平成16年4月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


布引山地東縁断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、50断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、布引山地東縁断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成17年1月12日 経験式を用いた場合のマグニチュードの標記を変更しました。(赤字)


平成16年4月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

布引山地東縁断層帯の評価

布引山地東縁断層帯は、三重県の北部から中部にかけて、布引山地と伊勢湾の間に位置する活断層である。ここでは、平成9−13年度に三重県によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。
 
1.断層帯の位置及び形態

布引山地東縁断層帯は、その分布形態から西部と東部に区分される。

布引山地東縁断層帯西部は、三重県亀山市から久居市を経て一志(いちし)郡嬉野町に至る長さ約33 kmの西側隆起の逆断層である(図1−1、図2及び表1)。

布引山地東縁断層帯東部は、三重県鈴鹿市から、安芸(あげ)郡河芸(かわげ)町、津市、松阪(まつさか)市などを経て多気(たき)郡勢和(せいわ)村に至る長さ約48 kmの西側隆起の逆断層である(図1−1、図2及び表3)。
 
2.断層帯の過去の活動

(1)布引山地東縁断層帯西部

布引山地東縁断層帯西部の最新活動時期は約2万8千年前以後、約4百年前以前で、約5万年前以後に3回の活動があった可能性があるが、その詳細な活動時期は不明である。また、平均的な活動間隔は平均的なずれの速度と1回のずれの量から1万7千年程度の可能性がある(表1)。

(2)布引山地東縁断層帯東部

布引山地東縁断層帯東部の最新活動時期は約1万1千年前頃であったと推定される。また、平均的な活動間隔は2万5千年程度の可能性がある(表3)。

3.断層帯の将来の活動

(1)布引山地東縁断層帯西部

布引山地東縁断層帯西部は全体が1つの区間として活動すると推定され、マグニチュード7.4程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の西側が東側に対して2−3 m程度高まる段差が生じる可能性がある(表1)。布引山地東縁断層帯西部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、布引山地東縁断層帯西部は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる(注1、2)。

(2)布引山地東縁断層帯東部

布引山地東縁断層帯東部は全体が1つの区間として活動すると推定され、マグニチュード7.6程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の西側が東側に対して2.5 m程度高まる段差が生じる可能性がある(表3)。布引山地東縁断層帯東部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表4に示すとおりである。

4.今後に向けて

布引山地東縁断層帯のうち、布引山地東縁断層帯西部に関しては、過去の活動の詳しい時期や活動間隔に関する詳細な資料が得られていない。また、布引山地東縁断層帯東部についても、過去の詳しい活動時期に関する資料が得られていない。このため、布引山地東縁断層帯については、過去の活動をより一層明らかにする必要がある。

さらに、布引山地東縁断層帯西部の北方延長線上には鈴鹿東縁断層帯が、布引山地東縁断層帯東部の北方延長線上には養老−桑名−四日市断層帯がそれぞれ位置している(図1−2)。このため、布引山地東縁断層帯と両断層帯の関係も含め活動区間等について調査することが重要である。

表1 布引山地東縁断層帯西部の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 断層帯を
  構成する
  断層
白木(しらき)断層、明星ヶ岳断層、椋
本(むくもと)断層、一志(いちし)断
層、庄田断層、安濃(あのう)撓曲、風
早池断層、小山(おやま)断層など
  文献1、4、10、11による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状等
地表における断層帯の位置・形状
 断層の位置
 (北端)北緯34°55′東経136°25′
 (南端)北緯34°37′東経136°27′
 長さ     約33 km







文献1、4、10、11に
よる。位置及び長さは
図2から計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
            地表での長さ・位置と同じ

 上端の深さ  0 km
 一般走向   N10°W


 傾斜     50−60° 西傾斜
       (深さ800 m以浅)

 幅      20 km程度













上端の深さが0km
であることから推定。


一般走向は、断層帯の
両端を直線で結んだ方
向(図2を参照)。
傾斜は、反射法弾性波
探査結果(文献5)な
どから推定。
地震発生層の下限の深
さが15kmであるこ
とから推定。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
西側隆起の逆断層  

文献5などによる。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
0.15m/千年程度(上下成分)


文献5、6、7による。
  (2) 過去の活動時期 活動1(最新活動時期)
 約2万8千年前以後、約4百年前以前

上記の最新活動を含め約5万年前以後に
3回の活動があった可能性があるが、い
ずれも詳細な活動時期は不明である。



文献6による。説明文
2.1.2参照。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量:2−3m程度
         (上下成分)
平均活動間隔  1万7千年程度



説明文2.1.2参照。

説明文2.1.2参照。
  (4) 過去の活動区間 断層帯全体で1区間
断層の地表形態から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間   断層帯全体で1区間
地震の規模  マグニチュード7.4程度
ずれの量   2−3m程度
        (上下成分)



