平成16年2月12日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


岩国断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、46断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、岩国断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成17年1月12日 経験式を用いた場合のマグニチュードの標記を変更しました。(赤字)


平成16年2月12日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

岩国断層帯の評価

岩国断層帯は、広島県南西部から山口県南東部に分布する活断層帯である。ここでは、平成4年から8年にかけて財団法人原子力発電技術機構によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.岩国断層帯の位置及び形状

岩国断層帯は、広島県大竹市から山口県周南市に至る断層帯である。長さは約44kmで、北東―南西方向に延びる右横ずれ主体の断層帯であり、北西側隆起の逆断層成分を伴う(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

岩国断層帯の最新活動時期は、約1万−1万1千年前と推定される。一方、平均的な活動間隔は約9千−1万8千年であった可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

岩国断層帯は、全体が1つの区間として活動し、マグニチュード7.6程度の地震が発生する可能性がある。この場合、2m程度の右横ずれを生じる可能性がある(表1)。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率を算出すると表2に示すとおりとなる。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は今後30年の間に地震が発生する確率が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することとなる(注1、2)。

4.今後に向けて

岩国断層帯では、平均活動間隔に関する信頼度の高いデータが得られていないなど、断層帯の特性が精度よく求められていない。このため、本断層帯について、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。さらに、本断層帯の北端部の位置も正確でないため、広島湾を挟んで北東側に位置する五日市断層との関係も含め詳しい調査が必要である。

表1 岩国断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 断層帯を
  構成する
  断層
大竹断層、岩国断層、廿木峠(はたきとうげ)
断層、小畑(おばた)断層、熊毛断層、徳山市
北の断層、大河内(おおかわち)断層
  文献2、3及び4による
  (2) 断層帯の位置・
   形状等
地表における断層帯の位置・形状
  断層帯の位置
   (北東端)北緯34°15′東経132°13′
   (南西端)北緯34°05′東経131°47′
 長さ     約44km







文献2、3及び4に
よる。数値は図2か
ら計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
           地表での長さ・位置と同じ

 上端の深さ  0km
 一般走向   N60°E(全体)
   (ただし、東部ではほぼ北東−南西
    方向、西部ではほぼ東西方向)

 傾斜     高角、北西傾斜
         (地表付近)

 幅      20km程度















上端の深さが0km
であることから推定。


一般走向は断層帯の
北東端と南西端を直
線で結んだ方向(図
2参照)。
傾斜は、トレンチや
断層露頭で現れた傾
斜。
地震発生層の深さの
下限が約20kmで
あることから推定。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
右横ずれ断層
(北西側隆起の逆断層成分を伴う)

地形の特徴などによる。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
  不明



  (2) 過去の活動時期  活動1(最新活動時期)
     約1万−1万1千年前

 活動2(1つ前の活動時期)
     約2万8千年前以後





文献5に示された資料
から推定。

文献5に示された資料
から推定。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量:2m程度
      (右横ずれ成分)
平均活動間隔
      約9千−1万8千年




文献5による。


過去の2回の活動か
ら推定。
  (4) 過去の活動区間 断層帯全体で1区間 断層の地表形態から
推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
 活動区間    断層帯全体で1区間

 地震の規模  マグニチュード7.6程度

 ずれの量   2m程度(右横ずれ成分)





断層の地表形態から
推定。
断層の長さから推定。

トレンチ(文献5)
から推定。

表2 岩国断層帯の将来の地震発生確率等

項  目   将来の地震発生確率等  
(注5)
 信頼度 
(注6)
備  考

地震後経過率 (注7)

今後 30 年以内の地震発生確率
今後 50 年以内の地震発生確率
今後 100 年以内の地震発生確率
今後 300 年以内の地震発生確率

集積確率(注8)


0.6  − 1.2

0.03% − 2% 
0.05% − 3% 
0.1% − 6% 
0.4% − 20%

0.9% − 80%

発生確率及び集積確率
は文献1
による。


注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
     98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
     98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
     98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
     (いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率 (うち、1995年兵庫県南部地震と1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。
地震名 地震を引き起こした活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
野島断層
(兵庫県)
0.4%−8% 2%−80% 約1.8−約3.0
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−10% ほぼ0%−
90%より大
約1.9−約3.3
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が1万年の場合は30年確率の最大値は3%程度、2万年の場合は1%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
    文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
    文献2:活断層研究会編(1991)
    文献3:中田・今泉編(2002)
    文献4:山崎ほか(1985) 
    文献5:財団法人原子力発電技術機構(1997)
注5: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
   a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、0.6は1万年を1万8千年で割った値であり、1.2は1万1千年を9千年で割った値。
注8: 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1. 岩国断層帯に関するこれまでの主な調査研究

