1.寄せられた意見の概略及びそれに対する長期評価部会の考え方

 
  寄せられた意見の全文は第5節に掲載しました。意見は大きく分けて次の5種類に分類できます。以下では、各分類毎に、寄せられた意見の概略、及びそれに対する長期評価部会の考え方を示します。
 
   (1)長期評価の方針に関する意見
   (2)試案の公開方法に関する意見
   (3)適用例に用いたデータに関する意見
   (4)長期評価の手法に関する意見
   (5)その他の試案の記述内容全般に関する意見
 
 

 
(1)長期評価の方針に関する意見
   試案「長期的な地震発生確率の評価手法及びその適用例について」の「はじめに」で述べましたように、長期評価部会は、地震活動を長期評価する目的、すなわち数十年以上にわたる長期的な観点から将来の地震活動度を探ることを目的として、総理府地震調査研究推進本部地震調査委員会のもとに設置されています。長期評価部会では、地震活動の長期評価の一環として、プレート境界やプレート内部の弱線である活断層で発生する大地震について、活動間隔・平均ずれ速度(平均変位速度)・最新活動時期・活動区間(セグメント)等のパラメータを用いて、その長期的な発生可能性を確率という数字で評価する手法を検討しています。
 
(1.1) 長期評価部会がこのように長期的な地震発生可能性を確率によって評価する手法を検討していることについては、つぎのような、多くの肯定的な意見が寄せられました。なお、意見番号は4節の意見番号と共通です。また、下線は編集時に引いたものです。
 
意見3
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:全般
意見:
全体的方向について
・概要:長期的な地震発生確率の評価の公表について賛同する。
・趣旨:長期的な地震発生確率の評価の公表については,地域防災計画(地震災害対策計画)の基礎資料として,非常に有用な情報であり,実施の方向で進めていくことについて賛成する。
 
 
意見13
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:第1章 長期確率評価の考え方について
意見:
 短期的地震予知が困難となってきた現状下で,時系列データを主体に長期確率の評価を行ったことは防災や耐震構造分野に広く寄与できると明言致します。
 さて、これまで数十年先のことは中期予知といわれてきたようですが、ここでいう長期とはおよそ何年くらい先から後のことでしょうか。
 
 
意見19(抜粋)
氏名:荒木春視
立場:地震および関連分野の研究者、技術者
該当個所:第2章 手法
意見:
 (中略)
 以上、地震予知問題に取り組んでいる一研究者として、疑問点を申し述べました。参考になれば、幸甚です。なお、敢えて私見として補足させて貰うなら、確率論は基本的に賛成です。ただし、導入の目的と方法は異なります。
 
 
意見32(抜粋)
氏名:大竹 政和
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
1.統計的な手法による地震発生確率の長期的評価は,最近の各種調査研究の進展により,かなりの程度客観的な基礎を有するに至った。長期評価部会の積極的な取り組みに敬意を表する。地震防災対策への貢献の見地から,今後,可能な場所から全国的な規模で評価を実施し,その成果を公表して行くべきである。
 (以下略)
 
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 不確定性を伴う将来の地震発生に対して確率表現の方法を開発することは基本的に重要です。特に、今後の活断層調査の進展に伴って増加する断層情報を適切に反映する方法が必要とされるという基本認識は全く妥当と考えます。文献18に挙げられているわれわれの研究も同じ理念で始めたものです(まだ研究の基礎的段階ですが)。今回拝見した報告書は、こうした努力の重要な一歩であり、大いに評価したいと思いますが、しかしこれはあくまで一歩であると考えます。この分野が今後健全に発展して行くことを期待する立場から、報告書の趣旨・表現・内容にわたり、十分な議論と検討を要すると考えられる主な事項について、以下に私見を述べさせて頂きます。
 (以下略)
 
 
意見43(抜粋)
氏名:武村 雅之
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 長期的な地震発生確率の評価についての報告書を拝見いたしました。大変意欲的な試みであり、現状の学問レベルでの一定の到達点を示されていること高く評価いたします。
 (以下略)
 
 
意見44
氏名:早川 由紀夫 
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:全般
意見:
 地震の長期確率をこのように評価しようとする試みに賛同します.これをさらに推進することを望みます.
 
 
意見49(抜粋)
氏名:井澗 陽平
立場:一般住民、その他
該当個所:主に4.2確率の数値評価のまとめ
意見:
 地震の長期的な発生可能性を、確率という客観的な数字で評価しようという試みは大変すばらしいことだと思います。
 (以下略)
 
 
 
(1.2) 一方で、研究活動であるのか、行政的目的を持つ行為なのかを明らかにする必要がある、等の、次のような指摘がありました。
 
意見31(抜粋)
氏名:入江 さやか
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 はじめに、貴部会が「試案」という形で本調査に対し広く一般の意見を求められた点について評価したい。先般の「余震確率評価」に比べ不確実性が高く、その反面社会的影響は大きく、扱いにくい課題ではあるが、今後の地震防災の拡充にはこのようなオープンな議論が不可欠である。
1)「あいまい性」の処理について
本試案の適用結果からは数タイプの「あいまい性」が読み取れた。
@ 計算モデルによる差異が大きいもの
A データセットによる差異が大きいもの
B 活動区間のモデルが複数あるもの
C 過去の地震が発生確率の低い時期に起きたもの
D 予測される次の活動時期に大きな幅が(100年以上)あるもの
 上記のうち@、Dは今後他の断層を評価してゆく過程で、ある程度精度を持ったモデルが得られる可能性が高いと考えられる。A、B、Cに関しては、活断層のトレンチ調査、文献調査等データの充実によって補完される余地はあるが、データの蓄積に時間を要することもあり、あいまい性は消えにくいと考えられる。
 本研究を純粋にアカデミックな目的のみで行うのか、向こう数年の間で防災に役立つ形にするのかで、このあいまい性の取り扱い方は異なってくる。アカデミックな目的のみであれば時間をかけてあいまい性の解決に向けた研究がすすめられるべきであろう。が、防災上の判断に用いるのであれば、あいまい性を包含しながらも目下得られている最良の結果を指標として示さねばならない。そこで、本試案4.5の(2)等にあるように、材料となったデータもしくは得られた確率の「あいまい性=信頼性」評価をA,B,Cもしくは点数等で「格付け」する方法論の検討が求められる。言い換えれば「あいまい性」を残したままで実用に供する際の「使用上の注意」をどう表現するか、ということである。
 (以下略)
 
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
(2)本報告書の位置づけについて:これは研究活動であるのか、行政的目的を持つ行為なのかがあいまいであり、この点に関して位置づけを明確にして頂きたいと思います。それによって本フォーラムへの意見表明の意味が変わると考えます。研究活動であれば、学会等での自由な討議の場にのせるべきであり、このフォーラムも同様の目的で討論を活性化させる場として活用すればよいと考えます。一方、今回の報告書が手法の標準化を主旨とするなど行政的要素を含むとすれば、手法的に現在の段階で固定することはこの分野の発展を阻害することになりかねず、慎重な扱いがなされることを要望します。さもなければ、本報告書で提案されている手法や数値が、本来の意味を離れて一人歩きする懸念を持ちます。
 (以下略)
 
 
 
 地震調査委員会は、地震防災対策特別措置法によって設けられており、同法は地震防災対策の強化をその目的としています。このような設置の目的に照らして、地震調査委員会が行う地震活動の総合的な評価は、地震防災対策に活かされるべきものと考えています。
 このように、長期的な地震発生の可能性の評価は純粋な研究活動ではありません。現時点で最も信頼のおけるデータに対して、現時点で最良と考えられる手法を適用したものを、早期に作成すべきと考えています。その後、調査研究の進展に応じて順次改良していく考えです。なお、評価結果に残る不確実性の程度については十分に説明していきます。
 