断層の地表形態から推定。
断層の長さから推定。
過去の活動及び長さから
推定。

表2 布引山地東縁断層帯西部の将来の地震発生確率等

項  目   将来の地震発生確率等  
(注5)
 信頼度 
(注6)
備  考

地震後経過率 (注7)

今後 30 年以内の地震発生確率
今後 50 年以内の地震発生確率
今後 100 年以内の地震発生確率
今後 300 年以内の地震発生確率

集積確率(注8)


0.02−1.6

ほぼ0%−1%
ほぼ0%−2%
ほぼ0%−4%
ほぼ0%−10%

ほぼ0%−90%より大
発生確率及び集積確率
は文献2による。

表3 布引山地東縁断層帯東部の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 断層帯を
  構成する
  断層
千里(ちさと)断層、高茶屋(たかぢゃや)
断層、鳥戸(とりど)断層、山口断層、
六呂木(ろくろぎ)断層、片野断層など
  文献1、3、10、11による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状等
地表における断層帯の位置・形状
 断層の位置
 (北端)北緯34°52′東経136°37′
 (南端)北緯34°27′東経136°28′
 長さ     約48km







文献1、3、10、11
による。
位置及び長さは図2から
計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
       地表での長さ・位置と同じ

 上端の深さ  0 km
 一般走向   N20°E

 傾斜     45°程度 西傾斜
       (地表付近)

 幅      不明









上端の深さが0kmで
あることから推定。

一般走向は、断層帯
の両端を直線で結ん
だ方向(図2を参照)。
傾斜は、ボーリング
結果や断層露頭など
(文献8など)から
推定。
地震発生層の下限の
深さは20km。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
西側隆起の逆断層  

文献7などによる。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
0.1m/千年程度(上下成分)


文献7による。
  (2) 過去の活動時期 活動1(最新活動)
   約1万1千年前頃



文献8、9による。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量: 2.5m程度
        (上下成分)

平均活動間隔   2万5千年程度




1回のずれの量は、過去
の活動(文献8、9)から
推定。
平均活動間隔は1回
のずれの量と平均的
なずれの速度から推定。
  (4) 過去の活動区間 断層帯全体で1区間
断層の地表形態から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間   断層帯全体で1区間
地震の規模  マグニチュード7.6程度
ずれの量   2.5m程度
        (上下成分)



断層の地表形態から推定。
断層の長さから推定。
過去の活動(文献8、9)
による。

表4 布引山地東縁断層帯東部の将来の地震発生確率等

項  目   将来の地震発生確率等  
(注5)
 信頼度 
(注6)
備  考

地震後経過率 (注7)

今後 30 年以内の地震発生確率
今後 50 年以内の地震発生確率
今後 100 年以内の地震発生確率
今後 300 年以内の地震発生確率

集積確率(注8)


0.4

0.001%
0.002%
0.005%
0.02%

0.03%
発生確率及び集積確率
は文献2による。

注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
     98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1 %未満
     98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1 %以上−3%未満
     98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3 %以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3 %未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率 (うち、1995年兵庫県南部地震と1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。
地震名 地震を引き起こした活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
野島断層
(兵庫県)
0.4%−8% 2%−80% 約1.8−約3.0
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−10% ほぼ0%−
90%より大
約1.9−約3.3
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が1万年の場合は30年確率の最大値は3 %程度、3万年の場合は1 %程度である。。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
    文献1:池田ほか編(2002)
    文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001b)
    文献3:海上保安庁(1995)
    文献4:活断層研究会編(1991)
    文献5:三重県(1998)
    文献6:三重県(1999)
    文献7:三重県(2000)
    文献8:三重県(2001)
    文献9:三重県(2002)
    文献10:中田・今泉編(2002)
    文献11:岡田・東郷編(2000)
注5: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0 %」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
   a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価(断層帯東部の場合)の数字で、0.4は1万1千年を2万5千年で割った値
注8: 回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1. 布引山地東縁断層帯に関するこれまでの主な調査研究

本断層帯は、布引山地東縁の急崖地形を成し、中古生界や花崗岩、中新統の鈴鹿層群、一志(いちし)層群と鮮新−更新統の東海層群との地形境界を成す一志断層系として、瀧本(1935)が記載した断層にほぼ一致する(宮村ほか,1981)。瀧本(1935)によれば、一志層群の急傾斜は断層近傍で40度以上に達し、東海層群も断層に近づくにつれて傾斜を増大させるとしている。一志断層系や東海層群の層序や構造に関する研究はその後も多数あり、一志断層系が主に東に衝上(しょうじょう)する30−50度西傾斜した逆断層であること、その変位が一部では高位段丘や中位段丘にまで及んでいることが指摘されている(恒石, 1970;木村, 1962, 1971など)。

