平成16年4月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


折爪断層の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、50断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、折爪断層について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成17年1月12日 経験式を用いた場合のマグニチュードの標記を変更しました。(赤字)


平成16年4月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

折爪断層の評価


折爪(おりつめ)断層は、青森県から岩手県にかけて分布する活断層である。ここでは、平成8−9年度に青森県によって行われた調査等をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、折爪断層について次のように評価した。

1.断層の位置及び形態

折爪断層は、青森県三戸(さんのへ)郡倉石村から岩手県岩手郡葛巻(くずまき)町北部に至る断層で、北部は辰ノ口撓曲からなる。長さは最大47km程度である可能性がある。北北西−南南東方向に延びており、断層の西側が相対的に隆起する逆断層と推定される(図1、2、表1)。
 
2.断層の過去の活動

折爪断層は、第四紀に活動したことがあると推定されるが、その第四紀後期の活動の実態は不明である(表1)。

3.断層の将来の活動

折爪断層の将来の活動については不明である。仮に全体が一つの区間として活動した場合について試算すると、経験則から、発生する地震規模はマグニチュードが最大で7.6程度で、そのときの上下変位量は最大で4m程度となる(表1)。本断層の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。

4.今後に向けて

折爪断層では、将来の活動の可能性を明確にするために必要な第四紀、とくにその後期の活動性に関する資料が十分得られていない。未だ詳しい地形・地質調査が行われていない区間が全体の2/3もあり、資料不足で活断層としての折爪断層の諸特性を検討できる状況にない。当面、基礎的な調査研究を積み重ねて第四紀後期の活動性、さらには平均変位速度や活動履歴などに関する資料を収集する必要がある。とくに、辰ノ口撓曲部では第四紀後期の活動性が衰えている可能性もあるので、そのようなことも考慮に入れた調査を行う必要がある。

表1 折爪断層の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 構成する断層 折爪断層(北部は辰ノ口撓曲)   文献1、4による
  (2) 断層帯の位置・
   形状等
地表における断層帯の位置・形状
 断層の位置
  (北端)北緯40°30′東経141°16′
  (南端)北緯40°06′東経141°26′
 長さ     最大47km程度





文献1、4による。
数値は図2から計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
          地表での長さ・位置と同じ
 上端の深さ  0km
 一般走向   N20°W


 傾斜     西傾斜


 幅      不明











 




一般走向は、断層の
両端を直線で結ん
だ方向。
文献1、2、3に示
された地質構造の
特徴から推定。
地震発生層の下限
の深さは15km程
度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
  西側隆起の逆断層
 

文献1、2、3に示さ
れた地質構造の特徴か
ら推定。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
不明


 
  (2) 過去の活動時期 活動時期    不明


  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量   不明
平均活動間隔   不明

 
  (4) 過去の活動区間  不明    
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間   断層帯全体で1区間
地震の規模 マグニチュード最大7.6程度
ずれの量  最大4m程度(上下成分)

折爪断層の将来の活動については不明であ
るため、上記の値は仮に全体が一つの区間
として活動した場合の試算値である。


断層の長さから推定。
断層の長さから推定。

注1: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。ただし、「断層の将来の活動」の特性欄に記載されたデータは試算値であるため、その信頼度は付与していない。
     ◎:高い、○中程度、△:低い
注2: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
    文献1:青森県(1998)
    文献2:鎮西(1958)
    文献3:Chinzei(1966)
    文献4:活断層研究会編(1991)


(説明)

1.折爪断層に関するこれまでの主な調査研究

折爪(おりつめ)断層は、北上高地北部で山地と丘陵との境界付近を北北西−南南東方向に延びる断層で、その北部は辰ノ口撓曲として知られる。

本断層の存在やその特性に関する研究として、鎮西(1958)、Chinzei(1966)、宮内(1985)、Miyauchi(1987)、活断層研究会編(1980,1991)等がある。鎮西(1958)、Chinzei(1966)は、鮮新世の斗川層を西側隆起に大きく変位させた辰ノ口撓曲とそれに続く断層(狭義の折爪断層)の存在を明らかにするとともに、辰ノ口撓曲をつくる変動が現在まで継続している可能性があることを、高位段丘面(金田一面)の高度分布資料や水準測量改測資料に基づいて指摘した。宮内(1985)及びMiyauchi(1987)は、辰ノ口撓曲及びその北方延長部で、中位段丘面群(高館面など)にも高度不連続が認められるとし、その高度差と推定形成年代を手がかりにして平均変位速度を求めている。活断層研究会編(1980,1991)では、本断層を活断層であることが推定される断層(活断層としての確実度をU)として図示したが、その断層線に辰ノ口撓曲部は含まれていない。

