【布引山地東縁断層帯に関する調査】
活断層調査から推定される地震の規模と時期を知る
布引山地東縁断層帯は、三重県中部に位置し、災害対策の中枢機能の多くが集中する県庁所在地(津市)に極めて隣接する唯一の断層帯です。松田(1990)によれば、確実度はT〜U、活動度はB級の活断層帯であり、断層長27km、ML=7.2の主要起震断層と位置づけられています(MLは、断層長Lkmの活断層から発生し得る地震の最大マグニチュードを示す)。
今回、調査を実施した地域では、従来、活断層が活動したことにより大規模な地震が発生したことを示した記録もなく、活断層の活動履歴などについては、十分わかっていませんでした。そのため、活断層の位置を詳しく調べ、活動履歴や活動範囲、活動した場合の地震の規模などを調べることを目的としました。
今回の調査は、亀山市から、関町、芸濃町、安濃町、美里村、津市を抜け、久居市に至る布引山地の東麓を対象地域として行いました。調査対象地域の全域で既存資料調査、地形・地質調査を行い、亀山市、芸濃町、津市、久居市では、地下深部の構造を調べるために、物理探査(反射法弾性波探査)を行いました。さらに、芸濃町、久居市でボーリング調査を行い、芸濃町でトレンチ(調査溝)を掘り、活断層による地層のずれを直接観察しました。
図1 調査位置図
物理探査
活断層の位置を特定し、断層による地層の変形構造を把握するために、亀山市白木地区、芸濃町椋本地区、津市片田地区、久居市庄田地区において、浅層反射法弾性波探査を実施しました。
この調査は、地表面において人工的に振動(弾性波)を発生させ、その振動が地下に伝わって地層境界面で反射し、再び地表に反射波として戻ってくる様子をコンピューターで解析することにより、地下の地質構造を把握するものです。
今回は、それぞれの地区で、地表踏査や地形判読から推定される位置に活断層と思われる地下構造が確認されました。
芸濃町椋本地区では、東側に西上がりの逆断層と思われる地下構造が確認されたほか、その西側には逆向き(東上がり)の2条の断層も推定されました。
図2 ※芸濃町椋本地区の例(東西方向の断面)。ここでは、地層のゆるやかなたわみ(撓曲構造)と断層が明瞭にみられます。
津市片田地区では、地形判読ではわからなかった伏在断層と思われる地下構造が見つかりました。
図3 ※河川や海岸の堆積でつくられた沖積層などの新しい地層に埋もれて断層地形がわからなくなっているのが断面図からわかります。
(そのような断層を「伏在断層」といいます)
ボーリング調査
さきの地形・地質調査により断層が推定された場所をはさんで、地層の高さにどれくらいの差があるのかを調べるため、芸濃町椋本地区、久居市庄田地区及び風早池地区において、計12本のボーリング調査を実施しました。
その結果、東海層群や一志層群、段丘堆積物等の層序や層厚などが確認され、調査地付近の地下表層部の地質状況を推定することができました。
また、それぞれの地点で、地層の食い違いが確認され、断層運動による変位が、地表面近くまで及んでいることが確認されました。
図4 芸濃町椋本地区でのボーリング調査結果から推測される地質断面図
トレンチ調査
これまでの一連の調査結果からトレンチ調査地として選定された芸濃町椋本地区で3箇所のトレンチ(調査溝)を掘削しました。
3箇所とも活断層の断面が確認され、活動の累積性が認められました。
写真1 芸濃町椋本地区のトレンチTの断面写真(N面)。西上がりの逆断層(椋本断層の主断層に相当)が確認されました。断層は中位段丘面相当の段丘礫層から上位の砂層を切って延びています(トレンチ壁面に張られている糸の間隔は1m)。
写真2 芸濃町椋本地区のトレンチUの断面写真(N面)。中位段丘面相当の礫層が青灰色シルトにのしあがる逆断層が確認されました。断層は主に低角と高角の2本が認められます。断層は段丘礫層から上位のシルト層および中間砂礫層を貫き、シルト層上部にまで延びています(トレンチ壁面に張られている糸の間隔は1m)。
写真3 芸濃町椋本地区のトレンチVの断面写真(S面)。中位段丘面相当の礫層が青灰色シルトにのしあがる逆断層が確認されました。断層はシルト中の砂礫層を切り、上位の泥炭層や黒色土層下位のシルト層まで撓曲(ゆるやかなたわみ)させています。泥炭層上位にあるオレンジシルト層の下部には、AT火山灰の純層が確認されました(トレンチ壁面に張られている糸の間隔は1m)。
トレンチ壁面から断層の過去の活動時期を探る
トレンチの掘削を行った3箇所において、それぞれのトレンチの壁面から確認された断層とそれによる地層のずれの様子から、約50,000年前以降、断層が活動した時期を推定しました。特に壁面から活動の累積性が認められたトレンチV地点の断層については、その活動時期を以下のように推定しました。