 
 
(1.3) さて、短期予知が可能であるという考えにたって、試案の限界を早く認識すべき、という次のような指摘がありました。
 
意見40
氏名:薩谷 泰資
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
1.試案の全体,特に第1章について
 この手法(地震に対する確率的考え方)の限界を早く認識されて,実際に役立つ新しい試案を出されることを期待する。
2.阪神大震災を経験した一人としては,大地震には前兆現象が必ず存在する。
3.私は気温,相対湿度,大気イオン密度の変動および空中電位変化等の組合せにより短期予測が可能だと考えます。(気象学会等で発表ずみ)
4.この手法の装置に関しては特許出願中である。
5. 参考資料として新聞記事を送付する。
 
 
 
 この長期評価は地震の直前予知の研究と対立するものではありません。仮に、直前予知が可能となっても、建築物、構造物等の耐震性能を地震発生の直前に向上できるものではありません。このような観点から、建築物、構造物等の耐震性能の向上をはじめとする地震に強いまちづくり、国土作りのための中・長期的な取り組みに、長期的な地震発生の可能性に関する評価を活用することが出来ると考えます。
 
 以上のように、長期評価部会が確率を用いて長期的な地震発生可能性の評価を行うという試みに対しては、おおむね理解が得られていると考えます。長期評価部会では、地震に強いまちづくり、国土作りのための基礎資料を提供すること等を意図して、地震発生確率評価手法の改良に努めます。
 
 
 
(1.4) また、長期評価の全体の流れの中でこの試案が占める位置について、次のような意見がありました。
 
意見1
氏名:小澤 邦雄
立場:防災関係者
該当個所:「全般」、「はじめに」、表題
 「はじめに」
・・・同部会は長期評価の一環として、平成9年11月に「長期確率評価手法検討分科会」を設置し、プレート境界やプレート内部の弱線である活断層で発生する大地震を、活動間隔・平均ずれ速度・最新活動時期・活動区分等のパラメータを用いて、その長期的な発生可能性を確率という数字で評価する手法を検討した。発生する地震の規模や地震による揺れの最大加速度等を含めた最終的な長期評価のためには、上述の他にも様々なパラメータを取り込む必要があると考えられるが、ここではまず、地震発生の時系列的なところまでを扱うこととした。・・・
意見:
◎ 活断層によるもの以外の地震発生確率について
===「活断層がなくても直下の大地震はおこる」という認識を社会に徹底したほうがよいと考える。(石橋克彦、1998地球惑星科学関連学会合同大会予稿集P314)===という意見もあり、長期的地震発生確率の評価手法の検討において、活断層によるもの以外の地震発生確率は、別途行うのか、長期評価になじまないのか、評価するに値しないのかを明らかにすべきである。別途評価する必要がある場合は、本報告書のtitleも考慮されるべきであろう。
 例えば「活断層による長期的な地震発生確率の評価手法及びその適用例について」というように活断層に基づく評価であることを表示するべきである。
 
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震および関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 不確定性を伴う将来の地震発生に対して確率表現の方法を開発することは基本的に重要です。特に、今後の活断層調査の進展に伴って増加する断層情報を適切に反映する方法が必要とされるという基本認識は全く妥当と考えます。文献18に挙げられているわれわれの研究も同じ理念で始めたものです(まだ研究の基礎的段階ですが)。今回拝見した報告書は、こうした努力の重要な一歩であり、大いに評価したいと思いますが、しかしこれはあくまで一歩であると考えます。この分野が今後健全に発展して行くことを期待する立場から、報告書の趣旨・表現・内容にわたり、十分な議論と検討を要すると考えられる主な事項について、以下に私見を述べさせて頂きます。
 (以下略)
 
 
 
 本試案は、その報告書の「はじめに」において示しましたように、地震調査委員会が最終的に目指す長期的な地震発生可能性の評価の第一段階にあたるものであり、地震発生確率評価手法の完成が目指すべきゴールだとは考えていません。長期評価部会が考えるゴールの一つは、主要活断層の活動間隔等の調査結果、及び地下構造に関する調査結果等に、地震の発生可能性の長期評価手法と強震動予測手法等を適用した「地震動予測地図」とも呼ぶべきものを作成することであり、今回の試案はそのための第一段階です。3節に地震調査委員会における長期評価の考え方を示します。
 なお、意見1の、活断層によるもの以外の地震発生確率ですが、この予測地図の作成に際しては、活断層という痕跡を残していない、規模の小さい地震、深い地震、あるいは大きくても頻度の少ない地震の発生可能性をも考慮する必要があると認識しており、これらも同時に長期評価に取り込むことを考えています。
 
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(2)試案の公開方法に関する意見
 
(2.1) 試案の公開に際して、社会に混乱を与えたのではないかという、次の意見がありました。
 
意見29
氏名:伊藤 秀美
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:はじめに
意見:
 この報告書で発表した試算の数値を見出しに使った報道がなされ、社会に混乱を与えている実態があったことからつぎの意見を提出する。
 当該試案の発表は、長期確率評価手法を検討し、それをとりまとめたものの発表であり、手法の適用結果の発表ではないと理解している。それは適用結果の適切な解釈には専門的な知識が必要であるため、さらに十分な検討が必要と考えるからである。しかし、そのことがこの節に明示されていない。逆に「その手法に基づいて…試算した結果も同時に掲載してある。」とし、試算した結果の利用を促していると誤解を与えている。
 以上のことに配慮して修文の検討をお願いしたい。
 
 
 
 この意見は、地震調査委員会長期評価部会が試案「長期的な地震発生確率の評価手法およびその適用例について」を公開し、意見募集した結果、試案の適用例に記述されている確率の数字を強調した報道がなされたことを指しているものと思われます。今回の試案公表にあたっては、用いたデータは暫定的なものであり、従って結果は予備的なものである旨を、その公表にあたって強調しました。しかし、確率の数字が強調された報道が一部になされたことも事実であり、今後、評価結果の公表の方法、報道関係者への説明ぶり等について、一層の改善を図るとともに、報道関係者の一層の理解と協力を得ていきたいと考えます。
 なお、「社会に混乱を与え」たとのことですが、そのような事実を把握していないので、そう言い切れるかどうか、議論の分かれるところだと思います。
 
 
 
(2.2) また、公表においても、長期評価全体のなかでこの試案の占める位置づけを述べるべきという、次のような意見もありました。
 
意見9
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:
意見:
最終目標のための途中段階であることの宣伝
・概要:今回の試案が地域評価に対する途中段階であることを強くアピールする必要性がある。
・趣旨:今回の試案は,最終的には地震調査研究推進本部が目指す地域ごとに,発生する地震の規模や地震の揺れの最大加速度等を含めた長期確率予測であるとされているので,単に個々の地震の発生確率に左右されることなく,地域に発生する可能性のある地震を総合的に評価していくことを目指していることを,もっとアピールしていくべきと考えられる。
 例えば,中央防災会議においては,南関東地域直下の地震についてある程度切迫性があるとし,震度6相当以上になると推定される地域の範囲が指定されていることを鑑みれば,それを補完するような試案としていくべきと考える。
 また,この試算結果を公表する場合には,防災情報又は安心情報として理解すべき性質のものではない旨の表示を行うなど,誤解を生じさせない措置を必ずとるべきであると考えられる。
 
