平成14年9月11日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

櫛形山脈断層帯の長期評価について


 地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに、陸域の活断層として、21地域23断層帯の長期評価を行い、公表した。

 今回、引き続き、陸域の活断層である櫛形山脈断層帯について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、別添のとおりとりまとめた。

 なお、今回の評価は、現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが、データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから、評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり、防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。


(別添)

平成14年9月11日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

櫛形山脈断層帯の評価

 櫛形山脈(くしがたさんみゃく)断層帯は、越後平野の東縁に位置する活断層帯である。ここでは、平成10−12年度に新潟県によって行われた調査をはじめ、これまで行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1 断層帯の位置及び形態 

 櫛形山脈断層帯は、新潟県の岩船郡荒川町から北蒲原郡加治川村にかけて、概ね北北東−南南西方向に延びている。全体として約16kmの長さを有する。ただし、これは、両端の位置が不確かであるので、暫定値である。本断層帯は西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層である。本断層帯は加治川断層、櫛形山地西方断層などから構成されている(図1、2及び表1)。

2 断層帯の過去の活動

 櫛形山脈断層帯は、0.2−0.4m/千年程度の平均的な上下方向のずれの速度を有している可能性がある。本断層帯の最新の活動は約6千6百年前以後、3百年前程度以前にあったと推定される。

本断層帯は過去の活動が十分に明らかではないが、平均的な活動間隔は3千年−1万8千年程度であった可能性がある(表1)。ただし、この値は一部経験則から求めた数値をもとに算出したもので、信頼度が低い。

3 断層帯の将来の活動

櫛形山脈断層帯では、本断層帯が活動した場合、マグニチュード6.8−7.5程度の地震が発生し、活動する範囲は、本断層帯の延長部や月岡断層帯にも及ぶ可能性がある。その時、断層の近傍の地表面では、西側が東側に対して相対的に1m−3.5m程度高まる段差や撓(たわ)みが生ずる可能性がある(表1)。過去の活動が十分に明らかではないため信頼度は低いが、本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は、表2に示すとおりである(注1)。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の活断層の中では高いグループに属することになる(注1、2)。 

ただし、本断層帯は活断層帯としての全体像が十分に把握されていない側面があるため、今後の調査結果によっては、断層帯の将来の活動に関する見積もりが大きく変わる可能性がある。

4 今後に向けて

櫛形山脈断層帯の将来の活動性を明確にするためには、構成する断層の性状をさらに精査して最新の活動時期、1回の活動におけるずれの量を精度良く求めるとともに、活動間隔を明確にする必要がある。また、本断層帯の南方に位置する月岡断層帯との連続性・連動性についても検討する必要がある。

表1 櫛形山脈断層帯の特性

表2 将来の地震発生確率等

評価時点はすべて2002年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。その最大値は、平均活動間隔が3千年で最新の活動が6千6百年前の場合で、その時の地震の規模はマグニチュード6.8程度である。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は「非常に低い」(▲)ことに留意されたい。
** 今後30年以内の地震発生確率が3%以上となる場合の地震の規模はマグニチュード7.2程度以下である。マグニチュード7.5程度の場合、今後30年以内の地震発生確率は0.5%未満である。

注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
 98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
 8断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定.確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用.)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
 今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
  「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
 今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
  「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率及び集積確率(このうち、1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

   

「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が5千年の場合は30年確率の最大値は5%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。 
◎:高い、○:中程度、△:低い、▲非常に低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
 文献1:池田ほか(2002)
 文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
 文献3:活断層研究会(1991)
 文献4:小松原(1991)
 文献5:松田(1990)
 文献6:新潟県(1999)
 文献7:新潟県(2000)
 文献8:新潟県(2001)
 文献9:渡辺・宇根(1985)
 文献10:宇佐美(1996)
注5:

最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、0.02は300年を18000年で割った値であり、2.2は6600年を3000年で割った値。

注6: 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。

 

 


(説明)

