パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画の成果


 南海トラフでは歴史的に繰り返し海溝型巨大地震が発生し、津波とともに甚大な被害を及ぼしてきました。地震調査研究推進本部は、今後30年以内の発生確率は東南海地震で60〜70%、南海地震で50〜60%と評価しています。(確率の算定基準日は2009年1月1日)
 この地震を引き起こす断層は、プレート境界断層とともにそこから分岐した断層であるとの推定が、反射法地震探査による研究と、過去の地震・津波の記録による逆解法※1によってなされてきました。
 統合国際深海掘削計画(IODP ※2)・南海トラフ地震発生帯掘削計画※3は、この地震発生断層を地球深部探査船「ちきゅう」(図1)によって直接掘削し、地震準備・発生過程を解明する他、孔内の連続観測を実施することにより、来るべき東南海、南海地震の発生に備
えるというものです。
 その第1ステージは、断層を含めて海底下の浅い部分を掘削し、活動の全貌と現在の状態を把握する事を目的として実施されました(図2)。
 第316次研究航海は、断層近傍から直接試料を回収することにより、分岐断層※4の起源と歴史を解明することをその目的の一つとしました。


 反射法地震探査によって得られている地下の構造により、掘削目標地点と深度を選定しました。
 掘削によって回収された堆積物、堆積岩について、海底の崩壊によって形成されたもの、静的に沈殿した泥質堆積物、混濁流によって移動し堆積したもの、火山灰などを特定しました。また、堆積物全体の鉱物組成について分析し、それらに含まれるナノプランク
トンなどの化石により時代を特定しました。さらに堆積物が堆積する際に獲得する堆積残留磁気の測定と、地磁気の逆転史の比較により、時代をより正確に絞り込みました。
 これらの結果を、反射法地震探査によって得られている、地質の構造の形成と断層の活動の歴史に組み込み、活動時期を決め、活動の度合いを定量化し、評価しました(図3)。




 堆積物と堆積岩の年代決定の結果より、分岐断層の活動の開始は195万年前まで遡る事が判明しました。
また鉱物組成分析、とくに炭酸塩である方解石※5含有率測定の結果、当初の深度は炭酸塩補償深度※6(4000m程度)より深く、海溝の近傍であったと推定されます。
 また当初の変位速度は大きいものでしたが、一旦変位速度が落ち、155万年前ほどから再び活発化し、急速に隆起したことも判明しました。この過程でほぼ現在の状態に近づいたと推定できます。地震・津波発生断層として機能しはじめたのはこの時以降と推察されます。
 124万年前以降は、分岐断層は海底直下の浅い部分ではより分岐し、現在に至っていることが明らかとなりました(図4)。




 本成果は、これまでの南海トラフの断層と地震活動の歴史を大きく塗り替えるものであると同時に、この分岐断層が今後の東南海、南海地震においても活動することを強く示唆しています。断層そのものの詳細な研究は継続中であり、また、第2ステージ南海トラフ地震発生帯掘削計画では、この分岐断層に孔内観測装置設置のための準備が行われました。
 来年度以降実施予定の第3ステージでは、分岐断層の深部、地震発生領域まで掘削予定です。南海トラフにおいて、「ちきゅう」超深度掘削により海溝型巨大地震発生断層における準備・発生過程の解明に迫る計画は、前人未到の研究計画であり、その成果の社会的還元も大きく期待されるところです。

※ 1 逆解法 陸上における地震と海岸部での津波の記録から、逆にそれらを説明しうる断層面の上でのすべりを推定し、破壊領域の範囲とすべり量を見積もる方法。
※ 2 統合国際深海掘削計画(IODP) 日本・米国が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、ニュージーランドの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。
※ 3 「南海トラフ地震発生帯掘削計画」では、プレート境界断層および津波発生要因と考えられている巨大分岐断層を掘削し、地質試料(コア・サンプル)の採取や掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界断層内における非地震性すべり面から地震性すべり面への推移及び南海トラフにおける地震・津波発生過程を明らかにすることを目的としている。本計画は、全体として4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する予定。第1 ステージは平成19 年9月21日から平成20年2月5日まで実施した。
※ 4 分岐断層 プレート境界から分岐する断層で、地震発生帯の一部を構成する。巨大地震発生時の破壊領域の一部となり、海底に到達した部分は津波を起こす原因になると考えられている。
※ 5 方解石 鉱物の一種でCaCO3 の化学組成を持つ。石灰岩の主要構成鉱物である。
※ 6 炭酸塩補償深度 炭酸塩である炭酸カルシウムからなるプランクトンの殻は、死後マリンスノーとして海底へ落下していくが、落下に際し、殻は表面から海水中に徐々に溶解して行く。完全に溶解によって消失してしまう深度を炭酸塩補償深度という。その深度は、海面付近でのプランクトン生産量と海水の温度圧力、海水中のイオン濃度によって異なるが、日本近傍ではだいたい4000m以上である。
文献:Strasser, M., Moore. F. G., Kimura, G., Kitamura, Y., Kopf. A., Lallemant, S., Park, J.-O., Screaton J.E., Su, X., Underwood, B.M. and Zhao, X., Origin and evolution of a splay fault in the Nankai accretionary wedge, Nature Geoscience, 2, 648-652, doi:10.1038/NGE0609, 2009

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する