パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 北海道から千島列島沖で発生した過去の海溝型巨大地震の震源過程解明

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)8月号)





 北海道大学大学院理学研究院地震火山研究観測センターは、平成19年度から文部科学省受託研究「根室沖等の地震に関する調査研究」を実施してきました。
研究内容は、古い津波波形記録や地震記録さらには津波堆積物調査結果を用いて、北海道から千島列島沖で過去に発生してきた巨大地震の震源過程を解明し、この地域でどのような巨大地震が発生してきたかを明らかにすることです。北海道や千島列島では地震や津波の被害が文献に残された歴史は浅く、過去の巨大地震の震源過程の理解が進んでいません。今回、津波波形解析により1918年千島巨大地震の震源域を推定し、また1963年択捉島沖巨大地震のすべり量分布の推定を行うことで、2006年中千島巨大地震の震源域との関係が明らかになりました。また、津波堆積物調査結果からは色丹島での巨大津波イベントを明らかにすることができました。


 千島列島沿いでは過去に多くの巨大地震が発生してきました。最近では2006年11月15日に中千島沖でプレート境界型巨大地震(Mw8.2)が発生し、その地震により励起された津波は太平洋を伝搬し、広く太平洋沿岸の海底津波計や検潮所で観測されました。2か月後の2007年1月13日には海溝よりのアウターライズで正断層型巨大地震(Mw8.1)も発生しました。過去にこの地域では1963年択捉島沖巨大地震や1918年千島沖巨大地震が発生していました。本研究では、まずこれらの過去の巨大地震の震源過程を太平洋沿岸の検潮所で記録された津波波形を用いて推定するため、ロシア・アメリカ・日本で保存されていた津波波形記録をできる限り多く収集し、津波波形解析に向けたデジタル化を行ってきました。また、千島列島周辺の海底地形データも収集し津波数値計算に用いるためそれらのデジタル化も進めてきました。それらのデータを使用して1963年択捉島沖巨大地震のすべり量分布を推定しました。推定するために用いた観測津波波形は合計22 記録で、8 地点が日本、4 地点がロシア、9 地点がハワイ諸島やアリューシャン列島を含む太平洋の島々で観測されたものです(図1,図2)。
津波波形インバージョンにより推定された1963年択捉島沖地震のすべり量分布は図3に示すように、設定した領域の比較的海溝寄りに分布し、最大2.8m のすべりがあったことが分かりました。またこの地震のすべり域は2006年中千島地震の震源域の南西側に接するようにあることも分かりました(図3)。つまり1963年択捉島沖地震と2006年中千島地震の間に空白域は存在しないことが明確に示されました。さらに過去にはこの地域で1918年千島巨大地震も発生しています。この地震による津波は日本では父島と銚子、他にホノルルとサンフランシスコの検潮所で観測されていました。津波数値計算による波形解析から1918年の震源域は1963年択捉島沖地震の震源域よりも2006年中千島地震の震源域に近いことが分かりました。
  



 北海道から千島列島沿いに発生する巨大地震による古地震調査を実施するためには、北海道太平洋沿岸だけでなく、国後島や色丹島での津波堆積物調査が欠かせません。そのため本研究では北方四島交流事業の一環として国後島と色丹島で津波堆積物調査を実施してきました。さらにサハリンやウラジオストックの研究者と共同で調査研究を実施してきました(写真)。国後島でのピートサンプラ—による地質調査では、北海道起源の火山灰(樽前a、駒ケ岳c2、摩周b、樽前c、摩周d1等)が広く分布し、津波堆積物の年代を決める鍵層となることが分かりました(図4)。次に色丹島太平洋沿岸イシネモリでの調査では過去約3,000年間の泥炭層中に最大7層の砂層が確認されました。そのうちの2層は比較的内陸まで分布しており津波堆積物の可能性が高いことが分かってきました。さらに北海道太平洋沿岸の泥炭地でも詳細な津波堆積物調査を実施し、約3,000年間に7 回の津波の痕跡を確認しました(図5)。この地域では400〜500年に一度の頻度で巨大津波の来襲を受けたことになります。

      


 津波波形を利用した過去の巨大地震の震源過程解析により、1918年千島巨大地震、1963年択捉島沖巨大地震と2006年中千島巨大地震の関係が明らかになりました。今後1963年択捉島沖地震の最大余震(津波地震と呼ばれている)や1958年択捉島沖地震の震源過程も推定し、それら巨大地震の発生様式を明らかにしていく予定です。津波堆積物調査研究では色丹島での巨大津波の頻度が分かってきました。今後、北海道沿岸の津波イベントとの比較を実施する予定です。

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)8月号)

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する