図5 @D層堆積後の様子(C層堆積前に1回目の断層活動(約35,000〜50,000年前と推定)が起こる)
A〜D層が順に堆積しました。ただし、断層の両側でB層の厚さに差があることから、B層の堆積前もしくは堆積中に1回の断層活動があったことがわかりました。
図6 A2回目の断層活動(約25,000〜35,000年前と推定)直後の様子
D層の堆積後、断層活動が起こり、断層の東側の地層が相対的に隆起しました。
図7 B2回目の断層活動後、E〜G層が堆積
前回の活動で相対的に沈下した断層の西側にのみE層が堆積し、その後、F〜G層が堆積しました。途中、AT火山灰の降灰がありました。
図8 C現在の様子(G層堆積後H層堆積前に3回目の断層活動(約22,000年前以降)が起こる)
G層の堆積後、断層活動が起こり、再び断層の右側の地層が相対的に隆起するような変形を生じました。その後、H層(土壌)が堆積し、人工的な改変が行われ、現在に至りました。
AT火山灰とは
約22,000年前、南九州の姶良カルデラが大規模な噴火を起こした際に放出された火山灰。日本列島の広範囲に降灰があったと考えられている。噴火の年代がほぼ判明しているため、地層中にこの火山灰層が含まれていると、火山灰層は上下の地層の年代を把握する際の「かぎ層」となる。
以上の結果から、今回のトレンチ調査において確認された断層(椋本断層)についてみた場合、最近の約50,000年の間に最低3回の断層活動があったと推定されました。
しかし、地表付近は水田耕作等のために、古来人工改変が著しく、断層の痕跡を確認することはできませんでした。このため、最新の活動時期を特定するには至りませんでした。
また、活動間隔についても、確定的には言えませんが、数千年以上の長い周期をもって活動を行っていると推定されました。
今後に向けて
最近も繰り返し活動
今回の調査の結果、最新の活動時期を特定することはできませんでしたが、布引山地東縁断層帯は、最近の50,000年の間に最低3回の活動をしており、発生し得る最大の地震の規模はマグニチュード7クラスであると推定されました。
活断層については、まだまだわかっていないことも多く、例えば、地表に直接断層が現れることが少ないマグニチュード6クラスの地震については、過去の活動履歴等もわからないため、長期的な予測をすることは非常に困難です。そのような地震であっても、地下の浅いところで発生すれば、局地的に大きな被害をもたらす原因にもなり得るので、十分に注意していく必要があります。
追加調査の実施
今回の調査の結果から、布引山地東縁断層帯は、活動域がさらに南方に伸びる可能性が示唆されました。
阪神・淡路大震災の際、地震前は別々のものとみられていた複数の断層が連動して断層活動を行ったように、1回の地震で断層帯のどこからどこまでの区間が動くのかを把握することは、断層から発生し得る地震の規模を推定するために非常に重要な問題です。
このため、三重県では、平成11年度から、久居市から一志町、嬉野町、松阪市を抜け、勢和村に至る地域について、追加調査を実施いたします。
活断層の調査は、地元の市町村はもとより、地域住民のみなさまの御理解と御協力がなければ、実施し得ないものであります。三重県としましては、少しでも有益な成果を上げるため、精一杯、調査を実施してまいりますので、県民のみなさまの御理解と御協力をお願いいたします。
地震についての正しい知識と適切な対応が被害を少なくする
阪神・淡路大震災の原因にもなった活断層と地震の関係については、まだ十分にわかっているわけではありませんが、「活断層は将来活動を繰り返す可能性のある断層である。」ということは確かな事実です。
しかし、むやみに活断層を恐れるのではなく、行政や企業はもちろんのこと、地域住民のみなさまが、活断層を含めた地震という自然現象に対する正しい知識を持ち、その危険性を十分に理解したうえで、適切な対応を行っていくことが必要です。
そのためにも、三重県では、防災に関する様々なことについて、県民防災塾やシンポジウム、研修会や講演会を実施して、みなさまと地域の防災意識のさらなる向上のため、一緒に考えていきたいと思います。
より安全な地域社会をつくっていくためには、住民のみなさまと自治体、防災関係機関が連携しながら、それぞれの責任において対策を講じていき、地域の防災力を高めていくことが重要なのです。
○ただし、この解析及び評価は、三重県の見解です。
問い合わせ先
三重県地域振興部消防防災課
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