その後、青森県(1997,1998)は、辰ノ口撓曲部を対象に地形地質調査を行い、辰ノ口撓曲がより北方の五戸川付近まで延びていることを明らかにするとともに本断層の最近の活動性について検討している。中田・今泉編(2002)では、本断層は推定活断層として扱われているが、辰ノ口撓曲部は記載されていない。

なお、これまでの調査研究は上記のように、すべて本断層の北部を対象としており、本断層中−南部の調査研究は行われていない。
 
2.折爪断層の評価結果

2.1 断層の位置及び形態

(1)折爪断層を構成する断層

折爪断層は、青森県三戸(さんのへ)郡倉石村から岩手県岩手郡葛巻(くずまき)町北部にかけて分布する(図1、2)。馬淵(まべち)川以北で知られる辰ノ口撓曲は、本断層の北部を構成する。

折爪断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、青森県(1998)、中田・今泉編(2002)などに示されているが、このうち、活断層研究会編(1980,1991)及び中田・今泉編(2002)では、辰ノ口撓曲部が記載されていない。ここでは、活断層研究会編(1991)及び青森県(1998)を基礎資料とし、断層の位置及び名称はこれらにしたがった。

(2)断層の位置・形状

図2に示された断層の北端と南端を直線で結んで計測すると、折爪断層の長さ及び一般走向は、最大47km程度、N20°Wとなる。ただし、本断層においては、後述のように第四紀後期に活動を繰り返したことを示す確実な証拠は見出されておらず、第四紀後期に活動的な区間に関しては、その有無を含め不明であることに留意する必要がある。

断層面の上端の深さは、断層による変位が地表に達していることから0kmとした。

断層面の傾斜については、後述のように地質構造(鎮西,1958;Chinzei,1966;青森県,1998)から西側が東側に乗り上げる逆断層と推定されるため、西傾斜と推定される。

断層面の下端の深さは、地震発生層の下限の深さを目安にすると、15km程度と推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注3)

辰ノ口撓曲部で、鮮新世の斗川層及びそれ以下の地層群が東向きに急傾斜(撓曲)し、かつ、その西側では緩やかな西傾斜を示すこと(鎮西,1958;Chinzei,1966;青森県,1998)から、折爪断層は、西側が東側に乗り上げる逆断層と推定される。

2.2 断層の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注3)

辰ノ口撓曲部において中−高位段丘面の分布高度に不連続が生じているとし、その高度差に基づいて平均変位速度を求めた報告がある(宮内,1985;青森県,1997)。しかし、いずれにおいても変位基準の取り扱いに不確かさがあるため、採用しなかった。

青森県(1997)は、辰ノ口撓曲における鮮新世の斗川層の上下変位量を750−850mと見積もり(図3)、その形成年代を530−300万年前として、それ以後の平均上下変位速度を0.14−0.28m/千年と求めている。しかし、この値は、変位量や変位基準の年代が概略値に過ぎず、また、本断層の第四紀後期の動きが不明であることから、第四紀後期の平均変位速度を現しているかどうかは分からない。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

折爪断層の最新活動を含む活動履歴については、関係する資料がないため明らかでない。

折爪断層は、鮮新世の斗川層を大きく変位させているので、第四紀に活動した断層であることはほぼ確かと考えられる。しかし、少なくとも第四紀後期に活動を繰り返していることを示す確実な証拠はこれまでのところ見出されていない。上述のように辰ノ口撓曲部で中−高位の段丘面を変位させているとの指摘があるが、確証に乏しく、変位の有無については確かな資料がないため判定できない。辰ノ口撓曲部では、撓曲崖のような明確な変位地形が見いだせない(活断層研究会編,1991;中田・今泉編,2002)ことから、第四紀後期の活動性は衰えている可能性もある。

b)先史時代・歴史時代の活動

宇佐美(2003)によると、本断層付近での主な被害地震として、八戸地方で1667年にマグニチュード6.0−6.4の地震が、1769年及び1832年にマグニチュード6.5程度の地震があり、陸奥地方で1854年にマグニチュード6.5程度の地震があった。また、1902年に三戸地方でマグニチュード7.0の地震の記録がある。しかしながら、これらの地震と本断層の活動との関係は不明であり、本断層の活動によるとされる被害地震の記録や地震考古学上の記録はない。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注3)