1 櫛形山脈断層帯に関するこれまでの主な調査研究

 櫛形山脈断層帯は、越後平野の北部東縁に認められる北北東−南南西走向で西上がりの逆断層である。この断層は新潟堆積盆地とその東側の基盤岩山地とを境する構造線として山下(1970)が提唱した新発田−小出線に沿って分布する活断層帯の一つであり、櫛形山断層崖(辻村,1942)として知られる櫛形山脈の西縁付近に位置する。

 活断層としての本断層帯の概要は、活断層研究会(1980)によって明らかとなった。渡辺・宇根(1985)は、本断層帯を構成する主要断層である加治川断層を精査して、その変位地形や断層露頭の記載を行い、この断層が西上がりの逆断層であり、左横ずれ成分を伴う可能性があることを指摘した。小松原(1991)は、この加治川断層を含めた櫛形山地周辺の活構造を記載し、これらの第四紀後期における活動度等について考察している。また、小松原・田中(1994)は、越後平野北部東縁地域の第四紀の構造発達過程を検討する中で、本断層帯の南方延長部における五十公野丘陵東縁断層の存在を推定している。谷口・吾妻(1998)は、新発田市東方の加治川右岸において、新たにいくつかの活断層を見出し、その性状を記載した。

 新潟県(1999,2000,2001)は、本断層帯を対象として、ボーリング調査、トレンチ調査などを行い、断層帯の平均変位速度や活動履歴などについて新たな知見を得た。越後平野東縁部の活断層を精査した池田ほか(2002)は、この地域に認められる逆断層群を新潟平野東縁断層帯として一括し、本断層帯をもその一部に含めて図示した。

2 櫛形山脈断層帯の評価結果について

2−1 断層帯の位置・形態

(1)櫛形山脈断層帯を構成する断層

本断層帯は、越後平野とその東側の櫛形山脈との境界付近に位置する西上がりの断層である。

本断層帯を構成する断層の位置・形態は、活断層研究会(1980,1991)、渡辺・宇根(1985)、小松原(1991)、新潟県(1999,2000,2001)、池田ほか(2002)、中田・今泉(2002)などに示されている。これらでは、その南部を構成する加治川断層については、ほぼ共通した認識が示されているが、その他の断層の扱いは必ずしも一致していない。ここでは、本断層帯を構成する断層及びその分布位置に関しては、新潟県(2001)と池田ほか(2002)に、また、断層の名称は新潟県(2001)にそれぞれしたがった。

本断層帯は、新潟県の岩船郡荒川町から北蒲原郡加治川村にかけて延びており、加治川断層とその北方に分布する「坂町付近の断層」(池田ほか(2002)が岩船郡荒川町坂町付近に図示した無名の断層をこのように称する)及び櫛形山地西方断層、櫛形山地東方断層群によって構成される(図2)。これらは変位の向きを同じくする断層で、その隔たりも4km以内で近接していることから、松田(1990)の基準にしたがえば、一つの起震断層を構成しているとみなすことができる。ただし、櫛形山地西方断層、櫛形山地東方断層群については、池田ほか(2002)では、活断層として図示されていない。

谷口・吾妻(1998)によって注目された加治川断層帯や活断層研究会(1991)によってその北方の越後山地西麓に推定されている断層などは、本断層帯に比較的近接して存在するが、本断層帯とは変位の向きが異なり、その長さも10km以下と短い(図3)ことから、以下の詳細な評価の対象としないことにした。本断層帯の南方延長部に、本断層帯と走向及び変位の様式、向きを同じくする月岡断層帯が存在する。また、その中間には、小松原・田中(1994)が推定する五十公野(いじみの)丘陵東縁断層が位置する。しかし、これらも、本断層帯との隔たりが月岡断層帯は10km余、五十公野丘陵東縁断層も7km程度とともに大きいことから、以下の詳細な評価の対象としないことにした。

