藤岱生・寒川 旭(1981):地域地質研究報告5万分の1図幅「亀山地域の地質」.地質調査所,128p.

中田 高・今泉俊文(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会.DVD−ROM2枚・付図1葉・60p.

岡田篤正・東郷正美編(2000):「近畿の活断層」.東京大学出版会,395p.

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Takaya,Y.(1963):Stratigraphy of the Paleo−Biwa Group and the Paleogeography of Lake Biwa with Special Reference to the Origin of the Endemic Species in Lake Biwa.Memories of the College of Science, University of Kyoto, Ser.B, 30, 81−118.

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吉田史郎(1978):滋賀県鈴鹿山脈西麓の鮎河層群.地質調査所月報,29,441−460.

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

ランク

               分類条件の詳細

発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。


 

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。