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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. ひずみ集中帯の解明を目指して

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)3月号)





 東北日本の日本海沿岸部には、「ひずみ集中帯」と呼ばれる領域が広がり、そこには活断層や活かっ褶しゅう曲きょくなどの活構造が数多く存
在し、たびたび大きな被害をもたらす地震が発生します。そのため文部科学省では、ひずみ集中帯の活構造の全体像を明らかにし、震源断層モデルを構築することにより、ひずみ集中帯で発生する地震の規模の予測、発生時期の長期評価、強震動評価の高度化に資することを目的とした研究プロジェクトを平成20年度から開始しました。

 ひずみ集中帯に存在する活断層の形状を詳しく把握するためには、人工的に地震波を放射し、地下から反射して地表に戻ってくる波を観測して、地層の食い違いなどから活断層を割り出すという手法がよく用いられます。これを、陸域と海域および海陸を統合して大規模に実施することにより、複数の断層面の形状を解明することが可能です。この手法では、ほぼ一直線に地震計や人工震源を配置し、その測線に沿った2次元断面とし地下構造をイメージングしますが、活断層の広がりを知るためには、3次元的に調査を行う必要があります。その
ため、稠密(ちゅうみつ)な地震観測網を展開し自然地震を観測して、地震の波の伝わる速さやエネルギーの伝えにくさの分布パターンを3 次元的に明らかにし、断層の広がりやひずみ集中の原因を探るための地下構造を調べます。陸では新潟県とその周辺に300台、海では自己浮上型とケーブル式の海底地震計を用いた観測を実施しています。
また、地形や地質の分析から、活断層が地表に現われる正確な位置を求めるとともに、活断層周囲の地層年代から、断層のずれ動く速度や地震の発生間隔を割り出します。さらに、稠密なGPS 地殻変動観測の結果もあわせて、以上の研究成果を総合して得られた震源断層モデルを基に、そこで地震が発生した場合における地震動の強さが計算されます。このとき、震源断層の大きさに対してどのような地震動が放出されるか、あるいは地盤の柔らかさなどは、地表面での揺れに大きな影響を与えますので、それらについても調査研究を進めます。最終的に計算された結果と、実際に過去に発生した地震の震度分布を歴史資料などに基づいて詳細に推定した結果と比較し、構築したモデルの妥当性を検証します。


 すでに2か年が経過し、各種調査研究も順調に進められていますが、ここでは特に、2つの測線で実施された大規模な地殻構造探査とその関連調査結果について紹介します。
 平成20年度は新潟県域において、弥彦沖から三条を経て越後山脈に至る63kmの区間で海陸統合探査を実施し、越後平野東縁断層帯の位置から東に25度の角度で傾斜する断層が深さ7kmまで追跡されました( 図1)。この付近では、1828 年に越後三条地震が発生しています。これまで、三条地震の震央は越後平野の東部に推定されていましたが、越後平野の下には対応する明瞭な活断層を見出せず、また、本プロジェクトのサブテーマのひとつである古地震調査による震度分布の研究から、丘陵部でも震度5 以上の領域が存在することが明らかにされたことから、東傾斜の越後平野東縁断層が三条地震を引き起こしたと推定されます。強震動のサブテーマにおいてこの震源断層モデルを用いて簡便法に基づいた強震動計算を行ったところ、歴史資料から推定された震度分布と調和的な結果が得られました。
 また、平成21年度は会津から佐渡沖に至る全長約340kmの測線において、海域と陸域を統合した構造調査を実施しました( 図2)。この調査では、陸域のダイナマイト発破による震動を陸だけでなく海底に設置した地震計でも、また海域で発震したエアガンの信号を陸域に展開した地震計でも相互に観測します。データ量が膨大なため、解析は継続して行っていますが、これまでの結果としては、本測線上に分布する月岡断層・新津背斜東翼の断層・角田−弥彦断層・佐渡島東縁の活断層の形状が明らかになったとともに、日本海からひずみ集中帯までの地殻構造の変化を捉えることができました。
 一方、新潟県域を中心として300か所に展開した地震観測装置から回収した、約1 年間の観測データに基づいた3次元トモグラフィー解析(CT スキャン)によって、詳細な地下のイメージングが可能となりました(図3)。その結果、厚い堆積層に起因する地震波速度の低速度異常域が存在することや、速度境界と活断層の位置がほぼ関連していることを示すことができました。
これらの結果を組み合わせることで、震源断層の広がりを推定することが可能であると期待されます。

図1 三条—弥彦沖測線で得られた反射法地震探査断面(上)と速度構造断面(下)
活断層である弥彦山地の東麓の長岡平野西縁断層帯と越後平野東縁断層の深部形状が明らかになった。越後平野断層帯は伏在活断層となっている。この断層は1828年文政越後三条地震を引き起こした震源断層の有力な候補である。
(平成20年度「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」成果報告書より)


図2 会津—佐渡沖の海陸統合地殻構造探査測線
(平成21年度「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」成果報告書より)


 本プロジェクトでは、東北日本の日本海側の地域及び日本海東縁部に存在するひずみ集中帯内の震源断層モデルを構築するだけでなく、ひずみが集中するメカニズムそのものを解明することも、大きな目的のひとつです。そのため、日本全国の主な火山など、ひずみ集中が顕著な地域、具体的には北海道石狩低地帯、樽前山、山形庄内地域、岩手山、草津白根山、御嶽山、琵琶湖西岸断層帯、九州桜島、霧島山、阿蘇山、別府島原地溝帯などにおいて、電気比抵抗調査、地震観測、GPS、重力、地球化学的観測等を実施しており、すでに流体の存在と地震波速度との関連が得られるなど、ひずみ集中に影響を及ぼす構造が明らかにされつつあります。

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)3月号)

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