(2)断層帯の位置・形状

 本断層帯全体の長さ及び一般走向を、図2に示された「坂町付近の断層」の北端と、加治川断層の南端を直線で結んで計測すると、それぞれ約16km、N30°Eとなる。

 池田ほか(2002)では、「坂町付近の断層」の北部が図示されていないので、その北端の位置は明らかでない。一方、加治川断層の南側には、加治川が形成しつつある現成の河成面が大きく広がっている。この地区では、変位地形が浸食されたり、埋積されているため検出できないとも考えられるので、本断層帯はさらに南方へ延びている可能性が考えられる。本断層帯の南方延長に分布する月岡断層帯の一部がこの加治川沿いの若い沖積地の南縁付近まで追跡されていることを考慮すると、本断層帯と月岡断層帯は連続している可能性も否定できない。すなわち、現状では、本断層帯の両端の位置は正確に把握できていないといえる。したがって、本断層帯の長さ、走向に関する上記の数値、特に長さは、今後の調査結果によっては大幅に変化する可能性を有する。

断層面上端の深さは、断層による変位が地表に達していることから0kmとした。

断層面の傾斜角及び深部形状については、それらを検討するための十分な資料はないが、断層露頭の性状(渡辺・宇根,1985)とボーリング調査結果(新潟県,2000)などから、西傾斜と考えられ、その傾斜角は、後者の結果から地下十数mまでは45°程度と推定される。

断層面下端の深さは、地震発生層の下限を目安にすると,15km程度と推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注7)

本断層帯は、活断層研究会(1980,1991)、渡辺・宇根(1985)、小松原(1991)、新潟県(1999,2000,2001)、池田ほか(2002)などに示された変位地形や地質構造から、西側を東側に対して相対的に隆起させていると見なせる。上述のように断層面は西へ傾斜しているので、本断層帯は、西側が東側に乗り上げる逆断層と考えられる。

 なお、本断層帯の変位に関しては、これを横切る河流の屈曲現象などに基づいて、左横ずれ成分が伴われている可能性が指摘されている(渡辺・宇根1985;小松原,1991)。しかし、それに対応する横ずれを示す地質学的な証拠は見出されていない。また、識別される新期の変位地形の中に、それを積極的に裏づける横ずれ地形が認められないことから、横ずれ変位を伴う可能性は低いと判断し、ここではその存在を考慮しないことにした。

2−2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注7)

 本断層帯の平均変位速度を評価するための資料として、以下のものがある。

@ 加治川村貝屋地区において、丘陵を開析して西に向かう河谷が加治川断層によって断たれて形成されたと考えられる東に開口する風隙地形(注8)が認められる。新潟県(2000)は、この風隙の谷底部と断層の下盤側に位置すると見られるその東側の低地部で、ピット調査(下小中山No.1地点ピット)とボーリング調査(Ky−2孔)を行い(図4)、約3万5千年前とほぼ同年代を示すシルト層の分布高度が、下小中山No.1地点ピットで約8.5m高いことを見出した。両地点で認められたこのシルト層が、一連の堆積物であるとすると、その分布高度差と年代から、 約0.2m/千年の平均上下変位速度値が導かれる。
A 加治川村金山地区においても、加治川断層の変位で生じたと考えられる東に開口する風隙地形が認められる。新潟県(2000)は、この風隙の谷底面を、上記の貝屋地区で姶良Tn火山灰の降下期頃に離水したことを示す資料が得られたkj−5面に対比し、これと、400m余り下流の東側低地部で実施されたボーリング調査で見つかった姶良Tn火山灰層との分布高度の差12mをもって、同火山灰降下期以降における加治川断層の上下変位量とみなし、平均上下変位速度を求めている。姶良Tn火山灰の降下年代を約2万8千年前(注9)とすると、平均上下変位速度は約0.4m/千年となる。なお、12mという数値は、風隙前縁の低崖を低断層崖とみなしてその比高1.5mとボーリング地点における姶良Tn火山灰層埋没深度10.5mを加えて求められたものである。

