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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト その2

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)2月号)

はじめに

 文部科学省が、平成24年度から5年計画で「地震防災研究戦略プロジェクト」の委託事業として進めている「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」の内、サブプロジェクト1(首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究)について紹介します。本サブプロジェクトでは、構造物の大規模シミュレーション数値解析に基づいて、都市の詳細な地震被害評価技術を開発して災害軽減策の検討に役立たせることを目標としています。従来の被害予測の手法では、過去の地震被害の調査に基づいて揺れの強さと建物倒壊率等の被害の程度を結び付ける経験則(損傷度曲線:フラジリティ曲線)を求めて被害を予測していました。しかし、建築物の高さや構造、築年代によって同じ揺れに対して異なる被害が発生するため、データのばらつきが大きいのが現実です。そこで、計算機の中に現実の建物の高さや構造などを考慮した都市の建物数値モデルを作り、仮想的な首都圏の建物を揺らして被害を評価する新しい手法を開発することにしました。そのためには、大地震とそれによる地震動を科学的に予測する必要もあります。

2011.3.11後の首都圏の地震活動

 まず、このサブプロジェクトでは、次に首都圏で発生する大地震がどのような姿(地震規模、地震発生頻度、発生場所)なのかを明らかにします。このために、「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」(平成19年度から平成23年度)によって整備された約300箇所の観測点からなる首都圏地震観測網(MeSO-net)を維持してそのデータを収集しています。2011年東北地方太平洋沖地震では、首都圏でも強い揺れに見まわれ、MeSO-netによって将来の大地震を考える上で貴重なデータが得られ、両振幅60cmを越える変位に相当する強い揺れが記録されました。(図1)。
 東北地方太平洋沖地震の発生後、日本列島の力のバランスは大きく変化し、各地で地震活動が活発になりました。首都圏もその一つです(図2)。東北地方太平洋沖地震の関東の地震活動への影響を定量的に調べるには、地震観測・地下構造探査に基づく弾性体のモデルと、現実的なレオロジーモデルに基づく粘弾性モデルを作る必要があります。このモデル化には岩石学的な考察も必要です。最終的には、MeSO-netで観測された地震活動を再現できる弾性・粘弾性モデルを開発します。

図1.MeSO-netで観測された2011年東北地方太平洋沖地震の揺れ。
計測震度相当値をカラーで示した。6+:茨城南部・北部、
6-:茨城県中部、千葉県北西部、埼玉県南部、5+:東京都中部、
千葉県北東部・南部、埼玉県北部、神奈川県道部

図2

図2 関東地方の地震活動の変化。棒グラフは地震数。線は積算数。 

過去の関東の地震像の解明

 首都圏に影響する将来の大地震の姿を明らかにするためには、明治時代以降の計器によって観測された地震の研究だけでは不十分です。幸い、我が国には数百年間にわたる書かれた記録(歴史記録)が残っています。この資料や、さらに古い地質記録を使うことによって、初めて首都圏の地震像に迫ることができます。例えば、江戸時代に発生した1703年元禄関東地震や1855年安政江戸地震の歴史記録を収集して、史料の信頼性の検討を行うことで、明治時代から約100年程度の期間の記録だけでは分からない長期間の地震活動の歴史見えてきます(図3)。確実な歴史資料から復元された被害分布を用いて震度分布を推定した後には、さらに、地震発生場所や規模を推定する必要があります。このために、MeSO-netデータで調査された現在の地下構造や減衰構造(Q)を利用します(図4)。現在のデータを調べると、震源の真上(震央)が必ずしも最も揺れが大きい場所でないことがあります。つまり歴史記録から揺れが一番大きい場所の下で地震が起きたわけではない場合があるのです。こうして江戸時代から現代までの地震活動が明らかになると、統計地震学的手法によって将来の地震活動を予測することもできるのです。

図3

図3.1600年以降1703年元禄地震までに関東及びその周辺で発生した顕著地震。
この17の地震を歴史文献学的に精査している。

図4


図4.MeSO-netのデータによって明らかにされた関東の下のQpの分布。
(a) 深さ30kmのQp分布の平面図、 (b) (a)図のA-B断面のQp分布。
千葉県西部に低速度、高減衰域がある。

現代の首都圏をコンピューターに再現

 新しい都市の地震被害評価技術を開発するために、広域都市数値モデルを構築して都市の地盤と構造物の揺れを計算する手法を開発しています(図5)。これは非常に大規模なシミュレーションの手法です。数値モデルによる計算とMeSO-net等の観測データを融合させた,都市の地震被害評価技術を開発することが本サブプロジェクトの大きな目標です。建物シミュレーションの精度を向上させるためには、地盤−基礎−建物系の相互作用を調べる必要があり、サブプロジェクト②と有機的に連携してデータの収集・蓄積を行っています。また、シミュレーションの結果は、サブプロジェクト③と連携して、災害対応能力の向上方策の検討に役立たせます。
 そのために、地震動・地震応答の大規模数値解析手法を開発し、さらに、その大規模数値解析結果の先端可視化技術を開発しています。例えば、首都圏の約100万棟の建物の数値モデルを地図データ等から自動的に作り出す技術や、それらの建物が揺れる様子を可視化技術する技術が必要です。100万棟規模の首都圏スケールから一棟一棟のスケールまで(マルチスケール)、自由な角度からの視線で見ること(3次元視)ができる技術が開発されつつあります。

図5


図5.地下から伝播する地震波が都市の建物を揺らす大規模シミュレーションの概念図

まとめ

 2011年東北地方太平洋沖地震の後に活発になった地震活動の発生の仕組みを理解することは、次の首都圏の大地震の姿を予測するために重要です。このために、約300観測点からなる首都圏地震観測網(MeSO-net)のデータを解析して、さらに明治時代以前の地震活動を歴史資料や地質資料から復元しています。これらの古いデータの解析には、MeSO-netデータによる現在の首都圏下の地震波や減衰構造が利用されています。将来の首都圏の地震像が得られると、首都圏にある約100万棟の建物がどのように揺れるかを大規模計算によって明らかにできます。さらに、首都圏の被害予測を大規模計算によって実施する手法が開発されつつあります。

平田 直 (ひらた・なおし) 平田 直 (ひらた・なおし)
国立大学法人東京大学地震研究所・教授

1978年東京大学理学部地球物理学科卒。1982年同大学大学院地球物理学博士課程退学。理学博士。
同大学理学部助手、カリフォルニア大学ロサンゼルス校研究員、千葉大学理学部助教授、東京大学地震研究所助教授を経て、1998年より現職。前地震研究所長。科学技術・学術審議会委員。

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)2月号)

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