平成16年4月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


津軽山地西縁断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、50断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、津軽山地西縁断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成17年1月12日 経験式を用いた場合のマグニチュードの標記を変更しました。(赤字)


平成16年4月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

津軽山地西縁断層帯の評価

津軽山地西縁断層帯は、青森県西部に位置する活断層帯である。ここでは、平成7年度に青森県によって行われた調査等をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、津軽山地西縁断層帯について次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

津軽山地西縁断層帯は、青森県五所川原(ごしょがわら)市から南津軽郡浪岡(なみおか)町に至る津軽山地西縁断層帯北部と、青森市西部から南津軽郡平賀(ひらか)町に至る津軽山地西縁断層帯南部からなる。

津軽山地西縁断層帯北部は長さが約16kmで、北北西−南南東方向に延びており、断層の東側が相対的に隆起する逆断層である可能性があり、大平(おおたい)断層、山越(やまこし)断層、飯詰(いいづめ)断層などの西側隆起の副次的な断層が伴われている(図1、2、表1)。

津軽山地西縁断層帯南部は長さが約23kmで、南北方向に延びており、断層の東側が相対的に隆起する逆断層である可能性がある(図1、2、表2)。
 
2.断層帯の過去の活動

(1)津軽山地西縁断層帯北部

津軽山地西縁断層帯北部の最新活動時期は1766年(明和3年)の地震であった可能性がある。平均的な上下方向のずれの速度は0.2−0.3m/千年程度であったと推定される(表1)。

(2)津軽山地西縁断層帯南部

津軽山地西縁断層帯南部の最新活動時期は1766年(明和3年)の地震であった可能性がある。しかし、信頼できる過去の活動に関する資料が乏しく、活動履歴については明らかにされていない(表2)。

3.断層帯の将来の活動

(1)津軽山地西縁断層帯北部

津軽山地西縁断層帯北部は、全体が1つの区間として活動した場合、マグニチュード6.8−7.3程度の地震が発生する可能性があり、その時、断層の近傍の地表面では東側が西側に対して相対的に1−3m程度高まる段差や撓みが生ずる可能性がある(表1)。本断層帯北部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。

(2)津軽山地西縁断層帯南部

津軽山地西縁断層帯南部は、全体が1つの区間として活動した場合、マグニチュード7.1−7.3程度の地震が発生する可能性があり、その時、断層の近傍の地表面では東側が西側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生ずる可能性がある(表2)。本断層帯南部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。

4.今後に向けて

津軽山地西縁断層帯では、最新活動時期を含めた過去の活動履歴や1回の変位量が十分には明らかになっていない。平均変位速度に関する資料も不足している。将来の活動性を明確にするためには、これらについての精度良いデータを集積させるとともに、活動間隔を明らかにする必要がある。本断層帯北部と同南部との連動性及び本断層帯全体と1766年の地震との関係などについても資料を集めて詳しく検討する必要がある。これと併せて、浪岡撓曲が主断層を上回る平均変位速度を示す原因を明らかにする必要もある。

また、すでに一部で指摘されているように、本断層帯は、青森湾西岸断層帯による津軽山地の傾動隆起に関係した断層である可能性もあるので、津軽山地全体の地下深部構造を調査して青森湾西岸断層帯との関連性を明らかにすることも重要な課題の一つである。

表1 津軽山地西縁断層帯北部の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 津軽山地西縁
断層帯北部を構成
する断層
五所川原(ごしょがわら)市−浪岡(なみおか)
町付近の断層、大平(おおたい)断層*、山越
(やまこし)断層*、飯詰(いいづめ)断層*
浪岡撓曲
  文献8による。
構成する断層のうち、*印を
つけたものは副次的な断層。
  (2) 断層帯の位置・
   形状等
地表における断層帯の位置・形状
  断層帯の位置
   (北端) 北緯40°50′東経140°30′
   (南端) 北緯40°42′東経140°34′
    長さ 約16km