 
 
 長期評価部会では、こうした意見を参考にして、長期的な地震発生可能性の評価を進めていくという全体の計画の中で、必要とされるどの段階の評価・検討を現在すすめているのかを明確にすることにしたいと考えています。なお、この意見にもあるように、部会試案の中で記述されている計算結果は、あくまでも手法を検討する際に、暫定的なデータを用いて得た予備的な結果であって、この試算結果を防災情報として利用することは適切ではないことを改めて強調しておきます。このような立場を明確にするため、改訂試案の標題は、試案の標題「長期的な地震発生確率の評価手法及びその適用例について」から「及びその適用例」を削除して、「長期的な地震発生確率の評価手法について」としました。
 
 
 
(2.3) 試案の内容は専門的で理解が困難という、次のような意見が防災関係者から寄せられました。
 
意見2(抜粋)
氏名:小澤 邦雄
立場:防災関係者
該当個所:全般、はじめに
意見:
◎地震発生確率の持つ防災情報としての意味について
1)
 本報告で述べられている地震発生確率は、単独で防災情報として利用できないと思われる。少なくとも、都道府県、市町村、ライフライン機関の防災実務担当部門でこれを利用するには、個々のケースの確率数値の意味を検証し、その都度解説をつけなければならない。
 この報告書(試案)が公表された際の報道に対し、「東海地震の今後30年の発生確率は36%」(表4.1)という数値から、「東海地震の発生危険度は意外に低く、地震対策の必要はないのでは」と云う反応が多く寄せられた。
 また、表4.2の東海地震の集積確率38%や各種指標も、われわれ防災業務担当者でも理解するのは難しい。(担当が理解できないものは使えない。)
 従って、地震発生確率を現状のまま公表することは、防災対策推進上からは逆効果となるおそれもあり、現状のままで地震発生確率を公表する場合は、報告書のまえがき等主旨を述べる部分で「防災情報ではなく防災情報を生み出す基礎的情報である」旨明記すべきと考える。
 (以下略)
 
 
意見4
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:第2章 手法、ほか
意見:
評価手法の全体について
・概要:行政等防災関係者にとって手法がわかりにくい。
・趣旨:長期評価手法については,統計学的手法を主体として,非常に専門的で,わかりにくい。したがって,例示を示す等,行政等防災関係者にも分かり易く,理解しやすい書き方としていただきたい。
 また,評価が統計学的手法によるところが多いため,地震学の最近の知見や測地学的アプローチも含めて解説を入れ,分かりやすい説明としていただきたい。
 
 
意見12
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:冊子全般について
意見:
 総体的に難しい数式が多く,行政の立場では本文をめくるだけで終わってしまうのでないだろうか。
 この冊子ではいろいろの統計モデルで検討されているので、かなり複雑な取り扱いが記されています。これらの中で最もよく適合するモデルを用いた場合のみの、地震発生確率を各断層について示して戴きたい。
 
 
意見16
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:表4.1 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における、今後30年以内の地震発生
    確率
意見:
 44ページ 表4.1について
 この冊子全体を熟読すればある程度内容の理解はできますが、将来マスメディアを通して外部(行政サイド、一般人)にいづれは公表することになるものと考えられます。
 理解し納得のいく解説を十分行って戴きたい。
 
 
 
 長期評価部会では、今後、個々の断層に関する確率評価の結果を公表できるようになった場合には、計算結果と併せて、その確率が意味するところをわかりやすく解説し、それぞれの立場にある者が取るべき行動を判断する手助けをすることが必要であると考えています。その際、上の意見を考慮しつつ、防災関係者が長期的な地震発生確率評価手法に用いられている統計学を完全には理解していなくても、算出された確率の意味は理解できるように、事務局において解説を加えてもらいました(この報告書末尾の付録を参照)。なお、確率と必要な対策との関係は個々の事例毎に異なると考えられます。防災関係者においても確率の数字の意味を理解して、確率の大きさに応じた、事例毎に最も適切な対策を検討していただきたいと思います。
 
 
 
(2.4) さて、試案は地震発生確率の評価手法に関するものでしたが、現時点では、長期的な地震発生確率が公表された場合に、そうした形の情報を利用できる準備が整っていないとして、次のような批判的な意見がありました。
 
意見2(抜粋)
氏名:小澤 邦雄
立場:防災関係者
該当個所:全般、「はじめに」
意見:
◎地震発生確率の持つ防災情報としての意味について
1)
 本報告で述べられている地震発生確率は、単独で防災情報として利用できないと思われる。少なくとも、都道府県、市町村、ライフライン機関の防災実務担当部門でこれを利用するには、個々のケースの確率数値の意味を検証し、その都度解説をつけなければならない。
 この報告書(試案)が公表された際の報道に対し、「東海地震の今後30年の発生確率は36%」(表4.1)という数値から、「東海地震の発生危険度は意外に低く、地震対策の必要はないのでは」と云う反応が多く寄せられた。
 また、表4.2の東海地震の集積確率38%や各種指標も、われわれ防災業務担当者でも理解するのは難しい。(担当が理解できないものは使えない。)
 従って、地震発生確率を現状のまま公表することは、防災対策推進上からは逆効果となるおそれもあり、現状のままで地震発生確率を公表する場合は、報告書のまえがき等主旨を述べる部分で「防災情報ではなく防災情報を生み出す基礎的情報である」旨明記すべきと考える。
 (以下略)
 
 
意見11
氏名:望月 一範
立場:防災関係者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ、4.3 発生確率の時間変化
意見:
 長期的な地震発生確率評価による結果については、それを行政や市民における具体的な防災対策、防災行動に繋がるように活用することが必要であるため、確率の数値を定量的に示すのみではなく、数値の持つ意味を定性的な解説としてあわせて発表することや、他の地域との比較や過去の被害地震との比較に関する情報もあわせて発表するなど、情報内容及び情報の活用方策についての検討を進めるべきであり、その検討を経ないで本試案による手法を用いることは防災対策上の意義が乏しいと考える
 試案4.3においては、さまざまな指標が提案されているが、数値の持つ意味が防災行政の担当者や市民に理解が得られやすく、かつ、安心情報としてのみ受け取られることのないよう、情報内容、提供方法について、さらに検討する必要がある。
 その際、国や地方公共団体の防災関係機関の意見が十分に踏まえられる検討体制が講じられることを期待する。
 
 
意見27
氏名:石川 裕
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:表4.1 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における、今後30年以内の地震発生
    確率
意見:
 「過去の地震発生時点での確率値が小さいことが示す手法やパラメータの問題点と長期評価部会の立場について」
 表4.1によれば、過去の地震発生時点での発生確率の値は、阿寺6.5%、丹那2.8%、跡津川1.4%、長野10.8%、野島4〜9%といずれも低い数字である。サンプル数が少ないためこの結果のみで判断するのは適当ではないかもしれないが、大きな確率を有するサンプルがないということは、活断層で発生する地震の時系列を単純に更新過程でモデル化すること、および試算で用いたパラメータの信頼性をより深く吟味する必要があることを示唆していると言えよう。
 すなわち、活断層で発生する地震の発生確率の評価に関しては、未だ多くの研究を積み上げていかねばならない問題であり、地震調査研究推進本部という公的な機関が、単なる今回の検討のみで(他のモデルの検証を抜きにして)、評価手法を標準化し、あたかもコンセンサスが得られたかのごとく確率値を公表するのは時期尚早であると考える。
 