折爪断層の1回の変位量に関する直接的資料は得られていない。

(4)活動間隔

折爪断層の活動間隔に関する直接的資料は得られていない。 

(5)活動区間

折爪断層の活動区間に関する直接的資料は得られていない。

(6)測地観測結果

折爪断層周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、断層周辺で顕著な歪みは見られない。1994年までの約10年間の測地観測結果では、北東−南西方向の縮みが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、東西方向の縮みが見られる。

Chinzei(1966)は、国土地理院の水準測量から、辰ノ口撓曲が更新世から現在まで活動している可能性を指摘した。浅水川付近の1974年から約20年間の水準測量結果でも、辰ノ口撓曲部付近で東側下がりの高度変化が認められるが、このような水準点が示す短期の変動と本断層との関係は不明である。

(7)地震観測結果

本断層の西方で、1927年5月24日にマグニチュード5.4の浅発地震が発生したが、本断層の活動との関係は不明である。

最近5年間の地震観測結果によれば、本断層付近における地震活動は低調であり、地震発生層の下限の深さは15km程度であると推定される。

2.3 断層の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

折爪断層の将来の活動については不明である。仮に本断層全体が一つの活動区間として活動した場合について試算すると、次の松田(1975)の経験式(1)から、折爪断層(長さ最大47km程度)から発生する地震の規模はマグニチュードが最大で7.6程度となる。

また、このような地震が発生した場合、経験式(2)に基づくと、地表に西側隆起で最大で4m程度の段差や撓みを伴う変位が生ずることになる。

   Log L = 0.6 M − 2.9  (1)
   Log D = 0.6 M − 4.0  (2)

ただし、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。

(2)地震発生の可能性

折爪断層における将来の地震発生については、関係する資料が整っていないため、検討できない。

3.今後に向けて

折爪断層では、将来の活動の可能性を明確にするために必要な第四紀、とくにその後期の活動性に関する資料が十分得られていない。未だ詳しい地形・地質調査が行われていない区間が全体の2/3もあり、資料不足で活断層としての折爪断層の諸特性を検討できる状況にない。当面、基礎的な調査研究を積み重ねて第四紀後期の活動性、さらには平均変位速度や活動履歴などに関する資料を収集する必要がある。とくに、辰ノ口撓曲部では第四紀後期の活動性が衰えている可能性もあるので、そのようなことも考慮に入れた調査を行う必要がある。

注3: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。

文 献

青森県(1997):「平成8年度 地震関係基礎調査交付金 入内断層及び折爪断層に関する調査  成果報告書」.116p.

青森県(1998):「平成9年度 地震関係基礎調査交付金 入内断層及び折爪断層に関する調査  成果報告書」.131p.

鎮西清高(1958):北上山地北端部鮮新統の層序.地質学雑誌,64,526−536.

Chinzei,K.(1966):Younger Tertiary Geology of the Mabechi River Valley,Northeast Honshu Japan.Jour.Fac.Sci.Univ.Tokyo.,sec.II,16,161−208.

活断層研究会編(1980):『日本の活断層−分布図と資料−』.東京大学出版会,363p.

活断層研究会編(1991):『新編日本の活断層−分布図と資料−』.東京大学出版会,437p.

松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について.地震第2輯,28,269−283.

松田時彦(1990):最大地震規模による日本列島の地震分帯図.地震研究所彙報,65,289−319.

宮内崇裕(1985):上北平野の段丘と第四紀地殻変動.地理学評論,58,492−515.

Miyauchi,T.(1987):Quaternary Tectonic Movements of the Kamikita Coastal Plain, Northeast Japan.Geogr.Rev.Japan.Ser.B,60,1−19.

中田 高・今泉俊文編(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会,DVD−ROM2枚・60p.付図1葉.

宇佐美龍夫(2003):「最新版 日本被害地震総覧[416]−2001」.東京大学出版会,605p.

大和伸友(1988):馬淵川下流域の段丘地形.駒沢地理,24,57−76.

大和伸友(1989):五戸川流域の地形面.駒沢大学大学院地理学研究,19,1−18.