森・山田(1977)は、本断層帯において変動地形的な研究を行い段丘面の変位について明らかにした。太田・寒川(1984)は、本断層帯最北部の白木(しらき)・椋本(むくもと)断層に関して、低角逆断層であり、中位段丘面までを変位させていることを指摘する一方で、布引山麓の断層には第四紀中期以後の活動はないとした。また、八木・寒川(1980)は、庄田断層や風早池断層の断層活動を変位量の観点から報告した。

三重県(1998, 1999, 2000, 2001, 2002)は、反射法地震探査やトレンチ調査等を実施し、本断層帯の構造や活動性についての総合的な検討を試み報告した。また、海上保安庁(1995)は、伊勢湾において音波調査を行い、津市東方沖に撓曲構造の存在を示した。

なお、本断層帯付近の活断層の位置は、活断層研究会編(1991)、海上保安庁(1995)、岡田・東郷編(2000)、池田ほか編(2002)及び中田・今泉編(2002)などに示されている。

2.布引山地東縁断層帯の評価結果

布引山地東縁断層帯は、三重県の北部から中部にほぼ南北に位置する断層帯である。

本断層帯は、松田ほか(2000)に示されているように、従来、北部(明星ヶ岳断層から庄田断層の(狭義の)「布引山地東縁断層帯」)と南部(高茶屋断層から片野断層の「松阪(まつさか)断層帯」)の2つの起震断層から成るとされてきた。三重県(1998, 1999, 2000, 2001, 2002)もこれに準じ、北部と南部と定義している。しかしながら、最近、高茶屋断層の北延長にも鈴鹿市南部付近に分布する千里(ちさと)断層まで、津市北部の短い断層や津市東方沖の撓曲の存在が指摘されており(中田・今泉編, 2002; 海上保安庁, 1995)、断層構造が5 km以内の距離で断続的に続いている。このように、本断層帯では、南部の北延長が北部の東に位置し、断層帯全体の幅が5kmを大きく超えることから、松田(1990)の定義に基づき従前の北部を「布引山地東縁断層帯西部」、従前の南部とその北延長部分を「布引山地東縁断層帯東部」と区分することとする。なお、風早池断層と小山(おやま)断層は、分布位置が断層帯西部に近いことから、本評価では断層帯西部に属するものとして扱うこととした。

なお、布引山地東縁断層帯西部の北方延長には鈴鹿東縁断層帯が、布引山地東縁断層帯東部の北方延長には養老−桑名−四日市断層帯が比較的近接して分布するが(図1−2)、これについては別途取り扱って評価している(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2000,2001a)。布引山地東縁断層帯東部の活動度(注9)はB級に相当するが、養老−桑名−四日市断層帯の活動度はA級に相当し大幅な相違がある。



2.1 布引山地東縁断層帯西部

2.1.1 断層帯の位置及び形

(1) 構成する断層

布引山地東縁断層帯西部(以下、断層帯西部と記す)は、三重県北部に位置する白木(しらき)断層、椋本(むくもと)断層、一志(いちし)断層、明星ヶ岳断層、庄田断層、安濃(あのう)撓曲、風早池断層、小山(おやま)断層などからなる。これらの位置及び名称は、活断層研究会編(1991)、岡田・東郷編(2000)、池田ほか編(2002)及び中田・今泉編(2002)によった。
 
(2)断層帯の位置・形状

断層帯西部は、三重県亀山市から安芸(あげ)郡芸濃(げいのう)町及び久居(ひさい)市を経て三重県一志(いちし)郡嬉野町に至るほぼ南北走向の断層帯である。断層帯西部の長さ及び一般走向は、図2に示された断層帯西部の両端を結ぶとそれぞれ約33 km、N10°Wであり、前述した構成断層が、並走ないしは雁行しながら断続的に分布している。

断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。

断層露頭やトレンチ壁面に認められる断層の傾斜及び三重県(1998)が実施した反射法地震探査の結果(図3)などから、断層面の傾斜は深さ800 m以浅では50−60°の西傾斜と推定される。ただし、椋本断層の一部には副次的な逆向きの断層も認められる(太田・寒川,1984;三重県,1998など)。
地震発生層の下限の深さが約15 kmと推定されること(後述)から、断層面の傾斜が地下深部でも地表付近と同様であるとすれば、断層面の幅は20 km程度の可能性がある。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)
(注10)