文献2、9による。
位置及び長さは図2
から計測。
     地下における断層面の位置・形状
  長さ及び上端の位置  地表での長さ・
                 位置と同じ
 上端の深さ    0km
 一般走向     N20°W



  傾斜       東傾斜
            


  幅        不 明












 

上端の深さが0km
であることから推定。
地形の特徴から推定。
一般走向は断層帯の
両端を直線で結んだ
方向 。

文献1、3、9など
に示された地形、地
質の特徴から推定。

地震発生層の下限の
深さは15km程度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
  東側隆起の逆断層
 

文献1、3、9などに
示された地形、地質
の特徴から推定。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
  0.2−0.3m/千年程度(上下成分)


文献1、3、7に示さ
れた資料から推定。
  (2) 過去の活動時期   活動1 (最新活動)
    1766年(明和3年)の地震




文献1、6、10、11
に示された資料から推定。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量   不明
平均活動間隔   不明

 
  (4) 過去の活動区間  不明    
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間   断層帯全体で1区間
地震の規模  マグニチュード6.8−7.3程度

ずれの量   1−3m程度(上下成分)





断層の長さと1766年
の地震から推定。
地震の規模から推定。

表2 津軽山地西縁断層帯南部の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 津軽山地西縁
断層帯南部を構成
する断層
 黒石断層
  文献8による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状等
地表における断層帯の位置・形状
  断層帯の位置
   (北端) 北緯40°47′東経140°39′
   (南端) 北緯40°34′東経140°37′
    長さ 約23km





文献4、9による。
位置及び長さは図2
から計測。
     地下における断層面の位置・形状
  長さ及び上端の位置  地表での長さ・
                 位置と同じ
 上端の深さ    0km
 一般走向     N−S



  傾斜       東傾斜
            


  幅        不 明












 

上端の深さが0km
であることから推定。
地形の特徴から推定。
一般走向は断層帯の
両端を直線で結んだ
方向 。

文献4、5、9
に示された地形、地
質の特徴から推定。

地震発生層の下限の
深さは15km程度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
  東側隆起の逆断層
 

文献4、5、9などに
示された地形、地質
の特徴から推定。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
  不明



  (2) 過去の活動時期   活動1 (最新活動)
    1766年(明和3年)の地震




文献1、6、10、11
に示された資料から推定。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量   不明
平均活動間隔   不明

 
  (4) 過去の活動区間  不明    
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間   断層帯全体で1区間
地震の規模  マグニチュード7.1−7.3程度

ずれの量   2−3m程度(上下成分)





断層の長さと1766年
の地震から推定。
地震の規模から推定。

注1: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
     ◎:高い、○中程度、△:低い
注2: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
    文献1:青森県(1996)
    文献2:青森県総務部消防防災課(1997)
    文献3:吾妻(1995)
    文献4:池田ほか編(2002)
    文献5:活断層研究会編(1991)
    文献6:松浦ほか(1999)
    文献7:宮内ほか(1999)
    文献8:宮内ほか(2001)
    文献9:中田・今泉編(2002)
    文献10:佐藤(1994)
    文献11:宇佐美(2003)


(説明)

1.津軽山地西縁断層帯に関するこれまでの主な調査研究

津軽山地西縁断層帯は、津軽山地の西縁に位置する東上がりの断層である。

中田ほか(1976)は、津軽山地西縁の五所川原(ごしょがわら)市原子付近、南津軽郡板柳町高野付近や黒石市付近に活断層が存在することを指摘した。活断層研究会編(1980, 1991)は、その分布を精査して本断層帯を構成する活断層及びその可能性のあるものを北津軽郡中里町付近から南津軽郡大鰐(おおわに)町付近にかけて図示した。吾妻(1995)は、変位地形を詳しく調べて本断層帯の活動特性について検討している。本断層帯が分布する津軽半島部の第四紀地殻変動を、海成段丘の高度分布などをもとに論じたものとして、長谷(1963)、太田(1968)、宮内(1988)などがある。