 
意見28
氏名:石川 裕
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:表4.2 断層の活動を注意喚起するための指標
意見:
 「評価結果を表現する指標について」
 牛伏寺断層の結果を見ても明らかなように、要注意と言われていてもそもそも30年程度の短い期間での地震の発生確率は小さな数値にしかならない。したがって、地震に対する備えを喚起させることを目的とするならば、確率を生の値で公表することは全くの逆効果であり、止めた方がよい。
 一般に、多くの人の意識では、天気予報の降水確率で傘が必要と考える値は30〜40%と聞く。したがって、それ以下の確率値に対しては、「そういうこと(地震)は起こらない」と解釈してしまうことになる。
 そこで、確率を何らかの形で変換した指標を用いて地震の危険度を表現すべきということになり、その例が表4.2に示されている。
 しかし、ここでは、同表に示されている以外の指標として、「現在より30年後の時点での集積確率(%)を10の単位に丸めたもの」を提案する。これは表4.2の指標(3)の評価時点を現在ではなく、30年後とするもので、前回の地震発生時点から見て、30年後までに地震が発生しているはずの確率になる。なお、有効数字はたかだか1桁であろうから、公表の際に2桁目以下まで示すことに意味はない。
 過去の地震発生時点での値(表4.2)を見ると、この値が10以上の場合には今後30年以内に地震発生の可能性があるということになるが、モデルやパラメータの信頼性を上げることにより、より大きな数値が閾値となることを望むものである。
 
 
意見30
氏名:伊藤 秀美
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
 この報告書で発表した試算の数値を見出しに使った報道がなされ、社会に混乱を与えている実態があったことからつぎの意見を提出する。
 いろいろな活断層について計算された30年発生確率の数値を相互に比較して、確率30%の活断層は確率10%の活断層よりも3倍、地震を起こしやすいと、単純に解釈されてしまったことから本報告書のまとめ方に何らかの問題があったと思われる。
 この節は、確率の数値評価のうち統計的な信頼性のみを扱っている。確率の値を解釈するには、単に統計的な数値の信頼性だけではなく、利用者の側に立った説明も必要である。特に地震という災害に結びつく現象の発生に係わる確率ではこのことが重要である。
 従って、この節に、確率を利用者がどのように利用できるかの検討が十分できておらず今後の課題となっている旨、盛り込んで欲しい。
 
 
意見32(抜粋)
氏名:大竹 政和
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
2.今後の評価の実施に当たっては,次の点に考慮する必要がある。
 (中略)
(3)評価結果の公表に当たっては,これが,ある地点が大きな地震動に遭遇する確率ではないことを周知徹底する必要がある。今回の「宮城県沖」の試算結果についても,地元のマスメディア関係等では,仙台ないし宮城県が1978年宮城県沖地震級の震害を受ける確率と誤解する者が多数あった。
 (以下略)
 
 
意見43(抜粋)
氏名:武村 雅之
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 長期的な地震発生確率の評価についての報告書を拝見いたしました。大変意欲的な試みであり、現状の学問レベルでの一定の到達点を示されていること高く評価いたします。
 地震発生確率評価は言うまでもなく、来るべき地震に対し、如何に効率的に震災予防対策を施すか、また大地震が近づきつつあると判定された地域の住民の防災意識の向上を如何に高めるかという目的に利用されるべきものであります。
 その意味では、結果の発表の仕方については、その効果を最大限に発揮できるように慎重に考える必要があると思います。つまり、高確率で地震発生が予測された地域の行政や住民がいかなる対策を立てれば良いか(逆に低確率の場合はどうか)、大げさに言えば、行政や住民の震災予防への行動規範のようなものを先に準備しておく必要があるのではないでしょうか。
 (以下略)
 
 
意見49
氏名:井澗 陽平
立場:一般住民、その他
該当個所:主に4.2確率の数値評価のまとめ
意見:
 地震の長期的な発生可能性を、確率という客観的な数字で評価しようという試みは大変すばらしいことだと思います。
 45ページに書いてあることに、「判断が誤った場合に重要な影響がある案件は有意水準を小さな値を取って、極端な場合は可能性が0でない以上対策を取っておくという判断もある」ということがありました。1930年の北伊豆地震の時など、かなり低い確率の時にも発生することが考えられるからでしょう。
 しかし、可能性が0でない以上対策を取るというのであれば、この評価手法の結果に一般住民はどの程度利用できるのでしょうか。この手法では過去に繰り返し地震があった所のデータを用いるので、当然いつかはまたその場所で地震が起こることでしょう。ということは可能性が0ということはありえない。
 また防災上必要なのは、判断が誤った場合に重要な影響が出るほどの地震ではないのでしょうか。判断が誤ってもたいして被害が出ないならば、あまり防災的な対策は必要ではないでしょう。
 このままの試案では、一般住民は確率が低ければ安全とみなすでしょう。それに対する対策(例えば警報を出すなど)が必要だと思います。 
 
 
 
 長期的な地震発生確率の情報の利用について十分な検討ができておらず、そのためには防災関係機関の意見が十分に踏まえられる検討体制が必要との認識はあります。このため、中央防災会議と地震調査研究推進本部の政策委員会及び地震調査委員会の間で情報交換を行う場を設けるなど、地震防災対策を行う側からの要請を地震調査研究に反映させるように、地震防災対策と地震調査研究のより一層緊密な連携の具体的なあり方を検討する考えです。
 
 
 
(2.5) これらの批判的な意見とは反対の、次のような意見もありました。
 
意見31(抜粋)
氏名:入江 さやか
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 はじめに、貴部会が「試案」という形で本調査に対し広く一般の意見を求められた点について評価したい。先般の「余震確率評価」に比べ不確実性が高く、その反面社会的影響は大きく、扱いにくい課題ではあるが、今後の地震防災の拡充にはこのようなオープンな議論が不可欠である。
 (以下略)
 
 
意見32(抜粋)
氏名:大竹 政和
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
1.統計的な手法による地震発生確率の長期的評価は,最近の各種調査研究の進展により,かなりの程度客観的な基礎を有するに至った。長期評価部会の積極的な取り組みに敬意を表する。地震防災対策への貢献の見地から,今後,可能な場所から全国的な規模で評価を実施し,その成果を公表して行くべきである。
 (以下略)
 
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
(7)確率の算出結果に関する評価:30年確率が低いことをもって安心情報とすべきではないなど、算出された確率の低さをどう考えるかについて若干とまどいを思わせる議論がなされていますが、このようなタイムスパンでは内陸活断層による地震発生確率が低い値になるのは当然予想されるところです。重要なのは、低い確率であってもいざ発生すると大きな影響を及ぼすという「低頻度巨大災害」として正面から受け止める議論を行うことと考えます。これは災害リスク評価の問題であり、防災論的に十分な討論の土俵に乗せるべきものです。本研究の結果の活用法についてこうした議論が必要であること、そのための基本資料として本研究を役立てるべきことなどをぜひ提言して頂きたいと思います。これにより、必要な分野が連携して社会の防災力向上に資するよう連携・協力する場が育つことが期待されます。
 (以下略)
 
 
 