上記の@、Aいずれについても、変位基準の認定や変位量の見積もりの結果に不確かさが伴われていて、精度の高い資料とは言えない。しかし、両者が同程度の値を示すことに注目して、ここでは、本断層帯は0.2−0.4m/千年程度の平均上下変位速度を有する可能性があると判断した。

(2)活動時期

 新潟県(2000)は、金山地区の低地部で群列ボーリング調査を実施して、姶良Tn火山灰層が挟在する砂礫層(Y層)に、西側から新第三紀鮮新世の鍬江層(Z2層)が乗り上げる西傾斜約45°の逆断層(加治川断層)が伏在し、これを覆う沖積層の一部が変形して東に30−50°急傾斜することを明らかにした(図5)。図5から、最上部が約6千6百年前の14C年代を示すW層はその一部が急傾斜していて変形していることは明らかである。したがって、ここでは、少なくとも約6千6百年前以後に断層活動があったと考えられる。

 W層より上位においても、変形を受けた可能性のある地層が存在する。しかし、地表下1−2mに位置する最上部層は傾斜に異常がなく、変位を受けていない可能性がある。すなわち、W層より上位に分布する地層群中に、断層活動のあった層準が位置する可能性があるが、この資料ではそれを特定することができない。この地点でトレンチが掘削された(図4)が、その壁面でも、この活動記録に当たる地質構造を見出すに至らなかった(図6)。

 以上のことから、本断層帯の最新活動は、約6千6百年前以後にあったと推定されるが、その時期をより具体的に特定するための資料は整っていない。さらに古い断層活動履歴についても、資料がないため検討できない。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注7)

 金山地区での群列ボーリング調査の結果に注目すると、上盤側ではZ1層、下盤側でもY層とされる顕著な砂礫層が存在する。これらを直接覆って、腐植層を交え、砂・シルトなど細粒物からなるW層を含む地層群が分布しているため、砂礫層はこのような地層群が堆積する前の河床面を構成していた可能性がある。上盤側と下盤側の砂礫層の上面が一連の地形面であったとすると、その分布高度の不連続から、約3.5m上下に変位していると推定される(図5)。したがって、ここでの最新活動の変位量は上下成分で3.5mを越えることはなかったと推定される。

 以上のことから、本断層帯の1回の変位量は3.5m以下(上下成分)である可能性があると判断した。

なお、本断層帯の両端の位置は正確に把握できていないが、今回計測した長さ16kmを断層帯の最小の長さとして、以下の経験式(松田,1975)に基づいて算出すると、1回の地震で生ずる変位量(上下成分)は1m程度(計算値1.3m)以上と求まる。

logL=0.6M−2.9   (1)

logD=0.6M−4.0   (2)

 ただし、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュード。

(4)活動間隔

 本断層帯では、上述のように最新活動に関する若干の資料はあるが、それ以前の活動履歴については全く明らかでない。したがって、個々の断層活動の時期に基づいて直接的に活動間隔を求めることができない。

なお、断層帯の長さから経験式を用いて求めた1回の変位量及び群列ボーリング調査結果による1回の変位量(上下成分1.3m−3.5m)と、平均変位速度(上下成分0.2−0.4m/千年)に基づき計算すると、平均活動間隔は3千年−1万8千年であった可能性がある。

(5)活動区間

 本断層帯の活動区間については、関係する資料が整っていないため、検討できない。 

(6)先史時代・歴史時代の活動

 本断層帯周辺では、歴史時代の被害地震の記録や地震考古学上の知見は知られていない。1670年に新潟県中部の南蒲原郡付近に被害をもたらした地震の記録があるが、この断層帯から発生した可能性のある地震の記述はない(宇佐美,1996)。したがって、最近300年間程度はこの断層帯は活動しなかったと考えられる。

(7)測地観測結果

 櫛形山脈断層帯周辺における最近約100年間及び約10年間の三角・三辺測量の結果では、断層帯の西側で東西方向の縮み、南−北方向の伸びが見られる。3年間のGPS観測結果では、断層帯の西側で東西方向の縮みが見られる。

