平成10年9月9日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


1998年8月の地震活動について


1 主な地震活動

8月7日から始まった長野・岐阜県境付近の群発地震活動(最大は16日のマグニチュード(M)5.4)は、活動の中心を移しつつ、消長を繰り返しながら継続中である。8月20日に鳥島近海でM7.1の深発地震が発生した。

2 各地方別の地震活動


(1) 北海道地方

○ 特に目立った活動はなかった。

(2) 東北地方

○ 8月3日に福島・栃木県境付近の深さ約10kmでM4.9の地震が発生した。この地震の発震機構は東西方向に圧縮軸をもつ逆断層型であった。

(3) 関東・中部地方

○ 8月7日から長野・岐阜県境で群発地震活動が始まった(別項参照)。

○ 8月20日に鳥島近海の深さ約460kmでM7.1の地震が発生した。この地震は沈み込む太平洋プレートの先端付近で発生し、その発震機構は沈み込む方向に圧縮軸をもつ型であった。

○  8月29日に東京湾の深さ約70kmでM5.1の地震が発生した。この地震は沈み込む太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界付近で発生したもので、発震機構は、東西方向に圧縮軸をもつ横ずれ型であった。

○  東海地方のGPS観測の結果には特段の変化は見られない。

(4) 近畿・中国・四国地方

○ 特に目立った活動はなかった。

(5) 九州・沖縄地方

○ 特に目立った活動はなかった。


3 (長野・岐阜県境の地震活動)

8月7日14時頃から、長野県中部(上高地付近)で群発地震活動が始まり、活動の中心を変えつつ、消長を繰り返しながら続いている。

 地震活動は、上高地付近の東西5km(焼岳の東3〜8km)、南北3kmの範囲で始まった。8月12日夕方から北側に約5km離れたところ(穂高岳付近)でも地震が発生し始めた。14日午後には、穂高岳付近の活動が活発になるとともに、地震活動域はさらに北に広がり槍ヶ岳付近に達した。また、上高地付近と穂高岳付近の間にも地震が発生し始め、一連の活動域はほとんどつながった。穂高岳付近から槍ヶ岳付近にかけての活動は、17日以降は低下しているが、穂高岳付近から上高地付近の活動は消長を繰り返しながら継続している。主な地震の発震機構は、上高地付近、槍ヶ岳付近ともに北西−南東方向に圧縮軸をもつ横ずれ型であった。

 周辺のGPS観測値には、地震活動に伴う変化は認められない。

補足

○ 9月3日に岩手県内陸北部の深さ約5kmでM6.1の地震が発生し、被害を伴った。

 震源は岩手山の南西約10kmに位置し、地震活動はこの地震を中心に東西約10km、南北約10kmに分布している。この地震および主な余震の発震機構は東西方向に圧縮軸をもつ逆断層型である。岩手山付近では4月下旬から火山活動に関係すると考えられる地震活動が活発化しているが,その発震機構は横ずれ型であり,今回の地震活動はこれと異なっている。余震活動は、次第に減衰している。

 周辺のGPS観測および光波測量の結果には、地震に伴う変化が見られ、その変化方向とこの地震の発震機構とは調和的である。

 M6.1の地震に伴って、雫石盆地西縁の北部で、長さ約1kmの地震断層(地表地震断層)が出現した。断層の走向は、概ね北北東ー南南西であり、断層の西側が約20cm隆起した。この場所は,雫石盆地西縁の西根断層群北端部付近にあたり、地震断層(地表地震断層)の走向・変位の向きは、西根断層群のそれと調和的である。

 このことから,今回の地震は,西根断層群北端付近の活動によるものと考えられる。

○ 9月5日に長野・岐阜県境の群発地震活動の北側に位置する長野・富山県境(野口五郎岳付近)で新たに地震活動が始まった。主な地震の発震機構は、北西−南東方向に圧縮軸をもつ横ずれ型である。8月7日以降の一連の活動で、現在までの最大の地震は、8月16日に槍ヶ岳付近で発生したM5.4の地震である。M4以上の地震は、上高地付近の活動を含め、これまでに11回発生している。

 過去の地震活動の例から見て、上高地付近から野口五郎岳付近の一連の活動は、始まってから約1ヶ月が経過したものの、今後も消長を繰り返し、活動の中心となる場所を変えつつ、数週間は続くと考えられる。