 地震防災対策特別措置法に定められている地震調査委員会の役割は、地震に関する調査結果等を収集、整理、分析し、これに基づいて、総合的な評価を行うことです。また、同法で定められた地震調査研究推進本部の事務として、評価に基づく広報が掲げられています。さらに、同法は地震防災対策の強化をその目的としています。これらを勘案して、地震調査委員会では、地震に関する観測、測量、調査又は研究の結果等から科学的に評価できる事項については積極的に評価し、その評価結果は、国民一般や防災機関等が地震災害の軽減に結びつく行動を取るための基礎的情報として公表していくべきだと考えています。従って、できるだけ分かりやすく利用しやすい形での説明に努めることは当然として、社会に不安をおこすかもしれない評価結果をいたずらに公表していく考えはありませんが、対策が整うまでは公表しないという立場はとりません。
 また、地震調査委員会では、直ちに情報を利用できる環境が整っていなくとも、最終的に地震による被害を被る可能性のある国民一般にはその可能性が伝えられるべきであると考え、さらに、前述のような解説を通じた分かりやすい説明を行うことにより、情報の受け取り手が災害リスクを評価して、必要な行動をある程度は判断できるものと考えています。
 
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(3)適用例に用いたデータに関する意見
 
(3.1) 試案で使用した歴史地震の発生年月日の表記について、次のような意見がありました。
 
意見36
氏名:小山 真人
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1.1 南海トラフ沿いの巨大地震
意見:
 1582年以前の地震の日付がグレゴリオ暦で表記されていますが,1582年の改暦以前に起きた地震や火山噴火の日付を,グレゴリオ暦のみで表記する国はほとんどありません.日本だけで行われている特異な慣習とも言えます.
 巨大地震の揺れや津波は国境をやすやすと越えますから,今後の国際協力による事件同士の対比などの研究の進展をはかるために,1582年の改暦以前については世界標準であるユリウス暦表記に改めてほしいと思います.
 なお,統計計算そのものには,天文学や測地学で使われているユリウス通日を用いた方が便利だし,日数計算上の誤りが生じにくいと思います.
 この問題のより詳しい説明については以下のサイトをご覧下さい.
http://www.ipcs.shizuoka.ac.jp/~edmkoya/koyomi98/koyomi98.html
 
 
意見45
氏名:早川 由紀夫 
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1 プレート間地震
意見:
 試案では地震の発生月日を1582年以前もグレゴリオ暦で表記しています.1582年10月に(人為的に)行われたユリウス暦からグレゴリオ暦への改暦のために西洋史ではそこに10日間の欠落(不連続)が存在します.1582年以前もグレゴリオ暦で表記することでこの欠落(不連続)は回避できるので,試案でそうなさったことは理解可能です.しかし1582年以前の月日は,国際的には,ユリウス暦で表記するのが慣例ですから,グレゴリオ暦を用いたという断り書きをどこかに入れるのがよいと思います.
 また,西暦には0年がありません.西暦1年の前の年は紀元前1年です.ですから,BCとAD をまたいでいる年数を平均するときには注意が必要です.具体的に言うと表3.16などで0.5年の計算違いが発生しています.(議論には影響ありませんが,西暦には0年がないことが看過されていることが問題だと思いました)
 天文学の分野で用いられているユリウス通日(Julian Day)を用いれば,上のような煩雑を簡単に回避できるでしょう.
 グレゴリオ暦・ユリウス暦・ユリウス通日の換算には以下のサイトが役に立つかもしれません.
http://www.genealogy.org/~scottlee/calconvert.cgi
 
 
 
 改訂試案では西暦に0年がないことを考慮にいれて、再計算しました。この際、地震発生時の「年」未満のデータは、使用してもしなくても確率の値にはほとんど影響しないことを確認したうえ、「0.1年」刻みに丸めたデータを使用することにしたため、用いる暦の問題はなくなりました。
 この他にも、使用した個々の地震に関するデータに関して、質の向上のための調査の必要性、史料記述の整合性や取り扱い方法などの問題点や具体的な疑義が、粟田泰夫(意見22、26)、入江さやか(意見31)、大竹政和(意見32)、小山真人(意見35、37、38、39)、塩原俊郎(意見41)、早川由紀夫(意見46、47)の各氏からも示されました。試案に対する意見募集の際に記述したとおり、今回は手法の検討が主題でしたので、地震発生年等のデータは吟味が十分でない場合があります。つまり、既存の研究で得られた内容をそのまま引用しています。しかし、これらは将来の研究の進展によって改善される可能性があるものです。このようなことから、試案に記載されているデータは暫定的なものであるという立場をとっています。そのデータにもとづいて得られた結果は予備的なものです、とも述べてあります。意見で寄せられたデータに対する具体的な疑義は、後日検討します(次項参照)。
 
 
 
(3.2) 用いるデータセットの違いによる結果の違いについては、次のような具体的な指摘もありました。
 
意見32(抜粋)
氏名:大竹 政和
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
2.今後の評価の実施に当たっては,次の点に考慮する必要がある。
 (中略)
(2)使用するデータセットについては,個々の事例ごとにより慎重に検討する必要がある。例えば,「宮城県沖」の評価に用いたデータセットには,別紙に示すように幾つかの疑問点がある。別のデータセット(別紙参照)からは,今後30年以内に「宮城県沖」地震が発生する条件付き確率は,対数正規分布モデルで約70%となる。
 (以下略)
 
 
 
 このように、データが異なると計算結果に違いが生じ、場合によっては重要な違いを生じる可能性もあります。これについて、次のような「あいまい性」が指摘されています。
 
 
 
意見31(抜粋)
氏名:入江 さやか
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
本試案の適用結果からは数タイプの「あいまい性」が読み取れた。
@ 計算モデルによる差異が大きいもの
A データセットによる差異が大きいもの
B 活動区間のモデルが複数あるもの
C 過去の地震が発生確率の低い時期に起きたもの
D 予測される次の活動時期に大きな幅が(100年以上)あるもの
 上記のうち@、Dは今後他の断層を評価してゆく過程で、ある程度精度を持ったモデルが得られる可能性が高いと考えられる。A、B、Cに関しては、活断層のトレンチ調査、文献調査等データの充実によって補完される余地はあるが、データの蓄積に時間を要することもあり、あいまい性は消えにくいと考えられる。
 (以下略)
 
 
 
 これは、前述の「地震動予測地図」の適用限界(データに起因する信頼限界)にもかかわる問題であり、今後はデータの質も十分検討することが必要であると考えています。同時に、同予測地図が出来上がった場合には、利用者に対してその限界を十分に説明する必要があるとも考えています。
 
 以上のように、過去の地震活動を評価する手法をより一層発展させることが、長期的な地震発生確率の評価をすすめる上で、重要な課題であります。このため、長期評価部会では、陸域および沿岸海域の主要な活断層について、活断層の詳細な位置及び形状、当該断層が活動した場合に想定される地震の規模とその際の強震動分布、当該断層の過去の活動履歴および平均活動間隔に関する情報を明らかにする目的で、過去の資料等を含めた調査検討も併せて進めようとしています。海溝型の地震についても同様です。意見で寄せられたデータに対する具体的な疑義は、その際に検討します。
 
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(4)長期評価の手法に関する意見
 
(4.1) 統計モデルについては次のような意見がありました。
 
意見21(抜粋)
氏名:荒木春視
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:第4章 まとめと今後の課題
意見:
1.妥当な統計モデルに関して
 「4つのモデルに特に差異が見られないのであれば、直感的に理解しやすい対数正規分布を用いることが妥当」との文言に疑問がある。実際に統計を取ってみると対数正規分布になるのであれば、確かに妥当であろう。特に差異が見られないのは、データ数が増えても同じなのか。そこが疑問である。私の経験では、自然科学の種々の分野で数百を越えるデータを扱う機会が多かったが、不思議に対数正規分布を示す。結論は正しいと思うだけに、過程が間違っていれば、論理が崩れ、科学的結論とは言い難い。期待と信頼の損なわれる事を危惧するものである。
 (以下略)
 