その後、都市圏活断層図「青森」(宮内ほか, 2001)、池田ほか編(2002) 及び中田・今泉編(2002)によって断層の詳しい位置が図示された。また、青森県(1996)が、津軽山地西縁断層帯を対象にして、地形地質調査、反射法弾性波探査、ボーリング調査、トレンチ調査などを行っている。池田ほか編(2002)は、青森県(1996)の調査結果に基づいて、津軽山地西縁断層帯に関係づけて従来注目されてきた津軽山地西縁部の変動地形は、同山地東縁に位置する青森湾西岸断層帯による津軽山地の傾動隆起に関係したものとし、津軽山地西縁断層帯の少なくとも北部は実在しない可能性が高いとする新しい解釈を示している。

2.津軽山地西縁断層帯の評価結果

津軽山地西縁断層帯は津軽山地と津軽平野の境界に位置する東側隆起の断層帯である。本断層帯は、南津軽郡浪岡(なみおか)町付近で左雁行配列を示し、5km以上の隔たりがあることから、2つに大別される。松田(1990)に基づいて、両者はそれぞれ別の起震断層を構成しているとみなし、ここでは、前者を津軽山地西縁断層帯北部、後者を津軽山地西縁断層帯南部とし、それぞれについて評価することとした。

2.1 津軽山地西縁断層帯北部

2.1.1 津軽山地西縁断層帯北部の位置及び形態

(1)津軽山地西縁断層帯北部を構成する断層

本断層帯北部は、青森県五所川原市から南津軽郡浪岡町にかけて分布している(図1、2)。

本断層帯北部を構成する断層の位置・形態は、活断層研究会編(1980, 1991)、吾妻(1995)、青森県(1996)、青森県総務部消防防災課(1997)、宮内ほか(2001)、池田ほか編(2002)、中田・今泉編(2002)などに示されている。ここでは、断層の位置は青森県総務部消防防災課(1997)及び中田・今泉編(2002)に、断層の名称は宮内ほか(2001)にしたがった。

本断層帯北部は、主断層とその東に位置する浪岡撓曲からなる。

主断層は西に緩やかに凸の平面形をなして、ほぼ北北西−南南東方向に連続する東側隆起の撓曲を伴い、その東には大平(おおたい)断層、山越(やまこし)断層、飯詰(いいづめ)断層などの西側隆起を示す副次的断層が分布する。主断層の存在は、津軽山地西麓に分布する段丘群が西向きに撓曲もしくは傾動していることから推定されるが、その詳しい断層線の位置は把握されていない。図2では、青森県総務部消防防災課(1997)がこのような変動地形と反射法探査結果に基づいて推定した撓曲帯から、そのおおよその位置を示した。

浪岡撓曲は、大釈迦(だいしゃか)から浪岡にかけて分布する南北方向で西上がりの断層である。主断層に近接して分布する短い断層(長さは約5km)であるが、後述のように平均変位速度は主断層のそれを大きく上回っている可能性がある。その原因や主断層との関係については不明な点がある。

なお、金木町嘉瀬地区(図2)で青森県(1996)により反射法弾性波探査が実施されたが、その結果、ここでは、山地と平野の境界部に明瞭な断層構造は検出されなかったので、本断層帯北部の北端はこれより南に位置すると考えられる。中田・今泉編(2002)には、北方延長の金木町に長さ約1kmの東側隆起の断層が示されているが、これは、本断層帯北部との隔たりが5km以上と大きいので、本断層帯北部に含めないことにした。

(2)断層帯の位置・形状

本断層帯北部の長さ及び一般走向は、図2に示された断層帯の両端を直線で結んで計測すると、約16km、N20°Wとなる。

断層面の上端の深さは、東側隆起の撓曲変形が地表に現れていることから0kmとした。

断層面の傾斜については、後述するように、変位地形や地質構造の特徴によって東側が西側に乗り上げる逆断層とされることから、東傾斜の可能性がある。

断層面下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると、15km程度と推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注3)

