平成13年7月11日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

京都盆地−奈良盆地断層帯南部(奈良盆地東縁断層帯)の評価


 京都盆地−奈良盆地断層帯は、山科盆地から奈良盆地の東縁にかけて、全体としてほぼ南北方向に延びる活断層帯である。この断層帯について評価した結果、以下に述べるように、京都盆地−奈良盆地断層帯は、北部・南部の二つに分けられると考えられる。ここでは、平成7、8年度に地質調査所により行われた調査等に基づき、京都盆地−奈良盆地断層帯の南部について評価を行った。以下では、京都盆地−奈良盆地断層帯の南部を奈良盆地東縁断層帯と呼ぶ。

 

1.断層帯の位置及び形態

 京都盆地−奈良盆地断層帯は、京都市山科区から奈良県桜井市に至るほぼ南北に延びる活断層帯とされている。このうち、京都府宇治市付近から城陽市付近までの約7kmの区間には活断層が存在しないと考えられ、この区間を境に京都盆地−奈良盆地断層帯は北部、南部の2つに分けられる。

 北部は京都市山科区から宇治市付近まで延びる活断層帯である。京都盆地−奈良盆地断層帯北部の西側概ね4km付近に近接して三方−花折(みかた−はなおれ)断層帯の最南部が延びている。このため、北部は三方−花折断層帯とあわせて南部とは別に評価する必要がある。

 南部の奈良盆地東縁断層帯は、京都府城陽市の南部から奈良県桜井市までほぼ南北に延びる長さ約35kmの活断層帯である。全体として西側に対し東側が相対的に隆起する逆断層であり、横ずれ成分は認められない(図1、2、表1)。

2.奈良盆地東縁断層帯(京都盆地−奈良盆地断層帯南部)の過去の活動

 過去数万年間においては、奈良盆地東縁断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は概ね0.6m/千年程度であったと推定される。奈良盆地東縁断層帯では約1万1千年前以後約1千2百年前以前に少なくとも1回の断層活動があったと考えられる。これ以外に最新活動時期に関するデータは得られていない。奈良盆地東縁断層帯における1回の断層活動による上下方向のずれの量は概ね3m程度であったと推定される。平均的な活動間隔については直接的なデータは得られていないが、概ね5千年程度であった可能性がある。

3.奈良盆地東縁断層帯(京都盆地−奈良盆地断層帯南部)の将来の活動

 奈良盆地東縁断層帯(京都盆地−奈良盆地断層帯南部)ではマグニチュード7.5程度の地震が発生し、その際、断層の近傍の地表面には段差や撓みが生じ、東側が西側に対し相対的に概ね3m程度高まると推定される。過去の活動が十分に明らかではないため信頼度は低いが、奈良盆地東縁断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる(注1、2)。

4.今後にむけて

 奈良盆地東縁断層帯(京都盆地−奈良盆地断層帯南部)については、最新活動時期が十分に絞り込まれていない。また、平均活動間隔についても信頼度の高いデータが得られていない。このため、これらの過去の活動履歴をより一層明らかにすることが必要である。

 京都盆地−奈良盆地断層帯北部については三方−花折断層帯とともに評価する。

図1位置概略図

図2 断層の位置と調査地点

 

表1 奈良盆地東縁断層帯(京都盆地−奈良盆地断層帯南部)の特性

表2 将来の地震発生確率等

注1 :我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
 
注2 :「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会、2001)に示された過去の地震発生年のデータ等にもとづく試算によれば、1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率(暫定値)と集積確率(暫定値)は以下のとおりである。
「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は10%程度、5千年の場合は5%程度である。
 
注3 :信頼度は特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。 ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4 :文献については、本文末尾に示す以下の文献
文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
文献2:活断層研究会(1991)
文献3:岡田・東郷編(2000)
文献4:奥村ほか(1997)
文献5:寒川ほか(1985)
 
注5 :評価時点はすべて2001年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
 
注6 :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字のうち、0.2は1千2百年を5千年で割った値であり、2.2は1万1千年を5千年で割った値。
注7 :前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。

 

(説明)
1.京都盆地-奈良盆地断層帯に関するこれまでの主な研究

 地震に関する基盤的調査観測計画(地震調査研究推進本部、1997)によれば、京都盆地-奈良盆地断層帯は京都市山科区から奈良県桜井市に至るほぼ南北に延びる活断層帯である。