 
意見27
氏名:石川 裕
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:表4.1 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における、今後30年以内の地震発生
    確率
意見:
 「過去の地震発生時点での確率値が小さいことが示す手法やパラメータの問題点と長期評価部会の立場について」
 表4.1によれば、過去の地震発生時点での発生確率の値は、阿寺6.5%、丹那2.8%、跡津川1.4%、長野10.8%、野島4〜9%といずれも低い数字である。サンプル数が少ないためこの結果のみで判断するのは適当ではないかもしれないが、大きな確率を有するサンプルがないということは、活断層で発生する地震の時系列を単純に更新過程でモデル化すること、および試算で用いたパラメータの信頼性をより深く吟味する必要があることを示唆していると言えよう。
 すなわち、活断層で発生する地震の発生確率の評価に関しては、未だ多くの研究を積み上げていかねばならない問題であり、地震調査研究推進本部という公的な機関が、単なる今回の検討のみで(他のモデルの検証を抜きにして)、評価手法を標準化し、あたかもコンセンサスが得られたかのごとく確率値を公表するのは時期尚早であると考える。
 
 
意見32(抜粋)
氏名:大竹 政和
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
2.今後の評価の実施に当たっては,次の点に考慮する必要がある。
(1)使用する統計モデルは,対数正規分布に固定することなく,さらに多数の事例解析を進めつつ適切なモデルを採用することが望ましい。
 (以下略)
 
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
(2)本報告書の位置づけについて:これは研究活動であるのか、行政的目的を持つ行為なのかがあいまいであり、この点に関して位置づけを明確にして頂きたいと思います。それによって本フォーラムへの意見表明の意味が変わると考えます。研究活動であれば、学会等での自由な討議の場にのせるべきであり、このフォーラムも同様の目的で討論を活性化させる場として活用すればよいと考えます。一方、今回の報告書が手法の標準化を主旨とするなど行政的要素を含むとすれば、手法的に現在の段階で固定することはこの分野の発展を阻害することになりかねず、慎重な扱いがなされることを要望します。さもなければ、本報告書で提案されている手法や数値が、本来の意味を離れて一人歩きする懸念を持ちます。
 (以下略)
 
 
 
 更新過程で適用すべき統計モデルの比較検討にあたっては、最尤法により各分布のパラメータを決定して、AICという情報量規準を比較し、「ポアソン過程は不適切なモデルであるが、対数正規モデルを含む4つの統計モデルは現時点では優劣つけがたい」という結論を得て、試案に記述しています。長期評価部会ではこの4つの中では、直感的に理解が容易で、パラメータも馴染みが深い平均や標準偏差という統計量と簡単な関係にある対数正規モデルを選びました。このようなモデル選択過程に対して、上のような指摘もありました。長期評価部会では、前述のように、陸域および沿岸域の主要な活断層等についての評価を進めています。信頼できるデータセットが多く揃った段階では、統計モデルの再比較をする必要がありますが、その結果、更新過程で用いる統計モデルとして、対数正規モデルより有意に優れたものが見つかる可能性も残されていますので、現時点で手法を固定することは考えていません。しかしながら、当面は更新過程に対数正規分布モデルを採用していきたいと考えています。
 
 
 
(4.2) 試案で更新過程の確率モデルに採用した対数正規分布は、平均活動間隔を大きく過ぎると発生確率が下がり始めるという性質に対して、次のような意見がありました。
 
意見5
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:4.1 妥当な統計モデル
意見:
42頁 経過年数に対する30年確率の増減について
・概要:発生間隔を越えた場合の確率の減少は奇異に感じる。
・趣旨:評価手法で用いている,対数正規分布によると,発生間隔のおよそ2倍程度の期間が経った場合には,30年発生確率が減少しており,普通の感覚では発生間隔をこえた場合,ますます高い確率になるように考えられるので,一般的感覚では奇異に感じる。
 例えば,歪みが徐々に蓄えられている予想震源域に対して,発生間隔の2倍の時期から確率が減っていくのは疑問がある。
 
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
(5)地震発生間隔の確率モデルについて:対数正規分布モデルによる30年間の地震発生確率が100%に達しないという結論は実際の現象に対する感覚と合致せず、腑に落ちません。報告書からは、特定断層における地震の発生間隔の確率分布を対数正規分布にしたことによる結果と理解されますが、モデルの「くせ」でこうなっているに過ぎないのであれば、現実認識をミスリードする恐れがあり、対数正規モデルそのものを再検討するべきではないでしょうか。こうした上限値があることの物理的合理性が示されるのであれば、その議論が展開されるべきと考えます。確率論的には、分布モデルによるこのような差異は、図4.1に示されているような「分布の裾」のところで起こっている問題であり、これまで構造信頼性理論の重要課題として多くの検討と工夫がなされてきた課題です。この点に関して系統的な検討を行うことは、本研究においても避けて通れない未解決の問題と考えます。実は、文献18でも地震発生間隔について対数正規分布モデルを用いており、同じ問題を抱えています。すなわち、これは我々自身の問題でもあります。
 (以下略)
 
 
 
 地震発生の繰り返し間隔を説明する4つの更新過程のモデルに有意な差は見つけられませんでした。このため、どのモデルが最適かを的確に判断するためには、精度の良いデータの蓄積を待つ必要があると考えています。4つのモデルのうち、対数正規分布モデルは直感的に理解しやすく、そのパラメータも馴染みが深い平均や標準偏差という統計量と簡単な関係にあります。単にこうした理由から、最適なモデルを確定できるまでの当面の間は、対数正規分布モデルを使っていく考えです。
 一方、対数正規分布モデルには、上の意見が指摘しているような、平均活動間隔の2倍程度の時間を過ぎると確率が下がり始めるという、奇異に感じられる性質があります。しかし、この点はモデルの適用限界を越えているためと考えられます。というのは、対数正規分布で確率が下がり始める時点での集積確率(すでに地震が発生していてしかるべき確率)は、標準偏差σに0.23を用いると、ほとんど100%になり(30年確率が下がり始めるの時点での集積確率は、平均活動間隔が1,000年の場合、99.995%)、これはとりもなおさず、モデルの端の、主要でない部分を議論していることになるからです。
 なお、試案4.1節末尾でも述べられていることで今後の詳しい検討が必要ですが、対数正規分布モデルには、次のような望ましい性質がある可能性があります。それは、対数正規分布は他の3つの分布と比べて、分布の裾の部分における減衰が緩いのですが、一般に、そういう分布は異常なデータがあっても安定したパラメータが得られやすいという傾向があります。ここで扱っているデータの場合、未発見の地震活動があるために、発生間隔が異常に長いデータが含まれることも起こり得ると考えられます。こうした場合でも安定した統計パラメータが得られるというのは、この分布のもつ特長になるでしょう。但し、この点についてはシミュレーションなどによって確認することが必要です。
 
 
 
(4.3) 対数正規分布で用いるばらつきσについては、以下の意見がありました。
 
意見24
氏名:粟田泰夫 
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.1 妥当な統計モデル
意見:
 陸域活断層の活動間隔のばらつきについて.
例としてあげられた,阿寺,丹那,跡津川,長野西縁を比べて見ますと,イベント年代が高精度で推定されているものほど,σが小さくなる傾向がはっきりと認められます.たとえば,阿寺断層では5つのデータによるσ=0.28(阿寺1)が,精度の悪いもの一つを除くだけでσ=0.07(阿寺2)と1/4になってしまいます.また,長野西縁,跡津川,阿寺(阿寺2)と,個々のイベントの年代推定精度が上がるにつれてσが0.25,0.16,0.07と小さくなります.
 この傾向について,何らかの評価なり今後の見通しができないでしょうか.たとえば,試案では共通σ=0.23が使われていますが,データ精度が上がれば,この共通σはずっと小さなものになる可能性があるのではないでしょうか.
 