断層帯西部は、反射法地震探査結果及び断層変位地形(三重県,1998など)などから、西側隆起の逆断層と考えられる。

2.1.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

断層帯西部の平均変位速度については、構成する断層のいくつかについて、三重県(1998, 1999, 2000)や太田・寒川(1984)等により調査がなされている。なお、以下に示した段丘面等の年代は、三重県(1998)に示されている地形分類によった。
 
a)白木地区
三重県(1998, 1999)は、亀山市白木地区(白木断層付近)で15万年前のH1面に13.2 m、12万年前のH2面に11 m、8万年前のM1面に5m及び3.3 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.04−0.09 m/千年と求めている。また、太田・寒川(1984)は、H2面を15万年前とし10 mの変位があるとし、平均上下変位速度を0.07 m/千年としている。
 
b)椋本地区
三重県(1999)は、安芸郡芸濃町椋本地区(椋本断層付近)で15万年前のH1面に5.2−11.8 m、8万年前のM1面に0.6−3.5 m、5万年前のM2面に6.3−8.2 m、沖積面に0.7 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.01−0.16 m/千年と求めている。また、太田・寒川(1984)は5−8万年前のM2面に7.4 mの変位が認められるとし、平均上下変位速度を0.1 m/千年としている。
 
c)庄田地区

三重県(1999)は、久居市庄田地区(庄田断層付近)で15万年前のH1面に9.5 m、8万年前のM1面に4.6−4.8 m、5万年前のM2面に5.1 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.04−0.1 m/千年と求めている。また、森・山田(1977)は10万年前の高位I面に15 mの変位が、岡田・東郷編(2000)は10万年前の諸戸山(もろとやま)面に11 mの変位が認められるとし、ともに平均上下変位速度を約0.1 m/千年としている。
 
d)風早池地区

三重県(1999)は、久居市風早池地区(風早池断層付近)で12万年前のH2面に9.8−10.2 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.08−0.09 m/千年と求めている。なお、八木・寒川(1980)は10万年前の諸戸山面に11 mの変位が認められるとしている。
 
e)小山地区

三重県(2000)は、一志郡一志町小山地区(小山断層付近)で15万年前のH1面に5−6.8 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.03−0.05 m/千年と求めている。
 
以上のように、各断層で得られた平均変位速度の値は、概して低位面の変位から求めた値が大きくなっているものの、示された多くの値は0.1 m/千年前後である。ここでは、断層帯西部中央部付近の椋本断層でのM2面の変位から得られた値(0.13−0.16 m/千年)を断層帯西部の平均変位速度とみなすこととする。したがって、断層帯西部の平均変位速度は0.15 m/千年程度の可能性がある。

(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動

a)椋本断層椋本地点

三重県(1999)は、三重県安芸郡芸濃町椋本地点でトレンチ調査及びボーリング調査を実施した。ここでは、主断層でTM1トレンチを、西に並走する副断層でTM2トレンチ及びTM3トレンチ(図4、図5)を掘削している。

三重県(1999)は、TM1トレンチでは、M面構成層(約5万年前)に断層変位が認められることから、これが断層帯西部の最新活動によるものとしている。また、TM2トレンチで約3万3千年前の14C年代値(注11)を示す層が変位し、13世紀の 14C年代値を示す層に覆われるとし、さらにTM3トレンチでも、姶良Tn火山灰層(注12;約2万8千年前)上位のTS層堆積後に断層変位が認められるとしている。したがって、断層帯西部では約2万8千年前以後、13世紀以前に活動があった可能性があるが、最新活動の詳細な時期について言及することはできない。

また、三重県(1999)は、TM2トレンチ、TM3トレンチにおいて、M面を構成する堆積層の層厚の変化から、1つ前及び2つ前の活動の可能性を指摘しているが、その明確な年代は示していない。
 
○先史時代・歴史時代の活動

断層帯西部周辺では、小山断層南端付近の縄文時代後期の遺跡(天白(てんぱく)遺跡、嬉野町釜生田(かもだ);下沖遺跡、嬉野町宮野)において噴砂の痕跡が確認されている(三重県,2000)が、いずれも断層帯西部との関係は不明である。

また、17世紀初頭以後に断層帯西部付近に被害をもたらした陸域を震源とする地震は知られておらず(宇佐美, 2003)、断層帯西部は最近約400年間活動していないと考えられる。

以上のことから、断層帯西部の最新活動は、椋本断層の副断層でのトレンチ調査結果などから約2万8千年前以後、約4百年前以前の可能性があるが、その詳細な活動時期については不明である。また、後述する1回の変位量の検討から、主断層の活断層も副断層と同様、M2面形成(約5万年前)以後に3回の活動があった可能性があるが、その詳細な活動時期は不明である。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

断層帯西部の1回の変位量に関する直接的な資料は得られていない。

椋本地点の副断層は、M2面形成(約5万年前)以後3回活動した可能性があることから、仮に主断層も同じ回数活動しているとすると、この付近のM2面が6.3−8.2 mの変位を示すことから、1回の変位量は2.1−2.7 mと求められる。