 吉岡(1987)は京都盆地周縁の活断層を記載し、京都盆地周辺では活動域が南から北に移動する傾向があり、黄檗(おうばく)断層、井手断層はすでに活動を終えていると推定した。京都市(1998a、b)は黄檗断層について断層露頭の記載や反射法探査を実施し、また、御蔵山(おぐらやま)断層でトレンチ調査、ボーリング調査を行った。

 寒川ほか(1985)は奈良盆地東縁地域の段丘区分を行い撓曲変形を記載して、段丘面の変位から平均変位速度を算出するとともに、断層活動が山麓(東側)から盆地側(西側)へ移動したことを指摘した。また、奥村ほか(1997)は反射法地震探査を行うとともに、トレンチ調査等により天理撓曲の活動履歴を推定した。さらに東郷(2000)は、古墳が断層活動により変位している可能性を指摘した。

 本断層帯付近の活断層の存在や位置は、活断層研究会(1980、1991)、1:25,000都市圏活断層図(岡田ほか(1996)、相馬ほか(1997)及び八木ほか(1997))、また、岡田・東郷編(2000)などに示されている。活断層研究会(1980、1991)は、本断層帯付近のうち、山科盆地東縁から奈良盆地東縁にかけてほぼ南北方向に連続する活断層の存在を示しているが、宇治から多賀に至る約7kmの区間については不明瞭であるとしている。一方、都市圏活断層図(岡田ほか、1996)は、上記宇治−多賀間には活断層が存在しないとしている。また、岡田・東郷編(2000)もこの区間には活断層を表示していない。一方で、これらの文献は、活断層研究会(1980、1991)が連続して活断層の存在を示した地域の西側に高位段丘面の褶曲や傾動を示している。

2.評価結果

2−1.評価の範囲について

 京都盆地−奈良盆地断層帯は、京都市山科区付近から奈良県桜井市付近まで、ほぼ南北に延びるとされる活断層帯である(地震調査研究推進本部、1997)。しかし、断層帯の中部からやや北側に当たる京都府宇治市内から城陽市南部付近までの南北約7kmの区間には活断層は認められず、褶曲などの変位地形も認められなかった。したがって、本評価では、この7km程度の区間によって、京都盆地−奈良盆地断層帯は「北部」と「南部」に二分されると考える。

 京都盆地−奈良盆地断層帯北部の西側には三方−花折断層帯の最南部が並走していることから、北部は三方−花折断層帯とともに別途評価する必要がある。このため、ここでは南部についてのみ評価を行った。以下、本評価では、京都盆地−奈良盆地断層帯南部を奈良盆地東縁断層帯と呼ぶ。

2−2.断層帯の位置・形状

(1)奈良盆地東縁断層帯を構成する断層

 奈良盆地東縁断層帯を構成する断層・撓曲は図2、表1に示すとおりであり、井手断層、片山(断層)(注8)、奈良坂(ならざか)撓曲、高樋(たかい)断層、園原町(断層)、中山町−三輪(断層)、市ノ井断層、三百(さんびゃく)断層、菩提仙川-天理(ぼだいせんがわ-てんり)(断層)、萱生町-穴師(かようちょう-あなし)(断層)、天理撓曲、櫟本(いちのもと)(断層)、丹波市町(断層)、長柄-巻野内(ながら-まきのうち)(断層)、帯解(おびとけ)断層、箸中-三輪(はしなか-みわ)(断層)、佐保田(さほだ)撓曲、曽根山撓曲、佐紀町(さきちょう)撓曲、日葉酢媛命稜(ひばすひめのみことのりょう)(断層)、僧坊(そうぼう)撓曲、植田断層、秋篠撓曲及び中山(断層)からなる。断層の位置・名称は岡田・東郷編(2000)にしたがった。ここでは、松田(1990)の基準にしたがって本断層帯を一つの起震断層として扱うこととする。なお、本断層帯は、松田(1990)における宇治断層帯の一部と奈良盆地東縁断層帯をあわせたものにほぼ相当する。
本断層帯のうち最も北側に位置する井手断層は城陽市南部から宇治川の右岸に沿って南方へ延びる断層で、片山(断層)はそのさらに南方の木津町付近に位置するほぼ北東−南西方向の断層である。