本断層帯北部は、西へ撓み下がる変位地形や地質構造を形成していること、撓曲崖の背後では逆傾斜する傾動や逆向き低断層崖が生じていること(吾妻, 1995;青森県, 1996;中田・今泉編, 2002)などから判断すると、東側が西側に乗り上げる逆断層の可能性がある。

2.1.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注3)

本断層帯北部の平均変位速度に関する資料として以下のものがある。

@ 南津軽郡板柳町下石川付近では、主断層沿いに位置する高位段丘面が西向きに撓曲し、少なくとも約30m上下変位している(吾妻, 1995;宮内ほか, 1999)。吾妻(1995)にしたがって、この段丘面の年代を約20−22万年前とすると、それ以降の本断層帯北部主断層の平均上下変位速度 >0.15−0.13m/千年が求まる。

A 青森県(1996)は、下石川地区で反射法弾性波探査、ボーリング調査を行い、本断層帯北部付近で、更新世の鶴ヶ坂凝灰岩部層が西向きに撓曲していることを明らかにした(図3)。図3から鶴ヶ坂凝灰岩部層の上下変位量は190m程度と見積もられる。町田・新井(2003)にしたがって、鶴ヶ坂凝灰岩部層の堆積年代を約71−76万年前(注4)とすると、それ以降の本断層帯北部主断層の平均上下変位速度 0.25−0.27m/千年が求まる。

以上から、本断層帯北部の平均上下変位速度は0.2−0.3m/千年程度と推定される。

なお、浪岡撓曲に関しては、吾妻(1995)により低位段丘堆積物が少なくとも6m、青森県(1996)や池田ほか編(2002)により高位段丘面が10m以上、鶴ヶ坂凝灰岩部層(約71−76万年前)が約450mともに西上がりに上下変位していることが明らかにされており、鶴ヶ坂凝灰岩部層を指標にするとその平均上下変位速度は0.63−0.59m/千年となり、主断層のそれを大幅に上回る結果となる。短い浪岡撓曲がなぜこのような大きな値を示すのかその原因は分からない。ここでは、主断層に直接関係した以上の@、Aの資料にもとづいて本断層帯北部の平均上下変位速度を評価することにした。
 
(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動

浪岡撓曲で低位段丘堆積物が撓曲する露頭が知られている (吾妻, 1995)。五所川原市東方でも主断層沿いで青森県(1996)がWfa面とした低位段丘面が西向きに撓曲している。したがって、本断層帯北部は、2万年前頃以後に活動していると考えられるが、最新活動期を含めその最近の活動履歴は明らかでない。

○先史時代・歴史時代の活動

1766年3月8日(旧暦明和3年1月28日)に、弘前から津軽半島にかけて大きな被害をもたらす地震(マグニチュード7・1/4±1/4)があった(宇佐美, 2003)。地表地震断層の出現を示す古記録はないが、この地震による被害(佐藤, 1994;青森県, 1996;松浦ほか, 1999)が浪岡、黒石、及び田舎館付近に集中していることから、本断層帯北部または後述の本断層帯南部、あるいは両者がともに活動した可能性がある(図4)。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注3)

本断層帯北部の1回の活動に伴う変位量に関する直接的資料は得られていない。

(4) 活動間隔

本断層帯北部の活動間隔に関する直接的資料は得られていない。

(5)活動区間

本断層帯北部の活動区間に関する直接的資料は得られていない。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、この断層帯周辺で北東−南西方向のわずかな伸びが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、断層帯北部で顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

本断層帯付近では、最近の地震活動はやや低調である。本断層帯周辺の最近約6年間の地震観測結果によれば、本断層帯付近における地震発生層の下限の深さは15km程度と推定される。