東元ほか(1983)は、岩国地域の変形地形及び地質について調査し、この地域の地殻運動を推定した。佃(1985)は、岩国地域の活断層について、その配列様式に着目し発達史について考察した。また、福地(1996)は、大竹断層(注9)の北東部にて新たな断層露頭を発見し、活動履歴について考察した。

さらに、財団法人原子力発電技術機構は平成4年度から8年度にかけて、本断層帯の露頭観察等を行った。佃(1997)、地質調査所(1998)は、大竹断層でのトレンチ調査結果から活動履歴を考察した。なお、本断層帯付近の活断層の位置は、活断層研究会編(1991)、山崎ほか(1985)、中田・今泉編(2002)等に示されている。

2.岩国断層帯の評価結果

岩国断層帯は、広島県大竹市から山口県岩国市及び山口県玖珂(くが)郡玖珂町を通り、下松(くだまつ)市を経て周南市に至る断層帯である。本断層帯は、断層の分布位置等から松田(1990)の基準によれば、単一の起震断層とみなすことができる。

2.1 断層帯の位置・形態

(1) 断層帯を構成する断層

本断層帯は、おおむね北東から、大竹断層、岩国断層、廿木峠(はたきとうげ)断層、小畑(おばた)断層、熊毛断層、徳山市北の断層(注9)、大河内(おおかわち)断層から構成される(図1、2)。

本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、佃(1985,1997)、活断層研究会編(1991)、原子力発電技術機構(1994,1995,1996,1997,1998)、福地(1996)、中田・今泉編(2002)などに示されている。本断層帯の東部にあたる大竹断層等の位置はこれらの資料でほぼ一致しているが、本断層帯の西部にあたる熊毛断層及び徳山市北の断層については、中田・今泉編(2002)には示されていない。また、大河内断層については活断層研究会編(1991) 及び中田・今泉編(2002)には示されていない。

なお、本断層帯を構成する断層の位置及び名称は、活断層研究会編(1991)、山崎ほか(1985)及び中田・今泉編(2002)によった。

(2)断層面の位置・形状

本断層帯全体の長さ及び一般走向は、図2に示された大竹断層の北東端と徳山市北の断層の西端を直線で結ぶとそれぞれ約44km、N60°Eとなる。ただし、走向については東部の大竹断層を主体とする部分ではほぼ北東−南西走向であるが、熊毛断層南部の下松市付近において丘陵と平野の境界に添うようにほぼ東西方向にゆるやかに変化し、さらに西方の徳山市北の断層では、N80°Wとなる。一方、大河内断層は大竹断層の南西方に位置し、ほぼ北東−南西走向である。

本断層帯の北東端の位置について、中田・今泉編(2002)では、大竹断層が大竹市小方地区の海岸付近で沖積平野下に入るとしている。しかし、原子力発電技術機構(1997)によると、大竹市小方地区でのトレンチ調査地点(後述)付近の既存ボーリング地点にて基盤の高度差が認められないとしている。このことから、断層が広島湾まで延びている可能性は低い。なお、大河内断層の南端が周防灘まで延びているかについては明確な資料がない。

断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。

断層面の傾斜は、地表における断層トレースが直線的であること、また、断層露頭やトレンチ壁面に認められる断層の傾斜などから、地表付近では高角(北西傾斜)と推定される。

断層面の幅は、地震発生層の下限の深さが約20kmと推定されることから、地下深部でも地表付近の傾斜と同様であるとすれば、20km程度と推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

本断層帯は、断層変位地形などから、右横ずれを主体とする断層で北西側隆起の逆断層成分を伴っていると考えられる。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

本断層帯は右横ずれを主体とし、北西側隆起の逆断層成分を伴っていると考えられるが、平均右横ずれ変位速度に関する直接的な資料は得られていない。なお、後述の1回の変位量と活動間隔を用いると平均横ずれ変位速度は0.1−0.2m/千年と求められる。