 奈良坂撓曲から箸中−三輪(断層)までの断層・撓曲は、片山(断層)の南側の奈良市街地の東部からほぼ奈良盆地と大和高原との境界沿いに桜井市付近まで、並走・雁行しながら全体としてほぼ南北に連なる。これら奈良盆地東縁の断層・撓曲は、一般に東側(大和高原側)の断層ほどその主活動期が古いといわれており(例えば、坂本(1955);寒川ほか(1985))、活断層研究会(1980)は、これらの断層や撓曲のうち最も東側に位置する高樋断層を地質断層としてのみ明瞭としており、また、三百断層は約50万年前以降は活動していないとみられる、としている。

 佐保田撓曲、曽根山撓曲、佐紀町撓曲、日葉酢媛命稜(断層)、僧坊撓曲、植田断層、秋篠撓曲及び中山(断層)は、奈良坂撓曲の北西付近からその北方の京都府精華町の木津川左岸にかけて位置しており、東側の井手断層や奈良坂撓曲と並走・雁行関係にある。これらは大阪層群の変形からその存在が推定されているものが多い(岡田・東郷編、2000)。

 活断層研究会(1991)は、奈良盆地の北西側ないし西側の普賢寺撓曲とあやめ池撓曲を活断層・撓曲としているが、岡田・東郷編(2000)は、これらは確実度Uの活断層との区分は微妙であるものの、変位地形が不明瞭であることから、リニアメント(断層組織地形)としている。本評価では岡田・東郷編(2000)にしたがって、これらを奈良盆地東縁断層帯を構成する活断層には含めないこととする。また、富雄川−高船断層及び矢田断層についても新規の変位地形を伴っていない(岡田・東郷編、2000)ことから、ここでは奈良盆地東縁断層帯を構成する活断層には含めないこととする。

(2)断層面の位置、形状

 本断層帯の断層線の位置及び一般走向は、岡田・東郷編(2000)の図によった。地下の断層面の位置および形状は地表における断層の形状及び反射法探査結果等から推定した。

 断層面上端の深さは、断層面が地表に達していることから0kmとした。

 本断層帯は井手断層北端から箸中-三輪(断層)南端までの長さが約35kmの断層帯である。断層面の傾斜は、奥村ほか(1997)が奈良市と天理市の境界付近で行った反射法探査によれば、深さ600m程度よりも浅いところでは、奈良盆地東縁の天理撓曲及び帯解断層は50-60度東傾斜(図3)である。このほかの断層については調査成果が得られていない。本断層帯付近では地震活動は低調であるが、地震発生の深さの下限は概ね15kmよりも浅いところにある。

(3)変位の向き(ずれの向き)(注9)

 本断層帯は全体として東側を相対的に隆起させる逆断層である。奈良盆地の北西部から北方に南北方向に雁行する断層・撓曲群のうち、植田断層、僧坊撓曲等は主断層とは逆向きで西側が相対的に隆起している。横ずれ成分は認められない。

2−3.断層帯の過去の活動

(1)活動度と平均変位速度(断層の平均的なずれの速度)(注9)

 寒川ほか(1985)は、天理市北部において、天理撓曲による段丘面(櫟本面)の変位量と、放射性炭素同位体年代測定により求めたこの段丘面の形成年代(1.5-2万年前)から、天理撓曲の平均上下変位速度を0.25-0.30m/千年と算出した。また、同文献は奈良盆地東縁に分布する他の複数の段丘面の形成年代を紀ノ川流域の段丘との対比により推定し、断層活動による各段丘の変位量を計測して天理撓曲及び奈良坂撓曲の活動に伴う平均上下変位速度を求めている。これらをまとめると0.07-0.28m/千年となる。

 ここでは、炭素同位体を用い、信頼度が高い年代値が得られている段丘面の変位から得られた0.3m/千年を天理撓曲の平均上下変位速度とする。

 一方、奥村ほか(1997)は、帯解断層の両側で実施したボーリング調査により約100万年前のピンク火山灰が断層をはさんで約80m変位していることを明らかにするとともに、この結果と反射法地震探査の結果(図3)から、帯解断層は中期更新世以降に活動を開始し、帯解断層と天理撓曲を合わせた中期更新世以降の累積変位量は150m程度であるとした。天理撓曲の東側に位置する高樋断層と三百断層は30万年前以降活動していない(岡田・東郷編、2000)とされており、奥村ほか(1997)の反射法探査結果によればこの付近において最近の地質時代も活動を続けている断層・撓曲は、天理撓曲と帯解断層であると考えられる。また、上述のように両者による変位量はほぼ同じであることから、帯解断層の平均上下変位速度は天理撓曲と同程度の0.3m/千年程度と推定される。