 
意見25
氏名:粟田泰夫 
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.1 妥当な統計モデル、4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
 陸域活断層の共通σ(0.23)
 陸域の幾つかの断層では,イベント発生時の推定に,推定年代区間の「中央値」が使われています.しかし,この「中央値」は統計上の意味がありませんので,「中央値」を用いて帰納的にばらつきを評価するには精度上の問題があると考えます.
 たとえば,阿寺断層ではもっとも古いイベントの推定年代区間が極端に広いことから,この一つのデータを含めるか,除くかで,阿寺断層のσが0.28(阿寺1)から0.07(阿寺2)まで変化してしまいます.また共通σも,含めた場合には0.23,除いた場合には0.19となります.したがって,共通σとして有効数字2桁を扱うのは,精度上大きな問題があります.データが一つ加わる毎に変更しなければならないような不安定な数値を用いるよりは,共通σ=0.2として1桁精度にとどめるのが適当と考えます.今回の試案であげられたデータセットの中で,正確かつ高精度のものは,南海地域の2もしくは5のみであって,それらのσは0.18,0.20です.これを考慮すれば,プレート間地震,陸域活断層を問わず,共通σ=0.2を用いるが妥当ではないでしょうか.
 
 
意見33
氏名:奥村 俊彦
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 発生間隔のばらつきに関して
 図1.1(p.2)のフローでは、最新の1回のイベントのみが確認されている場合にも、発生間隔のばらつきとして「平均的な値」を用いるようになっていますが、UとVから推定される平均発生間隔のばらつきと、多数のイベントが確認されている場合に推定されるばらつきとで同じ値を用いることが妥当でしょうか?
 また、陸域の活断層に関する適用例の中で、幅で推定されている発生年の中央値を用いた試算がされています。ところが、p.29に示されている長野盆地西縁断層のように過去のイベントの発生年の推定幅はきわめて大きい場合があり、これを中央値で代表させてしまうと、推定幅が存在することによるばらつき(の一部)が考慮されない、すなわち、ばらつきを過小に評価することになるように思います。
 報告書4章の4.5(2)では、確率の数値の信頼度を間接的に表現するための方策として、データの信頼度を表すような指標について言及されています。これは、上記のような事項への対応策の一つと考えられますが、一旦結果が数値として出されてしまうと、付記されている信頼度が軽視され、結果のみが一人歩きすることになるのではないかと危惧します。したがって、結果と信頼度を別々に評価するのではなく、結果の数値(確率)の算定に際して、データの信頼度を含めた評価が必要ではないかと考えます。
 
 
 
 試案では、各断層で共通のばらつきσ=0.23という値を用いることが適切であるとの暫定的な結論を出しています。試案の4.1節で「今後も発表されるであろうデータを用いて検討を続けていくことが必要である」と述べているのは、陸域の活断層でのばらつきについては、上で指摘をいただいた点を含めて検討すべき課題が残されているという認識を示すものです。
 
 
 
(4.4) ばらつきσの適用については、次のような意見もあります。
 
意見33(抜粋)
氏名:奥村 俊彦
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:発生間隔のばらつきに関して
意見:
 図1.1(p.2)のフローでは、最新の1回のイベントのみが確認されている場合にも、発生間隔のばらつきとして「平均的な値」を用いるようになっていますが、UとVから推定される平均発生間隔のばらつきと、多数のイベントが確認されている場合に推定されるばらつきとで同じ値を用いることが妥当でしょうか
 (以下略)
 
 
 
 個々の断層が固有のばらつきを持つ、という考えと、各断層は共通のばらつきを持つ、という考えはいずれが妥当かについて、4.1節でAICを用いて検証しています。その結果、今後も検討を続けていくことが必要だとはしながらも、後者(各断層は共通のばらつきを持つという考え)が現実的であると結論づけています。意見33で述べられている部分については、断層自身が有するばらつきの他に、UとVを推定した時のばらつきも考慮に入れる必要があることは事実です。
 
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(5)その他の試案の記述内容全般に関する意見
 
(5.1) 試案の付録に掲載した確率の表について、次の意見がありました。
 
意見23
氏名:粟田泰夫 
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:付録B 対数正規分布の確率一覧表
意見:
 基盤的調査研究対象の活断層では,再来間隔が5000年を越え,1万年,3万年と言う断層もわかっていています.このような長い再来間隔についても確率一覧表を示していただければ,地震防災や,活断層の調査計画に大いに役立つと思います.
 火災による全焼確率は100年で3%ですので再来間隔は100年確率が1〜3%を越える範囲について,また経過時間は再来間隔の2倍程度までについて,一覧表があれば便利です.
 
 
 
 意見を受けて、改訂試案に図B.1及び図B.2を追加しました。
 
 
 
(5.2) 断層の活動を注意喚起するための指標として、次の指標が提案されています。
 
意見28(抜粋)
氏名:石川 裕
立場:地震および関連分野の研究者、技術者
該当個所:「評価結果を表現する指標について」(報告書50ページ 表4.2)
意見:
 (中略)
 そこで、確率を何らかの形で変換した指標を用いて地震の危険度を表現すべきということになり、その例が表4.2に示されている。
 しかし、ここでは、同表に示されている以外の指標として、「現在より30年後の時点での集積確率(%)を10の単位に丸めたもの」を提案する。これは表4.2の指標(3)の評価時点を現在ではなく、30年後とするもので、前回の地震発生時点から見て、30年後までに地震が発生しているはずの確率になる。なお、有効数字はたかだか1桁であろうから、公表の際に2桁目以下まで示すことに意味はない。
 (以下略)
 
 
 
 ご提案の指標は、平均活動間隔の長い断層では現在時点における集積確率とほとんど差がなく、また、それの短い断層では今後30年間の発生確率と似た傾向を示す値になります。従って、試案で提案したいくつかの指標と、いくらかは重複することになります。しかしながら、興味ある提案ですので今後の検討において新しい指標の候補にいれておきたいと思います。
 
 
 
(5.3) 確率の試算結果に対して、次のような意見等がありました。
 
意見6
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
44頁 確率評価の適用例について
・概要:南関東地震の評価をするべきである。
・趣旨:主なプレート間地震について,評価の適用例を示しているが,本調査が最終的には,防災行政の資料とするものであることを考慮すると,首都圏の重要性を鑑みれば南関東地震について評価するべきと考えられる。
 中央防災会議においても,今後100年か200年先には発生すると報告されており,整合を図るべきと考えられる。
 
 
意見7
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
44頁 確率評価の適用例について
・概要:東海地震の30年確率が低い。
・趣旨:明日起こっても不思議でないとされ,法律も施行されている東海地震の30年確率が,36%というのはいかがなものか。
 評価手法による限界と考えられるが,多くの防災関係者が努力している地震対策への取組みに対して,ブレーキになるような位置づけになるように受け取られるので,最近の地震学の知見,測地学的観測結果,東海地震判定会会長の私的シナリオとの兼ね合い等総合的に確率を判定するべきと考えられる。
 手法の限界ということであれば,東海地震という特に防災上重要な地震については,単純に今回の評価手法のみを使用することは再考するべきではないか。
 