(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動

本断層帯では、大竹断層においてトレンチ調査など過去の活動時期に関する以下の調査が行われている。

a)大竹断層小方(おがた)地点

原子力発電技術機構(1997)は、大竹断層の北東端に近い大竹市小方地点でトレンチ調査を行い、トレンチ下部に露出した基盤(花崗岩、25−27層)中に断層を確認し、断層が2−2.5万年前頃に堆積したと推定される20層に覆われるとしている。この年代の根拠として、20層の下位にある崖錐堆積物(21層)に姶良Tn火山灰起源のガラス濃集部が含まれることを示している。しかしながら、21層は崖錐堆積物であることから、すでに斜面に堆積していたものが崩れてきた再堆積である可能性も十分にあるため、このトレンチから断層活動の時期を限定することはできない。

b)大竹断層近延(ちかのぶ)地点

原子力発電技術機構(1997)は、大竹断層の中央やや西よりの岩国市近延地点でトレンチ調査を行い、段丘堆積層を切る明瞭な断層を確認した。段丘堆積層には変位の累積が認められないことから、この断層は段丘堆積層堆積後、1回だけ活動してそれが岩国断層帯の最新活動に対応していると推定される。断層活動の時期は、断層を覆う堆積物の14C年代値(注11)から約1千3百年前以前と推定される。

c)大竹断層廿木(はたき)地点

原子力発電技術機構(1997)は、近延地点の南西約2.5kmに位置する大竹断層の岩国市廿木地点でトレンチ調査を行った(図3)。トレンチではP層以下の地層を変位させる断層が観察され、そのうち姶良Tn火山灰層(L層,約2万8千年前:注12)の上下変位が、上位の姶良Tn火山灰再堆積層(O層)の上下変位より大きいことから、この間に変位の累積性が認められる。さらにトレンチ西側壁面では、L層とその上位のO層で地層の変形度合いに差が認められる。以上のことから、この地点ではP層堆積後に最新活動があり、約2万8千年前のL層堆積後、O層堆積前に、1つ前の断層活動があった可能性がある。なお、O層およびP層の具体的な年代は得られていない。

d)大竹断層臼田(うすだ)地点

原子力発電技術機構(1997)は、大竹断層の南西端に近い玖珂郡玖珂町臼田地点でトレンチ調査を行い、断層が段丘堆積層とその上位の扇状地堆積層を変位させていることを確認した(図4)。断層に切られる扇状地堆積層の8−b層と、断層を覆う4層から得られた14C年代値から約1万−1万1千年前に最新活動があったと推定される。

○先史時代・歴史時代の活動

広島県大竹市付近から山口県南東部ではいくつかの被害地震の記録があるが、本断層帯に関連した歴史時代の地震は知られていない。

以上のことから、本断層帯の最新活動は、大竹断層臼田地点でのトレンチ調査結果から約1万−1万1千年前であったと推定される。また、1つ前の活動は、大竹断層廿木地点でのトレンチ調査結果から約2万8千年前以後であった可能性がある。


(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

原子力発電技術機構(1997)は、大竹断層近延地点でのチャンネル堆積物の分布から、右横ずれ量について2±0.5mの可能性があるとしている。これは、本断層帯の最新活動に対応していると考えられるため、この値を1回の右横ずれ変位量とみなすこととする。本断層帯は長さが約44kmであることから、経験式(1)、(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は3.5mと求められ、原子力発電技術機構(1997)による値と矛盾しない。

以上のことから、1回の活動に伴う本断層帯の右横ずれ変位量は2m程度である可能性がある。

なお、上下変位について、原子力発電技術機構(1997)は、大竹断層廿木地点でのトレンチの壁面において観察された変位(前述)から1回の断層活動による変位量を約1mと推定している。

用いた経験式は松田(1975)による次の式である。ここで、Lは断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。
      LogL=0.6M−2.9    (1)
      LogD=0.6M−4.0    (2)

(4)活動間隔

前述のように、大竹断層の臼田トレンチから最新活動時期が約1万−1万1千年前と推定されること、及び廿木トレンチから約2万8千年前以後に1つ前の活動があった可能性があることから、本断層帯の活動間隔は約1万−1万1千年前の最新活動を含めて約2万8千年前以後に2回の活動があるとして求めることができ、約9千−1万8千年である可能性がある。