 以上のことから、本断層帯の平均上下変位速度は併走する天理撓曲と帯解断層の平均上下変位速度を加えた0.6m/千年程度と推定される。 

(2)活動回数と時期

 奈良盆地東縁の天理撓曲において、寒川ほか(1985)は断層活動により変位を受けている段丘を構成する地層から得られた炭素同位体年代値から、1.5-2万年前以後に断層活動があったとしている。奥村ほか(1997)は、奈良市古市町の天理撓曲で実施したトレンチ調査により、約1万年前(暦年補正をすると約1万1千年前、注10)の砂・シルト層及びそれよりも下位の地層が累積的に傾斜し、これを覆う奈良時代(約1千2百年前)の砂礫層等には傾動が認められないことから、約1万年前以後奈良時代以前(暦年補正をすると約1万1千年前以後約1千2百年前以前)に少なくとも1回活動があったものとしている(図4上)。また、奈良市古市町の別な場所で実施したトレンチ調査で、中期更新世末-後期更新世初めの砂礫層を切る断層が中世の壕跡に切られていることから、この派生断層は中世以降活動していないとした(図4下)。一方、東郷(2000)は、曽根山撓曲(東郷(2000)では歌姫断層)の活動によって古墳が変位を受けたと考えられるとしている。この変位が断層活動によるものとすれば、この古墳は5世紀半ばに作られたと考えられていることから、これ以降に断層の活動があったことになるが、古墳の変位が断層活動によるものかどうかは確定できない。このため、ここでは古墳の変位を地震発生時期を特定する資料として用いない。

 なお、奥村ほか(1997)は帯解断層の天理市井戸野において実施したトレンチ調査の結果に基づき、約2万5千年前以前に断層活動があった可能性があるとしているが、これが最新活動の一つ前の活動を示すかどうかは不明であるとしている。

 以上のことから、本断層帯では約1万1千年前以後1千2百年前以前に最新活動があったと考えられる。これ以外の活動については不明である。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注9)

 奈良盆地東縁において、天理撓曲により変位を受けている段丘面(櫟本面)の上下変位量は5−6mである(寒川ほか、1985)。しかし、これは複数回の活動によるものである可能性が高い。 

 また、奥村ほか(1997)は、1万年前以後奈良時代以前(暦年補正をすると約1万1千年前以後約1千2百年前以前)の活動を認めた奈良市古市町トレンチの両側でボーリング調査を実施している。この結果によれば最も新しい段丘面を構成する礫層に断層をはさんで約3mの上下変位がみられる。しかしながら、この値も断層帯の1回の変位量を表すものかどうかは不明である。

 このように、本断層帯では1回の変位量に関するデータは得られていないが、断層帯の長さ(約35km)から、経験式を用いて1回の活動に伴う上下変位量を求めることができる。経験式(1)、(2)より、奈良盆地東縁断層帯における1回の活動に伴う上下変位量は約3mと推定される。この値は、上述のボーリング調査で得られた値などと矛盾しない。

 用いた経験式は以下のとおりである。Mはマグニチュード、Lは1回の地震の地震断層の長さ(km)、Dは(上下)変位量(m)である。

  M=(logL+2.9)/0.6     (1)

  M=(logD+4.0)/0.6     (2)

(4)活動間隔

 本断層帯においては過去の断層活動の時期に関するデータが乏しく、地形・地質的データから直接平均活動間隔を求めることはできない。

 しかしながら、断層帯の長さと平均上下変位速度から計算によって平均活動間隔を求めることができる。上述のように1回の活動に伴う上下変位量を約3m、断層帯の平均上下変位速度を0.6m/千年とすると、本断層帯の平均活動間隔は概ね5千年となる。なお、この値は計算により得られた1回の活動による変位量を用いて求めたもので、地形・地質学的な裏づけに乏しいものであることに留意する必要がある。