2.1.3 津軽山地西縁断層帯北部の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

本断層帯北部全体を1つの活動区間とした場合、次の松田(1975)の経験式(1)に基づくと、津軽山地西縁断層帯北部(長さ約16km)から発生する地震の規模はマグニチュード6.8程度となる。一方、本断層帯北部の活動であった可能性のある1766年の地震の規模はマグニチュード7・1/4±1/4と推定されている(宇佐美, 2003)。以上から、本断層帯北部から発生する地震の規模はマグニチュード6.8−7.3程度の可能性がある。

また、経験式(2)に基づくと、このような地震が発生した場合、地表に東側隆起で1−3m程度の段差や撓みを伴う変位が生ずる可能性がある。

   Log L = 0.6 M − 2.9  (1)
   Log D = 0.6 M − 4.0  (2)

ただし、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。
 
(2)地震発生の可能性

本断層帯北部における将来の地震発生可能性については、関係する資料が整っていない。しかし、本断層帯北部の最新活動が1766年の地震であった可能性があることを考慮すると、その後の経過時間は2百年余りであり、我が国の一般的な活断層の平均的な活動間隔と比べると短い時間しか経過していないことになる。また、我が国の他の活断層に対して本断層帯北部の活動度(注5)が特段に高いことを示す資料もないことから、本断層帯北部でごく近い将来にここで評価したような地震が発生する可能性は低いと考えられる。
 

2.2 津軽山地西縁断層帯南部

2.2.1 津軽山地西縁断層帯南部の位置及び形態

(1)津軽山地西縁断層帯南部を構成する断層

本断層帯南部を構成する断層の位置・形態は、活断層研究会編(1980, 1991)、宮内ほか(2001)、池田ほか編(2002)、中田・今泉編(2002)などに示されている。これらでは、浪岡町以北の分布に差異が認められるほかは、概ね共通する認識が示されている。ここでは、断層の位置は主として、中田・今泉編(2002)に、ただし、北端部については池田ほか編(2002)に、断層の名称は宮内ほか(2001)にしたがった。

本断層帯南部は、青森市西部から南津軽郡平賀(ひらか)町にかけて分布し、黒石断層から構成される(図1、2)。

(2)断層帯の位置・形状

本断層帯南部の長さ及び一般走向は、図2に示された本断層帯南部の両端を直線で結んで計測し、約23km、N−Sとした。ただし、北端の位置については、資料によって異なっているので、不確かさを伴っている。

断層面の上端の深さは、東側隆起の変位地形が地表で認められることから0kmとした。

断層面の傾斜については、後述するように、東側が西側に乗り上げる逆断層の可能性があるので、東傾斜と予想されるが、それを裏付ける証拠はまだ見出されていない。

断層面下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると、15km程度と推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注3)

本断層帯南部は、一般に東側を高める変位地形をつくっている(池田ほか編,2002;中田・今泉編,2002)ので、東上がりの断層と考えられる。一部で西向きの撓曲崖をつくっているが、その断層型を判定するための具体的な資料はない。しかし、同系列の本断層帯北部が逆断層であることから、同走向をもって南に続く本断層帯南部も逆断層である可能性がある。東北地方北部における活断層の走向と断層型の関係に関する一般性(活断層研究会編, 1991)に照らしても、この推定は矛盾しない。以上から、本断層帯南部は、東側が西側に乗り上げる逆断層の可能性がある。

2.2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注3)

池田ほか編(2002)では、本断層帯南部沿いにおいて、M2面(約5−2万年前)が5m、L面群(約2万年前以降)が2−3m程度変位していることが示されている。これから本断層帯南部はB級の下位の活動度を有する可能性があることがうかがえるが、変位基準の判定や変位量の見積もりに関する根拠が明らかにされていないので、これをもって本断層帯南部の平均変位速度を特定することはできない。これ以外に本断層帯南部の平均変位速度に関する資料はない。

