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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 地震計測のためのマイクロセンサに応用

 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術とは、半導体の製作技術として開発されてきた、フォトリソグラフィー、エッチング、レーザ加工等の微細加工技術を用いて、さまざまな微小機械(マイクロマシン)や微小センサ(マイクロセンサ)を製作する技術です。本技術により、シリコン基板上にμm(1ミリの1000分の1)以下の精度で微小な構造体を作成することが可能になりました。また、MEMS技術によれば、一枚のシリコン基板上に数百個以上の製品を同時に製作することができるので、品質の均一化やコストの低減を図ることができます。

 このような特徴を有するMEMS技術を地震計の製作に応用すると、超小型かつ安価なセンサを多数開発できることに加え、新たな原理に基づくセンサも製作できるため、これまでにない様々な特徴を有する地震計測を行うことが可能になります。例えば、都市の住宅密集地域に超小口径の坑井(ウルトラスリムホール)を掘削し多数の地震計を埋設設置することや、通信用光ファイバケーブルに地震計を組み込み全国規模の地震モニタリングを行うこと、火山のような危険地域で「使い捨て地震計」として使用すること、建築物の施工時に地震計を埋め込み地盤の振動を利用して経年変化や健全性のモニタリングを行うことなどが考えられます。MEMS技術によるマイクロセンサはすでに自動車のエアバックやゲーム機などに組み込まれていますが、地震計測のためには、これらのセンサに比べて非常に性能が優れたマイクロ振動センサを開発する必要があります。


 東北大学大学院環境科学研究科では1990年代後半から「地下マイクロセンシングプロジェクト」を実施し、様々なマイクロ地震計/振動センサの研究開発を行ってきました。図1は本プロジェクトを通じて開発された「容量型マイクロ加速度センサ」の外観(図1-a)と構造図(図1- b)です。このセンサは、厚さ200μmのシリコン基板上にMEMS技術により製作された振動子を2枚のガラスでサンドイッチ状に挟んだ構造をしています。このセンサに振動が加わると、振動子とガラス板の間の微小な隙間(数μm)の大きさが変化するので、それをガラス板上の電極で検出し、電気信号として出力します。このセンサは、一般的に地震観測に使われているセンサの数万分の1以下の体積ですが、同等の感度、周波数特性を有しています。通常、このようなセンサの特性は、振動を検出する振動子の材質、構造によって決定しますが、本マイクロセンサでは振動子とガラス板の間の隙間が非常に小さいため、ここに存在する空気の影響も強く受けます。すなわち隙間の空気は振動子の運動を妨げるダンパー、および分子の運動による雑音源として振舞い、センサの性能に大きく影響するので、設計時には、このことも十分考慮する必要があります。このマイクロ加速度センサと電子回路を組み込んだ坑井内計測用ゾンデは単二型乾電池2本分くらいの大きさで、重さも数十グラムです(図2)。このため、クレーンやウインチを用いずに坑井内への設置を簡単に行うことができ、また、軽量であるため地盤への固定状況(カップリング)も良好であり、地盤の振動を正確に検出できます。

 通信用等に用いられているレーザ光 は太陽光と違い、波長が単一で位相がそろった(コヒーレント)な性質を有しています。この性質を利用して光ファイバマイクロ地震計を製作することも可能です。図3は筆者らが作成した「光干渉型マイクロハイドロフォン」です。本センサは水中を伝搬する弾性波を検出することができるので、水中あるいは坑井内地震計として使用することができます。このセンサは光ファ
イバの先端に振動子を取り付けた構造になっており、振動子と光ファイバ端面との距離をレーザ光の干渉により検出します。地震動により水中の音圧が変化すると、振動子とファイバ端面との距離が変化するので、干渉パターンの変化として、それを検出することができます。また、このセンサには静水圧をキャンセルする微細機構が組み込まれているので、水深によらず、同じ性能で地震動を検出することができます。一方、光ファイバ自体もレーザ加工を施すことにより、地震計として利用することが可能です。これはFBG(Fiber Bragg Grating)という原理に基づくもので、光ファイバに高出力のレーザを照射し、光ファイバの屈折率を部位により周期的に変化させることにより、特定の波長のレーザ光のみを反射する性質を持たせたものです。
この部分に振動が加わると、振動の大きさに比例して反射する光の波長が変化するので、地震動を検出することができます。1本の光ファイバ内に、反射波長が異なるFBGを幾つも製作することにより、複数地点での地震動検出を1本のファイバで行うこともできます。


 総合基本施策の策定から約10年間が経過し、我が国の地震調査研究を取り巻く環境は変化してきています。例えば、この10年間でも大きな被害を伴った地震が幾つか発生し、長周期地震動による構造物等への影響や、ひずみ集中帯や海底活断層で発生する地震の存
在が強く国民に認知されるようになりました。また、インドネシアのスマトラ島沖で発生した地震・津波災害や中国四川省で発生した地震災害によって、地震多発国である我が国においても甚大な被害が発生する危険性があることを改めて認識させられました。


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