(5)活動区間

本断層帯は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層帯西部で南北方向の縮みが見られる。一方、1985年から約10年間の測地観測結果及び最近3年間のGPS観測結果では、顕著な縮みは見られない。

(7)地震観測結果

地震活動は、本断層帯北東部付近及び南西部付近でやや活発であるが、中央部付近ではほとんど活動が見られない。なお、本断層帯付近の地震発生層の下限の深さは概ね20km程度である。

2.3 断層帯の将来の活動

(1)将来の活動区間及び地震の規模

本断層帯は、全体が1つの活動区間として活動すると推定される。この場合、断層帯の長さが約44kmであることから、経験式(1)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.6程度と求められる。また、この際に、2m程度の右横ずれを生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯では、平均活動間隔が約9千−1万8千年、最新活動時期が約1万−1万1千年前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.6−1.2となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ0.03−2%、0.05−3%、0.1−6%、0.4−20%となる。また、現在までの集積確率は、0.9−80%となる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値を取ると、本断層帯は今後30年の間に地震が発生する確率が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することとなる(注1、2)。

3.今後に向けて

岩国断層帯では、平均活動間隔に関する信頼度の高いデータが得られていないなど、断層帯の特性が精度よく求められていない。このため、本断層帯について、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。さらに、本断層帯の北端部の位置も正確でないため、広島湾を挟んで北東側に位置する五日市断層との関係も含め詳しい調査が必要である。

注9: 大竹断層は、活断層研究会編(1991)では小方−小瀬断層とされている。また、徳山市北の断層については、活断層研究会編(1991)では単に徳山市北としか記載がないことから、本評価に際しては便宜上この断層を「徳山市北の断層」と名称の後ろに「の断層」をつけて表記した。
注10: 「変位」を、1ページの本文、4、5ページの表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して1千年単位で示した。
注12: 姶良Tn(AT)火山灰層の降下年代値については、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。

文 献

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藤田和夫・寒川 旭(1978):中国地方西部の活断層について.第15回自然災害科学総合シンポジウム,227−228.

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松田時彦・岡田篤正・藤田和夫編(1976):日本の活断層分布図およびカタログ.地質学論集,12,185−198.

水野篤行(1989):1987年11月18日山口地震吉敷川地域における被害調査とネオテクトニクスに関する問題.山口地学会誌,23,10−18.

日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996):「第四紀露頭集−日本のテフラ」.日本第四紀学会,352p.

中田 高・今泉俊文編(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会.DVD−ROM2枚・付図1葉・60p.

Niklaus, T. R. (1991):CalibETH version 1.5, ETH Zurich, 2disketts and manual, 151p.

寒川 旭(1980):西南日本中央部の第四紀における地殻変動と地形発達.西村嘉助先生退官記念地理学論文集,60−65.

佃 栄吉(1985):岩国活断層系 その概要と発達史.吉田博直先生退官記念論文集.245−253.

佃 栄吉(1997):岩国断層帯の活動履歴及び活動性調査.地質調査所研究資料集No.303(平成8年度活断層研究調査概要報告書) ,129−136.

佃 栄吉・寒川 旭(1984):山口県東部の岩国断層系.地震学会講演予稿集,1984,No.2,214−214.

山崎晴雄・下川浩一・水野清秀(1985):1:500,000活構造図「福岡」,地質調査所.

表3 岩国断層帯の将来の地震発生確率及び参考指標

項  目                         数  値                  備   考
地震後経過率

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率
0.6−1.2

0.03%−2%
0.05%−3%
0.1%−6%
0.4%−20%

0.9%−80%


発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001)参照。
指標(1) 経過年数
     比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
マイナス2千6百年−4千7百年
0.8−1.8
0.2−5
0.9%−80%
0.02−0.6
0.00006−0.0001

地震調査研究推進本部地
震調査委員会長期評価部
会 (1999) 参照。

注13: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。

指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。本断層帯の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険率は、9千分の1−1万8千分の1(0.0001−0.00006)であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点で10万分の1−1千7百分の1(0.00001−0.0006)であり、時間とともに増加する。10万分の1であればBPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後2千6百年を要するが、1千7百分の1であればBPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達してからすでに4千7百年が経過したことになる。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率の値をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高
く (◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く (△)、これらにより
求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く (△)、これらにより求められた発
生確率等の値は信頼性がやや低い。

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く (▲)、発
生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性
が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の
確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。