(2)活動時期

○ 地形・地質的に認められた過去の活動

本断層帯南部の最新活動を含めた最近の活動履歴に関する資料は得られていない。

平賀町新館東方の山麓線付近で、小谷の谷底を横切って南北に延びる新鮮な小崖地形が見いだされ、上述の1766年津軽地震に関連づけて注目されている(渡辺・鈴木, 1999)。この小崖地形は、連続性に乏しく、また、本断層帯南部の末端付近にあり、見方によっては本断層帯南部からかなりずれた位置に分布するともいえる側面をもつ。その形成時期・成因、これと本断層帯南部との関係は不明である。

○先史時代・歴史時代の活動

2.1.2(2)参照。

上述の1766年3月8日の地震による被害(佐藤, 1994;青森県, 1996;松浦ほか, 1999)が浪岡、黒石、及び田舎館付近に集中していることから、本断層帯南部または本断層帯北部、あるいは両者がともに活動した可能性がある(図4)。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注3)

本断層帯南部の1回の活動に伴う変位量に関する直接的資料は得られていない。

(4)活動間隔

本断層帯南部の活動間隔に関する直接的資料は得られていない。

(5)活動区間

本断層帯南部の活動区間に関する直接的資料は得られていない。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、この断層帯周辺で北東−南西方向のわずかな伸びが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、断層帯南部の西側では東西方向の縮みが見られる。

(7)地震観測結果

2.1.2(7)参照。

2.2.3 津軽山地西縁断層帯南部の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

本断層帯南部全体を1つの活動区間とした場合、次の松田(1975)の経験式(1)に基づくと、津軽山地西縁断層帯南部(長さ約23km)から発生する地震の規模はマグニチュード7.1程度となる。一方、本断層帯南部の活動であった可能性のある1766年の地震の規模はマグニチュード7・1/4±1/4と推定されている(宇佐美, 2003)。以上から、本断層帯南部から発生する地震の規模はマグニチュード7.1−7.3程度の可能性がある。

また、経験式(2)に基づくと、このような地震が発生した場合、地表に東側隆起で2−3m程度の段差や撓みを伴う変位が生ずる可能性がある。

   Log L = 0.6 M − 2.9  (1)
   Log D = 0.6 M − 4.0  (2)

ただし、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。

(2)地震発生の可能性

本断層帯南部における将来の地震発生の可能性については、関係する資料が整っていない。しかし、本断層帯南部の最新活動が1766年の地震であった可能性があることを考慮すると、その後の経過時間は2百年余りであり、我が国の一般的な活断層の平均的な活動間隔と比べると短い時間しか経過していないことになる。また、我が国の他の活断層に対して本断層帯南部の活動度が特段に高いことを示す資料もないことから、本断層帯南部でごく近い将来にここで評価したような地震が発生する可能性は低いと考えられる。


3.今後に向けて

津軽山地西縁断層帯では、最新活動時期を含めた過去の活動履歴や1回の変位量が十分には明らかになっていない。平均変位速度に関する資料も不足している。将来の活動性を明確にするためには、これらについての精度良いデータを集積させるとともに、活動間隔を明らかにする必要がある。本断層帯北部と同南部との連動性や本断層帯全体と1766年の地震との関係などについても資料を集めて詳しく検討する必要がある。これと併せて、浪岡撓曲が主断層を上回る平均変位速度を示す原因を明らかにする必要もある。

すでに一部で指摘されているように、本断層帯は、青森湾西岸断層帯による津軽山地の傾動隆起に関係した断層である可能性もあるので、津軽山地全体の地下深部構造を調査して青森湾西岸断層帯との関連性を明らかにすることも重要な課題の一つである。

注3: 変位」を、1、2頁の本文及び5−8頁の表1、2では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1、2の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注4: 「鶴ヶ坂凝灰岩部層は八甲田第1期火砕流堆積物に相当する。噴出年代は町田・新井(2003)による。
注5: 「活断層の活動の活発さの程度を活動度(松田, 1975)と呼ぶ。
・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。

文 献

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