一方、断層帯西部では、断層の長さが約33 kmであることから、松田(1975)の経験式を用いると1回の変位量は2.6 mと求められる。ここで、Lは断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      Log L = 0.6M − 2.9    (1)
      Log D = 0.6M − 4.0    (2)

以上のように、M2面の変位量から得られた値と経験式で得られた値が調和的であることから、主断層の活動はM2面形成以後3回であった可能性があり、断層帯西部の1回の変位量は2−3m程度であった可能性がある。

(4)活動間隔


断層帯西部の活動間隔は、前述のように椋本地点においてM2面形成(約5万年前)以後に3回の活動があった可能性があることから、1万7千年程度の可能性がある。

(5)活動区間

断層帯西部はほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

断層帯西部周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、ほぼ東西方向の縮みが見られる。また、1985年から約10年間の測地観測結果では、顕著な歪みは見られない。最近5年間のGPS観測結果でも、顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

断層帯西部周辺における最近5年間の地震活動から、地震発生層の下限の深さは15 km程度である。

2.1.3 断層帯の将来の活動

(1)将来の活動区間及び地震の規模

断層帯西部が1つの区間として活動する場合、断層の長さ(約33 km)から経験式(前述)を用いると、マグニチュード7.4程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の西側が東側に対して2−3m程度高まる段差が生じる可能性がある(表1)。

(2)地震発生の可能性

断層帯西部では、平均活動間隔が1万7千年程度、最新活動時期が約2万8千年前以後、約4百年前以前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.02−1.6となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれほぼ0%−1%、ほぼ0%−2%、ほぼ0%−4%、ほぼ0%−10%となる。また、現在までの集積確率は、ほぼ0%から90%より大となる。表5にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、布引山地東縁断層帯西部は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。
 
2. 2 布引山地東縁断層帯東部

2.2.1 断層帯の位置及び形態

(1)構成する断層

布引山地東縁断層帯東部(以下、断層帯東部と記す)は、千里(ちさと)断層、高茶屋(たかぢゃや)断層、鳥戸(とりど)断層、山口断層、六呂木(ろくろぎ)断層、片野断層などから構成される。断層帯東部を構成する断層の位置及び名称は、海上保安庁(1995)、岡田・東郷編(2000)、池田ほか編(2002)及び中田・今泉編(2002)によった。
 
(2)断層帯の位置・形状


断層帯東部の長さ及び一般走向は、図2に示された断層帯東部の北端と南端を結ぶとそれぞれ約48 km、N20°Eである。前述したように、断層帯東部の北半部では、いくつもの長さの短い断層が5km以内の距離で断続的に続いている。また、同南半部では、断層の位置は各資料でほぼ一致し、ゆるやかに湾曲した形状で分布する。

断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0 kmとした。

断層面の傾斜は、南半部で三重県(2001)が実施したボーリング結果や、断層露頭及びトレンチ壁面に認められる断層の傾斜などから、地表付近で45°程度の西傾斜と推定される。

断層帯東部付近の断層面の下端の深さは、地震発生層の下限の深さは約20 kmと推定されること(後述)から、20 km程度と推定されるが、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

断層帯東部は、反射法地震探査結果(三重県,2001)及び断層変位地形などから、西側隆起の逆断層と考えられる。


2.2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

断層帯東部の平均変位速度については、南半部の鳥戸断層以南について、三重県(2000)等により調査がなされている。

なお、以下に示した段丘面等の年代は2.1.2.(1)参照。
 
a)岩内地区・鳥戸地区

三重県(2000)は、鳥戸断層付近の松阪市岩内地区で12万年前のH2面に8.9 m、同市岩内地区や笹川地区で5−8万年前のM面に2−3.8 m、同市鳥戸地区で2−3万年前のL面に2.8 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.03−0.14 m/千年と求めている。また、活断層研究会編(1991)は、20万年前の高位段丘に13 mの上下変位が認められるとし、平均上下変位速度を0.06 m/千年としている。一方、鈴木・廣内(1999)は、15万年前のH面に10−13 m、5−8万年前のM2面に7 m、1.5万年前のL2面に2−5mの上下変位が認められるとし、平均上下変位速度を0.09−0.3 m/千年としているが、その最大値は他の報告よりやや大きい値である。
 
b)山口地区

三重県(2000)は、松阪市山口地区(山口断層付近)で5−8万年前のM面に2.3 m、2−3万年前のL面に2.1 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.03−0.11 m/千年と求めている。また、岡田・東郷編(2000)は、2万年前のL1面に3 mの変位が認められるとし、平均上下変位速度を0.15 m/千年と求めている。
  
c)六呂木地区

三重県(2000)は、松阪市六呂木地区(六呂木断層付近)で2−3万年前のL面に1.4 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.05−0.07 m/千年と求めている。
 
d)片野地区

三重県(2000)は、片野断層付近の多気郡勢和村片野地区で12万年前のH2面に5.1−8.4 m、1.5万年前のL3面に0.7 mの上下変位が、松阪市小片野(おかたの)地区で2−3万年前のL面に2.0−3.6 mの上下変位が認められることから、平均上下変位速度を0.04−0.14 m/千年と求めている。
 