(8)地震観測結果  

 櫛形山脈断層帯の南方の月岡断層帯付近では、1995年4月1日に月岡断層の西方でマグニチュード5.5の地震が発生した。この地震の発震機構解は、西北西−東南東に圧力軸をもつ逆断層型であった。最近の地震活動から、地震発生深度の下限は15km程度と推定される。

2−3 断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

 本断層帯の全体の長さに関する評価は、その両端の位置が正確に見定められていないので、今後の調査の結果によっては、大幅に変化することが考えられるが、計測された断層の長さ16kmを最小値とすると、上述した経験式(1)により本断層帯から発生する地震の規模はマグニチュード6.8以上となる。また、断層活動1回の変位量にも不確かさがあるが、本断層帯の1回の変位量は3.5m以下(上下成分)である可能性があることから、これを断層活動1回の変位量とした場合、経験式(2)により本断層帯(変位量が3.5m以下)から発生する地震の規模は、マグニチュード7.6以下と求まる。その場合、活動する範囲は本断層帯の延長部や月岡断層帯にも及ぶ可能性がある。

 以上のことから、本断層帯で発生する地震はマグニチュード6.8−7.5程度で、活動する範囲は本断層帯の延長部や月岡断層帯にも及ぶ可能性がある。

 このような地震が発生した場合、西側隆起で1m−3.5m程度の段差や撓みを伴う変位が生ずる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯の平均活動間隔は3千年−1万8千年であった可能性があり、最新の活動時期は約6千6百年前以後、3百年前程度以前であったと推定される。この断層帯では、最新活動後、評価時点(2002年)までの経過時間は3百年−6千6百年で、平均活動間隔の0.02−2.2倍の時間が経過していることになる。最新活動時期の推定幅は広い範囲でしか得られておらず、また、平均活動間隔は信頼度が非常に低いことに十分留意する必要があるが、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、ほぼ0%−7%、ほぼ0%−10%、ほぼ0%−20%、及びほぼ0%−50%となる。また、現在までの集積確率は、ほぼ0%−90%より大となる(表3)。本評価で得られた将来の地震発生確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。なお、その最大値は、平均活動間隔が3千年で最新の活動が6千6百年前の場合である。この場合の平均活動間隔(3千年)は、断層の長さ16kmから上述の経験式(1)及び(2)で算出された変位量(1.3m)と平均変位速度(0.4m/千年の場合)に基づいて計算されたものである。したがって、この時に発生する地震の規模は断層の長さ16kmから経験式(1)によりマグニチュード6.8程度となる。以下同様に、今後30年以内の地震発生確率が3%以上となる場合の地震の規模はマグニチュード7.2程度以下、また、マグニチュード7.5程度の場合、今後30年以内の地震発生確率は0.5%未満となる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

2−4 今後に向けて

本断層帯においては,その活断層帯としての全体像が十分把握されていない側面がある。とくに北部に位置する諸断層については不明な点が多い。北部の「坂町付近の断層」と南部の加治川断層との間には,5kmに近い隔たりが認められることから,これらは一つの起震断層を構成していない可能性もある。本断層帯の将来の活動性を明確にするためには、構成する諸断層とその位置を精査し、最新の活動時期、1回の変位量を精度良く求めるとともに、活動間隔を明確にする必要がある。

本断層帯はさらに南に延びてその南側に位置する月岡断層帯に連続する可能性もある。将来はこれらの断層帯が同時に活動する可能性もあることから、これら両断層帯の連続性・連動性についても検討する必要がある。

注7: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓みの成分」よりなる。
注8: 「風隙」とは、過去に河川が流れていたことを示す旧流路に認められる分水界のことをいう(町田ほか,1981)。
注9: 姶良Tn火山灰層の降下年代値は、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会(1996)、小池・町田(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。
注10: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正した値を用いた。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正した値を用いた。



文 献

池田安隆・今泉俊文・東郷正美・平川一臣・宮内崇裕・佐藤比呂志 (2002):「第四紀逆断層アトラス」.東京大学出版会,254p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.