(5)先史時代・歴史時代の活動

 本断層帯付近で起こったと考えられる歴史地震はいくつか認められるが、いずれも本断層帯との関係は明らかではない。

(6)測地観測結果

 本断層帯周辺を含む地域では、広域的、長期的には東西方向の縮みが観測されている。

(7)地震観測結果

 本地域はどちらかと言えば地震活動が低調な地域である。本断層帯付近の地震発生層の深さの下限は概ね15km程度である。

2−4.断層帯の将来の活動

(1)活動区間

 北端の井出断層北部から南端の箸中−三輪(断層)までの約35kmが同時に動くと推定される。

(2)活動時の地震の規模

 本断層帯の将来の活動時の地震の規模は、断層帯の長さが約35kmであることから、上記経験式(1)よりマグニチュード7.4と求められる。

 本断層帯では過去の活動からは1回の地震に伴う変位量は求められていない。しかし、上述のように経験式(1)、(2)によれば1回の変位量は約3mとなる。   

(3)地震発生の可能性

以上のように、本断層帯における平均活動間隔は概ね5千年と求められ、また、最新の活動以後の経過時間は約1万1千年−約1千2百年である。したがって、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.2−2.2となる。また、平均活動間隔は信頼度が低く、最新活動時期も幅の広い範囲でしか得られていないことに十分留意する必要があるが、地震調査研究推進本部地震調査委員会、2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率はそれぞれほぼ0%−5%、ほぼ0%−7%、ほぼ0%−10%及びほぼ0%−40%、現在までの集積確率は、ほぼ0%−90%より大となる(表3)。評価で得られた本断層帯の将来の地震発生確率には幅があるが、その最大値をとると、本断層帯は、今後30年の間に地震を発生させる可能性が、我が国の活断層の中では高いグループに属することになる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会、1999)を示す。


2−5.今後に向けて

 以上のように、奈良盆地東縁断層帯においては過去の活動履歴が必ずしも明らかでないことから、平均活動間隔等の信頼度が低く、また、最新活動時期を十分に絞込むことができるデータが得られていない。このため、これら過去の活動履歴についてさらに明らかにする必要がある。

 また、京都盆地−奈良盆地断層帯北部については、花折−三方断層帯とともに評価を検討する必要がある。

注8 :岡田・東郷編(2000)では、単に「片山」となっており、他にもいくつかこのような表記のものがみられる。本評価では紛らわしさを避けるため、このようなものについては「(断層)」を名称の後ろにつけることとした。これらの中には断層というより撓曲とする方がふさわしいものもあると思われるが、本評価ではすべて「(断層)」で統一した。
 
注9 :「変位」を、1ページの本文及び5ページの表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれ」の成分と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
 
注10 :本評価では、10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正した値を用いた。また、10,000年BP−45,000年BPの炭素同位体年代値については、Kitagawa and van del Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正した値を用いた。

 

 

文 献

地震調査研究推進本部(1997):「地震に関する基盤的調査観測計画」.38p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.

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活断層研究会(1980):「日本の活断層」.東京大学出版会,363p.

活断層研究会(1991):「新編日本の活断層」.東京大学出版会,437p.

Kitagawa, H. and van der Plicht, J. (1998): Atmospheric radiocarbon calibration to 45,000 yrB.P. : Late Glacial fluctuations and cosmogenic isotope production. Science, 279,1187-1190.

狐崎長琅・後藤典俊・岩崎好規(1971):地震探査からみた京都盆地南部の地下構造とこれに関連した地震工学上の若干の問題.京都大学防災研究所年報,14-A,203-215.

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小林芳正・入倉孝次郎・堀家正則・天池文男・岸本清行・春日 茂(1980):黄檗断層の地震探査. 京都大学防災研究所年報,23-B,95-106.

小泉尚嗣・横田 裕・佃 栄吉・高橋 誠・岩田知孝・入倉孝次郎(1998):黄檗断層の地下構造. 地球惑星科学関連学会1998年合同学会予稿集,324.

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岡田篤正・東郷正美編(2000):「近畿の活断層」.東京大学出版会,395p.+付図4図葉.

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図3 反射法探査断面

図4古市町トレンチ

 

表3 地震発生確率及び参考指標

注11 :評価時点はすべて2001年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10-5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1)経過年数 :当該活断層があることによって大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(ここではBPT分布モデルを適用した場合を考える。)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合にあたる。)。この指標はBPT分布モデルによる危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。マイナスの値は前者が後者に達していないことを示す。後者の危険率は5千分の1(0.0002)回であり、時間によらず一定である。前者は現在ほぼ0−6百分の1(0.0015)回であり、時間とともに増加する。ほぼ0であれば、後者の回数に達するには今後2千3百年を要するが、6百分の1であれば、すでに後者の回数を超えて7千5百年経過していることになる。
指標(1)比 :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の、評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率、BPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。