以上のように、調査地点が断層帯の南半部に限られてはいるが、示された多くの値は0.1 m/千年程度であることから、この値を断層帯東部の平均変位速度とみなすこととする。したがって、断層帯東部の平均変位速度は0.1 m/千年程度の可能性がある。   
 
(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動

a)鳥戸断層小阿坂(こあざか)地点

三重県(2001)は、松阪市小阿坂町地点でトレンチ調査(T1トレンチ)及びボーリング調査を実施した。ここでは、約1万4千年前の14C年代値を示すB7層が断層で変位し、B2層以上に覆われるとし、その上位のA2層下部から12−13世紀の14C年代値が得られていることから、約1万4千年前以後、12−13世紀以前に最新活動があったとしている。
 
b)山口断層西野地点

三重県(2001)は、松阪市西野地点でトレンチ調査(T2トレンチ)及びボーリング調査を実施した。ここでは、トレンチ壁面に断層は確認されなかったが、ボーリング調査の結果と総合して、B8層に断層変位が認められないことから、B8層から得られた14C年代値により7−9世紀以後活動がなかったとしている。
 
c)山口断層笹川地点

三重県(2001)は、松阪市西野地点の約200 m南方の同市笹川地点での露頭剥ぎ調査とボーリング調査を再解析(図6)し、断層が約1万1千年前の14C年代値を示すA層の土壌を切り、約1万1千年前の14C年代値を示すB層に覆われるとして、約1万1千年前に最新活動があったとしている。しかしながら、B層と断層で切られているA層が同程度に傾斜していることを考慮すると、B層が断層を覆うという三重県(2001)の解釈は根拠に乏しく採用できないことから、本地点のデータからは約1万1千年前以後に活動があったとしか言えない。
 
d)片野断層中出地点

三重県(2001, 2002)は、松阪市小片野町(おかたの)中出地点でトレンチ調査(T3.1、T3.2、T3.3トレンチ:図7)及びボーリング調査を、松阪市小片野町奥出地点でボーリング調査を実施した。ここでは、B層が変形しA層に覆われることから、T3.3トレンチのB5層から得られた14C年代値(約1万3千年前)とT3.2トレンチのA3層から得られた14C年代値(約1万1千年前)より、約1万1千−1万3千年前に最新活動があるとしている。さらに、B層が断層の沈降側にのみに分布し、B層下位のC層(L2面構成層)が隆起側に分布することから、L2面形成後、B層堆積前に断層変位により崖が形成されたとして約1万1千−2万年前に1つ前の活動があったとしている。しかしながら、C層とB層の変形の度合いに差がないことから、1つ前の活動に言及するには根拠に乏しく採用できない。
 
○先史時代・歴史時代の活動

断層帯東部付近では被害地震の記録は知られていない。なお、断層帯東部周辺では、津市内の断層の西側の縄文時代後期の遺跡(蔵田遺跡,津市納所(のうそ)町)及び高茶屋断層のごく近傍に位置する6世紀から中世の遺跡(小野江甚目(おのえはだめ)遺跡,三雲町小野江)において噴砂の痕跡が確認されているが(三重県,2000)、いずれも断層帯東部との関係は不明である。なお、宇佐美(2003)などによると、1498年の東南海地震による被害として、「伊勢国の安濃津(あのつ)を破壊させた」との記録がある。

以上のことから、断層帯東部の最新活動は、笹川地点及び中出地点の調査結果から約1万1千年前頃であったと推定される。ただし、それ以前の活動については、活動時期を限定できる信頼度の高い資料が得られていない。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

三重県(2002)は、松阪市小片野町中出地点のL2面構成層の上下変位量2.6 mを2回の活動によるとし、これより1回の変位量を約1.3 mとしている。しかしながら、同地点のL2面構成層の変位量から複数回の活動を読み取ることは、前述のトレンチ(図7)においてB層とC層の変形構造に不連続が見られないことから根拠にとぼしく、1回の活動分の変位量しか見出しがたい。よって、1回の変位量は、三重県が中出地点で行ったボーリング結果による変位量2.3 mと上述のL2面構成層の上下変位量2.6 mから、2.3−2.6 mと求められる。したがって、断層帯東部の1回の変位量は、2.5 m程度であった可能性がある。