活断層研究会(1980):「日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,363p.

活断層研究会(1991):「新編日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,437p.

Kitagawa, H. and van der Plicht, J.(1998):Atmospheric radiocarbon calibration to 45,000yrB.P.:Late Glacial fluctuations and cosmogenic isotope production. Science, 279, 1187−1190.

小池一之・町田 洋(2001):「日本の海成段丘アトラス」.東京大学出版会,105p.

小松原琢(1991):新潟平野北東縁部の活構造−変位速度からみた地殻変動の地域的特徴−.東北地理,43,73−97.

小松原琢・田中 保(1994):新潟平野東縁部の第四系と地殻変動.地球科学,48,31−50.

町田 貞・井口正男・貝塚爽平・佐藤 正・榧根 勇・小野有五(1981):「地形学辞典」,二宮書店,767p.

町田 洋・新井房夫(1992):「火山灰アトラス」.東京大学出版会,276p.

松田時彦(1990):最大地震規模による日本列島の地震分帯図.地震研彙報,65,289−319.

村山雅史・松本英二・中村俊夫・岡村 真・安田尚登・平 朝彦(1993):四国沖ピストンコア試料を用いたAT火山灰噴出年代の再検討−タンデトロン加速器質量分析計による浮遊性有孔虫の14C年代−,地質学雑誌,99,787−798.

中田 高・今泉俊文編(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会,DVD−ROM2枚・60p.

日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会(1996):「第四紀露頭集−日本のテフラ」.日本第四紀学会,352p.

新潟県(1999):「平成10年度地震関係基礎調査交付金 櫛形山脈断層帯に関する調査 成果報告書」.1・1−4・18.

新潟県(2000):「平成11年度地震関係基礎調査交付金 櫛形山脈断層帯に関する調査 成果報告書」.1−57.

新潟県(2001):「平成12年度地震関係基礎調査交付金 櫛形山脈断層帯に関する調査 成果報告書」.1−43.

Niklaus, T. R.(1991):CalibETH version 1.5, ETH Zurich, 2disketts and manual.151p.

谷口 薫・吾妻 崇(1998):新潟平野東縁部における新たな活断層の認定.活断層研究,17,65−71.

辻村太郎(1942):「断層地形論考」.古今書院,347p.

宇佐美龍夫(1996):「新編日本被害地震総覧[増補改訂版416−1995]」.東京大学出版会,493p.

山下 昇(1970):柏崎−銚子線の提唱.星野通平・青木 斌編「島弧と海洋」.東海大学出版会,179−191.

渡辺満久・宇根 寛(1985):新潟平野東縁の活断層と山地の隆起.地理学評論,58,536−547.

 

表3 地震発生確率及び参考指標

 

注11: 評価時点はすべて2002年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。その最大値は、平均活動間隔が3千年で最新の活動が6千6百年前の場合で、その時の地震の規模はマグニチュード6.8程度である。今後30年以内の地震発生確率が3%以上となる場合の地震の規模はマグニチュード7.2程度以下である。マグニチュード7.5程度の場合、今後30年以内の地震発生確率は0.5%未満である。
 なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は「非常に低い」(▲)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層があることによって大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(ここではBPT分布モデルを適用した場合を考える。)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合にあたる。)。この指標は、BPT分布モデルによる危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。マイナスの値は、前者が後者に達していないことを示す。後者の危険率は3千分の1(0.0003)回−1万8千分の1(0.00006)回であり、時間によらず一定である。前者は評価時点でほぼ0−3百分の1(0.003)回以下であり、時間とともに増加する。3百分の1回であれば前者が後者の回数に達してから4千5百年が経過していることになる。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

[赤字は平成14年9月11日誤植訂正]