 
意見10
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:B.1 地震発生確率一覧表
意見:
61頁 神縄・国府津−松田断層帯の30年確率について
・概要:3.5%の発生確率は防災対策をするべきか困惑する。
・趣旨:今回の試案による評価手法をとった場合,神縄・国府津ー松田断層帯の30年確率は,3.5%であった。
 一般的感覚からすれば,プレート境界上の断層が同様の確率であれば時間的余裕があると考えるのが素直である。しかし,陸域の断層については,発生間隔が長期(数千年)となるため,確率が高くならないので,この確率でも可能性が高いものと受け取るべきと説明されても,にわかに理解することが不可能である。
 発生間隔の過ぎている場合なので,単純に30年確率をとるより,累積確率と今後30年確率の和で表現していくほうが,切迫性をよりアピールすることができ,感覚とも一致するのではないか。
 または,意見8に示した意見のようにランク分けした指標を示していくことを望む。
 
 
 
 首都圏直下を震源とする大地震の長期的な発生確率は、試案の更新過程の適用例として試算できるほどの地震活動履歴が知られていません。また、「東海地震」については、これまでおおよそ170年間隔で繰り返し発生してきたが、前回の1854年から140年以上経過している、という最も単純な仮定にもとづいた結果です。神縄・国府津−松田断層帯は、おおよその活動間隔は3千年程度、最新の活動は約3千年前、として計算した結果です。試案には現時点で科学的に評価できる最大限の内容が盛り込まれているのです。
 なお、長期評価のためには、意見7のように、最近の地震学の知見とともに、地球物理学的な観測結果等をも取り込んだモデルをたてることは基本的に重要なことです。これは将来の課題ととらえています。
 
 
 
(5.4) 地震発生確率を防災情報として活用するために、防災関係者から、ランク化してはどうかという提案が寄せられています。
 
意見2(抜粋)
氏名:小澤 邦雄
立場:防災関係者
該当個所:全般、「はじめに」
意見:
◎地震発生確率の持つ防災情報としての意味について
 (中略)
2)
 地震発生確率を防災情報として活用するためには、これを更に発展をさせ、例えば次のようなA,B,Cの3ランクに区分して示すなどの工夫が必要と考える。
 Aランク:数年オーダーで、緊急に震災対策が必要な地震
 Bランク:数十年オーダーの中・長期的に震災対策を講じる必要のある地震
 Cランク:緊急の震災対策は必要としないが、長期的には考慮すべき地震
また、地震規模情報を震度に変換し、いわゆる「河角マップ」の現代版作成も防災関係者が望んでいるところであろう。
 
 
意見8
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:表4.2 断層の活動を注意喚起するための指標
意見:
50頁 断層の活動を注意喚起するための指標について
・概要:指標のランク化を実施するべきではないか。
・趣旨:地震発生の切迫性を評価する手法として,今回の評価手法による確率の算出は分かりにくく,50頁の指標についても,印象としてストレートに理解しがたい。
 指標については,最終的には数値によることにこだわることなく,例えばA〜Dランクのようなものにし,
 Aランク:早急に地震防災対策に取り組むべきもの
 Bランク:中期的に地震防災対策を取り組むべきもの
 Cランク:長期的に地震防災対策を取り組むべきもの
 Dランク:当分の間は発生の考えられないもの
といった指標を,成果として出していくことを要望する。
 
 
意見17
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:4.5 長期確率評価によって得られる確率の数値の理解に向けて
意見:
 (2)の確率の信頼度について
 海域の地震と陸域の地震とでは発生間隔はもちろんそのバラツキも大いに異なるにもかかわらず、得られた地震発生確率の値(例えば表4.1)をそのままう呑みにする危険性がある。
 このため暫定的なデータとはいえ現時点で得られた最適の成果を,より効果あらしめるため表4.2の指標も考慮しながら,確率の数値そのものではなく海域は海域(例えばA〜D),陸域は陸域(例えばA’〜D’)というような4段階くらいのランク付けで表現したらいかがでしょうか。
 
 
意見43(抜粋)
氏名:武村 雅之
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
 我々の身近なところでは、同種のものとして天気予報がありますが、降水確率を聞いた時、我々は傘という雨を防ぐ手段をもっているから、情報に興味をもちまた役立てることができるのだと思います。
 もし仮に、国は地震発生確率、あとは地域の行政や住民まかせということであれば、適切な傘を持たない行政や住民には地震に対する無力感やあきらめが広がってしまうだけというおそれもあり、それこそ震災予防にとって由々しき事態であると思います。予想される地震が発生した時にいかなる揺れが来て、どのような被害が予想されるか、それに対しどのような対策をたてるかということも視野にいれた情報の提供が望まれると思います。現状、地方自治体毎にバラバラに立てられている地域防災計画の見直しや地震発生確率に関する情報とのリンク、さらに住民への正確な知識や情報の伝達等、多くの課題を解決する必要があると思います。
 
 
 
 一定の考え方のもとにランク付けすることは不可能ではありませんが、仮にランク付けをしても、単にそれだけで利用者が正しく理解できるわけではありませんので、前述のようにできるだけ分かりやすい説明を行い、確率的な考え方を含めて理解していただくように努めたいと考えています。
 なお、これらの意見のように、ランク付けをして、そのランクに応じた対応策を講じることはもちろん重要なことです。防災関係者が、確率の数値をどのような具体的な行動に結びつけるべきかということを検討する際には協力を惜しみません。このため、中央防災会議と地震調査研究推進本部の政策委員会及び地震調査委員会の間で情報交換を行う場を設けるなど、地震防災対策を行う側からの要請を地震調査研究に反映させるように、地震防災対策と地震調査研究のより一層緊密な連携の具体的なあり方を検討する考えです。
 
 
 
(5.5) 確率の値を判断に利用する際に、小さい確率でも注意すべき、という記述に次の賛成意見が寄せられています。
 
意見34(抜粋)
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
 (中略)
(7)確率の算出結果に関する評価:30年確率が低いことをもって安心情報とすべきではないなど、算出された確率の低さをどう考えるかについて若干とまどいを思わせる議論がなされていますが、このようなタイムスパンでは内陸活断層による地震発生確率が低い値になるのは当然予想されるところです。重要なのは、低い確率であってもいざ発生すると大きな影響を及ぼすという「低頻度巨大災害」として正面から受け止める議論を行うことと考えます。これは災害リスク評価の問題であり、防災論的に十分な討論の土俵に乗せるべきものです。本研究の結果の活用法についてこうした議論が必要であること、そのための基本資料として本研究を役立てるべきことなどをぜひ提言して頂きたいと思います。これにより、必要な分野が連携して社会の防災力向上に資するよう連携・協力する場が育つことが期待されます。
 (以下略)
 
 
意見48
氏名:早川 由紀夫 
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.5 長期確率評価によって得られる確率の数値の理解に向けて
意見:
 試案の54ページ「判断への利用」に,有意水準5%あるいは1%にこだわらずにもっと小さくても注意すべきだということが書かれていますが,賛成です.
 多数回試行される事象なら5%あるいは1%あたりが経済的にペイするかどうかなどの基準になるでしょうが,地震の場合は,ヒトの一生に一回起こるか起こらないかのまれな(そしていったん起こるときわめて破壊的な)事象を取り扱います.1/1000や1/10000の確率が議論されるのがむしろ当然だと思います.
 
 
 
 ここで取り扱った確率の数字は、それを評価する期間の長短に応じて大小する(4.2節)ことも大事な性質ですので申し添えます。
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