なお、断層帯東部の長さが約48 kmであることから、前述の経験式(1)、(2)を用いると1回のずれの量は約3.8 mと求められる。中出地点が断層帯東部の南端付近に位置すること考慮すれば、ボーリング結果等から得られた1回の変位量は経験式による値と概ね調和的である。
 
(4)活動間隔

断層帯東部の活動間隔に関する直接的な資料は得られていないが、前述の1回のずれの量(2.5 m程度)と平均変位速度0.1 m/千年程度より求めれば、平均活動間隔は2万5千年程度である可能性がある。

(5)活動区間

断層帯東部はほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

 2.1.2(6)を参照。

(7)地震観測結果

断層帯東部周辺における最近5年間の地震活動から、地震発生層の下限の深さは20 km程度である。

2.2.3 断層帯の将来の活動

(1)将来の活動区間及び地震の規模

断層帯東部が1つの区間として活動する場合、断層帯の長さ(約48 km)から経験式(前述)を用いると、マグニチュード7.6程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の西側が東側に対して2.5 m程度高まる段差が生じる可能性がある(表3)。

(2)地震発生の可能性

断層帯東部では、平均活動間隔が2万5千年程度、最新活動時期が約1万1千年前頃と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.4となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ0.001%、0.002%、0.005 %、0.02%となる。また、現在までの集積確率は、0.03%となる。表6にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

3.今後に向けて

布引山地東縁断層帯のうち、布引山地東縁断層帯西部に関しては、過去の活動の詳しい時期や活動間隔に関する詳細な資料が得られていない。また、布引山地東縁断層帯東部についても、過去の詳しい活動時期に関する資料が得られていない。このため、布引山地東縁断層帯については、過去の活動をより一層明らかにする必要がある。

さらに、布引山地東縁断層帯西部の北方延長線上には鈴鹿東縁断層帯が、布引山地東縁断層帯東部の北方延長線上には養老−桑名−四日市断層帯がそれぞれ位置している。このため、布引山地東縁断層帯と両断層帯の関係も含め活動区間等について調査することが重要である。

注9: 活断層の活動の活発さの程度を活動度(松田, 1975)と呼ぶ。
・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。
注10: 「変位」を、1−2頁の本文、5−7頁の表1及び表3では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1及び表3の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値は世紀単位で示し四捨五入して百年単位で示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して千年単位で示した。
注12: 姶良Tn(AT)火山灰層の降下年代値については、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。

文 献

荒木慶雄(1953):三重県安濃川流域の新生界.三重大学学芸学部研究紀要,10,63−68.

Araki,Y.(1960):Geology, paleontology and sedimentary structures(including problematica)of the Tertiary formations developed in the environs of Tsu City,Mie Prefecture,Japan.Bull.Liberal Arts Dept.Mie Univ.,Spec.1.1−118.

二村光一(1982):鈴鹿山脈の形成機構.地団研専報,24,215−227.

池田安隆・今泉俊文・東郷正美・平川一臣・宮内崇裕・佐藤比呂志編(2002):『第四紀逆断層アトラス』.東京大学出版会,254p.

地震調査研究推進本部(1997):「地震に関する基盤的調査観測計画」.38p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2000):「鈴鹿東縁断層帯の評価」.11p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001a):「養老―桑名―四日市断層帯の評価」. 27p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001b):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(1999):「(改訂試案)長期的な地震発生確率の評価手法について」.74p.

海上保安庁(1995): 1:100000海底地質構造図「伊勢湾」,海上保安庁水路部.   

活断層研究会編(1980):『日本の活断層−分布図と資料』.東京大学出版会,363p.

活断層研究会編(1991):『新編日本の活断層−分布図と資料』.東京大学出版会,437p.

木村一朗(1959):三重県津市北西方の第三紀層について.愛知学芸大学研究報告,8,47−54.

木村一朗(1961):三重県津市南方の新生界の層序.愛知学芸大学研究報告,10,117−125.

木村一朗(1962):三重県津市周辺の段丘面と第四系.愛知学芸大研究報告,11,91−98.

木村一朗(1971):伊勢湾西岸地域の中位段丘.『竹原平一教授記念論文集』,1−12.

Kitagawa, H. and van der Plicht, J.(1998): Atmospheric radiocarbon calibration to 45,000 yrB.P.:Late Glacial fluctuations and cosmogenic isotope production. Science, 279, 1187−1190.

小池一之・町田 洋編(2001):「日本の海成段丘アトラス」.東京大学出版会,CD−ROM2枚・122p.+付図2葉.

町田 洋・新井房夫(2003):新編 火山灰アトラス−日本列島とその周辺. 東京大学出版会,336p.

