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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 開設からの10年と今後のE-ディフェンスが目指す方向

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)秋号)

東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測プロジェクト

 文部科学省が所管する防災科学技術研究所の実大三次元破壊実験施設(愛称:E−ディフェンス)は、運用を開始した平成17年度から平成25年度までに66課題の大規模実験を実施している(図1)。兵庫県三木市の三木総合防災公園内の敷地に建設されたこの施設には、県内からの一般見学者を含め、毎年5000名前後の方々が訪れており、地域にも施設の存在感が浸透してきた。震動台の規模は、水平2方向と鉛直方向の地震の動きを同時に再現する三次元振動台として世界一を誇り、ギネスにも登録された。実験成果の幅広い活用を目指し、防災科学技術研究所が主体の実験と共同実験のデータについては、基本的に公開するルールとしている。

図1 E−ディフェンス全景図

図1 E−ディフェンス全景図

 E−ディフェンス建設の当初の目的は、構造物の破壊過程の解明にある。阪神・淡路大震災で倒壊・損傷した木造住宅、道路橋脚、鉄筋コンクリート建物、鉄骨建物などについて、実大の試験体を用いた加震実験を行い、破壊に至る数値データ、映像データの取得と共に、地震防災に貢献する様々な知見の取得に努めてきた。これらには、対策技術の実証実験のデータも含まれおり、報告書、論文等を介して数多くの学術的な成果を創出している。年を経る毎に研究の目的も徐々に変化し、将来に想定される直下地震や海溝型地震への対策へその矛先が向けられてきた。また、研究内容では、耐震技術に加え、施設の機能維持や居室内の安全対策、耐震性能評価のためのモニタリング技術等が加わった(図2)。

図2 高層ビルの耐震性能評価のためのモニタリング技術開発の実験(文部科学省実施)

図2 高層ビルの耐震性能評価のための
モニタリング技術開発の実験(文部科学省実施)

 この10年の具体的な成果について幾つかを紹介する。平成18年度から20年度と平成22度の超高層建物と医療施設の室内地震対策に係る研究では、長周期地震動を受ける超高層建物や医療施設の室内被害の様相を模擬する実験を行い、高層建物実験では、東京都・新潟県・静岡県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県・徳島県・福岡県が企画・作成した「次の巨大地震に備える. 高層ビル室内安全ブック」に採用される成果となった(図3)。また、医療施設の実験の成果をまとめた「病院スタッフのための地震対策ハンドブック」は、全国1000以上の病院に配布し、ベッドの固定化等の対策で活用されている(図4)。日本磁気共鳴医学会によるMR検査室の防災に関する指針の策定にも貢献した。平成22年度に兵庫県と共同で実施した木造校舎の研究では、耐震補強技術が確立していない大規模木造構造物へ適用する補強技術の提案と実証を行った。この技術は、篠山市立八上小学校木造校舎の耐震補強工事に適用されるなど、地震防災に直結する成果となった。さらに、平成25年度に実施した、体育館の試験体による耐震実験では、東日本大震災で発生した天井の脱落被害メカニズムの解明と、脱落対策を施した天井の検証を実施した(図5)。その成果の一部は、文部科学省の学校管理者向け事例集「屋内運動場等の天井等落下防止対策事例集」に掲載され(図6)、学校施設の耐震化促進の一助をなすものと期待される。国の施策に関わる実験では、国土交通省の基準整備促進事業の一環となる施設貸与実験と共同実験を行った。将来の長周期地震へ向けた基準整備のための建築構造物と免震装置のデータ取得が行われ、将来の基準整備に活用されると考える。また、施設の民間活用では、ハウスメーカー数社へ施設貸与を行い、センター職員により加振・計測等を支援することで、各社の技術開発と実証に貢献した。それらの成果は、各社住宅に反映され販売も行われている。

図3 高層ビル室内安全ブックの表紙(左)図4 地震対策ハンドブックの表紙(右)

図3 高層ビル室内安全ブックの表紙(左)
図4 地震対策ハンドブックの表紙(右)

図5 体育館試験体の天井落下実験

図5 体育館試験体の天井落下実験

図6 屋内運動場等の天井等落下防止対策事例集の掲載頁

図6 屋内運動場等の天井等落下防止対策事例集の掲載頁

 この巨大な施設では、実験過程での安全対応に加え、施設内の機器と付帯設備には細心の注意を配した維持・管理が必要となる。このため、法定点検の他に、普段の管理にも多大な時間と人的資源を要している。関係者らの尽力により、着実にこれまでの実験を完遂しており、これに伴う施設の無事故記録は120万時間に達成した。現在もその記録を更新中である。今年度は、これまでの実験により摩耗した震動台の継ぎ手の交換を行っているところである。更に安全で継続的な施設運用を行うためには、10年使用を続けた、主に電子機器とソフトで構成される、震動台の制御系を更新する必要がある。
 E−ディフェンスの機能の高度化では、平成24年度の施設整備にて、東日本大震災で観測された海溝型の地震波による加振も可能とする機能強化を施した。東日本大震災では、特に、高層建物、免震構造、地盤、居室内の地震対策等において検討すべき入力地震の課題が浮き彫りとなった。特に、地震に含まれる長周期の成分により、東京や大阪の高層ビルが長時間揺れ続け、居室内でも家具什器の転倒などによる被害が多数発生した。構造物の耐震化が進む中で、将来の巨大地震へ如何に備えるかが大きな課題であり、このE−ディフェンスの機能強化を活かした、速やかな実戦(社会還元)につながる研究が、国民に多大な貢献をもたらすと考えられる。
 防災・減災の「実戦研究」こそ、今後のE−ディフェンスが目指す方向である。地域の現場ニーズを尊重し国民に直結する地震・防災研究の推進を基軸とし、日本および世界の耐震工学・防災教育の拠点を志向する。そのために、将来の巨大地震が危惧される地域の拠点と産官学連携を推進・強化して、地震対策へのニーズを捕らえ、速やかな社会還元を行う道筋を持って実験・研究を進めなくてはならない。更に、この連携を全国に拡大し、相乗的な研究推進と成果展開を教育現場・海外機関を含め実戦していく。その一環が、平成26年9月29日に神戸大学と結んだ連携協定である。
 更に、E−ディフェンスは、未来の「地震フリー」である社会の実現を目指し、将来の実験・研究構想として、「人の行動を含めた地震防災・減災への行動規範の立案」、「構造物動特性変動のリアルタイム解析技術の立案」、 「地震入力の高度低減と不感技術の立案」、「確実な減災を導く巨大メカニカル構造の立案」、「高度数理解析による都市安全性の評価技術の立案」、「高層建物など長大構造物からの確実な避難技術の立案」等を、各種工学を含む横断的な学術分野の知見を融合して検討していく。

梶原 浩一(かじわら・こういち)

著者の写真

(独)防災科学技術研究所減災実験研究領域長・兵庫耐震工学研究センター長・総括主任研究員。東北大学大学院博士前期課程修了後、民間会社を経て、防災科学技術研究所に異動。振動制御技術の研究にて博士(工学)(東京大学)。振動台と構造物の制御技術、構造物の地震応答データの解析技術について研究中。センター運営の傍ら、自治体との共同研究や地域防災の委員活動にも従事。

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)秋号)

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