松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について.地震第2輯,28,269−283.

松田時彦(1990):最大地震規模による日本列島の地震分帯図.地震研究所彙報,65,289−319.

松田時彦・塚崎朋美・萩谷まり(2000):日本陸域の主な起震断層と地震の表−断層と地震の地方別分布−.活断層研究,19,33−54.

三重県(1998):「平成9年度地震関係基礎調査交付金 布引山地東縁断層帯に関する調査」.成果報告書, 1−1−1−3−4−1.

三重県(1999):「平成10年度地震関係基礎調査交付金 布引山地東縁断層帯に関する調査」.成果報告書, 1−1−1−3−3−1.

三重県(2000):「平成11年度地震関係基礎調査交付金 布引山地東縁断層帯に関する調査」.成果報告書, T−1−V−6.

三重県(2001):「平成12年度地震関係基礎調査交付金 布引山地東縁断層帯に関する調査」.成果報告書, T−1−1−V−3−1.

三重県(2002):「平成13年度地震関係基礎調査交付金 布引山地東縁断層帯に関する調査」.成果報告書,T−1−1−V−2−1.

森 一郎・山田 純(1977):一志断層系による段丘変位(予報).三重大教育学部研究紀要,1,27−33.

森 一郎・木村一朗・山田 純・竹原平一(1977):内陸盆地としての伊勢湾西岸地域.地質学論集,14,185−194.

中田 高・今泉俊文編(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会.DVD−ROM2枚・付図1葉・60p.

日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996):「第四紀露頭集−日本のテフラ」.日本第四紀学会,352p.

Niklaus, T. R.(1991):CalibETH version 1.5. ETH Zurich, 2disketts and manual, 151p.

岡田篤正・東郷正美編(2000):『近畿の活断層』.東京大学出版会,408p.

太田陽子・寒川 旭(1984):鈴鹿山脈東麓地域の変位地形と第四紀地殻変動.地理学評論,57,237−262.

柴田 博(1967):三重県中部の中新統一志層群.地質学雑誌,73,337−346.

鈴木康弘・廣内大助(1999):伊勢平野西縁の活断層と活動度−平均変位速度分布から見た活断層のセグメンテーション評価について(予察)−.日本地震学会講演予稿集,2,123−123.

瀧本 清(1935):三重県一志郡地方の新生界.地球,23,326−338.

恒石幸正(1970):三重県松阪およびその周辺地域の地質構造.地震研彙報,48,645−667.

宇佐美龍夫(2003):「最新版 日本被害地震総覧[416]−2001」.東京大学出版会,605p.

八木浩司・寒川 旭(1980):津市西方における一志断層系の新期断層活動.東北地理,32,211−216.

山田 純(1953):南勢の新生界.三重大学学芸学部研究紀要,10,69−71.

山田 純(1958):三重県雲出川南縁の一志層群について.『藤本治義記念論文集』,277−281.

吉田史郎(1983):三重県四日市市周辺の扇状地・段丘−とくに中位段丘(御館・坂部段丘)の形成時期について−.地質調査所月報,34,497−511.

和田幸雄(1982):三重県亀山市周辺の奄芸層群.地質学雑誌,88,121−139.

表5 布引山地東縁断層帯西部の将来の地震発生確率及び参考指標

項  目                         数  値                  備   考

地震後経過率

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率

0.02−1.6

ほぼ0%−1%
ほぼ0%−2%
ほぼ0%−4%
ほぼ0%−10%

ほぼ0%−90%より大


発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001)参照。
指標(1) 経過年数
      比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
マイナス1万1千−1万6千年
0.03−2
ほぼ0−7
ほぼ0%−90%より大
ほぼ0−0.8
0.00006

地震調査研究推進本部地
震調査委員会長期評価部
会 (1999) 参照。

表6 布引山地東縁断層帯東部の将来の地震発生確率及び参考指標

項  目                         数  値                  備   考

地震後経過率

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率

0.4

0.001%
0.002%
0.005%
0.02%

0.03%


発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001)参照。
指標(1) 経過年数
      比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
マイナス6千5百年
0.6
0.01
0.03%
0.001
0.00004

地震調査研究推進本部地
震調査委員会長期評価部
会 (1999) 参照。

注13: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。マイナスの値は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。
布引山地東縁断層帯東部の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険率は、2万5千分の1(0.00004)であり、いつの時点でも一定である。
布引山地東縁断層帯東部の場合、BPT分布モデルを適応した場合の危険率は、評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適応した場合の危険率がポアソン過程を適応した場合の危険率に達するには今後6千5百年を要する。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高
く (◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く (△)、これらにより
求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く (△)、これらにより求められた発
生確率等の値は信頼性がやや低い。

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く (▲)、発
生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性
が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の
確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。